黒子くんと大学生マネージャー
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
月の引力
星の数だけ出会いがあるという。
出会いは彗星のよう通り過ぎるものならば、本来なら瞬きすら許されない。
その中で一等輝く星を掴める確率は、どれ程なのか。唯一人、自分の運命の人と出会う確率や如何に。
『僕は琴音さんが好きです』
――と、告白されたその日の夜、私は寝床についても寝返りを打つばかりでまったく眠れなかった。
ひどい生理痛で倒れ、保健室へ運ばれ、そして体調がよくなった頃に保健室まで迎えに来てくれた黒子くんに告白された。
全中の試合を見たときから彼のことが忘れられず、そしてひょんなことから臨時マネージャーを務め、関わりを持つようになってからすぐに好きになったのは私の方だというのに、告白してきたのは黒子くんの方からだった。
予想していなかったものの、私は嬉しくて泣きそうになりながらもしっかりと頷いて、私と黒子くんは晴れてお付き合いをすることになった。
…そう、数時間前から。
告白のシーンを何度も思い出しては恥ずかしさが込み上げ、ぞもぞと布団の中で落ち着かない。
未だに夢を見ているような感覚だ。信じられない。
好きになってくれてありがとうの気持ちでいっぱいだが、私のどこがよくて好きになってくれたのかわからない。
昨日からのことは、実は夢だったんだよ言われたほうがやたら現実味がある気がする。試しに頬をつねったらやはり痛かった。
しかし、このまま眠ってしまって起きたらやっぱり夢でしたってオチが待っているんじゃないか――と思ったとき、携帯が鳴る。
伝わって思いのほか大きな音を立てたので私はその音に驚き肩をビクリとさせた。
メールが1通、届いた。
『明日は部活には来ますか?早く会いたいです』
黒子くんからのメールだった。その一瞬で、これが夢でないと解ると顔が途端に熱くなった。
ちょっとした雑談や、部活のことについての連絡程度のことは今までメールをしたことがあるが、今までしてきたそれを明らかに違う一文がそこに載っていたからだ。
――“早く会いたいです”――
幸せが溢れて、私はしばらく携帯画面を呆然と見つめていた。黒子くんはおとなしく穏やかな性格だが、正直で、伝えたいことは真っ直ぐに伝えてくる。少しも臆することもないそんな彼が、羨ましくも思ったし、ストレートなその言葉は私を喜ばせた。
反面、例え難い不安も襲う。自分も同じぐらいの気持ちをうまく言葉にしたり、返したりできるだろうか。
返信を打とうと携帯に触れた指がなかなか動かない。すると携帯が再び鳴り出した。今度はメールでなく着信だった。
画面には『黒子テツヤ』という表示がチカチカと光っている。慌てて電話に出ると耳の奥でやわらかく響く、透明感のある声が聴こえた。
「夜分遅くにすいません。どうしても声が聴きたくなってしまいました。起こしてしまいましたか?」
元々か細い声がさらにか細くなるかのように、黒子くんは本当に申し訳なさそうに告げてきた。
「大丈夫、まだ起きてたから。ちょうどメールの返事をするところだったんだ」
誰が見てるわけでもないのに、私は布団の上に正座で座りなおして姿勢を正した。
黒子くんは安心したように、電話の向こう側で息をついた。相手が黒子くんならば、電話で起こされたとしてもまったく怒らないのになぁ。
「返信し難いような内容を送ってしまったので、琴音さんが困っている顔が浮かびました」
「そんなことないよ。とっても嬉しいよ」
「そうですか、…それならよかったです」
それから彼は、私の体調のことを心配してくれたり、明日部活に来ますかと聞いてくれたりした。
また近いうちにMAJIバーガーに寄ろうという話もした。新作のシェイクが思っていた以上に美味しくて黒子くんはハマっているみたいだ。
一通り話し終えて少しの沈黙が続いた後、黒子くんは相変わらず落ちついた声で私の名前を呼んだ。
「琴音さん」
一言、喉からふと漏れたような、呟くような声。なあに?と返事をすると、彼は少しだけ笑った。
少しの沈黙が心地よい。お互いの鼓動が電話から伝わったのなら、きっと同じゆっくりとしたリズムなんだろうと思った。
「お付き合いする事が…夢なんじゃないかと思ったら、琴音さんの声が聴きたくなりました」
電話越しのせいで少しくぐもった黒子くんの声が私の鼓膜に響いた。言われたことの意味を瞬時理解すると同時に、私はしばらく瞬きを忘れた。
同じ時間に全く同じことで不安になっていたなんて、気持ちがシンクロしていたんだ。
私も同じことを思っていたよ、と伝えると、またお互いしばらく沈黙してしまった。姿は見えないけれど、二人とも赤面しているのをその無言の間でお互い悟った。声を聴いて安堵したのは黒子くんの方だけじゃない。私もまた心から安心していた。
夢じゃない。
明日からどんな顔をして会おうか。いつも通りに接することは出来るだろうか。
とりあえず、他のみんなにはナイショにしておくべきだろう。部員を通じてうっかり顧問の先生――というか、私のおじいちゃん、に話が伝わってしまっても何となく気まずいし…。喜びや気恥ずかしさでいっぱいだけど、顔にも態度にもでないようにしなければ。誰にも気づかれないように。
おやすみなさい、を告げた後、私は少しだけ窓から月を眺めてから眠りについた。
やたらと明るく輝いて夜空を照らす月。満ち欠けからして明日は満月になるだろう。
□ □ □
「誠凛―――ファイッ!」
「「「オー!!」」」
翌日も、大学の授業を終えて部活に顔を出すと体育館からみんなの元気な声が聞こえてきた。
私は体育館シューズに履き替えると、リコちゃんに挨拶して、今日の練習について教えてもらってから自分の仕事に移ることにした。
ゴールを正面に列を作って、ドリブルからのレイアップシュートを掛け声と共にテンポよくこなしていく部員たちを横目で見つつ、私は体育館を後にした。横目で見たのは一瞬だったのに、列で待機している黒子くんと目が合い、私は慌てて顔を逸らした。
な、なんか恥ずかしい…!
