黒子くんと大学生マネージャー
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リサーチ!Boy&Girl
―Girl's Side―
9月のシルバーウィーク直前の金曜日、部活終わりに「たまには女同士で寄り道しましょうよ!」、と元気よく声をかけてきたリコちゃんの誘いに、私は迷う事なく頷いた。
そういえば、春から臨時マネージャーとして関わってきたもののリコちゃんと二人きりでというのは初めてだ。
いつものMAJIバーガーではなく、紅茶やケーキが美味しい人気のカフェに私たちはやって来た。
入店すると、ふんわりと甘い香り。客層を見ると若い女の子が多く目立った。
ショートケーキ、チーズタルトにシフォンケーキ…どれもこの店自慢の手作りケーキは美味しそうだ。
リコちゃんとアレも美味しそう、コレも美味しそうとはしゃぎながら決めて、いざメニューが運ばれてくると私たちは目を爛々と輝かせた。
一緒に運ばれてきた紅茶から湯気が立ち上りアールグレイの香りが鼻をかすめた。
人気なお店なだけあって、ケーキを一口食べた瞬間に幸せの甘い味が口の中に広がっていく。同時にふわふわとした食感。
リコちゃんと顔を見合わせて感動しつつ、甘いもの好きでよかったと心から幸せを感じた。
「…で、黒子くんとはどこまで進んでるんですか?」
「――んぐっ!?」
部活の話、私生活の話をして、最後の一口のケーキを口に入れた途端、突然リコちゃんは聞いてきた。
危うくケーキを喉に詰まらせるところだった。奇妙な声は出てしまったが何とか飲み込んで私は紅茶を一口飲むと、リコちゃんに視線を向けた。
彼女は悪意ないニッコリとした笑顔をこちらに向けて、“興味津々”という言葉がが表情から溢れ出している。
女の子同士でお茶をしたのならば、この手の話題が出ることは薄々と覚悟していたが――何というか、質問が思っていたよりストレート過ぎて驚いた。
6月あたりから私と黒子くんは付き合いはじめ部員達には内緒にしていたつもりなのに、勘のいいリコちゃんは私たちの関係にいち早く気づいていた。
さすが名カントク。洞察力も鋭い。ただ、気づいたところで誰かに話したりはしていなかったみたいだ。
結局、他の部員たちには8月終わりの合宿の時点では全員に気づかれていたようだけれど…。
部の規律のために、一応内緒にしていたのだけれど、実際バレたところで私や黒子くんに何か言ってくる人もいなかったのだが。
バレないようにしないと――と思っていたけれど、既にみんなに気づかれていたのを知ってそれは杞憂だったのだと、ため息をついたのがまるで昨日のことのように思い出せた。
この数ヶ月、時間が経つのがあっと言う間だったから。
「ど、どこまでって…何でそんな急に?」
平静を装うこともできず、私は顔を紅くさせて聞き返した。
年上のくせに、そんなこと聞かれたぐらいでいちいち赤面してしまう自分が情けないが、初めてだったので焦ってしまったのだ。
「なかなか女同士で二人きりになることってなかったじゃないですか?だから今まで気になってたけど聞けなかったっていうか…」
エヘヘ、と笑う顔が何とも可愛い。リコちゃんはしっかり者だし、カントクとしては厳しくみんなに恐れられている一面もあるけれど、普通の女の子だ。恋愛について興味があるのも当たり前だろう。
しかし、私と黒子くんのことが気になっていたなんて…。6月に黒子くんから告白され、付き合いはじめて少ししてからリコちゃんはすぐに気づいていた様子だった。
つきあい始めて3ヶ月は経っていることも彼女は分かっているはず。胸中で、3ヶ月…と、心の中で反芻する。
そっか、3ヶ月、3ヶ月……
「もうそんなに経つのかぁ」
小声で呟いたら、はっきり聞こえていたみたいで、リコちゃんは「え!?」と大きな声をあげて驚いた。
その声で私は肩をびくりと震わせる。な、なんかおかしいこと言った?
