長編
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-7- ※夢主視点
桜満開の春の日、筑士波大学の入学式。
スーツ姿の新入生達で賑わっている正門から講堂までの長い一本道を、ピンク色の花房が明るく彩っていた。雲一つない青空も、時折吹く春風もやわらかく心地よい。
午前の部の入学式に参加してきた修作くんと私は、サークル棟の前で東堂くんと待ち合せをした。彼が所属する医学部の式は午後の部なので、まだ時間がある。あたたかな空気の中、三人ともスーツを身に纏って集まれば、いつもと違う装いが新鮮で、気持ちが高揚する。交互に視線を送りながら頷き、東堂くんは真っ先に感嘆の声を上げた。
「おお、決まってるな!」
「修作くん、すごく似合ってるよ」
「ホントか!?尽八、桜の前で写真撮ってくれよ!先輩に送るから!」
褒められてご機嫌になった修作くんは、スマホを東堂くんに渡して慌てて写真映えする場所を探し始めた。『相変わらず忙しない男だ』と呆れつつも、彼から笑みが零れる。
修作くんはグレーのスーツにネイビーのネクタイ。スタンダードな組み合わせにネクタイのドット柄がポップで可愛らしく、よく似合っていた。
私は、濃紺色のストライプ柄のセットアップスーツに、首元にボリュームのあるリボンタイが付いた水色のブラウス。フレアスカートの華やかな感じが気に入ってる。
ハッキリとした色を好みそうな東堂くんは、私服とは違いシンプルかつシックな印象のものを着用していた。黒のスーツに、薄紫色のチェック柄のネクタイ――、よくよく見ると某有名ブランドのものだった。ほどよい筋肉がつきながらも細身体型の彼は、見事にそれを着こなしている。美形にスーツの組み合わせは心臓に悪いなぁと、早くなる胸の鼓動を隠しながら細く息を吐いた。
「東堂くんも素敵なスーツだね」
「入学祝いにと姉からの贈り物でな。わざわざ仕立てて貰ったものだ」
「オーダーなんだ!本当に、モデルみたいにカッコイイよ」
「…うむ、天は俺に三物以上与えてしまったようだな!」
一瞬、いつものように得意気に返してくるテンポが遅れた気がしたけど、気のせいかな。『カッコイイ』なんて誉め言葉、ありきたり過ぎて、逆に失礼だったかなと心配になった。そんなの、数えきれないほど女子から浴びてきたことだろう。私にもっと語彙力があれば上手く伝えられるのに…と、内心で悔いてる最中、数メートル離れた先から修作くんが声を張り上げた。
「いくつの才を授かってんだよー!?ひとつぐらいよこせー!」
「安心しろ、修作!誰しもひとつは授かってるものだ」
「嫌味かっ!」
いい感じに写真映えしそうな桜を探しながら抗議する彼を見て、私と東堂くんは視線を見交わして苦笑した。
新入生が集まる講堂から離れたこの場所は、人がまばらにいる程度でわりと静かだ。ここなら落ち着いて写真も撮りやすい。大きな桜の木を前にして、撮影場所を決めたとばかりに修作くんが大きく手を振り合図をすると、東堂くんは渡されたスマホのカメラを向けて何枚か撮り始めた。指が画面に触れる度にシャッター音が鳴り、その度にモデルになりきってる修作くんは、木の前で様々なポーズを取っていた。
「俺たちも一緒に撮ってもらうとするか。せっかくキレイにしてるんだ」
あまりにも東堂くんが唐突に、しかもごく普通の会話の流れで告げたものだから、聞き流してしまいそうになったが、確かに『キレイ』だと言った。
まだ慣れない淡い化粧を施した頬が、熱を帯びてシュワッと桃色に染まる感覚。チークのおかげで、赤面は目立たないはず。
普段から忌憚のない意見を言い、常に正直である彼の嘘のない言葉に、心が揺れる。着慣れないレディーススーツを、おろしたてのこの服を『キレイ』だと言ったのであって、決して私自身を褒めたわけじゃない。“素材はさておき”、が、前提にあるはずだ。
