長編
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さよならの向こう側
-2.一年の春-
「ねぇねぇ、琴音ちゃんも一緒にバスケ部に入らない?」
入学式から二週間経った金曜日の昼休み、友達からの突然の部活のお誘い。女子バスの方かと思い、「運動苦手だよ!?ムリムリ!」と、焦りながら目の前で手をパタパタと仰ぐと、「マネージャーの方だよ」と告げられた。そして、数多くの部活の中から選び、新入生が入部届けを提出する期限が今日の放課後までだということを思い出した。入学式から今日まで、どの部活に入るかを検討するのに二週間の猶予があったのだ。その間に見学に行ったり、体験入部をしてみたりするのも自由だ。もちろん、途中入部も可能なので“期限”と言っても暫定的なもの。部活をやるにしても慌てて決める必要はないのだが、せっかく入部するのなら早い方がいい。
委員会の係決めは今日のホームルームで行われる予定なので、図書委員に立候補するぞ!と意気込んでいたけれど、部活に関してはあまり真剣に考えていなかった。私の友達はどうやらバスケ部を希望のようだ。運動部のマネージャーというのをやってみたかったらしい。帝光バスケ部は全国でも有名な強豪校であり、相当数の部員に対し、毎年マネージャーも多く募集している。
バスケは興味がないわけじゃない。スポーツ全般は自分で進んでやることはないが、観戦自体はどちらかといえば好きだ。
「うん、いいよ」
「ほんと?ありがとう!」
断る理由もなかったので私が頷くと、友達は嬉しそうに笑った。
ただ、もし今日のホームルーム後に私が図書委員に決まった場合は、放課後に早速委員会の集まりがあるようなので入部届けを出しにいくのが遅くなってしまう。その事を伝えた後、自分が図書委員になれる確信があるような物言いになってしまったので、慌てて訂正した。
「決まったらの話なんだけどね」
苦笑すると、友達は明るい声で「応援するよ!」と言ってくれた。委員会の係決めでは希望者が複数いれば、じゃんけんとかになるのだろうか。図書委員を希望する人が私以外にいないことを祈ろう。
代わりに入部届けも提出してくれるということで、私はその場で書いて友達に渡した。バスケ部は部員数200名を越え、専用の体育館がいくつかあると聞いたことがある。その中でマネージャーを……務められるんだろうか。断る理由もないし誘われたからOKしちゃったけれど、マネージャーも過酷な仕事ばかりだったらどうしようと、後々不安になってきた。
部活のスタートは来週月曜日からだ。入部届けが無事受理され、連絡事項があれば今日の夜までにはメールで連絡がくるようだ。だから入部届けの欄にメールアドレスを記入する欄があったのだろう。体育館用の靴とは別に、部活用のシューズを準備しておいたほうがいいのかな。気になることはあるけれど、それより、この後のホームルームに向けての緊張感の方が上回ってきていた。
・・・
・・・・・
・・・・・・
ホームルームでの委員会決め――心配していた事は起きず、図書委員については複数の立候補者がでることなく決まった。直前まで緊張していたのに拍子抜けだが、希望通り図書委員になれたのでとても嬉しかった。
クラスで男女一名ずつ、希望者がいれば即決まる。生徒会も委員会の仕事のひとつなので、生徒会だけは立候補者が複数名いたのだが、他の委員会に関しては問題なくサクッと決まってしまった。図書委員について手を挙げたのは二名。私と黒子くんだった。
「じゃあ汐見と――………黒子か。図書委員はこの二名で決定だな。じゃあ次は風紀委員を…」
先生はのんびりした口調と共に黒板に名前を書いていった。手を下げて、私は黒子くんの横顔をこっそりと盗み見た。これから委員会の仕事があれば一緒に行動するペアなる人だ。
まだ話したこともない彼について知っているのは、休み時間になると座席で本を読んでいること。本好きの私としてもいつも何を読んでいるのかなと気になっていたから、そのうち聞きたいなと思っていたところだ。まだ入学して二週間なので、話しかけるチャンスはこれからあるだろうと思っていた矢先、早々にその機会が訪れそうだ。