「その感じだとまだ進展がない感じですかっ!?」
『進展』というワードを聞く度にドキドキとしてしまう。やんわりとした尋問のような気分になってきて、変な汗が出てくる。
顔を紅潮させつつ、私は紅茶を一口飲んだ。リコちゃんは私がどんな風に返してくるのかわくわくしている様子だ。
恋の話を聞くときの女の子の目の輝きようは、すごい。
聞かれても恥ずかしくて答えられないし、そもそも私だけの問題でもないので勝手に話していいかどうかもわからない。
いや、考え過ぎか――と思いつつも、私の脳裏に反撃が過ぎる。私も前から気になっていたことをお返しとばかりに聞き返そう。
「リコちゃんこそどうなの?」
「え、わたし…ですか?」
一瞬、笑顔が固まったまま瞬きした彼女に、今度は私の方がニコリと笑った。
まったく身に覚えがないという感じだけれど、そんなはずないじゃないか。
あんなにカッコイイ男の子達がたくさんいる中で、紅一点だもの。
「日向くんと付き合ってるのかなって思ってたから」
「んなっ!ないないない!それはないですって!」
「だって特別仲がよく見えるよ?」
「違うんです!あいつとは中学時代から一緒だから、付き合うとかそういうんじゃ――」
「じゃあ、伊月くん?木吉くん?どっちが本命なのかな?」
「アイツらはそーゆーんじゃないですから…!」
リコちゃんも慌ててかぶりを振っていたが、頬が紅く染まっていた。その様子が可愛らしくて微笑ましい。
普段は凛々しいイメージのリコちゃんだけれど、本当は普通の女の子で可愛い面もたくさんあるんだよね。
それを知ってしまったならば、きっと周りの誰もがほっとかないはずだと、私は思った。それぐらい、慌てるリコちゃんは可愛かったから。
どうやらこの3人の中に本命か…もしくは付き合っている、付き合っていた?相手がいたりして…?
何て、勘ぐるだけでもわくわくしてしまう。
その後も、私たちは美味しいケーキをつつきながら、攻防戦を続けていた。
もちろん、その話だけじゃなくて、最近気になってるコスメとか美味しいスイーツの話もしたり。
リコちゃんはほとんどの時間を部活に費やしているから、きっと友達とお茶する時間を確保するのもなかなか難しいんだろうなと思う。
やはり、こういう時間は女の子には必要だなと改めて思った。季節の新作スイーツが出る度に、今度は私から誘ってみようかな。
□ □ □
―Boy's Side―
通常の練習時間が終わり、その後は各自残っての練習となった。レギュラーは特にその時間が多い。それは僕も例外ではなかった。
今日はカントクも早々に切り上げたようだ。体育館を出る前、僕に一言『琴音さん、借りてくね』と耳打ちをされた。
振り返った時には既に、彼女はカントクにぐいぐいと手を引っ張られて体育館を出て行ってしまった。
とりあえず今日は一緒に帰れなさそうだとわかり、少し、寂しい気持ちが込み上げたが仕方ない。
彼女は大学生だし臨時マネージャー。彼女にも彼女のスケジュールがある。いつも一緒にいられるわけじゃないのだ。
そう思って自分を納得させつつ、僕は今日はいつも以上に自主練に没頭した。WCは絶対に勝ち進む覚悟を、技に、力に変えなければ。
夜7時を回った頃、自主練を終えて部室に戻ると、既に練習を終えて着替え終わり休んでいた先輩方数名と火神くんがロッカー前に集まっていた。
タオルで汗を拭っている僕に先輩達の視線が集まる。
普段なら部室に入っても気づかれないぐらい影が薄い僕なのに、何故だか今日はやけに注目されている気がする。
気配を消そうにも、予め注目されていては難しい。
嫌な予感を感じつつも、わざと気にする様子を見せずロッカーを開けた途端、後ろからグイッと右肩を掴まれた。
