Ohters
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
Twinkle Star
►千切豹馬
「琴音先輩、好きです。付き合って下さい」
11月の夕暮れ時、窓から橙の光が差し込む部室で夕陽を背にした美少年が、澄んだ声で告げた。
受験で部活を引退してからというもの、息抜きがてら合間を縫ってはやり残した部誌の整頓をしに来ている私の背後に、彼は練習後のジャージ姿のまま部室に残っていた。
千切くんは一年生にしてサッカー部のエース、私は夏に部活を引退した三年生の元マネージャーだ。
練習が終わると比較的早めに帰ることの多い彼が部室にわざと残っていたのは、二人きりになるタイミングを狙って告白する為だったのかと瞬時に悟った。
振り返って千切くんを一瞥し、冗談では?と小首を傾げるも、刺さるような視線に捉えられて軽々しい質問も出来ない。
整った顔立ちは美少女と見間違う程。耳が隠れるぐらいまで伸ばした髪型はちょどショートとボブの中間ぐらい。艶々した赤髪に、深いビビットピンクの綺麗な瞳の色――見惚れてしまう。
その容姿に全国区レベルのエースストライカーとくれば、必然的にモテてしまうし、マネージャーの何人かにも告白されていたはずだ。
フラれたと涙ぐむ後輩マネージャーから聞いたことがある。“サッカーに集中したいから”という理由で断られたそうだ。だがそれは今、千切くんが私に告白してきたことで、断るためのていのいい理由だったと知る。
しかし県大会の準決が数日後に控えているというのに、彼はタイミングなんてお構いなしだ。
千切くんが入学してきた春から私が受験を理由に部活を引退する夏前までと、およそ四カ月しか彼のサッカーを見てきてないが、天才だということは初日で理解した。鰐間兄弟に喧嘩を売り、2対1の勝負をその俊足で難無くぶち抜いた翌日からというもの、全国優勝を目指して千切くんを中心とした布陣で練習していくことを監督は部員らの前で発表した。
クールで淡々としていて一年でエース、同学年の仲間と並んでも嫌でも浮いてしまう。その上、外見もいいときた。先輩や後輩からのやっかみも確実にあっただろうけれど、私はマネージャーとして変わらず平等に接することに徹底した。部員の中で贔屓を作らない、優劣をつけない、いつも穏やかに日々雑務をこなすことをモットーとしていたから。
…千切くんに気に入られたとしたら、そのあたり?
内心で考えるも、どうにも返事が思いつかない。
平凡な私の容姿を気に入ったワケではないだろう。頭も特別いいわけじゃないから推薦枠も貰えず一般受験に備えるわけで。真剣味を帯びた声色からも、悪戯に付き合おうとからかっているようでもないさそうだ。よくよく千切くんの顔を見ると、夕日のせいでわからなかったが頬が少しだけ赤らんでいた。
「……ありがとう」
両手で抱えていた部誌を数冊、ロッカールームの椅子に置きながらお礼を伝えた。面と向かって異性に告白されたのも生まれて初めてだし、ましてやこんな素敵な男の子からなんて夢のようだ。
他の部員たちと同じ程度の会話しかしてこなかったし、部活を引退してからは校内ですれ違えば挨拶する程度の仲の、“部員”と“元マネージャー”とそれだけの関係だったから。
千切くんが入部してきた時は、サッカー部史上のイケメンに人並に心が躍ったのも事実だが、同じ部活にいながらも住む世界が違うだろうし彼氏だと妄想するのも烏滸がましいと思った。
――それに、彼はサッカー以外興味がないのかと。
「気持ちは嬉しいけど今年は受験もあるし、付き合うのは難しいかなぁ」
続く言葉がYESだと予想していたのか、千切くんは目を見開いた。
「俺、受験が終わるまで待ちます。待てます」
「受かったら東京の大学に通うんだけど…」
「遠距離でも気にしません」
「え、えぇ…と……」
ずいっと迫られて反射的にロッカーまで後ずさると、彼は私の顔の横に手をついて逃げ場を与えないように閉じ込められる。同時に、燃えるような眼差しを向けてきた。
