呪術廻戦
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遥かなエンパシー
-高専編2-
あたたかな春の陽気の中、昼休みに中庭のベンチに腰かけて昼食のサンドイッチを食べた。見上げれば花弁がふさふさと揺れる満開の桜。この時期だけの特別な景色に癒される反面、心の奥底では現実逃避を望んでいる。
少しばかり特殊な学校の教員ではあるが、非術師の私の休日の過ごし方は至って平凡だ。まず、目覚ましを掛けずに眠りカーテン越しに差し込んでる朝陽で自然と目を覚まし、二度寝する幸せを味わう。次に、昨夜買ってきたパンをリベイクして、賑やかな情報番組でも見ながら珈琲とゆっくり頂く。外出となると、気になっていた映画館に行くもよし、雑貨屋やカフェ巡りもよしと――この平凡な休日こそが心癒される時だった。しかし悲しきかな、今週末ばかりはその過ごし方は叶わない。
何故ならば、休日返上の任務を命じられてしまったからだ。帳すら下ろせない、呪力もゼロで何も見えやしない非術師の自分には相当珍しい任務が、学長から言い渡された。
・・・
・・・・・
・・・・・・
二泊三日、沖縄での任務へ同行し五条くんをサポートすること。
本来なら補助監督が同行するはずだったのだが、至急の別任務が横入りして人手が足りなくなったそうだ。移動や送迎、飛行機やホテルの手配、現地入りした後の運転を頼みたいと告げられた。他、不随業務としては任務工程の確認と移動ルートの下調べもある。代休はもちろん、事務教員が本来やるべきでない仕事とのことで、特別手当てもつくらしい。
迷ったけれど、説明を受けているうちに断れる雰囲気でもなくなり、私はそのまま承諾した。ただ、どうしても気になることがある。
「補助監督の空きが出るまで、任務を先延ばしにすることないのでしょうか?帳すら下ろせない非術師の私ではいざという時に足手まといになり兼ねないかと……」
「悟がいるんだ。護符に呪力でも込めて貰って持っておけば問題ない。それに急を要す理由は他にある」
広々とした学長室のソファに向かい合って座りながら、サングラス越しに夜蛾学長と視線が交わり身体強張る。本来は柔和な性格なはずなんだろうけれど、強面過ぎる学長を前にすると緊張して落ち着かない。
「本島から続く一つの島から、昔封じ込められたはずの一級呪霊が確認された。島の人間から話を聞いた話じゃ、どうやら昔から伝わるわらべ唄になぞらえて島々の封印が時限式に解かれていくらしい」
ホラーゲームのそれじゃあるまいしと疑ったが、実際に一体目が確認されていることから、連鎖反応が起きても不思議ではない。
「では、他の島の呪霊も次々に?」
「本当にそうなるかどうかはわからん。だから、被害が拡大する前叩く。封印というからには場所はわかってるからな」
「行った時点で他の島の封印が解かれていなかったら、どうするんですか?」
「力づくだか無理に解かせて祓わせる。それが容易にできるのもアイツだけだ。…また、悟頼みになるがな」
本意ではないとばかりに溜息をつくが、実際に術師が不足しているのだから仕方ない。しかも一級を容易に倒せる実力を持つ者となると、限られてしまう。この業界はいつも人手不足だ。理由はわかっている。戦って亡くなる者、大きな怪我で辞めていく者も多い。時代が豊かになっても、呪いはなくならず増えていく一方だ。人知れず延々と戦い、術師は呪いといつの時代も対峙している。
考え始めたら気分が暗くなってしまうので、なるべく考えすぎないようにフラットにならないと、と頭を切り替えた。今は自身の出来る事を淡々とこなすしかないのだから。
「あいつは確かに特別だ。全ての能力が突出し、レベルが違い過ぎる。だが、非術師のお前だけは“特別扱い”しなくていい。普通の生徒として接してくれ」
「……はい。わかりました」