振り向いて横目で確認すると小金井先輩だった。
「おい、黒子…お前に聞きたいことがある。ま、マネージャーとはどこまで、した…?」
「黙秘権を行使します」
彼らの視線が僕に集まった時から、きっと何か聞かれることは察しがついていた。
内容までは予想していなかったが、まぁ、だいたい…その手の質問かな、とは思っていました…。
質問に対してすかさず切り返すも小金井先輩は肩を離してくれなそうだ。
「言え、黒子。先輩命令だ。いや、主将命令だ」
「そんな横暴な命令聞いたことありません」
今後は、日向先輩に左肩を掴まれた。ため息をつきながら、僕は振り向くのをやめて視線をロッカーに戻した。
肩を掴まれながらも僕がTシャツを脱ごうとすれば、一瞬だけ手を離してくれた。
「ほとんど彼女持ちがいないバスケ部内で、彼女が居る奴の話聞いて幸せのおこぼれにあやかろうって気持ちがわからんのか!」
「全くわかりません」
「なんて非道な奴だ…そう思うよな火神!?」
「いや俺はどうでもいいし…です」
「女に全く興味がない火神はほっとくか」
「違…っ!誤解を招く言い方すんなって…!」
背後で会話ともいえない会話が飛び交いながらも、僕は淡々と返事をした。
火神くんだって女性に興味があるはずです。彼女と火神くんはわりと仲がいいので、一番警戒しているのは火神くんでもあります。
もちろん、チームメイトとして信頼している感情とは別で、「彼氏として」の感情です。
肩を掴もうとする先輩らの手を避けつつミスディレクションの原理を応用して制服に着替えていく。
「それに僕だけの問題ではないですし、彼女だって勝手に話されたりしたら嫌だと思いますが」
シャツのボタンを留めながら告げると、先輩方の殺気が背後でメラッと燃え上がったように感じて思わず体が震えた。
あえて振り向かずロッカーの方ばかり見ていたが、今は振り向けない。先輩達が般若のような顔をしているのが分かるからだ。
「おい、『彼女』って言ったよこいつ。マネージャーのこと『彼女』って!」
「いや、彼女だから仕方ないだろ。落ち着けよ、コガ。黒子め呪ってやる」
「お前が落ち着け日向、本音が漏れてる」
先程から僕に無理矢理聞こうとしているのは小金井先輩と日向先輩だ。伊月先輩もいるが二人をなだめる役に回っている。
彼がいなかったら『全部聞くまで帰さねぇからな!』ぐらいは言われていたと思う。
しかし、このまま黙秘権を行使したまま穏便に帰してくれるとは思えなかった。
脳裏に、彼女の笑顔が過ぎった。笑うとふわふわして、可愛い。優しくて、僕にはもったいないぐらい、素敵な人だ。
…目を数秒だけ閉じて出た決断は1つの案。
先輩たちのヒートアップした声をBGMに僕はキッチリと制服を着終えた後、僕は『1つだけなら、質問受け付けます』と静かに言った。
ピタリ、と、急に動きをとめて日向先輩と小金井先輩はこそこそと話し合いをした。
そして、くるりと僕の方を向いて小金井先輩がわざとらしい咳払いをした。
「…キスはした?」
「まだしていません」
しばらくの沈黙、その中で、空腹に耐えかねたのか持ってきた総菜パンをもぐもぐと食べ続ける火神くんがだけがいつも通りだった。
詰め寄ってくる先輩以外にも、他の部員も聞き耳を立てていたり、興味津々にこちらに注目している様子だ。
先輩達の顔を見渡せば、口を開けて驚愕の表情。
顔に、『嘘だろ…!?』って書いてあるみたいだ。
はい、もちろん嘘です。キスはしました。
質問は受け付けるとは言ったものの、真実を伝えるとは言ってませんから。
申し訳ないですが、やはり、彼女の知らぬところで誰かに話したりすることはできません。
いや、それ以上に僕が――話したくない、だけなのかもしれない。