普段は冷静な千切くんの焦燥する姿が新鮮過ぎるし、色気が増すなぁと頭に過った。過っている場合ではないが。
「琴音先輩」
呼ぶ声は切なげで何かを訴えているようにも聞こえた。こんなキラキラしたお顔を目の当たりにしては、逆に現実味がないような、バーチャル空間にいるような不思議な感覚になる。
――ふと、『いつも穏やかに日々雑務をこなすことをモットー』に過ごしてきた日々の中でも、千切くんに関する事案で稀にイレギュラーが発生したことを思い出す。
千切くんが監督に気に入られたことを妬んだ部員が彼のスパイクを隠し、それを一緒に探したこと。結果、焼却炉に放り込んであってスパイクは既に燃えていた。校内の監視カメラで犯人を特定して弁償させた上で、教員・監督タッグからの説教漬けにさせた。
千切くんが鰐間兄弟にネチネチ嫌味を言われてた時、「恥ずかしいから後輩いびりはやめなよ」と注意したこと。今度は私が彼らに目を付けられ数度に渡って嫌がらせを受けたが、レスリング部の友達に頼んで技の練習相手にしてもらい鰐間ブラザーズを屈服させた。
フラれたことを逆恨みしていっそ既成事実を作ってやる!と千切くんに襲いかかった女子マネを羽交い絞めにして止めたこと。その後、何とか今後も円滑に仕事が回るように女子マネをとことん宥めた。
……思い出せるだけでこのぐらいだが、他にもあったような。
気が付けば考えるより先に体が動いていた。自分が穏やかに過ごすために周囲の問題を解決していくことに尽力していたけれど、思い返してみたら“穏やか”とはかけ離れた日常もたまにあった。やっかみや嫌がらせは連鎖するから、力づくでも早期解決するに限る。
千切くんは恩を感じていたんだろうか。しかし、そんなタイプには見えない。もともと嫌がらせだって彼はさして気にした様子はなかったし動じてなかった。私が余計なお世話を焼いただけに過ぎない。
もし彼の目に私の言動が“魅力”に映ったのなら、なかなかの奇跡だ。
ふう、と緊張を隠すように息をついてから、離れるようにやんわりと千切くんの肩を掌でそっと押し返す。これ以上近づかれると煌めきオーラにあてられて色々まずい。
「千切くんの彼女になったら、きっとサッカーに嫉妬しちゃうよ?」
『自分の名を売るために羅実に来た』…入部初日にそう言ったのは千切くんじゃないか。本当に欲しいものは私じゃない。君の欲しいものは別にあるはずだ。
千切くんのような素敵な男の子と付き合えたら嬉しいけれど、浮かれた私の気持ちのが彼より上回ってしまうのは簡単に想像できる。サッカーより優先されない事が嫌になって、歳上のくせにみっともなく駄々をこねたくはない。
言い当てられたからか彼は眉をひそめていたが、葛藤が垣間見えるも諦める様子は少しもないようだ。
肩に触れていた手の上からひとまわり大きな手が重ねられ、途端に心臓が早鐘を打ち始める。視界に映る美しさに脳内で警鐘が鳴る。至近距離での触れ合いにときめくなって方が無理だ。
「……確かにサッカーは俺のすべてで、世界一のストライカーになることが夢です。琴音先輩の言う通り俺はサッカーより優先できるものはない。ただ、この気持ちも本物なんだ」
面と向かって本心を伝えてくる千切くんの手が、熱い。押し返そうと添えた自分の手からも力が抜けていき、再び距離を詰められてしまった。
背中にはひんやりとしたロッカーの固い感触。目前には、目を逸らせないようにと背を屈めて顔を覗き込むように見つめてくる千切くん。
どこが好きなの?なんで好きなの?質問したいことは山のようにあるし、逆に伝えてこないのはからかわれてるだけなのかと思ったが、やはり違う。
「羅実を全国優勝に導いて名を売ったらユースに入る。そのうち俺をテレビで見ることになります。そしたらその時は――」
“俺のものになって”
突然、私の耳に唇を寄せて千切くんは最後の一言だけ囁くように告げた。刹那、全身の血が沸騰して顔から火が出そうになる。ドッドッと心音が加速して沸々と頬から広がるように耳の先まで熱が急速に伝播していった。赤面して白目を剥いて卒倒しそうだ。ドラマでも漫画でもイケメンが使うありきたりな台詞を、自分が現実で受ける日が来ようとは。
