黒子くんと大学生マネージャー
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Love Letter from...
――6月初旬、今日も大きな掛け声とホイッスルが体育館に響き渡っていた。見に来る度に動きがよくなり技が磨かれていく部員のみんなに感心しちゃうなァと、しみじみ見学しながら思う。臨時マネージャーを卒業してからも、私は月に一度ぐらいは誠凛バスケ部に来ていた。もう正式なマネージャーが数人働いてる中で、自分が出来ることは特にない。純粋に見学をさせてもらって、休憩時間に差し入れを渡しながら皆に挨拶し、あまり練習の邪魔をしないように気を付けている。…と言っても、話してるとついつい楽しくて顔が緩んでしまうのだが。それに、リコちゃんは来る度に喜んでくれるので、本当に可愛い妹が出来た気分だ。マネージャーじゃなくスペシャルサポーターやりませんか?って勧誘されてしまった。
そういえば、去年臨時マネージャーを務めていた時に、部室に私が借りていたロッカーがありそのままになっていると聞いた。忘れ物をした記憶はないのだが、『中にメモ帳が残されたままだったので、一応確認して欲しい』とテツヤくんから頼まれていたのを思い出す。部活終わりは皆がバタバタと着替えに来るだろうから、その前に――と、私は見学途中で部室に向かうことにした。サッと確認してまた体育館に戻ればいい。誰もいない部室で当時使っていたロッカーを開けると、ハラリ――と封筒が飛び出してきた。それは音もなくひらひらと舞った後、静かに床に滑り落ちた。隙間に挟まっていたのだろうか?ロッカーの中を見ると、そこにはメモ帳らしきものも見当たらなかった。
拾ってみたら、封筒は糊付けさてないままだった。妙に胸が高鳴って封筒の中身を確認したら、一枚の手紙が入っている。メールひとつで連絡が済んでしまうこの時代に、手紙とは珍しい。勝手に見てはいけないと思いつつも、確かに自分のロッカーに入っていたのだから、……わたし宛?だろうか。何となく、周囲を見渡してから中身を開く。真っ白い便箋は清潔感があり、そこには細く丁寧な字で一枚にびっしりと書かれていた。
私のロッカーに入っていたのは、テツヤくんからの『手紙』だった。
□ □ □
拝啓 梅雨明けが待ち遠しい今日この頃、如何お過ごしでしょうか。
僕が琴音さんに想いを伝えて、お付き合いをはじめてから一年が経ちました。
前々から、記念日に何かしたいと考えていたのですが、結局、平凡な手紙のみになってしまいました。
お付き合いをはじめてから、改めて琴音さんに伝えたいことを手紙に綴りたいと思います。
マネージャーとして挨拶に来たあの日、僕から真っ直ぐ目を逸らさなかった事を覚えています。もともと影の薄い僕ですから、誰にも気づかれなかったりすることもしばしばなので、あなたの反応にとても驚きました。
日々、過ごしていくうちにその優しくて穏やかな性格、生まれながらの素直さがいい意味で年上という距離感を感じさせませんでした。照れたように笑う顔がとても可愛らしいことも、既に僕以外のみんなにも知られてしまいましたね。でも、そのことに真っ先に気づいたのは僕が一番先だと思います。
琴音さんが僕を見失わないように、僕も琴音さんを見逃さなかったから。気づいたらいつも目で追っていましたが、あれはお互い様だったんでしょうか。出会ってすぐのあの頃は、よく目が合いましたね。
幼い頃に出会っていたことを思い出した時、もちろん驚きましたがどこか妙に納得していました。一方的ではありますが、琴音さんとの再会には運命的なものを感じました。
僕の初恋があなたで、僕は二度、同じ人に恋をしたんだと、縁を辿って巡り会えばもう一度同じ人を好きになるのだと、心の中で反芻する度にあたたかい気持ちになりました。
忘れていたとしても不思議でないぐらい些細な思い出ですが、僕から告げる前に思い出してくれた事、本当に嬉しかったです。
