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ポリメトリック・スター
►忍足謙也
一年生の二学期のスタートと共に、俺のクラスに東京からの転校生がやって来た。それが彼女――汐見琴音。
席が隣同士になり少しずつ雑談を交わすようになってから、何の気なしにテニス部のマネージャ―に勧誘したことが全てのはじまりやった。『運動部はやったことないけど、大丈夫かな』と、やや不安げな面持ちを見せたものの、その後すぐ入部届を提出してくれた。
三学期になって席替えがあってからは席がちょうど対角線上の位置なり、だいぶ離れてしまった。クラスに馴染み始め、女子の友達と賑やかに話す様子を遠目に眺めてる最中、俺の視線に気づくと手を振る琴音に、意図せず心拍数が上がった。
……心不全か!?まだ中学生やぞ、早ない!?というセルフツッコミすら出ん程には自覚しとる。これは“恋”やと。
琴音は、ことあるごとに俺が“一番最初”の人だと告げてきた。『一番最初に話しかけてくれた人。一番最初に部活に誘ってくれた人。一番最初に友達になってくれた人』。
それはたまたま最初に隣の席になったっちゅーだけで、それ以上の意味なんてない。ないはずやった。けど、今ならその偶然も巡り合わせだったんやと思うとる。
二年も三年もクラスが別々になり、会えるのはほぼ部活の時間ぐらいになってしまい友達のまま足踏みしていた俺たちの関係に、明日、進展のチャンスが訪れた。どうにかこうにか理由をつけて、琴音の誕生日当日に会う約束を俺の方から取り付けることに成功したからや。
「そろそろ備品足りひんかったやろ?買い出し行こか。休日やけど明日にでもどや?」
他校で行われた練習試合の帰り道、二人きりになったタイミングで切り出すと、琴音は目を丸くしていた。一瞬、先約でもあるんかとヒヤヒヤした。
「日中なら空いてるけど…、お休みだし一人で行くから大丈夫だよ。謙也くん、今日の練習試合で疲れてるでしょ?」
「あんぐらいで疲れるわけあるかい。都合つくなら明日な。俺も欲しいもんあんねん」
ちょうど分かれ道に辿り着き、琴音が何か言う前に、後ろ手を振って自宅の方向へ駆け出した。待ち合わせ時間と場所は帰ったらすぐメールすればええし、とにかく断られたくない一心やった。
片思い歴一年と数ヶ月で、やっと二人きりで出かけるというイベントに漕ぎ着けるなんて。相談に乗ってくれた白石にはよお溜息をつかれたもんや。スピード自慢の俺が、恋愛事となると急に奥手になってスローペース。情けないて思うけど、しゃーないやんか性分なんやから。好きな子の前では饒舌さも満点のボケも本領発揮出来へん。クラスメイトや部活仲間…、そんな風に彼女を見ていた頃のがよっぽど俺らしくいれた気ィする。
□ □ □
――いつかこんな日が来たら、そん時はめちゃくちゃ気張ったる!と思っとったんに現実は上手い事行かへんなぁと溜息が漏れそうになる。天気も良いし、時々吹く風も心地よい外出日和――に、早々に用事は終わろうとしていた。
駅前のスポーツショップとドラッグストアをはしごして、備品の買い出しが済み、昼時になったから飯でも食べようという流れになり行きついたファミレス。適当にメニューを頼むも喉を通るもあんま味がせぇへん。そもそもファミレス以外思いつかんかったんか?俺。いやそれなりにリサーチしてたはずなんに、頭から抜け落ちた。気もそぞろもいいとこや。
まず待ち合わせてすぐ、初めて見た琴音の私服の可愛らしさに目を奪われ俺はときめきで動揺しまくった。合宿では動きやすいTシャツやハーフパンツ、スニーカーの姿しか見たことがなかったにしても、普段とのギャップが魅力的でテンションが爆上がりして脈拍整うのに時間がかかった。オフホワイトのワンピースにピンクベージュのパンプス。いつもは一つに束ねてる髪も下ろして、毛先がくるりとカールしたアレンジ。淡い化粧もしとる。めかしこんだのは俺の為じゃないと分かっとるが、心臓がバクバクとやかましかった。
「久々に食べたよ、ここのハンバーグ。やっぱり好きだなぁ」
「せやなぁ」
「謙也くんのはどう?和食も美味しそう。そっちも迷ったんだよね」
「まぁ美味いで」
美味しそうに頬張る姿が愛らしい琴音が目の前に居る。もっと話題が上手く広がるように返したらええのに、俺ときたらつまらん男や。全然出て来ぇへん。同じクラスだった時や部活中、複数人でワイワイ話す分には平気なんやけど、好きになったときから二人きりで面と向かうとらしくない自分になる。素っ気ない返答も気にせず、それならよかったねぇとか、久々に皆でも部活帰りに来たいねぇとか、琴音は楽しそう笑っとった。二年近い片思いは、間違いなかった。多分、俺以外から見ても彼女は魅力的に映ってることやろうな。改めて実感すると同時に、一抹の不安が脳裏を過る。――こんな良い子、彼氏おらんはずないやん?