…なのに、彼のたった一言で容易く浮かれてしまいそうになる。
予想していたことではあるけれど、この短期間のうちに私は再び東堂くんに想いを寄せていた。近づかなければもう失恋することもない、傷つかない道もあると理解していたのに――頼まれれば断れずに了承して請け負い、部活を設立する為の手伝いをし、顔を合わせる機会も増えて前よりもっと近い存在の“仲間”として認められ、――また恋をしていた。
それから東堂くんと私は、桜の木の前で肩を並べた。美しく整った横顔をこっそり一瞥すると、見惚れてしまいそうになる。“撮るぞー!”という明るい掛け声にハッとしてカメラに視線を向けるも、緊張して不自然な笑顔になってしまった。強張る表情に加え肩の力が入っていることに、すぐ隣で気づかれないはずもなく――
「どうしたんだ?汐見」
「えっ、あ…うん。思い出して――」
「何をだ?」
「卒業式の日、東堂くんと一緒に写真を撮りたかったんだけど、行列がすごくて諦めたんだ。だから、大学に来てから願い事が叶ったのが不思議だなぁって」
「そうだったのか。…にしても、“願い事”とは仰々しいな」
「そうかなぁ」
その後の会話は続くことなく、少しだけ口角を上げてるうちに何度かシャッター音が響いた。結局、上手く誤魔化しきれず本音が漏れたけれど、『行列がすごくて諦めた』というのは嘘だ。
卒業式のあの日、一緒に撮れなかった本当の理由。東堂くんとの最後の関わりになってしまうと思うと、寂しさで胸が痛みだしたから。だから、写真の列には並べなかったのだ。特に写真は「姿」として残ってしまう。
しかし今、入学式という晴れの門出の日に、バッチリ鮮明に映った写真を撮ってもらい、スマホに何枚か保存された。いちいち舞い上がってはいけないと自身に念を押すも、二人の写真を寮の部屋で眺める度、ニヤけてしまう自分を簡単に想像できた。不毛な片思い中、そのくらいの楽しみは許されたいと思った。
-7- ※夢主視点
桜満開の春の日、筑士波大学の入学式。
スーツ姿の新入生達で賑わっている正門から講堂までの長い一本道を、ピンク色の花房が明るく彩っていた。雲一つない青空も、時折吹く春風もやわらかく心地よい。
午前の部の入学式に参加してきた修作くんと私は、サークル棟の前で東堂くんと待ち合せをした。彼が所属する医学部の式は午後の部なので、まだ時間がある。あたたかな空気の中、三人ともスーツを身に纏って集まれば、いつもと違う装いが新鮮で、気持ちが高揚する。交互に視線を送りながら頷き、東堂くんは真っ先に感嘆の声を上げた。
「おお、決まってるな!」
「修作くん、すごく似合ってるよ」
「ホントか!?尽八、桜の前で写真撮ってくれよ!先輩に送るから!」
褒められてご機嫌になった修作くんは、スマホを東堂くんに渡して慌てて写真映えする場所を探し始めた。『相変わらず忙しない男だ』と呆れつつも、彼から笑みが零れる。
修作くんはグレーのスーツにネイビーのネクタイ。スタンダードな組み合わせにネクタイのドット柄がポップで可愛らしく、よく似合っていた。
私は、濃紺色のストライプ柄のセットアップスーツに、首元にボリュームのあるリボンタイが付いた水色のブラウス。フレアスカートの華やかな感じが気に入ってる。
ハッキリとした色を好みそうな東堂くんは、私服とは違いシンプルかつシックな印象のものを着用していた。黒のスーツに、薄紫色のチェック柄のネクタイ――、よくよく見ると某有名ブランドのものだった。ほどよい筋肉がつきながらも細身体型の彼は、見事にそれを着こなしている。美形にスーツの組み合わせは心臓に悪いなぁと、早くなる胸の鼓動を隠しながら細く息を吐いた。
「東堂くんも素敵なスーツだね」
「入学祝いにと姉からの贈り物でな。わざわざ仕立てて貰ったものだ」