意識がはっきりしないままゆっくり頷いた気がする。すると千切くんは数回瞬きしてから照れくさそうに微笑んだ。あ、かわいい、こんな笑い方もできるんだ…と、ふわふわした気持ちのまま思った。
彼の美しさを以てして、陳腐な台詞が煌々と輝きを増す。その光で全神経と鼓膜が溶け出しそうになって呆然としてる間、記憶にあまりないが、お互いスマホを出して連絡先を交換したらしい。というより私は誘導されるがままにスマホのロックボタンだけ解除させられ千切くんが器用に操作して気づいたら彼の連絡先が登録されていた。そににしても、受験前にとんでもない爆弾を食らってしまった。
「……いったん離れようか」
我に返って今度こそ両手でトン、と彼の両肩を押して距離をとる。今更そんなことをしたところでもう遅いのに。
「あれ、怒ってます?」
「おこってないです、なんでもないです、かおがいいです」
「はは、変な琴音先輩。まぁそこがいいんだけど」
緊張が解けて笑った顔は年相応のあどけなさが残る。かっこいいとキレイとかわいいの三拍子なんてズルイ。
およそ一年と数か月後の話――
U-20と青い監獄との試合をテレビで見て思わずお祝いのメッセージを送った数日後に、『今都内にいます。会いたいです』という電話が千切くんからかかってくることになる。その日までの過程は紆余曲折ありつつも、久々に再会する日が訪れて彼がフラグを回収しに来ることは、現段階で告白にキャパオーバー状態の私は知る由もなかった。
深紅の髪を長く伸ばし、怪我のトラウマも乗り越え外見も内面もさらに磨きがかった千切くんの彼女になるというイベントが、少し先の未来で待っている。
►千切豹馬
「琴音先輩、好きです。付き合って下さい」
11月の夕暮れ時、窓から橙の光が差し込む部室で夕陽を背にした美少年が、澄んだ声で告げた。
受験で部活を引退してからというもの、息抜きがてら合間を縫ってはやり残した部誌の整頓をしに来ている私の背後に、彼は練習後のジャージ姿のまま部室に残っていた。
千切くんは一年生にしてサッカー部のエース、私は夏に部活を引退した三年生の元マネージャーだ。
練習が終わると比較的早めに帰ることの多い彼が部室にわざと残っていたのは、二人きりになるタイミングを狙って告白する為だったのかと瞬時に悟った。
振り返って千切くんを一瞥し、冗談では?と小首を傾げるも、刺さるような視線に捉えられて軽々しい質問も出来ない。
整った顔立ちは美少女と見間違う程。耳が隠れるぐらいまで伸ばした髪型はちょどショートとボブの中間ぐらい。艶々した赤髪に、深いビビットピンクの綺麗な瞳の色――見惚れてしまう。
その容姿に全国区レベルのエースストライカーとくれば、必然的にモテてしまうし、マネージャーの何人かにも告白されていたはずだ。
フラれたと涙ぐむ後輩マネージャーから聞いたことがある。“サッカーに集中したいから”という理由で断られたそうだ。だがそれは今、千切くんが私に告白してきたことで、断るためのていのいい理由だったと知る。
しかし県大会の準決が数日後に控えているというのに、彼はタイミングなんてお構いなしだ。
千切くんが入学してきた春から私が受験を理由に部活を引退する夏前までと、およそ四カ月しか彼のサッカーを見てきてないが、天才だということは初日で理解した。鰐間兄弟に喧嘩を売り、2対1の勝負をその俊足で難無くぶち抜いた翌日からというもの、全国優勝を目指して千切くんを中心とした布陣で練習していくことを監督は部員らの前で発表した。
クールで淡々としていて一年でエース、同学年の仲間と並んでも嫌でも浮いてしまう。その上、外見もいいときた。先輩や後輩からのやっかみも確実にあっただろうけれど、私はマネージャーとして変わらず平等に接することに徹底した。部員の中で贔屓を作らない、優劣をつけない、いつも穏やかに日々雑務をこなすことをモットーとしていたから。
…千切くんに気に入られたとしたら、そのあたり?
