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ガトーショコラに込めて
►流川楓
「楓くんが好きだなぁ」
オシャレなカフェの向かい合った席に座って告げると、長い前髪から覗く鋭い視線が私に向けられた。
テーブルには楓くんが頼んだガトーショコラと、私が頼んだリンゴのケーキ、カフェラテが二人分並んでいる。でもって、楽しいティータイムの時間でも彼は何故か黙ってしまった。いや、元々何も話してなかった気もするけど。
……しかし、彼女からの『好き』をだんまりで返すとは?今更、楓くんに“普通”の感覚を押し付けても根負けすることぐらいはわかっている。どんなリアクションをされても、折れない心が肝心だ。
「聞こえてる?楓くんが好きって…」
「知ってる」
フォークでガトーショコラを切り分け、口に運ぶと特に表情も変えずもくもくと咀嚼してる彼。授業中寝ているせいで万年赤点の楓くんのテスト勉強を見てあげたお礼にと、今日はカフェに誘われた。
わざわざお礼なんてらしくないなと思う。発端はおそらく、楓くんのお母さんだと想像した。『面倒みてもらったんだからお礼してきなさい!』とか言われたんじゃないかなぁ。
――にしても、“知ってる”って返し。360度のイケメンじゃなかったら許されないセリフをサラッと言うもんだ。
この人気のカフェは周囲も満席で女性客で賑わっている。そして、先ほどからチラチラと視線を感じるのは気のせいじゃない。小中高と同じ学校の幼馴染…というかご近所さんの楓くんが、信じられない事に今では私の彼氏だ。異性として意識しだしたのはごく最近だから、告白された時は本当に驚いた。幼少期から整った顔立ちしてるなぁと思ってはいたけど、デートの時は特にそれを顕著に感じる。
「それ美味しい?」
首を傾げて訪ねると、彼は黙って頷いた。甘いもの好きなのかな。ご近所付き合いもあり、親が旅行に行ったときにはお土産を渡しに行ったりしたけれど、特別、楓くんの好物を気にしたことはなかった。バスケと寝ることが好きなのは知ってたけどそれぐらいで…、他に好きな食べ物や興味があるもの、これから少しずつ知っていけばいい。それが出来るのが彼女の特権なんだ。
「今日はご馳走してくれてありがとう」
「別に。この前の礼……、お礼す」
「…す?何で敬語なの?」
「琴音はせんせーだから」
「ちょっとテスト対策を教えただけだよ?お礼なんていいのに…。赤点のせいで楓くんが試合出れなくなっちゃうの、私も嫌だしさ」
少し間をおいて、楓くんは頷いた。一緒にいて気づいた事がある。口数の少ない彼のリアクションは頷くか首を振るかが多い。
時々それが、不愛想な猫のように見えて微笑ましくなる。
リンゴのケーキを頬張れば、予想以上の美味しさに口元が綻んでいく。人気なのはカフェの雰囲気だけじゃなかったことが喜ばしい。ここ絶対リピートしたい!と、まだ来たばかりなのに心が弾んでいた。
自分のケーキを半分ほど食べた時、不意にチョコレートの甘い香りが顔の近くに寄せられた。
「やる」
ガトーショコラの一切れをフォークに刺して、楓くんは食べろとばかりにいズイッと私の口元へ運んでくる。
反射的に口を開けるとチョコレートの味が舌に広がった。食べさせた後、フォークはゆっくり彼の手元へ戻っていく。
濃厚なショコラの中にラズベリーソースの酸味が合わさって、口の中で一体となる。看板メニューなだけあって感動するレベルで美味しかった。周囲でザワッと声が上がったのをスルーできるぐらい、味覚に集中してしまった。
「ありがとう。私のもどうぞ!」
ちゃんとリンゴが大きく乗ってる部分を切り分け、フォークに載せて楓くんの口に運ぶと、彼は遠慮なくパクッと食べた。
うまい、ともぐもぐ食べてる様子に、黒猫に餌付けしてる気持ちになった。そして周囲で二度目の騒めき……あ、そうか、見られてるんだった。
もし私が周囲の女子の一人だったなら、寡黙なクールイケメンが彼女に食べさせたりしてる絵は、見ていても盛り上がってしまうだろう。しかし、相手が私のような平凡女子ゆえに、やっかみのワードが聞こえて来ない事もないけど気にしない。楓くんの告白を受けた時から、周囲がどう騒ごうがスルーしようと決めていた。
「お互い別のもの頼むと、ちょっとずつ味見できていいね」
「……琴音が、」
「ん?」
「迷ってただろ。だからこれにした」
レジカウンターで注文する時、どちらも美味しそうだったけど私は迷ってリンゴの方にした。決して口にしたわけじゃないのに、視線で読み取ってくれてたんだ。
マグカップを持っていた手は、カフェラテを傾ける動きを止めた。私を射抜くように見つめる漆黒の瞳は、感情を強く訴えかけてきている。まさに、目は口程に物を言う…って、そうか、そうだった。『好き』に対して『好き』を返してくれなくても、伝える方法はいくらでもあるって、今、気づかされた。
頬が熱くなっていくのは温かい飲み物を飲んでるせいじゃない。甘い香りに包まれて、私たちはしばらく見つめ合うだけの時間を過ごすのだった。