頷き返事はしたものの、彼を特別扱いするなという方が難しいお願いだ。非術師の私にだって、五条くんが他と違うことぐらいわかる。通常なら複数人で対応する一級レベルを一人でなんて、こんな任務聞いたことがない。
話が終わり学長室を後にすると、すぐに教員室に戻ってパソコンを起動した。午後はチケットやホテルの手配諸々で忙しくなりそうだ。
――よりによって何故、“沖縄”なんだ。
二年前に星漿体の護衛任務で行った場所だ。家入さんから聞いた話では、護衛対象の要望で観光もしたそうだ。そこには夏油くんも一緒にいた。五条くんにとっての唯一の友であり理解者…だった。離反後、彼は今でも生死問わずの指名手配になっている。何も、彼との記憶を思い出すような場所でなくたっていいのに。
例の集落での事件を起こし、夏油くんが追放となってから二年経過した今では、五条くんの様子は昔の飄々とした態度に戻っていた。事件直後は、口数も少なく怒りや苛立ちが溢れ、必要以上に近づけなかったから、以前の雰囲気に戻ってくれて少しだけほっとした。
一年が経過した頃、終業と共に教員室から出て来た私を呼び止め、五条くんは『甘いもんでも食いに行かね?』とぶっきらぼうに誘ってきた。車を出して学校最寄りの喫茶店付近のコインパーキングに止め、店内のソファ席で向かい合ってパフェを食べた。あまり会話はなかったけれど、沈黙が嫌なものじゃなかった事を覚えてる。ただ、呼び止めて私を誘ってくれたことが嬉しかった。
その日をキッカケに何かが変わったワケではなかった。時々会えば挨拶や軽い雑談を交わす程の、普通の教員と生徒の仲だ。しかし、夏油くんと居たときのようなスカート捲りみたいな幼稚な事も悪ノリはもうしなくなった。
五条くんはこの二年、底抜けに明るい笑顔の日もあれば、やはり苛々して怒りを露わにしてる日もあったり、虚空を見つめるように呆けた様になる日も――感情のむらが所々に出て、とても心配になった。
-高専編2-
あたたかな春の陽気の中、昼休みに中庭のベンチに腰かけて昼食のサンドイッチを食べた。見上げれば花弁がふさふさと揺れる満開の桜。この時期だけの特別な景色に癒される反面、心の奥底では現実逃避を望んでいる。
少しばかり特殊な学校の教員ではあるが、非術師の私の休日の過ごし方は至って平凡だ。まず、目覚ましを掛けずに眠りカーテン越しに差し込んでる朝陽で自然と目を覚まし、二度寝する幸せを味わう。次に、昨夜買ってきたパンをリベイクして、賑やかな情報番組でも見ながら珈琲とゆっくり頂く。外出となると、気になっていた映画館に行くもよし、雑貨屋やカフェ巡りもよしと――この平凡な休日こそが心癒される時だった。しかし悲しきかな、今週末ばかりはその過ごし方は叶わない。
何故ならば、休日返上の任務を命じられてしまったからだ。帳すら下ろせない、呪力もゼロで何も見えやしない非術師の自分には相当珍しい任務が、学長から言い渡された。
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二泊三日、沖縄での任務へ同行し五条くんをサポートすること。
本来なら補助監督が同行するはずだったのだが、至急の別任務が横入りして人手が足りなくなったそうだ。移動や送迎、飛行機やホテルの手配、現地入りした後の運転を頼みたいと告げられた。他、不随業務としては任務工程の確認と移動ルートの下調べもある。代休はもちろん、事務教員が本来やるべきでない仕事とのことで、特別手当てもつくらしい。
迷ったけれど、説明を受けているうちに断れる雰囲気でもなくなり、私はそのまま承諾した。ただ、どうしても気になることがある。
「補助監督の空きが出るまで、任務を先延ばしにすることないのでしょうか?帳すら下ろせない非術師の私ではいざという時に足手まといになり兼ねないかと……」