放課後から早速委員会の集まりがあるとのことで、各委員会の集合場所の教室を先生から連絡された。これから隔週で集まりがあるらしい。文化祭など行事にあわせて動いたりもするので、場合によっては変則的なスケジュールとなる。マンモス校なので学校行事にも力を入れているので、その時期は忙しくなりそうだ。でも、忙しい分充実するのなら嫌な気はしなかった。
放課後のチャイムが鳴り終えると、私は黒子くんの席に向かって行った。委員会の会議が行われる教室まで一緒に行こうと伝えると、彼は頷いた。キレイな水色の髪、深い海の色をした瞳に、白い肌。第一印象は『透明感があるキレイな男の子』だ。立ち上がると、身長は私より少し高いぐらい。男の子はこれから成長期だし、ぐんぐん追い越されちゃいそうだなと心の中で独り言ちた。
「黒子です。よろしくお願いします」
穏やかな声で軽く会釈するその少年は黒子テツヤくん。
同じクラスだったけれど、席が離れていることもあって今日はじめてお互い言葉を交わした。何で敬語なの?と私が笑うと、「癖みたいなものです」と、黒子くんも柔らかく微笑んだ。
これから一緒に仕事をする仲間であれば、早く打ち解けたいなと思い、私は黒子くんと廊下を歩きながら色々と話しかけた。二週間経ったけど授業には慣れた?とか、どこの小学校出身?とか、どのあたりに住んでるの?とか――矢継ぎ早に質問しては自分も答えたりして、途中でハッと気づいた。彼を不愉快にさせてないだろうかと途中で謝ると、黒子くんは「大丈夫ですよ」と言ってくれた。
「たくさん質問しちゃってごめんね」
「いえ、大丈夫ですよ。クラスメイトとこんなにたくさん話したのは今日が初めてです」
「そっかぁ。でも、まだ二週間だしこれからクラスメイトと話す機会がたくさんあるよ。それに、黒子くんは本を読んでる事の方が多いみたいだもんね」
すると、彼は少し目を見開いて私を見つめた。知っていたんですか?という問いかけに私は頷いた。一応、クラスメイトの顔と名前は覚えたつもりだ。よく話す人はもちろん、話したことがない人も。毎日出席をとっているのをしっかり聞いていれば自然と頭に入ってくるし、『黒子』という珍しい苗字も覚えやすかった。それに、休み時間になると静かに本を読んでいる姿は、クラス内では珍しかったから。
「不本意ですが、存在感が薄くて人に覚えてもらえなかったりすることが多いので…、話したこともないのに僕を認識してくれている人がいたなんて驚きました。先生すら僕の名前がすぐ出てこなかったぐらいなのに」
「クラスメイトだもん、ちゃんと覚えてるよ」
「すごい事だと思います。見習いたいです」
穏やかで物静かな男の子。しかし、近くで見れば見るほど黒子くんはとても綺麗な顔立ちをしていた。もし目立つタイプだったならば、もっと女子の注目を集めていたかも知れない。
話題はまた私からの質問になり、ちょうど今日入部届けの提出が締め切りである“部活”について質問してみた。
「先日バスケ部に入部届けを出しました。もう以前から決めていたので」
「えっ」
「汐見さんは何部へ入る予定ですか?」
「わ、私もバスケ部!」
どもりながらも思わず大きな声が出てしまい、口元を手で抑えた。誤魔化すように指で頬を掻きながら「女バスじゃなくてマネージャーとしての入部なんだけどね」と、付け足した。運動が得意だったら女子バスに入部していたかもしれないけれど。
――ということは必然的に、黒子くんとは部活でも関わりを持つことになるってことだ。入学早々、『縁』みたいなものを感じずにはいられない。
「委員会でも部活でも、これからよろしくね」
「はい、こちらこそ。改めてよろしくお願いします」
立ち止まって手を差し出すと、黒子くんの私より少し大きな手と握手を交わす。彼の指の感触はザラザラしていた。スポーツをやっている人の手みたいに、指の腹が固い。中学に入るより前からバスケをやっていたんだろうか。機会があったら聞いてみよう。 それ以前にもっと聞いてみたいこともある。いつも何の本を読んでいるのか、好きな作家はいるか、――とか。図書委員に立候補したぐらいだから、きっと彼も本が好きなのだろう。
クラスも同じ、委員会も同じで、部活まで同じだなんて、――縁はキッカケに過ぎない。けれども、キッカケがなければ何も起こらない。次の季節が来るまで何度、黒子くんと話す機会があるだろう。もっと親しくなる予感がして、心が弾んでしまう。