女性とお付き合いするのは初めてでしたが、全部の初めてが琴音さんとで本当によかったと心から思います。
手を繋ぐ度にお互いの気持ちが流れてくるみたいに、琴音さんが隣に居るだけで愛おしい気持ちが溢れてきます。
いつも支えてくれて、ありがとうございます。僕もあなたをちゃんと支えられるぐらい強い男になってみせますので、待っていて下さい。
大好きな琴音さんに、これからも沢山の幸せが訪れることを願っています。そして、僕もあなたにとっての“幸せの一部”になれますように。来年も再来年も今日という日が記念日になるように、恋人としてこれからもよろしくお願いします。
敬具
XX年 六月
黒子テツヤ
□ □ □
頬に一筋涙が伝って、手紙に落ちてしまい丸い染みを作った。
付き合いはじめて一年、まさかこんなサプライズがあるなんて。ちゃんと“今日”だって覚えててくれたんだ。この時期は、夏のインターハイ予選に向けてみんなの練習はさらにハードになっていたし、もしテツヤくんが記念日を覚えていたとしても何かしてもらうわけにもいかないなぁと思っていた。覚えててくれたら嬉しいな、ぐらいの気持ちだったのだが、彼はそれ以上のサプライズをしてきてくれた。
「手紙」にはテツヤくんらしさが出ていて、素敵な言葉の数々が並んでいた。字のひとつひとつが丁寧に細く、でもしっかりとした字体は彼を彷彿とさせた。
二人の思い出が頭の中を駆け巡って、目の奥が熱くなり自然と涙が流れた。彼にまつわる全部が愛おしくて大切な思い出。何ひとつ忘れたりなんかしない。何もかもをずっと抱えて過ごしていきたいほど。
出会いの春も、告白してくれた梅雨の時期も、
付き合いはじめた夏も、合宿の思い出も、
二人で見た花火も――幼い頃に出会ったあの日も、全部、全部――
ガチャリ、と背後で音がして私は思わず肩を震わせた。慌てて涙を拭って振り返るとそこには、手紙を書いた人物がいた。タイミングを見計らったかのような登場に、私は目を見開いた。
全てを悟ったかのように口角を少し上げて柔らかく微笑む彼に、私は手紙を持ったまま近づいていく。
「サプライズ、成功しましたか?」
頷きながらテツヤくんの胸に飛び込むと、彼は私の肩をやんわりと押して引き離そうとする。
「……練習終わったばかりで汗くさいですよ、僕」
「平気だよ」
ぐすっと鼻をすすって、私は涙を零しながら頬を彼の心臓に寄せた。規則正しいリズムを刻む音が、少しだけ速くなるのが分かった。
「…琴音さん、涙が」
「だって嬉しくて」
私の涙を指で拭ってから、テツヤくんは私をそっと抱きしめた。私も両手を彼の背中に回す。あたたかいを通り越して、身体も心も熱い。本当は、感動のあまり声を上げて嬉し泣きしてしまいたいぐらいなんだ。わずかな自制心で何とか子供のような泣き方を堪えている状態で、それを知ってか知らずかテツヤくんは私の背中を優しくさするので、何とか落ち着いてきた。優しい手、テツヤくんにしか使えない魔法みたいだ。ギュッとしただけでこんなに満たされてしまって、いいんだろうか。一年経っても抱きしめられる度に変わりなくドキドキする。ただ嬉しくて、愛しい。会えなければ恋しい気持ちが募る。倦怠期もマンネリも知らずにここまで付き合って来れたのは、きっとテツヤくんだからだ。彼でなければ、同じようにはいかなかっただろう。
テツヤくんが素直な気持ちを手紙に綴ってくれたのだから、私もちゃんと返したい。伝えたい想いが頭を駆けめぐる。口にしたらとても長くなってしまうような、単調になってしまうような気がして言葉を選んでしまう。
――ちゃんと、一番伝えたいことを伝えよう。シンプルに真っ直ぐに。
「“幸せの一部”じゃないよ。私の幸せの中に、テツヤくんは沢山いるんだから」
彼の胸に寄せていた顔を上げると、目の前にテツヤくんの顔。水色の髪。アクアブルーの瞳。海の中を泳いでるみたい。彼は嬉しそうに頷いて笑った。何回も見てきたはずのその表情に、ときめいてしまう。胸が高鳴ると同時に自然と目を閉じる。きっとあたたかなキスが降りてくるだろう。柔らかな唇が触れて、離れてまた目が合ったらこう告げよう。