いつから自分がこんなに嫌な奴になったのだろう。いつから、こんなに独占したくなってしまったんだ。
心の中が熱くなって呆けている僕に、小金井先輩はさらに質問してきた。質問は1つだけだと言ったはずなのに。
「…じゃ、じゃあそれ以上は!?」
「落ち着けってコガ!キスがまだならそれ以上してるわきゃないだろ!」
「つーかキスもしてないとか嘘に決まってんだろしてないわけないだろぉぉ」
「泣くな…男の嫉妬は醜いぞ。いいなぁ黒子死ねばいいのに」
「だから、お前が落ち着け日向、本音がだだ漏れだ」
今にも暴れ出しそうな先輩二人を伊月先輩の絶妙なツッコミで押さえる。この3人が並ぶといい漫才ができるかもしれないなと思った。
ここに木吉先輩がいたら、日向先輩がツッコミ役に回ってボケ役になれないなと、そんなことまで考えてしまった。
が、着替え終わったし既に7時も回っているのでいつまでもここにいるわけにはいかない。
じゃあ僕はこれで、と言うが早く、ミスディレクションを再び応用して僕は部室を出た。
彼らが気づいた頃には僕は既にそこにはいない。部室を出て3歩、歩いたところで背後から「く、黒子ォォォ…!」という断末魔のような叫びが聞こえてきた。僕は聞こえないフリをして校門に向かって歩き続けた。
□ □ □
その後、二人はバッタリと駅前で出会った。
嬉しい偶然に胸の中が暖かくなり、安堵する。
互いに今日あったことを話せば、顔を見合わせて思わず笑みが零れる。
同じ時間、違う場所で似たような事態が起きていたなんて。
まるで尋問だったこと、本当のことは教えずに上手くはぐらかしてきたことも、同じだった。
「この距離感も、僕だけが知っていればそれでいいです」
物静かな声色は秋の夜空に吸い込まれていくみたいだ。
少年の影が寄り添い、二人の手の影が重なったのを知るのは、ただ秋の満月だけ。
―Girl's Side―
9月のシルバーウィーク直前の金曜日、部活終わりに「たまには女同士で寄り道しましょうよ!」、と元気よく声をかけてきたリコちゃんの誘いに、私は迷う事なく頷いた。
そういえば、春から臨時マネージャーとして関わってきたもののリコちゃんと二人きりでというのは初めてだ。
いつものMAJIバーガーではなく、紅茶やケーキが美味しい人気のカフェに私たちはやって来た。
入店すると、ふんわりと甘い香り。客層を見ると若い女の子が多く目立った。
ショートケーキ、チーズタルトにシフォンケーキ…どれもこの店自慢の手作りケーキは美味しそうだ。
リコちゃんとアレも美味しそう、コレも美味しそうとはしゃぎながら決めて、いざメニューが運ばれてくると私たちは目を爛々と輝かせた。
一緒に運ばれてきた紅茶から湯気が立ち上りアールグレイの香りが鼻をかすめた。
人気なお店なだけあって、ケーキを一口食べた瞬間に幸せの甘い味が口の中に広がっていく。同時にふわふわとした食感。
リコちゃんと顔を見合わせて感動しつつ、甘いもの好きでよかったと心から幸せを感じた。
「…で、黒子くんとはどこまで進んでるんですか?」
「――んぐっ!?」
部活の話、私生活の話をして、最後の一口のケーキを口に入れた途端、突然リコちゃんは聞いてきた。
危うくケーキを喉に詰まらせるところだった。奇妙な声は出てしまったが何とか飲み込んで私は紅茶を一口飲むと、リコちゃんに視線を向けた。
彼女は悪意ないニッコリとした笑顔をこちらに向けて、“興味津々”という言葉がが表情から溢れ出している。
女の子同士でお茶をしたのならば、この手の話題が出ることは薄々と覚悟していたが――何というか、質問が思っていたよりストレート過ぎて驚いた。
6月あたりから私と黒子くんは付き合いはじめ部員達には内緒にしていたつもりなのに、勘のいいリコちゃんは私たちの関係にいち早く気づいていた。