-2.一年の春-
「ねぇねぇ、琴音ちゃんも一緒にバスケ部に入らない?」
入学式から二週間経った金曜日の昼休み、友達からの突然の部活のお誘い。女子バスの方かと思い、「運動苦手だよ!?ムリムリ!」と、焦りながら目の前で手をパタパタと仰ぐと、「マネージャーの方だよ」と告げられた。そして、数多くの部活の中から選び、新入生が入部届けを提出する期限が今日の放課後までだということを思い出した。入学式から今日まで、どの部活に入るかを検討するのに二週間の猶予があったのだ。その間に見学に行ったり、体験入部をしてみたりするのも自由だ。もちろん、途中入部も可能なので“期限”と言っても暫定的なもの。部活をやるにしても慌てて決める必要はないのだが、せっかく入部するのなら早い方がいい。
委員会の係決めは今日のホームルームで行われる予定なので、図書委員に立候補するぞ!と意気込んでいたけれど、部活に関してはあまり真剣に考えていなかった。私の友達はどうやらバスケ部を希望のようだ。運動部のマネージャーというのをやってみたかったらしい。帝光バスケ部は全国でも有名な強豪校であり、相当数の部員に対し、毎年マネージャーも多く募集している。
バスケは興味がないわけじゃない。スポーツ全般は自分で進んでやることはないが、観戦自体はどちらかといえば好きだ。
「うん、いいよ」
「ほんと?ありがとう!」
断る理由もなかったので私が頷くと、友達は嬉しそうに笑った。
ただ、もし今日のホームルーム後に私が図書委員に決まった場合は、放課後に早速委員会の集まりがあるようなので入部届けを出しにいくのが遅くなってしまう。その事を伝えた後、自分が図書委員になれる確信があるような物言いになってしまったので、慌てて訂正した。
「決まったらの話なんだけどね」
苦笑すると、友達は明るい声で「応援するよ!」と言ってくれた。委員会の係決めでは希望者が複数いれば、じゃんけんとかになるのだろうか。図書委員を希望する人が私以外にいないことを祈ろう。
代わりに入部届けも提出してくれるということで、私はその場で書いて友達に渡した。バスケ部は部員数200名を越え、専用の体育館がいくつかあると聞いたことがある。その中でマネージャーを……務められるんだろうか。断る理由もないし誘われたからOKしちゃったけれど、マネージャーも過酷な仕事ばかりだったらどうしようと、後々不安になってきた。
部活のスタートは来週月曜日からだ。入部届けが無事受理され、連絡事項があれば今日の夜までにはメールで連絡がくるようだ。だから入部届けの欄にメールアドレスを記入する欄があったのだろう。体育館用の靴とは別に、部活用のシューズを準備しておいたほうがいいのかな。気になることはあるけれど、それより、この後のホームルームに向けての緊張感の方が上回ってきていた。
・・・
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ホームルームでの委員会決め――心配していた事は起きず、図書委員については複数の立候補者がでることなく決まった。直前まで緊張していたのに拍子抜けだが、希望通り図書委員になれたのでとても嬉しかった。
クラスで男女一名ずつ、希望者がいれば即決まる。生徒会も委員会の仕事のひとつなので、生徒会だけは立候補者が複数名いたのだが、他の委員会に関しては問題なくサクッと決まってしまった。図書委員について手を挙げたのは二名。私と黒子くんだった。
「じゃあ汐見と――………黒子か。図書委員はこの二名で決定だな。じゃあ次は風紀委員を…」
先生はのんびりした口調と共に黒板に名前を書いていった。手を下げて、私は黒子くんの横顔をこっそりと盗み見た。これから委員会の仕事があれば一緒に行動するペアなる人だ。
まだ話したこともない彼について知っているのは、休み時間になると座席で本を読んでいること。本好きの私としてもいつも何を読んでいるのかなと気になっていたから、そのうち聞きたいなと思っていたところだ。まだ入学して二週間なので、話しかけるチャンスはこれからあるだろうと思っていた矢先、早々にその機会が訪れそうだ。