――『来年もその次もずっと、これからもよろしくね』
――6月初旬、今日も大きな掛け声とホイッスルが体育館に響き渡っていた。見に来る度に動きがよくなり技が磨かれていく部員のみんなに感心しちゃうなァと、しみじみ見学しながら思う。臨時マネージャーを卒業してからも、私は月に一度ぐらいは誠凛バスケ部に来ていた。もう正式なマネージャーが数人働いてる中で、自分が出来ることは特にない。純粋に見学をさせてもらって、休憩時間に差し入れを渡しながら皆に挨拶し、あまり練習の邪魔をしないように気を付けている。…と言っても、話してるとついつい楽しくて顔が緩んでしまうのだが。それに、リコちゃんは来る度に喜んでくれるので、本当に可愛い妹が出来た気分だ。マネージャーじゃなくスペシャルサポーターやりませんか?って勧誘されてしまった。
そういえば、去年臨時マネージャーを務めていた時に、部室に私が借りていたロッカーがありそのままになっていると聞いた。忘れ物をした記憶はないのだが、『中にメモ帳が残されたままだったので、一応確認して欲しい』とテツヤくんから頼まれていたのを思い出す。部活終わりは皆がバタバタと着替えに来るだろうから、その前に――と、私は見学途中で部室に向かうことにした。サッと確認してまた体育館に戻ればいい。誰もいない部室で当時使っていたロッカーを開けると、ハラリ――と封筒が飛び出してきた。それは音もなくひらひらと舞った後、静かに床に滑り落ちた。隙間に挟まっていたのだろうか?ロッカーの中を見ると、そこにはメモ帳らしきものも見当たらなかった。
拾ってみたら、封筒は糊付けさてないままだった。妙に胸が高鳴って封筒の中身を確認したら、一枚の手紙が入っている。メールひとつで連絡が済んでしまうこの時代に、手紙とは珍しい。勝手に見てはいけないと思いつつも、確かに自分のロッカーに入っていたのだから、……わたし宛?だろうか。何となく、周囲を見渡してから中身を開く。真っ白い便箋は清潔感があり、そこには細く丁寧な字で一枚にびっしりと書かれていた。
私のロッカーに入っていたのは、テツヤくんからの『手紙』だった。
□ □ □
拝啓 梅雨明けが待ち遠しい今日この頃、如何お過ごしでしょうか。
僕が琴音さんに想いを伝えて、お付き合いをはじめてから一年が経ちました。
前々から、記念日に何かしたいと考えていたのですが、結局、平凡な手紙のみになってしまいました。
お付き合いをはじめてから、改めて琴音さんに伝えたいことを手紙に綴りたいと思います。
マネージャーとして挨拶に来たあの日、僕から真っ直ぐ目を逸らさなかった事を覚えています。もともと影の薄い僕ですから、誰にも気づかれなかったりすることもしばしばなので、あなたの反応にとても驚きました。
日々、過ごしていくうちにその優しくて穏やかな性格、生まれながらの素直さがいい意味で年上という距離感を感じさせませんでした。照れたように笑う顔がとても可愛らしいことも、既に僕以外のみんなにも知られてしまいましたね。でも、そのことに真っ先に気づいたのは僕が一番先だと思います。
琴音さんが僕を見失わないように、僕も琴音さんを見逃さなかったから。気づいたらいつも目で追っていましたが、あれはお互い様だったんでしょうか。出会ってすぐのあの頃は、よく目が合いましたね。
幼い頃に出会っていたことを思い出した時、もちろん驚きましたがどこか妙に納得していました。一方的ではありますが、琴音さんとの再会には運命的なものを感じました。
僕の初恋があなたで、僕は二度、同じ人に恋をしたんだと、縁を辿って巡り会えばもう一度同じ人を好きになるのだと、心の中で反芻する度にあたたかい気持ちになりました。
忘れていたとしても不思議でないぐらい些細な思い出ですが、僕から告げる前に思い出してくれた事、本当に嬉しかったです。
女性とお付き合いするのは初めてでしたが、全部の初めてが琴音さんとで本当によかったと心から思います。