さすが名カントク。洞察力も鋭い。ただ、気づいたところで誰かに話したりはしていなかったみたいだ。
結局、他の部員たちには8月終わりの合宿の時点では全員に気づかれていたようだけれど…。
部の規律のために、一応内緒にしていたのだけれど、実際バレたところで私や黒子くんに何か言ってくる人もいなかったのだが。
バレないようにしないと――と思っていたけれど、既にみんなに気づかれていたのを知ってそれは杞憂だったのだと、ため息をついたのがまるで昨日のことのように思い出せた。
この数ヶ月、時間が経つのがあっと言う間だったから。
「ど、どこまでって…何でそんな急に?」
平静を装うこともできず、私は顔を紅くさせて聞き返した。
年上のくせに、そんなこと聞かれたぐらいでいちいち赤面してしまう自分が情けないが、初めてだったので焦ってしまったのだ。
「なかなか女同士で二人きりになることってなかったじゃないですか?だから今まで気になってたけど聞けなかったっていうか…」
エヘヘ、と笑う顔が何とも可愛い。リコちゃんはしっかり者だし、カントクとしては厳しくみんなに恐れられている一面もあるけれど、普通の女の子だ。恋愛について興味があるのも当たり前だろう。
しかし、私と黒子くんのことが気になっていたなんて…。6月に黒子くんから告白され、付き合いはじめて少ししてからリコちゃんはすぐに気づいていた様子だった。
つきあい始めて3ヶ月は経っていることも彼女は分かっているはず。胸中で、3ヶ月…と、心の中で反芻する。
そっか、3ヶ月、3ヶ月……
「もうそんなに経つのかぁ」
小声で呟いたら、はっきり聞こえていたみたいで、リコちゃんは「え!?」と大きな声をあげて驚いた。
その声で私は肩をびくりと震わせる。な、なんかおかしいこと言った?
「その感じだとまだ進展がない感じですかっ!?」
『進展』というワードを聞く度にドキドキとしてしまう。やんわりとした尋問のような気分になってきて、変な汗が出てくる。
顔を紅潮させつつ、私は紅茶を一口飲んだ。リコちゃんは私がどんな風に返してくるのかわくわくしている様子だ。
恋の話を聞くときの女の子の目の輝きようは、すごい。
聞かれても恥ずかしくて答えられないし、そもそも私だけの問題でもないので勝手に話していいかどうかもわからない。
いや、考え過ぎか――と思いつつも、私の脳裏に反撃が過ぎる。私も前から気になっていたことをお返しとばかりに聞き返そう。
「リコちゃんこそどうなの?」
「え、わたし…ですか?」
一瞬、笑顔が固まったまま瞬きした彼女に、今度は私の方がニコリと笑った。
まったく身に覚えがないという感じだけれど、そんなはずないじゃないか。
あんなにカッコイイ男の子達がたくさんいる中で、紅一点だもの。
「日向くんと付き合ってるのかなって思ってたから」
「んなっ!ないないない!それはないですって!」
「だって特別仲がよく見えるよ?」
「違うんです!あいつとは中学時代から一緒だから、付き合うとかそういうんじゃ――」
「じゃあ、伊月くん?木吉くん?どっちが本命なのかな?」
「アイツらはそーゆーんじゃないですから…!」
リコちゃんも慌ててかぶりを振っていたが、頬が紅く染まっていた。その様子が可愛らしくて微笑ましい。
普段は凛々しいイメージのリコちゃんだけれど、本当は普通の女の子で可愛い面もたくさんあるんだよね。
それを知ってしまったならば、きっと周りの誰もがほっとかないはずだと、私は思った。それぐらい、慌てるリコちゃんは可愛かったから。
どうやらこの3人の中に本命か…もしくは付き合っている、付き合っていた?相手がいたりして…?