放課後から早速委員会の集まりがあるとのことで、各委員会の集合場所の教室を先生から連絡された。これから隔週で集まりがあるらしい。文化祭など行事にあわせて動いたりもするので、場合によっては変則的なスケジュールとなる。マンモス校なので学校行事にも力を入れているので、その時期は忙しくなりそうだ。でも、忙しい分充実するのなら嫌な気はしなかった。
放課後のチャイムが鳴り終えると、私は黒子くんの席に向かって行った。委員会の会議が行われる教室まで一緒に行こうと伝えると、彼は頷いた。キレイな水色の髪、深い海の色をした瞳に、白い肌。第一印象は『透明感があるキレイな男の子』だ。立ち上がると、身長は私より少し高いぐらい。男の子はこれから成長期だし、ぐんぐん追い越されちゃいそうだなと心の中で独り言ちた。
「黒子です。よろしくお願いします」
穏やかな声で軽く会釈するその少年は黒子テツヤくん。
同じクラスだったけれど、席が離れていることもあって今日はじめてお互い言葉を交わした。何で敬語なの?と私が笑うと、「癖みたいなものです」と、黒子くんも柔らかく微笑んだ。
これから一緒に仕事をする仲間であれば、早く打ち解けたいなと思い、私は黒子くんと廊下を歩きながら色々と話しかけた。二週間経ったけど授業には慣れた?とか、どこの小学校出身?とか、どのあたりに住んでるの?とか――矢継ぎ早に質問しては自分も答えたりして、途中でハッと気づいた。彼を不愉快にさせてないだろうかと途中で謝ると、黒子くんは「大丈夫ですよ」と言ってくれた。
「たくさん質問しちゃってごめんね」
「いえ、大丈夫ですよ。クラスメイトとこんなにたくさん話したのは今日が初めてです」
「そっかぁ。でも、まだ二週間だしこれからクラスメイトと話す機会がたくさんあるよ。それに、黒子くんは本を読んでる事の方が多いみたいだもんね」
すると、彼は少し目を見開いて私を見つめた。知っていたんですか?という問いかけに私は頷いた。一応、クラスメイトの顔と名前は覚えたつもりだ。よく話す人はもちろん、話したことがない人も。毎日出席をとっているのをしっかり聞いていれば自然と頭に入ってくるし、『黒子』という珍しい苗字も覚えやすかった。それに、休み時間になると静かに本を読んでいる姿は、クラス内では珍しかったから。
「不本意ですが、存在感が薄くて人に覚えてもらえなかったりすることが多いので…、話したこともないのに僕を認識してくれている人がいたなんて驚きました。先生すら僕の名前がすぐ出てこなかったぐらいなのに」
「クラスメイトだもん、ちゃんと覚えてるよ」
「すごい事だと思います。見習いたいです」
穏やかで物静かな男の子。しかし、近くで見れば見るほど黒子くんはとても綺麗な顔立ちをしていた。もし目立つタイプだったならば、もっと女子の注目を集めていたかも知れない。
話題はまた私からの質問になり、ちょうど今日入部届けの提出が締め切りである“部活”について質問してみた。
「先日バスケ部に入部届けを出しました。もう以前から決めていたので」
「えっ」
「汐見さんは何部へ入る予定ですか?」
「わ、私もバスケ部!」
どもりながらも思わず大きな声が出てしまい、口元を手で抑えた。誤魔化すように指で頬を掻きながら「女バスじゃなくてマネージャーとしての入部なんだけどね」と、付け足した。運動が得意だったら女子バスに入部していたかもしれないけれど。
――ということは必然的に、黒子くんとは部活でも関わりを持つことになるってことだ。入学早々、『縁』みたいなものを感じずにはいられない。
「委員会でも部活でも、これからよろしくね」
「はい、こちらこそ。改めてよろしくお願いします」
立ち止まって手を差し出すと、黒子くんの私より少し大きな手と握手を交わす。彼の指の感触はザラザラしていた。スポーツをやっている人の手みたいに、指の腹が固い。中学に入るより前からバスケをやっていたんだろうか。機会があったら聞いてみよう。 それ以前にもっと聞いてみたいこともある。いつも何の本を読んでいるのか、好きな作家はいるか、――とか。図書委員に立候補したぐらいだから、きっと彼も本が好きなのだろう。
クラスも同じ、委員会も同じで、部活まで同じだなんて、――縁はキッカケに過ぎない。けれども、キッカケがなければ何も起こらない。次の季節が来るまで何度、黒子くんと話す機会があるだろう。もっと親しくなる予感がして、心が弾んでしまう。