「……誘っといてアレやけど、俺と過ごしててええんか?自分、今日誕生日やろ」
買い出しを理由に誘ったけど、夕方や夜は別の予定があるのかも知れへん。食べ終わった頃に、心の靄消えず鎌を掛けるような言葉が零れ落ちた。
デザートのページを開いて迷ってる様子の琴音は、メニュー表を下げて俺の方に視線を向けた。唇は何かを言いかけたが、口角を上げて小首を傾げた。
「知ってたの?教えたことあったっけ?」
「部活帰りに生年月日の占いで盛り上がったことあったやろ。そん時」
「……だいぶ前だよね?」
「きっ、記憶力ええからな、俺は!」
あかん、ドモった。俺が慌ててることなど気づかずに、琴音は『記憶力いいんだね』と感心して頷いた。覚えてんのはお前の誕生日だけやで、と、髪でもかき上げて色気増し増しで口説ける技量があるんならどんだけ楽か。俺は白石やないから無理や。
「夜は家族と過ごすけど、日中は特に予定入れてなかったの。だから謙也くんが誘ってくれてよかったよ。買ってからなかなか着る機会がなかったワンピースも着れたし」
「……めっちゃ似合うとるで」
「え、今日だけのリップサービス?」
「ちゃうわ!本音や!」
「ほんとに?ふふ、褒められちゃった」
か細い声で伝えた本音は、ちゃんと本気だって届いたやろか。嬉しそうに、柔らかく微笑んで目を細めている琴音。転校して来て間もなく、仲良くなるうちに見せてくれた屈託ない笑顔の記憶と、目前の彼女が重なった。何も変わっていない。変わったのは俺の方。誘うのも下手で意識で上手く話せんのも俺。好きな子が出来たらもっと上手くやれるもんかと思っとったが、理想には程遠い現実。不器用なりにそれでも一歩前進したいなら、今しかない。
「記憶力も良くて気の利く俺からの、ホラこれ。受け取りや。誕生日おめでとさん」
おもむろにリュックから取り出してリボンでラッピングされたそれを差し出すと、ハッとした表情。この流れでさすがに気づかんはずない。四人掛けのソファ席、向かい合わせになって視線を通わせながら、琴音はテーブル越しにプレゼントを受け取ってくれた。私に?いいの?開けても?――と驚いて、聞かれる度に首を縦に振ると、綺麗な指先がリボンをほどいていく。女子が好きそうな雑貨店をはしごして、琴音を想って俺が選んだ一等可愛くなれるもの。
「わぁ…キレイ…」
オレンジとイエローが煌めくスワロフスキーのヘアクリップ。琴音の手元で光が反射して、俺の席からでも輝いて見える。この色を見た時、ビタミンカラーやなぁ思て、いつも励まして元気をくれる琴音が浮かんだ。元クラスメイトでマネージャ―で俺の好きな子は、いつだって眩しぐらい心を照らす。しばらく手に取って見つめてから、琴音は長い髪を横に流してクリップで束ねて見せた。気のせいじゃなければ、頬が朱色に染まっとる。
「こんなに素敵な物、……ありがとう、謙也くん。大事に使わせてもらうね」
「……気に入ったんならよかったわ」
照れくさそうにお礼を告げられ、目の奥が熱くなる。思った通り、似合うし可愛い。片思い男のエゴやけど、俺がプレゼントしたもんで可愛くなるこの姿が見たかったんや。色んなアクセサリー何時間も見て回ったけど、選んだもんに間違いなかった。
「確か、謙也くんは早生まれだったよね?」
「せや。三月十七日。その頃には受験も終わっとる頃やなぁ」
「じゃあ今度は私にお祝いさせて?当日の予定、予約してもいい?」
「………っ」
「ダメ?」
「ぜ………絶対やからな!琴音に祝わってもらえへんかったらその日の予定スカスカになって俺は泣くで!?」
「安心して。私はええ男泣かせたりせえへんよ」
わざとらしい関西弁も、彼女が使えば優し響きになる。クスクスと声を立てて笑う琴音を見てたら、もう『好きや!』って叫び出しそうな衝動が込み上げた。けど、今やない。シチュエーション的にファミレスがあかんとは言わへんし、勢いで伝えるのだってドラマチックと言えばそう。だけど、もっと思い出に残るような場所がいい。