何て、勘ぐるだけでもわくわくしてしまう。
その後も、私たちは美味しいケーキをつつきながら、攻防戦を続けていた。
もちろん、その話だけじゃなくて、最近気になってるコスメとか美味しいスイーツの話もしたり。
リコちゃんはほとんどの時間を部活に費やしているから、きっと友達とお茶する時間を確保するのもなかなか難しいんだろうなと思う。
やはり、こういう時間は女の子には必要だなと改めて思った。季節の新作スイーツが出る度に、今度は私から誘ってみようかな。
□ □ □
―Boy's Side―
通常の練習時間が終わり、その後は各自残っての練習となった。レギュラーは特にその時間が多い。それは僕も例外ではなかった。
今日はカントクも早々に切り上げたようだ。体育館を出る前、僕に一言『琴音さん、借りてくね』と耳打ちをされた。
振り返った時には既に、彼女はカントクにぐいぐいと手を引っ張られて体育館を出て行ってしまった。
とりあえず今日は一緒に帰れなさそうだとわかり、少し、寂しい気持ちが込み上げたが仕方ない。
彼女は大学生だし臨時マネージャー。彼女にも彼女のスケジュールがある。いつも一緒にいられるわけじゃないのだ。
そう思って自分を納得させつつ、僕は今日はいつも以上に自主練に没頭した。WCは絶対に勝ち進む覚悟を、技に、力に変えなければ。
夜7時を回った頃、自主練を終えて部室に戻ると、既に練習を終えて着替え終わり休んでいた先輩方数名と火神くんがロッカー前に集まっていた。
タオルで汗を拭っている僕に先輩達の視線が集まる。
普段なら部室に入っても気づかれないぐらい影が薄い僕なのに、何故だか今日はやけに注目されている気がする。
気配を消そうにも、予め注目されていては難しい。
嫌な予感を感じつつも、わざと気にする様子を見せずロッカーを開けた途端、後ろからグイッと右肩を掴まれた。
振り向いて横目で確認すると小金井先輩だった。
「おい、黒子…お前に聞きたいことがある。ま、マネージャーとはどこまで、した…?」
「黙秘権を行使します」
彼らの視線が僕に集まった時から、きっと何か聞かれることは察しがついていた。
内容までは予想していなかったが、まぁ、だいたい…その手の質問かな、とは思っていました…。
質問に対してすかさず切り返すも小金井先輩は肩を離してくれなそうだ。
「言え、黒子。先輩命令だ。いや、主将命令だ」
「そんな横暴な命令聞いたことありません」
今後は、日向先輩に左肩を掴まれた。ため息をつきながら、僕は振り向くのをやめて視線をロッカーに戻した。
肩を掴まれながらも僕がTシャツを脱ごうとすれば、一瞬だけ手を離してくれた。
「ほとんど彼女持ちがいないバスケ部内で、彼女が居る奴の話聞いて幸せのおこぼれにあやかろうって気持ちがわからんのか!」
「全くわかりません」
「なんて非道な奴だ…そう思うよな火神!?」
「いや俺はどうでもいいし…です」
「女に全く興味がない火神はほっとくか」
「違…っ!誤解を招く言い方すんなって…!」
背後で会話ともいえない会話が飛び交いながらも、僕は淡々と返事をした。
火神くんだって女性に興味があるはずです。彼女と火神くんはわりと仲がいいので、一番警戒しているのは火神くんでもあります。
もちろん、チームメイトとして信頼している感情とは別で、「彼氏として」の感情です。
肩を掴もうとする先輩らの手を避けつつミスディレクションの原理を応用して制服に着替えていく。
「それに僕だけの問題ではないですし、彼女だって勝手に話されたりしたら嫌だと思いますが」
シャツのボタンを留めながら告げると、先輩方の殺気が背後でメラッと燃え上がったように感じて思わず体が震えた。