「悟がいるんだ。護符に呪力でも込めて貰って持っておけば問題ない。それに急を要す理由は他にある」
広々とした学長室のソファに向かい合って座りながら、サングラス越しに夜蛾学長と視線が交わり身体強張る。本来は柔和な性格なはずなんだろうけれど、強面過ぎる学長を前にすると緊張して落ち着かない。
「本島から続く一つの島から、昔封じ込められたはずの一級呪霊が確認された。島の人間から話を聞いた話じゃ、どうやら昔から伝わるわらべ唄になぞらえて島々の封印が時限式に解かれていくらしい」
ホラーゲームのそれじゃあるまいしと疑ったが、実際に一体目が確認されていることから、連鎖反応が起きても不思議ではない。
「では、他の島の呪霊も次々に?」
「本当にそうなるかどうかはわからん。だから、被害が拡大する前叩く。封印というからには場所はわかってるからな」
「行った時点で他の島の封印が解かれていなかったら、どうするんですか?」
「力づくだか無理に解かせて祓わせる。それが容易にできるのもアイツだけだ。…また、悟頼みになるがな」
本意ではないとばかりに溜息をつくが、実際に術師が不足しているのだから仕方ない。しかも一級を容易に倒せる実力を持つ者となると、限られてしまう。この業界はいつも人手不足だ。理由はわかっている。戦って亡くなる者、大きな怪我で辞めていく者も多い。時代が豊かになっても、呪いはなくならず増えていく一方だ。人知れず延々と戦い、術師は呪いといつの時代も対峙している。
考え始めたら気分が暗くなってしまうので、なるべく考えすぎないようにフラットにならないと、と頭を切り替えた。今は自身の出来る事を淡々とこなすしかないのだから。
「あいつは確かに特別だ。全ての能力が突出し、レベルが違い過ぎる。だが、非術師のお前だけは“特別扱い”しなくていい。普通の生徒として接してくれ」
「……はい。わかりました」
頷き返事はしたものの、彼を特別扱いするなという方が難しいお願いだ。非術師の私にだって、五条くんが他と違うことぐらいわかる。通常なら複数人で対応する一級レベルを一人でなんて、こんな任務聞いたことがない。
話が終わり学長室を後にすると、すぐに教員室に戻ってパソコンを起動した。午後はチケットやホテルの手配諸々で忙しくなりそうだ。
――よりによって何故、“沖縄”なんだ。
二年前に星漿体の護衛任務で行った場所だ。家入さんから聞いた話では、護衛対象の要望で観光もしたそうだ。そこには夏油くんも一緒にいた。五条くんにとっての唯一の友であり理解者…だった。離反後、彼は今でも生死問わずの指名手配になっている。何も、彼との記憶を思い出すような場所でなくたっていいのに。
例の集落での事件を起こし、夏油くんが追放となってから二年経過した今では、五条くんの様子は昔の飄々とした態度に戻っていた。事件直後は、口数も少なく怒りや苛立ちが溢れ、必要以上に近づけなかったから、以前の雰囲気に戻ってくれて少しだけほっとした。
一年が経過した頃、終業と共に教員室から出て来た私を呼び止め、五条くんは『甘いもんでも食いに行かね?』とぶっきらぼうに誘ってきた。車を出して学校最寄りの喫茶店付近のコインパーキングに止め、店内のソファ席で向かい合ってパフェを食べた。あまり会話はなかったけれど、沈黙が嫌なものじゃなかった事を覚えてる。ただ、呼び止めて私を誘ってくれたことが嬉しかった。
その日をキッカケに何かが変わったワケではなかった。時々会えば挨拶や軽い雑談を交わす程の、普通の教員と生徒の仲だ。しかし、夏油くんと居たときのようなスカート捲りみたいな幼稚な事も悪ノリはもうしなくなった。
五条くんはこの二年、底抜けに明るい笑顔の日もあれば、やはり苛々して怒りを露わにしてる日もあったり、虚空を見つめるように呆けた様になる日も――感情のむらが所々に出て、とても心配になった。