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初恋メランコリー
-3-
・・・
・・・・・
・・・・・・
三月初旬――『卒業オメデトウゴザイマス』と、唇を尖らせムスッとした表情の光太郎くんはまるで拗ねた子供みたいだった。
春高が終わって部活を引退した後、すぐに受験で慌ただしくなってからというもの、ほとんどゆっくり話せる機会もなくなっていた。時々、練習をのぞきに行けば『副長!』と叫んで抱きつかれそうになり、それを後輩の女子マネ達が光太郎くんのジャージを引っ掴んで止めるのがお決まりのやりとり。なので、顔を合わせない日も多くなって、寂しさを感じたまま卒業式当日を迎えた…にしても、何も仏頂面にならなくてもいいのに。
“留年しようぜ!”とか、“ワンモアあと一年!”とか言われ、どこまで本気なんだかわからない。
……っていうか、もう、さっき卒業しちゃったし。
苦笑しつつ宥めているうちに、光太郎くんからは先刻、やっとお祝いの言葉がカタコトで出てきたのだった。
「……引っ越しとかしないよな!?」
「あ、……引っ越しはする」
「どどっ、どこに!?オレ、聞いてないっ!」
「都内で一人暮らしだよ」
「なんだぁ~、脅かすなよぉ」
勢いよく両肩を掴んだ直後、安心して光太郎くんは力なく俯いた。相変わらず表情が豊かだ。顔立ちがハッキリしてるのもあって、見ていて飽きない。
頭を振ると、静かに顔を上げ今度は真剣モード。力強い眼差しは金色を湛え、煌々としている。添えられた指先から熱と、緊張感が伝わってきた。
「……それで、さ。副…や、琴音、俺のこと好きになった?」
「うーん、どうかな?」
「…………っ」
後ろ手を組んでゴソゴソと細工をし、すかさず目の前に手の甲を上げて見せると、光太郎くんは大きく目を見開いた。
「なんちゃって」
驚くのも無理はない。小学校の卒業式の日、彼がくれたバレーボールのキーホルダーのリング部分を、わざと左手の薬指に指輪をはめて見せたのだから。
「私も光太郎くんが好きだよ」
言葉よりも先に、答えが“そこ”に在ったことを瞬時に察し、よっしゃー!と大声で叫ぶと同時に、光太郎くんは勢いよく抱き付いてきた。予想通りのリアクションに、ふはっと口元が緩んで笑みが零れる。
卒業生のブレザーの胸ポケット上部に飾られた花のコサージュは、抱きしめられた拍子に潰れてしまったけれど、式の間は役目を全うしたので良しとしよう。
甘い檻の中に閉じ込められたまま満開の桜の下、限りない幸せが満ちていく。存在を確かめて、離れないようにと自分からも大きな背中に手を回した。屋上で『初恋の人』と告げられた日から、結ばれる未来は待っていた。待って待って、待ち焦がれていたんだ。
「琴音!ほんもの渡す日まで待ってて!」
周りにいる卒業生にも聞こえるような声量で宣誓するものだから、一瞬で注目の的となってしまったけれど、光太郎くんが目立つのは仕方のない事だ。
照れくさくなりながらも私も力強く頷いた刹那、ふわりと足が宙に浮く感覚――抱え上げられ、頬へ彼の唇が寄せられた。
柔らかな感触が触れて、離れた途端、何故か周囲の生徒から拍手が起こるのは彼が太陽たる所以だろう。名前も呼ばれてるし、指笛吹かれてるし。三年生からの認知度も高いなんて、やっぱり有名人だ。
顔を赤くさせ目が点になって固まっている私の顔を覗き込み、光太郎くんの口角はますます上がった。
「あ、照れてんの。かわいい!」
「……て、照れてないよ。留学してたからね。海外じゃキスは挨拶――」
「ほっぺじゃ物足りなかったかぁ……」
「ちょっと、待っ、うそうそっ!」
今度は唇に目掛けて顔を近づけてきて、息のかかる距離、鼻先が触れたところで止まった。頬へのキスだけで紅潮して、桜よりも色づいてしまった状態では強がりも無意味だったようで。
慌て出す私を見て、光太郎くんは満足そうに微笑むも、半ば閉じた目は獲物を狙う猛禽類のごとく光っている。
「嘘でもやめてあげない」
舞い散る花弁の中、愛に満たされて祈るように目を閉じた私に、彼は再び口付けを落とすのだった。
支える大きな手は陽だまりの体温で、無邪気な笑顔は空気を賑やかにさせる。たまに発動するしょぼくれモードは、ご愛敬の花流し――まるで、春みたいな人。どうりで、春が一番好きなわけだ。
幾度も鮮やかに巡る季節の中、手を繋いでずっと一緒に歩いていきたいと、心から願う。もう二度と、離れる事のないように。
彼のMSBYブラックジャッカルへの入団が決まり、私の左手の薬指に本物の婚約指輪が輝くのは――数年後のある日の、また別のお話。
end.