これまでは目があえば笑って手をヒラヒラ振るぐらいは余裕があったはずだ。
今までどうして普通に接していたのか思い出せない。うーん、うーん、と唸ってドリンクを作りながら考えていたが、思い出せたところであまり意味はないのかもしれない。考えれば考えるほど余計に思い出せないと分かり、その後は徹底的に仕事に専念した。
タオルの洗濯、ドリンク作りに、備品のチェック、時間がある時にしか作らないレモンのはちみつ漬けを作ってみたり。
集中して黙々とこなしていたせいで部活が終わる時間はまだだいぶ先だった。
体育館には黒子くんがいる、と思いつつも部室や部室外でこなす仕事はもう終わってしまったので、あとはドリンクを持って体育館に戻るしかなかった。
体育館の入り口で、リコちゃんは私を見るなり「ナイスタイミング!」と言って駆け足で近づいてホイッスルを渡してきた。
渡した、といっても私はカゴにドリンクを入れて運んでいたので、正しくはホイッスルの紐を首にかけられたのだけど。
突然のことにポカンとしていると、リコちゃんは早口に説明を始めた。
「ちょうど生徒会の用事で呼び出されちゃったとこなんです。これからミニゲームだから審判よろしくですっ」
そう告げて駆け足で体育館を後にしたリコちゃんはあっという間に校舎に入って見えてなくなった。
バスケ部の監督もしつつ、生徒会の仕事もこなしているなんて、リコちゃんは毎日忙しそうだなぁと、彼女の後ろ姿を見送りながら悠長にぼんやりしていてすぐ気づかなかったが…今、私は審判を頼まれなかった?いや、頼まれたよね。
自分の首からはホイッスルがかけられていて、私はようやくその意味を理解した。
…しんぱん……しんぱん…審判!?
おどおどしながら体育館に入ると、待ってました、とばかりに部員達の視線が私に一斉に集まった。
リコちゃんから、「琴音さんが審判やるから」と知らされていたんだろう。みんなは座って休んだりストレッチをしたりしていたので、とりあえず持っているドリンクを配った。
「おつかれさま」
「おー、あんがとマネージャー!」
小金井くんはニッコリ笑顔でそれを受け取ってくれた。彼はいつもニコニコしていて見ているこっちも元気がでるなぁ。
私は、一人一人に渡すときに私は必ず「おつかれさま」と言う。ハードな練習を頑張っているみんなを見ていると言わずにはいられなくなる。
他の学校のバスケ部はどうなんだろう。こんなにハードな練習を毎日しているんだろうか。見たことがないからわからないけれど、リコちゃんに徹底して組まれた練習メニュー、誠凛の練習はハードでないはずがない。
順番にドリンクを配っていくときにやはり黒子くんのところで私の表情は固まる。
おつかれさま、と目を合わせて私けれど、自分の口元がやや引きつっているのが自分でも分かった。
「ありがとうございます」
黒子くんが、小さく笑った。その瞬間に顔に熱が昇っていく感じがわかった。このまま1秒でも長く見ていたら顔が赤くなって誰かに悟られてしまう。私はすぐさま目を逸らしてまだドリンクを渡していない部員の元へ駆け寄った。
今のはまるで避けているみたいに不自然だっただろうか。
むしろ、黒子くんが今まで通りすぎて驚いた。ポーカーフェイスが得意だからいつも通りだったのか、それは分からないけれど。
このまま部活中に話している最中でも私が彼を直視できないとなると、二人の関係を気づかれてしまうかもしれない。
いつも通りに、いつも通りに、と心の中で反芻して私は深呼吸をした。
「マネージャー、審判やったことあります?」
日向くんにドリンクを渡した時に、ふとそんなことを聞かれて私は首を横に振った。
バスケの試合は何度も見ているしルールも知っているが、審判をやるのは生まれて初めてだ。もちろん、自信がない。
なんとなく、私が審判未経験なのを気づいていたようで、日向くんは審判のポイントをいくつか教えてくれた。
「――と、まぁ気ぃ張らずに落ち着いてやってもらえれば大丈夫なんで」
「ありがとう日向くん。すごくわかりやすい説明だったよ。…はぁ、緊張する。うまくできるかなぁ」
「大丈夫。いつもオレらのこと見てくれてるじゃないスか。自信もって下さいよ」
それから少しだけ雑談をして日向くんと笑っていると、それを見た小金井くんが話に混ざってきた。
その会話の中で新たなダジャレを思いついては連発する伊月くんに私は苦笑した。
日向くんと話し始めた時から感じていた視線…多分、黒子くんの視線だろう。しかし私は気恥ずかしさ故に黒子くんの方を見れない。
見てしまえばまた動揺してしまうから。しかも、他の部員たちが見えている前であからさまに慌てるなんて出来ない。
黒子くん、ごめんね…!