内心で考えるも、どうにも返事が思いつかない。
平凡な私の容姿を気に入ったワケではないだろう。頭も特別いいわけじゃないから推薦枠も貰えず一般受験に備えるわけで。真剣味を帯びた声色からも、悪戯に付き合おうとからかっているようでもないさそうだ。よくよく千切くんの顔を見ると、夕日のせいでわからなかったが頬が少しだけ赤らんでいた。
「……ありがとう」
両手で抱えていた部誌を数冊、ロッカールームの椅子に置きながらお礼を伝えた。面と向かって異性に告白されたのも生まれて初めてだし、ましてやこんな素敵な男の子からなんて夢のようだ。
他の部員たちと同じ程度の会話しかしてこなかったし、部活を引退してからは校内ですれ違えば挨拶する程度の仲の、“部員”と“元マネージャー”とそれだけの関係だったから。
千切くんが入部してきた時は、サッカー部史上のイケメンに人並に心が躍ったのも事実だが、同じ部活にいながらも住む世界が違うだろうし彼氏だと妄想するのも烏滸がましいと思った。
――それに、彼はサッカー以外興味がないのかと。
「気持ちは嬉しいけど今年は受験もあるし、付き合うのは難しいかなぁ」
続く言葉がYESだと予想していたのか、千切くんは目を見開いた。
「俺、受験が終わるまで待ちます。待てます」
「受かったら東京の大学に通うんだけど…」
「遠距離でも気にしません」
「え、えぇ…と……」
ずいっと迫られて反射的にロッカーまで後ずさると、彼は私の顔の横に手をついて逃げ場を与えないように閉じ込められる。同時に、燃えるような眼差しを向けてきた。
普段は冷静な千切くんの焦燥する姿が新鮮過ぎるし、色気が増すなぁと頭に過った。過っている場合ではないが。
「琴音先輩」
呼ぶ声は切なげで何かを訴えているようにも聞こえた。こんなキラキラしたお顔を目の当たりにしては、逆に現実味がないような、バーチャル空間にいるような不思議な感覚になる。
――ふと、『いつも穏やかに日々雑務をこなすことをモットー』に過ごしてきた日々の中でも、千切くんに関する事案で稀にイレギュラーが発生したことを思い出す。
千切くんが監督に気に入られたことを妬んだ部員が彼のスパイクを隠し、それを一緒に探したこと。結果、焼却炉に放り込んであってスパイクは既に燃えていた。校内の監視カメラで犯人を特定して弁償させた上で、教員・監督タッグからの説教漬けにさせた。
千切くんが鰐間兄弟にネチネチ嫌味を言われてた時、「恥ずかしいから後輩いびりはやめなよ」と注意したこと。今度は私が彼らに目を付けられ数度に渡って嫌がらせを受けたが、レスリング部の友達に頼んで技の練習相手にしてもらい鰐間ブラザーズを屈服させた。
フラれたことを逆恨みしていっそ既成事実を作ってやる!と千切くんに襲いかかった女子マネを羽交い絞めにして止めたこと。その後、何とか今後も円滑に仕事が回るように女子マネをとことん宥めた。
……思い出せるだけでこのぐらいだが、他にもあったような。
気が付けば考えるより先に体が動いていた。自分が穏やかに過ごすために周囲の問題を解決していくことに尽力していたけれど、思い返してみたら“穏やか”とはかけ離れた日常もたまにあった。やっかみや嫌がらせは連鎖するから、力づくでも早期解決するに限る。
千切くんは恩を感じていたんだろうか。しかし、そんなタイプには見えない。もともと嫌がらせだって彼はさして気にした様子はなかったし動じてなかった。私が余計なお世話を焼いただけに過ぎない。
もし彼の目に私の言動が“魅力”に映ったのなら、なかなかの奇跡だ。
ふう、と緊張を隠すように息をついてから、離れるようにやんわりと千切くんの肩を掌でそっと押し返す。これ以上近づかれると煌めきオーラにあてられて色々まずい。