►流川楓
「楓くんが好きだなぁ」
オシャレなカフェの向かい合った席に座って告げると、長い前髪から覗く鋭い視線が私に向けられた。
テーブルには楓くんが頼んだガトーショコラと、私が頼んだリンゴのケーキ、カフェラテが二人分並んでいる。でもって、楽しいティータイムの時間でも彼は何故か黙ってしまった。いや、元々何も話してなかった気もするけど。
……しかし、彼女からの『好き』をだんまりで返すとは?今更、楓くんに“普通”の感覚を押し付けても根負けすることぐらいはわかっている。どんなリアクションをされても、折れない心が肝心だ。
「聞こえてる?楓くんが好きって…」
「知ってる」
フォークでガトーショコラを切り分け、口に運ぶと特に表情も変えずもくもくと咀嚼してる彼。授業中寝ているせいで万年赤点の楓くんのテスト勉強を見てあげたお礼にと、今日はカフェに誘われた。
わざわざお礼なんてらしくないなと思う。発端はおそらく、楓くんのお母さんだと想像した。『面倒みてもらったんだからお礼してきなさい!』とか言われたんじゃないかなぁ。
――にしても、“知ってる”って返し。360度のイケメンじゃなかったら許されないセリフをサラッと言うもんだ。
この人気のカフェは周囲も満席で女性客で賑わっている。そして、先ほどからチラチラと視線を感じるのは気のせいじゃない。小中高と同じ学校の幼馴染…というかご近所さんの楓くんが、信じられない事に今では私の彼氏だ。異性として意識しだしたのはごく最近だから、告白された時は本当に驚いた。幼少期から整った顔立ちしてるなぁと思ってはいたけど、デートの時は特にそれを顕著に感じる。
「それ美味しい?」
首を傾げて訪ねると、彼は黙って頷いた。甘いもの好きなのかな。ご近所付き合いもあり、親が旅行に行ったときにはお土産を渡しに行ったりしたけれど、特別、楓くんの好物を気にしたことはなかった。バスケと寝ることが好きなのは知ってたけどそれぐらいで…、他に好きな食べ物や興味があるもの、これから少しずつ知っていけばいい。それが出来るのが彼女の特権なんだ。
「今日はご馳走してくれてありがとう」
「別に。この前の礼……、お礼す」
「…す?何で敬語なの?」
「琴音はせんせーだから」
「ちょっとテスト対策を教えただけだよ?お礼なんていいのに…。赤点のせいで楓くんが試合出れなくなっちゃうの、私も嫌だしさ」
少し間をおいて、楓くんは頷いた。一緒にいて気づいた事がある。口数の少ない彼のリアクションは頷くか首を振るかが多い。
時々それが、不愛想な猫のように見えて微笑ましくなる。
リンゴのケーキを頬張れば、予想以上の美味しさに口元が綻んでいく。人気なのはカフェの雰囲気だけじゃなかったことが喜ばしい。ここ絶対リピートしたい!と、まだ来たばかりなのに心が弾んでいた。
自分のケーキを半分ほど食べた時、不意にチョコレートの甘い香りが顔の近くに寄せられた。
「やる」
ガトーショコラの一切れをフォークに刺して、楓くんは食べろとばかりにいズイッと私の口元へ運んでくる。
反射的に口を開けるとチョコレートの味が舌に広がった。食べさせた後、フォークはゆっくり彼の手元へ戻っていく。
濃厚なショコラの中にラズベリーソースの酸味が合わさって、口の中で一体となる。看板メニューなだけあって感動するレベルで美味しかった。周囲でザワッと声が上がったのをスルーできるぐらい、味覚に集中してしまった。
「ありがとう。私のもどうぞ!」
ちゃんとリンゴが大きく乗ってる部分を切り分け、フォークに載せて楓くんの口に運ぶと、彼は遠慮なくパクッと食べた。
うまい、ともぐもぐ食べてる様子に、黒猫に餌付けしてる気持ちになった。そして周囲で二度目の騒めき……あ、そうか、見られてるんだった。
もし私が周囲の女子の一人だったなら、寡黙なクールイケメンが彼女に食べさせたりしてる絵は、見ていても盛り上がってしまうだろう。しかし、相手が私のような平凡女子ゆえに、やっかみのワードが聞こえて来ない事もないけど気にしない。楓くんの告白を受けた時から、周囲がどう騒ごうがスルーしようと決めていた。
「お互い別のもの頼むと、ちょっとずつ味見できていいね」
「……琴音が、」
「ん?」
「迷ってただろ。だからこれにした」
レジカウンターで注文する時、どちらも美味しそうだったけど私は迷ってリンゴの方にした。決して口にしたわけじゃないのに、視線で読み取ってくれてたんだ。
マグカップを持っていた手は、カフェラテを傾ける動きを止めた。私を射抜くように見つめる漆黒の瞳は、感情を強く訴えかけてきている。まさに、目は口程に物を言う…って、そうか、そうだった。『好き』に対して『好き』を返してくれなくても、伝える方法はいくらでもあるって、今、気づかされた。
頬が熱くなっていくのは温かい飲み物を飲んでるせいじゃない。甘い香りに包まれて、私たちはしばらく見つめ合うだけの時間を過ごすのだった。