心の中で謝罪を叫びつつ、視線に気づいてないフリをして私はスコアボードの方へ歩いていった。
しかし、心の片隅でもやもやと消化しきれない感情が泳いでいた。
他の人にはいつも通り接することができるのに、黒子くんだけには無理みたい。だって、告白されたのは昨日だ。
小さくドキドキと波打つ鼓動は止みもせず、黒子くんへの気持ちを意識せずにはいられなかった。
「全員集合ー!」
日向くんの掛け声で休憩を終えて集まる部員たち。
間もなくミニゲームがはじまる。真剣に取り組まなくてはと気合いを入れ直した。
……よし、がんばるぞ!
□ □ □
繁華街を抜けて、月明かりと街灯が照らす帰り道。梅雨の時期、独特の温い風が頬を撫ぜた。
つき合う前から、家が同じ方向にあるということもあり私は黒子くんと一緒に下校している。
告白をされた翌日もそれは変わりなく、私たちは並んで歩いていた。
初めての審判、上手く出来ただろうか。
ミニゲームが終わった後、日向くんや部員たちは「ちゃんと出来てた」と誉めてくれた。お世辞だったかもしれないけれど、素直に嬉しい。
とりあえず、今後はちゃんと覚えて、いつ任されてもいいように自信をつけておくのが今後の課題だ。
試合もミニゲームもそうだけど、審判の様子もちゃんと見ておかないと。
ひとまず肩の荷が下りたのも束の間、また別の緊張が私の中に走る。
以前だって並んで歩いて帰ることも、MAJIバーガーで寄り道して帰ることも普通にできたはずだ。
むしろ、私が黒子くんに片思いをしていたので、一緒にいられる時間は嬉しくてテンションが高いぐらいだった。
それが今日は、どうも上手く話せないし目が合えば逸らしてつい明後日の方向を見てしまう。
明らかに態度に出てしまい、昨夜誓った「いつも通りに」が出来ていなかったことに反省しつつも、自分でどうすることも出来なかった。
「琴音さん。あの、今日は…」
「ごめん!」
さすがに黒子くんも私の様子に気づいているみたいで、指摘されるよりも先に声を張って謝った。
「変に意識しちゃって、いつも通りに接することが出来なくて…」
「大丈夫です。気づいていましたから。でも、先輩たちと仲良さげに話しているのは少し妬けました」
あまりにもストレートすぎる言葉に私は俯いた。黒子くんて、こんなに率直に照れてしまうような台詞も言える子だったんだ。
彼氏彼女になったら、今まで知らなかったその人のいろんな面が見えてくるというが、早速だ。
これからどんどん、今まで知らない彼の一面をたくさん目の当たりにするのだろう。
いつもよりぎこちない相槌だけれど、ぽつりぽつりと会話を続けた後、いつもなら右に曲がる道で黒子くんが不意に足をとめた。
横目で彼を一瞥すると黒子くんは夜空を見上げていた。頭上には輝く満月。今日は道が明るく照らされているなと思っていた満月だということも気が付かないぐらい私は黒子くんの横でそわそわしていたんだなぁ。
「今夜は月が綺麗ですね。少し遠回りして帰りましょうか」
頷いくと、私たちは道を真っ直ぐ歩いた。黒子くんとの帰り道で、いつもと違う道を歩くのは初めてだ。
雲一つなく満月がぽっかりと顔を見せている夜の空は、梅雨時期では珍しい。雨が続く時期だが今日は1日晴天だった。
「並んで歩いて…これではいつもと変わりませんね」
うん?と首を傾げると同時に、黒子くんの方からさりげなく手を繋いできた。
低体温の彼の手は少しだけ冷たくて、逆に、私の手は温かくて、手から手へ温度が伝わっていくようだった。
あったかいですね、と黒子くんは微笑んだ。心音が手から伝わってしまうんじゃないかと思った。
「前からこんな風にちゃんと手を繋いでみたいと思ってました。ちょっと緊張しますね」
「…全然緊張してる風に見えないよ?」
「そんなことないですよ。琴音さんほどではないですが、僕だって今日はそわそわしていました」
「そうなの?」
全然わからなかった。いつも冷静沈着に見えるから。
私が驚いている様子がおかしかったのか黒子くんはまた微笑んだ。
やはり直視できなくて私はすぐに正面を向いて足下に視線を落とした。繋がれた手も顔も温かい。
夢じゃないとわかったのに、まるで夢の中にいるみたいだ。
少しずつ、普通の会話も続いて緊張が解けてきた頃になって、私は今日すごく黒子くんに気を遣わせていることに気づいた。
彼は口数が少ない方なのに、今日はよく話してくれる。
私に気遣って色々と話題を振ってくれていたのかな。無理させていただろうか。
しかしそのおかげで、いつもこうして他愛のないことを話して、笑ったりした帰り道が日常の中ですごく大事だったことを思い出した。