“約束”はしたんや。俺の同い年になった日に伝えよう。部活も引退して卒業間近で、絶好の告白デーはその日しかない。覚悟を決め胸中で独り言ち、今日のところは琴音の行きたい場所を聞いて、俺たちはファミレスを後にした。『折角だから、デザートは前から気になっていたカフェのスイーツを食べてみたい』とリクエストを受けて、この後の時間も一緒に過ごせる事に浮かれてしまう。足も自然と軽くなった。
・・・・・・
人気店だから入るまで少し並ぶけどいい?って上目遣いで言われたら、イエス以外の答えをどう出せっちゅー話で、俺は二つ返事でOKした。せっかちな性格でも好きな子のお願いには弱い。今日はなんぼでも褒めたるし、本音もなるべく隠さない。カフェ以外だって琴音の行きたいとこならどこでも付き合うたるつもりや。俺がそうしたいだけ。
「そういえば、謙也くんも買い出しで“欲しいものある”って…見つかったの?」
遊歩道を並んで歩いてカフェへ向かう途中、思い出したように琴音が切り出した。ふわっとワンピースの裾を揺らして後ろ手を組んで顔を覗き込まれれば、不意打ちとばかりに胸が高鳴り始める。
「……もう全部揃ったわ」
赤くなっていく顔を背けながら、一言返すので精一杯。誤魔化しでも嘘でもない。誕生日を祝いたい願いも、好きな子の喜ぶ顔も、未来の約束も、俺の欲しいもんは確かに全部ここにある。
►忍足謙也
一年生の二学期のスタートと共に、俺のクラスに東京からの転校生がやって来た。それが彼女――汐見琴音。
席が隣同士になり少しずつ雑談を交わすようになってから、何の気なしにテニス部のマネージャ―に勧誘したことが全てのはじまりやった。『運動部はやったことないけど、大丈夫かな』と、やや不安げな面持ちを見せたものの、その後すぐ入部届を提出してくれた。
三学期になって席替えがあってからは席がちょうど対角線上の位置なり、だいぶ離れてしまった。クラスに馴染み始め、女子の友達と賑やかに話す様子を遠目に眺めてる最中、俺の視線に気づくと手を振る琴音に、意図せず心拍数が上がった。
……心不全か!?まだ中学生やぞ、早ない!?というセルフツッコミすら出ん程には自覚しとる。これは“恋”やと。
琴音は、ことあるごとに俺が“一番最初”の人だと告げてきた。『一番最初に話しかけてくれた人。一番最初に部活に誘ってくれた人。一番最初に友達になってくれた人』。
それはたまたま最初に隣の席になったっちゅーだけで、それ以上の意味なんてない。ないはずやった。けど、今ならその偶然も巡り合わせだったんやと思うとる。
二年も三年もクラスが別々になり、会えるのはほぼ部活の時間ぐらいになってしまい友達のまま足踏みしていた俺たちの関係に、明日、進展のチャンスが訪れた。どうにかこうにか理由をつけて、琴音の誕生日当日に会う約束を俺の方から取り付けることに成功したからや。
「そろそろ備品足りひんかったやろ?買い出し行こか。休日やけど明日にでもどや?」
他校で行われた練習試合の帰り道、二人きりになったタイミングで切り出すと、琴音は目を丸くしていた。一瞬、先約でもあるんかとヒヤヒヤした。
「日中なら空いてるけど…、お休みだし一人で行くから大丈夫だよ。謙也くん、今日の練習試合で疲れてるでしょ?」
「あんぐらいで疲れるわけあるかい。都合つくなら明日な。俺も欲しいもんあんねん」
ちょうど分かれ道に辿り着き、琴音が何か言う前に、後ろ手を振って自宅の方向へ駆け出した。待ち合わせ時間と場所は帰ったらすぐメールすればええし、とにかく断られたくない一心やった。