あえて振り向かずロッカーの方ばかり見ていたが、今は振り向けない。先輩達が般若のような顔をしているのが分かるからだ。
「おい、『彼女』って言ったよこいつ。マネージャーのこと『彼女』って!」
「いや、彼女だから仕方ないだろ。落ち着けよ、コガ。黒子め呪ってやる」
「お前が落ち着け日向、本音が漏れてる」
先程から僕に無理矢理聞こうとしているのは小金井先輩と日向先輩だ。伊月先輩もいるが二人をなだめる役に回っている。
彼がいなかったら『全部聞くまで帰さねぇからな!』ぐらいは言われていたと思う。
しかし、このまま黙秘権を行使したまま穏便に帰してくれるとは思えなかった。
脳裏に、彼女の笑顔が過ぎった。笑うとふわふわして、可愛い。優しくて、僕にはもったいないぐらい、素敵な人だ。
…目を数秒だけ閉じて出た決断は1つの案。
先輩たちのヒートアップした声をBGMに僕はキッチリと制服を着終えた後、僕は『1つだけなら、質問受け付けます』と静かに言った。
ピタリ、と、急に動きをとめて日向先輩と小金井先輩はこそこそと話し合いをした。
そして、くるりと僕の方を向いて小金井先輩がわざとらしい咳払いをした。
「…キスはした?」
「まだしていません」
しばらくの沈黙、その中で、空腹に耐えかねたのか持ってきた総菜パンをもぐもぐと食べ続ける火神くんがだけがいつも通りだった。
詰め寄ってくる先輩以外にも、他の部員も聞き耳を立てていたり、興味津々にこちらに注目している様子だ。
先輩達の顔を見渡せば、口を開けて驚愕の表情。
顔に、『嘘だろ…!?』って書いてあるみたいだ。
はい、もちろん嘘です。キスはしました。
質問は受け付けるとは言ったものの、真実を伝えるとは言ってませんから。
申し訳ないですが、やはり、彼女の知らぬところで誰かに話したりすることはできません。
いや、それ以上に僕が――話したくない、だけなのかもしれない。
いつから自分がこんなに嫌な奴になったのだろう。いつから、こんなに独占したくなってしまったんだ。
心の中が熱くなって呆けている僕に、小金井先輩はさらに質問してきた。質問は1つだけだと言ったはずなのに。
「…じゃ、じゃあそれ以上は!?」
「落ち着けってコガ!キスがまだならそれ以上してるわきゃないだろ!」
「つーかキスもしてないとか嘘に決まってんだろしてないわけないだろぉぉ」
「泣くな…男の嫉妬は醜いぞ。いいなぁ黒子死ねばいいのに」
「だから、お前が落ち着け日向、本音がだだ漏れだ」
今にも暴れ出しそうな先輩二人を伊月先輩の絶妙なツッコミで押さえる。この3人が並ぶといい漫才ができるかもしれないなと思った。
ここに木吉先輩がいたら、日向先輩がツッコミ役に回ってボケ役になれないなと、そんなことまで考えてしまった。
が、着替え終わったし既に7時も回っているのでいつまでもここにいるわけにはいかない。
じゃあ僕はこれで、と言うが早く、ミスディレクションを再び応用して僕は部室を出た。
彼らが気づいた頃には僕は既にそこにはいない。部室を出て3歩、歩いたところで背後から「く、黒子ォォォ…!」という断末魔のような叫びが聞こえてきた。僕は聞こえないフリをして校門に向かって歩き続けた。
□ □ □
その後、二人はバッタリと駅前で出会った。
嬉しい偶然に胸の中が暖かくなり、安堵する。
互いに今日あったことを話せば、顔を見合わせて思わず笑みが零れる。
同じ時間、違う場所で似たような事態が起きていたなんて。
まるで尋問だったこと、本当のことは教えずに上手くはぐらかしてきたことも、同じだった。
「この距離感も、僕だけが知っていればそれでいいです」
物静かな声色は秋の夜空に吸い込まれていくみたいだ。
少年の影が寄り添い、二人の手の影が重なったのを知るのは、ただ秋の満月だけ。