そうだ。この感じ。
いつもこうしてた。これからも、いつも通りでいいんだ。
気張ることもなく。だってあの日常の中でお互いを好きになれたんだから。
「黒子くん」
急に立ち止まって手をほどくと、私は彼の前に回り込んで顔を上げて見つめた。私の背には満月で逆光。
黒子くんの顔は月明かりに照らされて、水色の髪も青い瞳もキラキラと光っていた。
「いつも気遣ってくれてありがとう」
今度こそ視線を合わせて、目を見つめた。私の目は泳いでない、視線も逸らさない。
部活中も目を合わせることを避けていたので、今、やっと真正面から黒子くんの顔を見れた。
黒子くんの大きくてまん丸の瞳はすごくキレイ。その中に頬を赤らめてまだ少しぎこちない笑い方をしている自分の姿が見える。
年下の黒子くんに気を遣わせて、年上らしさが欠片もない、情けない私の姿だった。
真顔で見つめ返してくる黒子くんにたじろいだけれど、それでも目を逸らさずにいたら突然右手を引かれた。
グイッと、思ったより強いその力によろめいて私は黒子くんの胸へ倒れた。そうするために手を引っ張ったんだろう。
「きゃ!」と、よろけた時に驚いて思わず声を出してしまった。倒れてきた私の肩を抱いて黒子くんは受け止めた。
「強い引力が働きました」
「引力っていうか黒子くんが手を引っ張っただけだよね…?」
「いえ、引力ですよ」
この道を誰かが通ったら、誰かに見られたら…頭の片隅で心配をしつつも、このくっついている状況に私は抵抗することもなく、そのまま黒子くんの胸へ寄り添った。心臓がやけにうるさいなと思ったら自分の音だけじゃなかった。黒子くんの胸からもドキドキと強い鼓動が伝わってくる。
肩に添えられていた両手に少しだけ力が入る。決して抱きしめているわけではない。だけれども、このまま勢い余って黒子くんの両手が私の背中に回って抱きしめてもおかしくはない体勢だった。
「意識してドキドキしてもらえるのは嬉しいですが、目を合わせてもらえなかったり避けられるのは、その、…結構寂しいです」
「…ごめん、今後から気をつけるね」
嬉しさも寂しさも私に対しての感情だとこんなに真っ直ぐに伝えられると、さすがに思い切り照れてしまう。
一言だけ返事をするのでいっぱいいっぱいだった。頬が紅潮しているけれど、顔を黒子くんの胸にピタリとくっつけているので幸い見られていないだろう。だがこの赤い顔もしばらくは元の色には戻らなそうだ。
月も星も輝いている夜空の下で、大好きな人の心音を聞きながら私は数秒だけ、目を閉じた。
星の数だけ出会いがあるという。その中で一等輝く星を掴める確率は、どれ程なのか。
私にとっての、その「星」こそ黒子くんだと今、確信した。唯一人、私が出会うのを待ち焦がれていたのは、きっと君だったんだ。
「これからは彼氏として末永くよろしくお願いします」
「こ、…こちらこそよろしくお願いします」
見上げるとそこには照れくさそうな黒子くんの顔。あぁ、照れているのは私だけじゃなかったんだ。
末永くって…?と、私が尋ねたら、黒子くんは目を細めて何も言わずに微笑んだ。
黒子くんはまるで月だ。微笑むその顔は、月のように静かで綺麗。
逆らえない引力のように私はその月に惹きつけられていくんだろう。これまでも、これからも。
星の数だけ出会いがあるという。
出会いは彗星のよう通り過ぎるものならば、本来なら瞬きすら許されない。
その中で一等輝く星を掴める確率は、どれ程なのか。唯一人、自分の運命の人と出会う確率や如何に。
『僕は琴音さんが好きです』
――と、告白されたその日の夜、私は寝床についても寝返りを打つばかりでまったく眠れなかった。
ひどい生理痛で倒れ、保健室へ運ばれ、そして体調がよくなった頃に保健室まで迎えに来てくれた黒子くんに告白された。
全中の試合を見たときから彼のことが忘れられず、そしてひょんなことから臨時マネージャーを務め、関わりを持つようになってからすぐに好きになったのは私の方だというのに、告白してきたのは黒子くんの方からだった。
予想していなかったものの、私は嬉しくて泣きそうになりながらもしっかりと頷いて、私と黒子くんは晴れてお付き合いをすることになった。
…そう、数時間前から。
告白のシーンを何度も思い出しては恥ずかしさが込み上げ、ぞもぞと布団の中で落ち着かない。
未だに夢を見ているような感覚だ。信じられない。
好きになってくれてありがとうの気持ちでいっぱいだが、私のどこがよくて好きになってくれたのかわからない。
昨日からのことは、実は夢だったんだよ言われたほうがやたら現実味がある気がする。試しに頬をつねったらやはり痛かった。