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三月初旬――『卒業オメデトウゴザイマス』と、唇を尖らせムスッとした表情の光太郎くんはまるで拗ねた子供みたいだった。
春高が終わって部活を引退した後、すぐに受験で慌ただしくなってからというもの、ほとんどゆっくり話せる機会もなくなっていた。時々、練習をのぞきに行けば『副長!』と叫んで抱きつかれそうになり、それを後輩の女子マネ達が光太郎くんのジャージを引っ掴んで止めるのがお決まりのやりとり。なので、顔を合わせない日も多くなって、寂しさを感じたまま卒業式当日を迎えた…にしても、何も仏頂面にならなくてもいいのに。
“留年しようぜ!”とか、“ワンモアあと一年!”とか言われ、どこまで本気なんだかわからない。
……っていうか、もう、さっき卒業しちゃったし。
苦笑しつつ宥めているうちに、光太郎くんからは先刻、やっとお祝いの言葉がカタコトで出てきたのだった。
「……引っ越しとかしないよな!?」
「あ、……引っ越しはする」
「どどっ、どこに!?オレ、聞いてないっ!」
「都内で一人暮らしだよ」
「なんだぁ~、脅かすなよぉ」
勢いよく両肩を掴んだ直後、安心して光太郎くんは力なく俯いた。相変わらず表情が豊かだ。顔立ちがハッキリしてるのもあって、見ていて飽きない。
頭を振ると、静かに顔を上げ今度は真剣モード。力強い眼差しは金色を湛え、煌々としている。添えられた指先から熱と、緊張感が伝わってきた。
「……それで、さ。副…や、琴音、俺のこと好きになった?」
「うーん、どうかな?」
「…………っ」
後ろ手を組んでゴソゴソと細工をし、すかさず目の前に手の甲を上げて見せると、光太郎くんは大きく目を見開いた。
「なんちゃって」
驚くのも無理はない。小学校の卒業式の日、彼がくれたバレーボールのキーホルダーのリング部分を、わざと左手の薬指に指輪をはめて見せたのだから。
「私も光太郎くんが好きだよ」
言葉よりも先に、答えが“そこ”に在ったことを瞬時に察し、よっしゃー!と大声で叫ぶと同時に、光太郎くんは勢いよく抱き付いてきた。予想通りのリアクションに、ふはっと口元が緩んで笑みが零れる。
卒業生のブレザーの胸ポケット上部に飾られた花のコサージュは、抱きしめられた拍子に潰れてしまったけれど、式の間は役目を全うしたので良しとしよう。
甘い檻の中に閉じ込められたまま満開の桜の下、限りない幸せが満ちていく。存在を確かめて、離れないようにと自分からも大きな背中に手を回した。屋上で『初恋の人』と告げられた日から、結ばれる未来は待っていた。待って待って、待ち焦がれていたんだ。
「琴音!ほんもの渡す日まで待ってて!」
周りにいる卒業生にも聞こえるような声量で宣誓するものだから、一瞬で注目の的となってしまったけれど、光太郎くんが目立つのは仕方のない事だ。
照れくさくなりながらも私も力強く頷いた刹那、ふわりと足が宙に浮く感覚――抱え上げられ、頬へ彼の唇が寄せられた。
柔らかな感触が触れて、離れた途端、何故か周囲の生徒から拍手が起こるのは彼が太陽たる所以だろう。名前も呼ばれてるし、指笛吹かれてるし。三年生からの認知度も高いなんて、やっぱり有名人だ。
顔を赤くさせ目が点になって固まっている私の顔を覗き込み、光太郎くんの口角はますます上がった。
「あ、照れてんの。かわいい!」
「……て、照れてないよ。留学してたからね。海外じゃキスは挨拶――」
「ほっぺじゃ物足りなかったかぁ……」
「ちょっと、待っ、うそうそっ!」
今度は唇に目掛けて顔を近づけてきて、息のかかる距離、鼻先が触れたところで止まった。頬へのキスだけで紅潮して、桜よりも色づいてしまった状態では強がりも無意味だったようで。
慌て出す私を見て、光太郎くんは満足そうに微笑むも、半ば閉じた目は獲物を狙う猛禽類のごとく光っている。
「嘘でもやめてあげない」
舞い散る花弁の中、愛に満たされて祈るように目を閉じた私に、彼は再び口付けを落とすのだった。
支える大きな手は陽だまりの体温で、無邪気な笑顔は空気を賑やかにさせる。たまに発動するしょぼくれモードは、ご愛敬の花流し――まるで、春みたいな人。どうりで、春が一番好きなわけだ。
幾度も鮮やかに巡る季節の中、手を繋いでずっと一緒に歩いていきたいと、心から願う。もう二度と、離れる事のないように。
彼のMSBYブラックジャッカルへの入団が決まり、私の左手の薬指に本物の婚約指輪が輝くのは――数年後のある日の、また別のお話。
end.