「千切くんの彼女になったら、きっとサッカーに嫉妬しちゃうよ?」
『自分の名を売るために羅実に来た』…入部初日にそう言ったのは千切くんじゃないか。本当に欲しいものは私じゃない。君の欲しいものは別にあるはずだ。
千切くんのような素敵な男の子と付き合えたら嬉しいけれど、浮かれた私の気持ちのが彼より上回ってしまうのは簡単に想像できる。サッカーより優先されない事が嫌になって、歳上のくせにみっともなく駄々をこねたくはない。
言い当てられたからか彼は眉をひそめていたが、葛藤が垣間見えるも諦める様子は少しもないようだ。
肩に触れていた手の上からひとまわり大きな手が重ねられ、途端に心臓が早鐘を打ち始める。視界に映る美しさに脳内で警鐘が鳴る。至近距離での触れ合いにときめくなって方が無理だ。
「……確かにサッカーは俺のすべてで、世界一のストライカーになることが夢です。琴音先輩の言う通り俺はサッカーより優先できるものはない。ただ、この気持ちも本物なんだ」
面と向かって本心を伝えてくる千切くんの手が、熱い。押し返そうと添えた自分の手からも力が抜けていき、再び距離を詰められてしまった。
背中にはひんやりとしたロッカーの固い感触。目前には、目を逸らせないようにと背を屈めて顔を覗き込むように見つめてくる千切くん。
どこが好きなの?なんで好きなの?質問したいことは山のようにあるし、逆に伝えてこないのはからかわれてるだけなのかと思ったが、やはり違う。
「羅実を全国優勝に導いて名を売ったらユースに入る。そのうち俺をテレビで見ることになります。そしたらその時は――」
“俺のものになって”
突然、私の耳に唇を寄せて千切くんは最後の一言だけ囁くように告げた。刹那、全身の血が沸騰して顔から火が出そうになる。ドッドッと心音が加速して沸々と頬から広がるように耳の先まで熱が急速に伝播していった。赤面して白目を剥いて卒倒しそうだ。ドラマでも漫画でもイケメンが使うありきたりな台詞を、自分が現実で受ける日が来ようとは。
意識がはっきりしないままゆっくり頷いた気がする。すると千切くんは数回瞬きしてから照れくさそうに微笑んだ。あ、かわいい、こんな笑い方もできるんだ…と、ふわふわした気持ちのまま思った。
彼の美しさを以てして、陳腐な台詞が煌々と輝きを増す。その光で全神経と鼓膜が溶け出しそうになって呆然としてる間、記憶にあまりないが、お互いスマホを出して連絡先を交換したらしい。というより私は誘導されるがままにスマホのロックボタンだけ解除させられ千切くんが器用に操作して気づいたら彼の連絡先が登録されていた。そににしても、受験前にとんでもない爆弾を食らってしまった。
「……いったん離れようか」
我に返って今度こそ両手でトン、と彼の両肩を押して距離をとる。今更そんなことをしたところでもう遅いのに。
「あれ、怒ってます?」
「おこってないです、なんでもないです、かおがいいです」
「はは、変な琴音先輩。まぁそこがいいんだけど」
緊張が解けて笑った顔は年相応のあどけなさが残る。かっこいいとキレイとかわいいの三拍子なんてズルイ。
およそ一年と数か月後の話――
U-20と青い監獄との試合をテレビで見て思わずお祝いのメッセージを送った数日後に、『今都内にいます。会いたいです』という電話が千切くんからかかってくることになる。その日までの過程は紆余曲折ありつつも、久々に再会する日が訪れて彼がフラグを回収しに来ることは、現段階で告白にキャパオーバー状態の私は知る由もなかった。
深紅の髪を長く伸ばし、怪我のトラウマも乗り越え外見も内面もさらに磨きがかった千切くんの彼女になるというイベントが、少し先の未来で待っている。