しかし、このまま眠ってしまって起きたらやっぱり夢でしたってオチが待っているんじゃないか――と思ったとき、携帯が鳴る。
伝わって思いのほか大きな音を立てたので私はその音に驚き肩をビクリとさせた。
メールが1通、届いた。
『明日は部活には来ますか?早く会いたいです』
黒子くんからのメールだった。その一瞬で、これが夢でないと解ると顔が途端に熱くなった。
ちょっとした雑談や、部活のことについての連絡程度のことは今までメールをしたことがあるが、今までしてきたそれを明らかに違う一文がそこに載っていたからだ。
――“早く会いたいです”――
幸せが溢れて、私はしばらく携帯画面を呆然と見つめていた。黒子くんはおとなしく穏やかな性格だが、正直で、伝えたいことは真っ直ぐに伝えてくる。少しも臆することもないそんな彼が、羨ましくも思ったし、ストレートなその言葉は私を喜ばせた。
反面、例え難い不安も襲う。自分も同じぐらいの気持ちをうまく言葉にしたり、返したりできるだろうか。
返信を打とうと携帯に触れた指がなかなか動かない。すると携帯が再び鳴り出した。今度はメールでなく着信だった。
画面には『黒子テツヤ』という表示がチカチカと光っている。慌てて電話に出ると耳の奥でやわらかく響く、透明感のある声が聴こえた。
「夜分遅くにすいません。どうしても声が聴きたくなってしまいました。起こしてしまいましたか?」
元々か細い声がさらにか細くなるかのように、黒子くんは本当に申し訳なさそうに告げてきた。
「大丈夫、まだ起きてたから。ちょうどメールの返事をするところだったんだ」
誰が見てるわけでもないのに、私は布団の上に正座で座りなおして姿勢を正した。
黒子くんは安心したように、電話の向こう側で息をついた。相手が黒子くんならば、電話で起こされたとしてもまったく怒らないのになぁ。
「返信し難いような内容を送ってしまったので、琴音さんが困っている顔が浮かびました」
「そんなことないよ。とっても嬉しいよ」
「そうですか、…それならよかったです」
それから彼は、私の体調のことを心配してくれたり、明日部活に来ますかと聞いてくれたりした。
また近いうちにMAJIバーガーに寄ろうという話もした。新作のシェイクが思っていた以上に美味しくて黒子くんはハマっているみたいだ。
一通り話し終えて少しの沈黙が続いた後、黒子くんは相変わらず落ちついた声で私の名前を呼んだ。
「琴音さん」
一言、喉からふと漏れたような、呟くような声。なあに?と返事をすると、彼は少しだけ笑った。
少しの沈黙が心地よい。お互いの鼓動が電話から伝わったのなら、きっと同じゆっくりとしたリズムなんだろうと思った。
「お付き合いする事が…夢なんじゃないかと思ったら、琴音さんの声が聴きたくなりました」
電話越しのせいで少しくぐもった黒子くんの声が私の鼓膜に響いた。言われたことの意味を瞬時理解すると同時に、私はしばらく瞬きを忘れた。
同じ時間に全く同じことで不安になっていたなんて、気持ちがシンクロしていたんだ。
私も同じことを思っていたよ、と伝えると、またお互いしばらく沈黙してしまった。姿は見えないけれど、二人とも赤面しているのをその無言の間でお互い悟った。声を聴いて安堵したのは黒子くんの方だけじゃない。私もまた心から安心していた。
夢じゃない。
明日からどんな顔をして会おうか。いつも通りに接することは出来るだろうか。
とりあえず、他のみんなにはナイショにしておくべきだろう。部員を通じてうっかり顧問の先生――というか、私のおじいちゃん、に話が伝わってしまっても何となく気まずいし…。喜びや気恥ずかしさでいっぱいだけど、顔にも態度にもでないようにしなければ。誰にも気づかれないように。
おやすみなさい、を告げた後、私は少しだけ窓から月を眺めてから眠りについた。
やたらと明るく輝いて夜空を照らす月。満ち欠けからして明日は満月になるだろう。
□ □ □
「誠凛―――ファイッ!」
「「「オー!!」」」
翌日も、大学の授業を終えて部活に顔を出すと体育館からみんなの元気な声が聞こえてきた。
私は体育館シューズに履き替えると、リコちゃんに挨拶して、今日の練習について教えてもらってから自分の仕事に移ることにした。
ゴールを正面に列を作って、ドリブルからのレイアップシュートを掛け声と共にテンポよくこなしていく部員たちを横目で見つつ、私は体育館を後にした。横目で見たのは一瞬だったのに、列で待機している黒子くんと目が合い、私は慌てて顔を逸らした。
な、なんか恥ずかしい…!