「オーダーなんだ!本当に、モデルみたいにカッコイイよ」
「…うむ、天は俺に三物以上与えてしまったようだな!」
一瞬、いつものように得意気に返してくるテンポが遅れた気がしたけど、気のせいかな。『カッコイイ』なんて誉め言葉、ありきたり過ぎて、逆に失礼だったかなと心配になった。そんなの、数えきれないほど女子から浴びてきたことだろう。私にもっと語彙力があれば上手く伝えられるのに…と、内心で悔いてる最中、数メートル離れた先から修作くんが声を張り上げた。
「いくつの才を授かってんだよー!?ひとつぐらいよこせー!」
「安心しろ、修作!誰しもひとつは授かってるものだ」
「嫌味かっ!」
いい感じに写真映えしそうな桜を探しながら抗議する彼を見て、私と東堂くんは視線を見交わして苦笑した。
新入生が集まる講堂から離れたこの場所は、人がまばらにいる程度でわりと静かだ。ここなら落ち着いて写真も撮りやすい。大きな桜の木を前にして、撮影場所を決めたとばかりに修作くんが大きく手を振り合図をすると、東堂くんは渡されたスマホのカメラを向けて何枚か撮り始めた。指が画面に触れる度にシャッター音が鳴り、その度にモデルになりきってる修作くんは、木の前で様々なポーズを取っていた。
「俺たちも一緒に撮ってもらうとするか。せっかくキレイにしてるんだ」
あまりにも東堂くんが唐突に、しかもごく普通の会話の流れで告げたものだから、聞き流してしまいそうになったが、確かに『キレイ』だと言った。
まだ慣れない淡い化粧を施した頬が、熱を帯びてシュワッと桃色に染まる感覚。チークのおかげで、赤面は目立たないはず。
普段から忌憚のない意見を言い、常に正直である彼の嘘のない言葉に、心が揺れる。着慣れないレディーススーツを、おろしたてのこの服を『キレイ』だと言ったのであって、決して私自身を褒めたわけじゃない。“素材はさておき”、が、前提にあるはずだ。
…なのに、彼のたった一言で容易く浮かれてしまいそうになる。
予想していたことではあるけれど、この短期間のうちに私は再び東堂くんに想いを寄せていた。近づかなければもう失恋することもない、傷つかない道もあると理解していたのに――頼まれれば断れずに了承して請け負い、部活を設立する為の手伝いをし、顔を合わせる機会も増えて前よりもっと近い存在の“仲間”として認められ、――また恋をしていた。
それから東堂くんと私は、桜の木の前で肩を並べた。美しく整った横顔をこっそり一瞥すると、見惚れてしまいそうになる。“撮るぞー!”という明るい掛け声にハッとしてカメラに視線を向けるも、緊張して不自然な笑顔になってしまった。強張る表情に加え肩の力が入っていることに、すぐ隣で気づかれないはずもなく――
「どうしたんだ?汐見」
「えっ、あ…うん。思い出して――」
「何をだ?」
「卒業式の日、東堂くんと一緒に写真を撮りたかったんだけど、行列がすごくて諦めたんだ。だから、大学に来てから願い事が叶ったのが不思議だなぁって」
「そうだったのか。…にしても、“願い事”とは仰々しいな」
「そうかなぁ」
その後の会話は続くことなく、少しだけ口角を上げてるうちに何度かシャッター音が響いた。結局、上手く誤魔化しきれず本音が漏れたけれど、『行列がすごくて諦めた』というのは嘘だ。
卒業式のあの日、一緒に撮れなかった本当の理由。東堂くんとの最後の関わりになってしまうと思うと、寂しさで胸が痛みだしたから。だから、写真の列には並べなかったのだ。特に写真は「姿」として残ってしまう。
しかし今、入学式という晴れの門出の日に、バッチリ鮮明に映った写真を撮ってもらい、スマホに何枚か保存された。いちいち舞い上がってはいけないと自身に念を押すも、二人の写真を寮の部屋で眺める度、ニヤけてしまう自分を簡単に想像できた。不毛な片思い中、そのくらいの楽しみは許されたいと思った。