片思い歴一年と数ヶ月で、やっと二人きりで出かけるというイベントに漕ぎ着けるなんて。相談に乗ってくれた白石にはよお溜息をつかれたもんや。スピード自慢の俺が、恋愛事となると急に奥手になってスローペース。情けないて思うけど、しゃーないやんか性分なんやから。好きな子の前では饒舌さも満点のボケも本領発揮出来へん。クラスメイトや部活仲間…、そんな風に彼女を見ていた頃のがよっぽど俺らしくいれた気ィする。
□ □ □
――いつかこんな日が来たら、そん時はめちゃくちゃ気張ったる!と思っとったんに現実は上手い事行かへんなぁと溜息が漏れそうになる。天気も良いし、時々吹く風も心地よい外出日和――に、早々に用事は終わろうとしていた。
駅前のスポーツショップとドラッグストアをはしごして、備品の買い出しが済み、昼時になったから飯でも食べようという流れになり行きついたファミレス。適当にメニューを頼むも喉を通るもあんま味がせぇへん。そもそもファミレス以外思いつかんかったんか?俺。いやそれなりにリサーチしてたはずなんに、頭から抜け落ちた。気もそぞろもいいとこや。
まず待ち合わせてすぐ、初めて見た琴音の私服の可愛らしさに目を奪われ俺はときめきで動揺しまくった。合宿では動きやすいTシャツやハーフパンツ、スニーカーの姿しか見たことがなかったにしても、普段とのギャップが魅力的でテンションが爆上がりして脈拍整うのに時間がかかった。オフホワイトのワンピースにピンクベージュのパンプス。いつもは一つに束ねてる髪も下ろして、毛先がくるりとカールしたアレンジ。淡い化粧もしとる。めかしこんだのは俺の為じゃないと分かっとるが、心臓がバクバクとやかましかった。
「久々に食べたよ、ここのハンバーグ。やっぱり好きだなぁ」
「せやなぁ」
「謙也くんのはどう?和食も美味しそう。そっちも迷ったんだよね」
「まぁ美味いで」
美味しそうに頬張る姿が愛らしい琴音が目の前に居る。もっと話題が上手く広がるように返したらええのに、俺ときたらつまらん男や。全然出て来ぇへん。同じクラスだった時や部活中、複数人でワイワイ話す分には平気なんやけど、好きになったときから二人きりで面と向かうとらしくない自分になる。素っ気ない返答も気にせず、それならよかったねぇとか、久々に皆でも部活帰りに来たいねぇとか、琴音は楽しそう笑っとった。二年近い片思いは、間違いなかった。多分、俺以外から見ても彼女は魅力的に映ってることやろうな。改めて実感すると同時に、一抹の不安が脳裏を過る。――こんな良い子、彼氏おらんはずないやん?
「……誘っといてアレやけど、俺と過ごしててええんか?自分、今日誕生日やろ」
買い出しを理由に誘ったけど、夕方や夜は別の予定があるのかも知れへん。食べ終わった頃に、心の靄消えず鎌を掛けるような言葉が零れ落ちた。
デザートのページを開いて迷ってる様子の琴音は、メニュー表を下げて俺の方に視線を向けた。唇は何かを言いかけたが、口角を上げて小首を傾げた。
「知ってたの?教えたことあったっけ?」
「部活帰りに生年月日の占いで盛り上がったことあったやろ。そん時」
「……だいぶ前だよね?」
「きっ、記憶力ええからな、俺は!」
あかん、ドモった。俺が慌ててることなど気づかずに、琴音は『記憶力いいんだね』と感心して頷いた。覚えてんのはお前の誕生日だけやで、と、髪でもかき上げて色気増し増しで口説ける技量があるんならどんだけ楽か。俺は白石やないから無理や。
「夜は家族と過ごすけど、日中は特に予定入れてなかったの。だから謙也くんが誘ってくれてよかったよ。買ってからなかなか着る機会がなかったワンピースも着れたし」
「……めっちゃ似合うとるで」
「え、今日だけのリップサービス?」
「ちゃうわ!本音や!」
「ほんとに?ふふ、褒められちゃった」
か細い声で伝えた本音は、ちゃんと本気だって届いたやろか。嬉しそうに、柔らかく微笑んで目を細めている琴音。転校して来て間もなく、仲良くなるうちに見せてくれた屈託ない笑顔の記憶と、目前の彼女が重なった。何も変わっていない。変わったのは俺の方。誘うのも下手で意識で上手く話せんのも俺。好きな子が出来たらもっと上手くやれるもんかと思っとったが、理想には程遠い現実。不器用なりにそれでも一歩前進したいなら、今しかない。