これまでは目があえば笑って手をヒラヒラ振るぐらいは余裕があったはずだ。
今までどうして普通に接していたのか思い出せない。うーん、うーん、と唸ってドリンクを作りながら考えていたが、思い出せたところであまり意味はないのかもしれない。考えれば考えるほど余計に思い出せないと分かり、その後は徹底的に仕事に専念した。
タオルの洗濯、ドリンク作りに、備品のチェック、時間がある時にしか作らないレモンのはちみつ漬けを作ってみたり。
集中して黙々とこなしていたせいで部活が終わる時間はまだだいぶ先だった。
体育館には黒子くんがいる、と思いつつも部室や部室外でこなす仕事はもう終わってしまったので、あとはドリンクを持って体育館に戻るしかなかった。
体育館の入り口で、リコちゃんは私を見るなり「ナイスタイミング!」と言って駆け足で近づいてホイッスルを渡してきた。
渡した、といっても私はカゴにドリンクを入れて運んでいたので、正しくはホイッスルの紐を首にかけられたのだけど。
突然のことにポカンとしていると、リコちゃんは早口に説明を始めた。
「ちょうど生徒会の用事で呼び出されちゃったとこなんです。これからミニゲームだから審判よろしくですっ」
そう告げて駆け足で体育館を後にしたリコちゃんはあっという間に校舎に入って見えてなくなった。
バスケ部の監督もしつつ、生徒会の仕事もこなしているなんて、リコちゃんは毎日忙しそうだなぁと、彼女の後ろ姿を見送りながら悠長にぼんやりしていてすぐ気づかなかったが…今、私は審判を頼まれなかった?いや、頼まれたよね。
自分の首からはホイッスルがかけられていて、私はようやくその意味を理解した。
…しんぱん……しんぱん…審判!?
おどおどしながら体育館に入ると、待ってました、とばかりに部員達の視線が私に一斉に集まった。
リコちゃんから、「琴音さんが審判やるから」と知らされていたんだろう。みんなは座って休んだりストレッチをしたりしていたので、とりあえず持っているドリンクを配った。
「おつかれさま」
「おー、あんがとマネージャー!」
小金井くんはニッコリ笑顔でそれを受け取ってくれた。彼はいつもニコニコしていて見ているこっちも元気がでるなぁ。
私は、一人一人に渡すときに私は必ず「おつかれさま」と言う。ハードな練習を頑張っているみんなを見ていると言わずにはいられなくなる。
他の学校のバスケ部はどうなんだろう。こんなにハードな練習を毎日しているんだろうか。見たことがないからわからないけれど、リコちゃんに徹底して組まれた練習メニュー、誠凛の練習はハードでないはずがない。
順番にドリンクを配っていくときにやはり黒子くんのところで私の表情は固まる。
おつかれさま、と目を合わせて私けれど、自分の口元がやや引きつっているのが自分でも分かった。
「ありがとうございます」
黒子くんが、小さく笑った。その瞬間に顔に熱が昇っていく感じがわかった。このまま1秒でも長く見ていたら顔が赤くなって誰かに悟られてしまう。私はすぐさま目を逸らしてまだドリンクを渡していない部員の元へ駆け寄った。
今のはまるで避けているみたいに不自然だっただろうか。
むしろ、黒子くんが今まで通りすぎて驚いた。ポーカーフェイスが得意だからいつも通りだったのか、それは分からないけれど。
このまま部活中に話している最中でも私が彼を直視できないとなると、二人の関係を気づかれてしまうかもしれない。
いつも通りに、いつも通りに、と心の中で反芻して私は深呼吸をした。
「マネージャー、審判やったことあります?」
日向くんにドリンクを渡した時に、ふとそんなことを聞かれて私は首を横に振った。
バスケの試合は何度も見ているしルールも知っているが、審判をやるのは生まれて初めてだ。もちろん、自信がない。
なんとなく、私が審判未経験なのを気づいていたようで、日向くんは審判のポイントをいくつか教えてくれた。
「――と、まぁ気ぃ張らずに落ち着いてやってもらえれば大丈夫なんで」
「ありがとう日向くん。すごくわかりやすい説明だったよ。…はぁ、緊張する。うまくできるかなぁ」
「大丈夫。いつもオレらのこと見てくれてるじゃないスか。自信もって下さいよ」
それから少しだけ雑談をして日向くんと笑っていると、それを見た小金井くんが話に混ざってきた。
その会話の中で新たなダジャレを思いついては連発する伊月くんに私は苦笑した。
日向くんと話し始めた時から感じていた視線…多分、黒子くんの視線だろう。しかし私は気恥ずかしさ故に黒子くんの方を見れない。
見てしまえばまた動揺してしまうから。しかも、他の部員たちが見えている前であからさまに慌てるなんて出来ない。
黒子くん、ごめんね…!