手を繋ぐ度にお互いの気持ちが流れてくるみたいに、琴音さんが隣に居るだけで愛おしい気持ちが溢れてきます。
いつも支えてくれて、ありがとうございます。僕もあなたをちゃんと支えられるぐらい強い男になってみせますので、待っていて下さい。
大好きな琴音さんに、これからも沢山の幸せが訪れることを願っています。そして、僕もあなたにとっての“幸せの一部”になれますように。来年も再来年も今日という日が記念日になるように、恋人としてこれからもよろしくお願いします。
敬具
XX年 六月
黒子テツヤ
□ □ □
頬に一筋涙が伝って、手紙に落ちてしまい丸い染みを作った。
付き合いはじめて一年、まさかこんなサプライズがあるなんて。ちゃんと“今日”だって覚えててくれたんだ。この時期は、夏のインターハイ予選に向けてみんなの練習はさらにハードになっていたし、もしテツヤくんが記念日を覚えていたとしても何かしてもらうわけにもいかないなぁと思っていた。覚えててくれたら嬉しいな、ぐらいの気持ちだったのだが、彼はそれ以上のサプライズをしてきてくれた。
「手紙」にはテツヤくんらしさが出ていて、素敵な言葉の数々が並んでいた。字のひとつひとつが丁寧に細く、でもしっかりとした字体は彼を彷彿とさせた。
二人の思い出が頭の中を駆け巡って、目の奥が熱くなり自然と涙が流れた。彼にまつわる全部が愛おしくて大切な思い出。何ひとつ忘れたりなんかしない。何もかもをずっと抱えて過ごしていきたいほど。
出会いの春も、告白してくれた梅雨の時期も、
付き合いはじめた夏も、合宿の思い出も、
二人で見た花火も――幼い頃に出会ったあの日も、全部、全部――
ガチャリ、と背後で音がして私は思わず肩を震わせた。慌てて涙を拭って振り返るとそこには、手紙を書いた人物がいた。タイミングを見計らったかのような登場に、私は目を見開いた。
全てを悟ったかのように口角を少し上げて柔らかく微笑む彼に、私は手紙を持ったまま近づいていく。
「サプライズ、成功しましたか?」
頷きながらテツヤくんの胸に飛び込むと、彼は私の肩をやんわりと押して引き離そうとする。
「……練習終わったばかりで汗くさいですよ、僕」
「平気だよ」
ぐすっと鼻をすすって、私は涙を零しながら頬を彼の心臓に寄せた。規則正しいリズムを刻む音が、少しだけ速くなるのが分かった。
「…琴音さん、涙が」
「だって嬉しくて」
私の涙を指で拭ってから、テツヤくんは私をそっと抱きしめた。私も両手を彼の背中に回す。あたたかいを通り越して、身体も心も熱い。本当は、感動のあまり声を上げて嬉し泣きしてしまいたいぐらいなんだ。わずかな自制心で何とか子供のような泣き方を堪えている状態で、それを知ってか知らずかテツヤくんは私の背中を優しくさするので、何とか落ち着いてきた。優しい手、テツヤくんにしか使えない魔法みたいだ。ギュッとしただけでこんなに満たされてしまって、いいんだろうか。一年経っても抱きしめられる度に変わりなくドキドキする。ただ嬉しくて、愛しい。会えなければ恋しい気持ちが募る。倦怠期もマンネリも知らずにここまで付き合って来れたのは、きっとテツヤくんだからだ。彼でなければ、同じようにはいかなかっただろう。
テツヤくんが素直な気持ちを手紙に綴ってくれたのだから、私もちゃんと返したい。伝えたい想いが頭を駆けめぐる。口にしたらとても長くなってしまうような、単調になってしまうような気がして言葉を選んでしまう。
――ちゃんと、一番伝えたいことを伝えよう。シンプルに真っ直ぐに。
「“幸せの一部”じゃないよ。私の幸せの中に、テツヤくんは沢山いるんだから」
彼の胸に寄せていた顔を上げると、目の前にテツヤくんの顔。水色の髪。アクアブルーの瞳。海の中を泳いでるみたい。彼は嬉しそうに頷いて笑った。何回も見てきたはずのその表情に、ときめいてしまう。胸が高鳴ると同時に自然と目を閉じる。きっとあたたかなキスが降りてくるだろう。柔らかな唇が触れて、離れてまた目が合ったらこう告げよう。
――『来年もその次もずっと、これからもよろしくね』