「記憶力も良くて気の利く俺からの、ホラこれ。受け取りや。誕生日おめでとさん」
おもむろにリュックから取り出してリボンでラッピングされたそれを差し出すと、ハッとした表情。この流れでさすがに気づかんはずない。四人掛けのソファ席、向かい合わせになって視線を通わせながら、琴音はテーブル越しにプレゼントを受け取ってくれた。私に?いいの?開けても?――と驚いて、聞かれる度に首を縦に振ると、綺麗な指先がリボンをほどいていく。女子が好きそうな雑貨店をはしごして、琴音を想って俺が選んだ一等可愛くなれるもの。
「わぁ…キレイ…」
オレンジとイエローが煌めくスワロフスキーのヘアクリップ。琴音の手元で光が反射して、俺の席からでも輝いて見える。この色を見た時、ビタミンカラーやなぁ思て、いつも励まして元気をくれる琴音が浮かんだ。元クラスメイトでマネージャ―で俺の好きな子は、いつだって眩しぐらい心を照らす。しばらく手に取って見つめてから、琴音は長い髪を横に流してクリップで束ねて見せた。気のせいじゃなければ、頬が朱色に染まっとる。
「こんなに素敵な物、……ありがとう、謙也くん。大事に使わせてもらうね」
「……気に入ったんならよかったわ」
照れくさそうにお礼を告げられ、目の奥が熱くなる。思った通り、似合うし可愛い。片思い男のエゴやけど、俺がプレゼントしたもんで可愛くなるこの姿が見たかったんや。色んなアクセサリー何時間も見て回ったけど、選んだもんに間違いなかった。
「確か、謙也くんは早生まれだったよね?」
「せや。三月十七日。その頃には受験も終わっとる頃やなぁ」
「じゃあ今度は私にお祝いさせて?当日の予定、予約してもいい?」
「………っ」
「ダメ?」
「ぜ………絶対やからな!琴音に祝わってもらえへんかったらその日の予定スカスカになって俺は泣くで!?」
「安心して。私はええ男泣かせたりせえへんよ」
わざとらしい関西弁も、彼女が使えば優し響きになる。クスクスと声を立てて笑う琴音を見てたら、もう『好きや!』って叫び出しそうな衝動が込み上げた。けど、今やない。シチュエーション的にファミレスがあかんとは言わへんし、勢いで伝えるのだってドラマチックと言えばそう。だけど、もっと思い出に残るような場所がいい。
“約束”はしたんや。俺の同い年になった日に伝えよう。部活も引退して卒業間近で、絶好の告白デーはその日しかない。覚悟を決め胸中で独り言ち、今日のところは琴音の行きたい場所を聞いて、俺たちはファミレスを後にした。『折角だから、デザートは前から気になっていたカフェのスイーツを食べてみたい』とリクエストを受けて、この後の時間も一緒に過ごせる事に浮かれてしまう。足も自然と軽くなった。
・・・・・・
人気店だから入るまで少し並ぶけどいい?って上目遣いで言われたら、イエス以外の答えをどう出せっちゅー話で、俺は二つ返事でOKした。せっかちな性格でも好きな子のお願いには弱い。今日はなんぼでも褒めたるし、本音もなるべく隠さない。カフェ以外だって琴音の行きたいとこならどこでも付き合うたるつもりや。俺がそうしたいだけ。
「そういえば、謙也くんも買い出しで“欲しいものある”って…見つかったの?」
遊歩道を並んで歩いてカフェへ向かう途中、思い出したように琴音が切り出した。ふわっとワンピースの裾を揺らして後ろ手を組んで顔を覗き込まれれば、不意打ちとばかりに胸が高鳴り始める。
「……もう全部揃ったわ」
赤くなっていく顔を背けながら、一言返すので精一杯。誤魔化しでも嘘でもない。誕生日を祝いたい願いも、好きな子の喜ぶ顔も、未来の約束も、俺の欲しいもんは確かに全部ここにある。