心の中で謝罪を叫びつつ、視線に気づいてないフリをして私はスコアボードの方へ歩いていった。
しかし、心の片隅でもやもやと消化しきれない感情が泳いでいた。
他の人にはいつも通り接することができるのに、黒子くんだけには無理みたい。だって、告白されたのは昨日だ。
小さくドキドキと波打つ鼓動は止みもせず、黒子くんへの気持ちを意識せずにはいられなかった。
「全員集合ー!」
日向くんの掛け声で休憩を終えて集まる部員たち。
間もなくミニゲームがはじまる。真剣に取り組まなくてはと気合いを入れ直した。
……よし、がんばるぞ!
□ □ □
繁華街を抜けて、月明かりと街灯が照らす帰り道。梅雨の時期、独特の温い風が頬を撫ぜた。
つき合う前から、家が同じ方向にあるということもあり私は黒子くんと一緒に下校している。
告白をされた翌日もそれは変わりなく、私たちは並んで歩いていた。
初めての審判、上手く出来ただろうか。
ミニゲームが終わった後、日向くんや部員たちは「ちゃんと出来てた」と誉めてくれた。お世辞だったかもしれないけれど、素直に嬉しい。
とりあえず、今後はちゃんと覚えて、いつ任されてもいいように自信をつけておくのが今後の課題だ。
試合もミニゲームもそうだけど、審判の様子もちゃんと見ておかないと。
ひとまず肩の荷が下りたのも束の間、また別の緊張が私の中に走る。
以前だって並んで歩いて帰ることも、MAJIバーガーで寄り道して帰ることも普通にできたはずだ。
むしろ、私が黒子くんに片思いをしていたので、一緒にいられる時間は嬉しくてテンションが高いぐらいだった。
それが今日は、どうも上手く話せないし目が合えば逸らしてつい明後日の方向を見てしまう。
明らかに態度に出てしまい、昨夜誓った「いつも通りに」が出来ていなかったことに反省しつつも、自分でどうすることも出来なかった。
「琴音さん。あの、今日は…」
「ごめん!」
さすがに黒子くんも私の様子に気づいているみたいで、指摘されるよりも先に声を張って謝った。
「変に意識しちゃって、いつも通りに接することが出来なくて…」
「大丈夫です。気づいていましたから。でも、先輩たちと仲良さげに話しているのは少し妬けました」
あまりにもストレートすぎる言葉に私は俯いた。黒子くんて、こんなに率直に照れてしまうような台詞も言える子だったんだ。
彼氏彼女になったら、今まで知らなかったその人のいろんな面が見えてくるというが、早速だ。
これからどんどん、今まで知らない彼の一面をたくさん目の当たりにするのだろう。
いつもよりぎこちない相槌だけれど、ぽつりぽつりと会話を続けた後、いつもなら右に曲がる道で黒子くんが不意に足をとめた。
横目で彼を一瞥すると黒子くんは夜空を見上げていた。頭上には輝く満月。今日は道が明るく照らされているなと思っていた満月だということも気が付かないぐらい私は黒子くんの横でそわそわしていたんだなぁ。
「今夜は月が綺麗ですね。少し遠回りして帰りましょうか」
頷いくと、私たちは道を真っ直ぐ歩いた。黒子くんとの帰り道で、いつもと違う道を歩くのは初めてだ。
雲一つなく満月がぽっかりと顔を見せている夜の空は、梅雨時期では珍しい。雨が続く時期だが今日は1日晴天だった。
「並んで歩いて…これではいつもと変わりませんね」
うん?と首を傾げると同時に、黒子くんの方からさりげなく手を繋いできた。
低体温の彼の手は少しだけ冷たくて、逆に、私の手は温かくて、手から手へ温度が伝わっていくようだった。
あったかいですね、と黒子くんは微笑んだ。心音が手から伝わってしまうんじゃないかと思った。
「前からこんな風にちゃんと手を繋いでみたいと思ってました。ちょっと緊張しますね」
「…全然緊張してる風に見えないよ?」
「そんなことないですよ。琴音さんほどではないですが、僕だって今日はそわそわしていました」
「そうなの?」
全然わからなかった。いつも冷静沈着に見えるから。
私が驚いている様子がおかしかったのか黒子くんはまた微笑んだ。
やはり直視できなくて私はすぐに正面を向いて足下に視線を落とした。繋がれた手も顔も温かい。
夢じゃないとわかったのに、まるで夢の中にいるみたいだ。
少しずつ、普通の会話も続いて緊張が解けてきた頃になって、私は今日すごく黒子くんに気を遣わせていることに気づいた。
彼は口数が少ない方なのに、今日はよく話してくれる。
私に気遣って色々と話題を振ってくれていたのかな。無理させていただろうか。
しかしそのおかげで、いつもこうして他愛のないことを話して、笑ったりした帰り道が日常の中ですごく大事だったことを思い出した。
そうだ。この感じ。
いつもこうしてた。これからも、いつも通りでいいんだ。
気張ることもなく。だってあの日常の中でお互いを好きになれたんだから。
「黒子くん」
急に立ち止まって手をほどくと、私は彼の前に回り込んで顔を上げて見つめた。私の背には満月で逆光。
黒子くんの顔は月明かりに照らされて、水色の髪も青い瞳もキラキラと光っていた。
「いつも気遣ってくれてありがとう」
今度こそ視線を合わせて、目を見つめた。私の目は泳いでない、視線も逸らさない。
部活中も目を合わせることを避けていたので、今、やっと真正面から黒子くんの顔を見れた。
黒子くんの大きくてまん丸の瞳はすごくキレイ。その中に頬を赤らめてまだ少しぎこちない笑い方をしている自分の姿が見える。
年下の黒子くんに気を遣わせて、年上らしさが欠片もない、情けない私の姿だった。
真顔で見つめ返してくる黒子くんにたじろいだけれど、それでも目を逸らさずにいたら突然右手を引かれた。
グイッと、思ったより強いその力によろめいて私は黒子くんの胸へ倒れた。そうするために手を引っ張ったんだろう。
「きゃ!」と、よろけた時に驚いて思わず声を出してしまった。倒れてきた私の肩を抱いて黒子くんは受け止めた。
「強い引力が働きました」
「引力っていうか黒子くんが手を引っ張っただけだよね…?」
「いえ、引力ですよ」
この道を誰かが通ったら、誰かに見られたら…頭の片隅で心配をしつつも、このくっついている状況に私は抵抗することもなく、そのまま黒子くんの胸へ寄り添った。心臓がやけにうるさいなと思ったら自分の音だけじゃなかった。黒子くんの胸からもドキドキと強い鼓動が伝わってくる。
肩に添えられていた両手に少しだけ力が入る。決して抱きしめているわけではない。だけれども、このまま勢い余って黒子くんの両手が私の背中に回って抱きしめてもおかしくはない体勢だった。
「意識してドキドキしてもらえるのは嬉しいですが、目を合わせてもらえなかったり避けられるのは、その、…結構寂しいです」
「…ごめん、今後から気をつけるね」
嬉しさも寂しさも私に対しての感情だとこんなに真っ直ぐに伝えられると、さすがに思い切り照れてしまう。
一言だけ返事をするのでいっぱいいっぱいだった。頬が紅潮しているけれど、顔を黒子くんの胸にピタリとくっつけているので幸い見られていないだろう。だがこの赤い顔もしばらくは元の色には戻らなそうだ。
月も星も輝いている夜空の下で、大好きな人の心音を聞きながら私は数秒だけ、目を閉じた。
星の数だけ出会いがあるという。その中で一等輝く星を掴める確率は、どれ程なのか。
私にとっての、その「星」こそ黒子くんだと今、確信した。唯一人、私が出会うのを待ち焦がれていたのは、きっと君だったんだ。
「これからは彼氏として末永くよろしくお願いします」
「こ、…こちらこそよろしくお願いします」
見上げるとそこには照れくさそうな黒子くんの顔。あぁ、照れているのは私だけじゃなかったんだ。
末永くって…?と、私が尋ねたら、黒子くんは目を細めて何も言わずに微笑んだ。
黒子くんはまるで月だ。微笑むその顔は、月のように静かで綺麗。
逆らえない引力のように私はその月に惹きつけられていくんだろう。これまでも、これからも。