呪術廻戦
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愛の深度
「五条くんが好きです」
コーヒーのいい香りが漂う1LDKで、テレビの雑音に混じりながら私の声が天井へ吸い込まれていく。
手土産で買ってきてくれたシュークリームの最後のひとつを頬張りながら、彼は『僕も好きだよ』と、唇の端についたクリームを舌で舐めながら告げた。
相変わらず美味しそうに食べるなぁという感心と同時に、その整った顔立ちにも見惚れてしまう。私に呪力がないからと、たいてい家に入ると目隠しを惜しげもなく取るから、長い睫毛も美しく整った顔立ちも有難いことに独り占めして拝める。贅沢だ。
そして夜遅くに食べる背徳的なスイーツ……こんな時間にティータイムになるのは、五条くんが夜遅く連絡もなく訪ねてくることがあるからだ。本当に突然、やって来る時がある。
――”僕も好きだよ”…なんて、これ以上ない返しをしてくれたのに、腑に落ちないのは何故だろう。彼の口調のせいで、ちょっと軽く聞こえるから?
満点の返事をしてもらって相思相愛、こんなに嬉しい事はないはずなのに。自分は充分、果報者だというのは理解している上で、告げたニュアンスが一体何に似ているのか考えてみた。
…そうだ、まるで“食べ物が好き”みたいな言い方だった。
「……シュークリームが好き的な、ですか」
「はぁ?」
「この世のありとあらゆるものを五条くんか五条くん以外かのカテゴライズをしたら、私とシュークリームは同じカテゴリにいてですね…、すごく大まかに…」
「キミってば昔からいきなり変なこと言うよねぇ」
五条くんほどではないですが…と、内心で呟いて私はキッチンへ移動し、ケトルでお湯を沸かしはじめた。
寝る前に、胃に優しいハーブティーでも飲もう。胃の強さも二十代とは違う。こんな時間にスイーツとコーヒーを飲んだら明日胃もたれてしまう。二十代後半の彼と三十の自分。二歳差のはずだが、十の位が違うだけでその溝は真っ二つに割られた崖のように大きく感じる。最強呪術師の五条くんの肉体年齢は、もはや通常の二十代後半男性のものとは違うし、色々超越してるから比較しようもないのだけれど。
あっという間に湯が沸いたので、まずはティーポットを温めるために湯を注ぐ。湯気がふわっと鼻を掠めたその時、お腹のあたりに手を回された。後ろから抱きしめられてる事に気づくも、五条くんは私が動けないようにガッシリと大きな両手を私のおへその前で交差させている。
「そっちから言っといてサラッと流すなって」
肩のあたりに鼻先をこすりつけて、大柄な男性が子供が甘えてるように私にしがみつく。今日はその手で、何体祓ったのか。逞しい腕もごつごつした手も、私にとっては優しい恋人の一部分だ。今日保たれた平和は、呪術師達が人知れず貢献してるおかげなんだ。私は非術師だけれども、呪術師の存在を知っているからこそ、一日の終わりに眠って過ごせることを日々有難く感じている。
ひとまず、不貞腐れてそうな五条くんをいなさないと。
「ごめんなさい。流したわけじゃなかったんですが…」
「僕の『好き』が軽く聞こえた?伝わってない?」
「そういうわけでは…」
「こんなに愛が重いのに?」
「わっ…お、重っ…!」
突然、ズシリと体重を後ろからかけてきたので思わずつんのめって、シンクの縁を掴んだ。気持ちの問題ではなく、これでは物理的に重たい。ガッシリした五条くんの体を支えられるはずもなく、徐々に態勢が前に沈む。黒い服の上からだとわかりずらいけれど、五条くんは筋肉量がすごいから、結構体重がある。
クックッと喉を鳴らして笑いながら、お腹に添えられていた手は腰のあたりに移動し、彼は私を軽々と持ち上げた。天井が頭につきそうで怖い。
おろして――くれないだろうな。ちょっと怒ってるのかも…。諦めたようにされるがままに腕をダラリと垂らした。こうなったら下ろしてくれるのを待つしかない。目線が高い。シンクの上にある戸棚の白色で、視界が埋め尽くされる。
「そんな感じに区別されるのは最強たる所以だけど、僕だって傷つかないワケじゃないよ。ましてや唯一の恋人にさ……」
自嘲気味の声が背後で響いて、胸がズキンと痛む。彼を傷つけてしまった。誰に区別されたって、恋人にだけはそう思われたくなかったはずだ。口をついて出た例えもカテゴリの話も、とても失礼だったと反省するも、もう遅い。せっかくスイーツを買ってきて任務帰りに寄ってくれたのに。少しでも私と過ごす時間を大事にしたくて来てくれたのに――…
「わたし…、ごめんなさい!五条く――」
持ち上げられたままの態勢で振り返ると、五条くんのニヤリとした意地悪な笑みと目が合った。その瞬間、片手を膝裏に移動してお姫様抱っこのような形で抱え直されたのは、ほんの数秒の出来事だった。
「まぁ確かに、琴音が食べられる運命なのはシュークリームと同じだね」
…しまった。落ち込んだ素振りを見せただけで、五条くんは落ち込んでなかった。全然。
眩しいばかりの美しい笑顔を私に向けると、ゆっくりと寝室へ歩き出した。ハーブティーを飲んで眠る作戦が、あっさりと失敗に終わった。言葉では到底表せない、愛の深度を知ることになるのだろう。胃もたれどころではない甘い夜を過ごし、明日の私の体は全身筋肉痛で目覚めるであろうことは、容易に想像出来たのだった。
「五条くんが好きです」
コーヒーのいい香りが漂う1LDKで、テレビの雑音に混じりながら私の声が天井へ吸い込まれていく。
手土産で買ってきてくれたシュークリームの最後のひとつを頬張りながら、彼は『僕も好きだよ』と、唇の端についたクリームを舌で舐めながら告げた。
相変わらず美味しそうに食べるなぁという感心と同時に、その整った顔立ちにも見惚れてしまう。私に呪力がないからと、たいてい家に入ると目隠しを惜しげもなく取るから、長い睫毛も美しく整った顔立ちも有難いことに独り占めして拝める。贅沢だ。
そして夜遅くに食べる背徳的なスイーツ……こんな時間にティータイムになるのは、五条くんが夜遅く連絡もなく訪ねてくることがあるからだ。本当に突然、やって来る時がある。
――”僕も好きだよ”…なんて、これ以上ない返しをしてくれたのに、腑に落ちないのは何故だろう。彼の口調のせいで、ちょっと軽く聞こえるから?
満点の返事をしてもらって相思相愛、こんなに嬉しい事はないはずなのに。自分は充分、果報者だというのは理解している上で、告げたニュアンスが一体何に似ているのか考えてみた。
…そうだ、まるで“食べ物が好き”みたいな言い方だった。
「……シュークリームが好き的な、ですか」
「はぁ?」
「この世のありとあらゆるものを五条くんか五条くん以外かのカテゴライズをしたら、私とシュークリームは同じカテゴリにいてですね…、すごく大まかに…」
「キミってば昔からいきなり変なこと言うよねぇ」
五条くんほどではないですが…と、内心で呟いて私はキッチンへ移動し、ケトルでお湯を沸かしはじめた。
寝る前に、胃に優しいハーブティーでも飲もう。胃の強さも二十代とは違う。こんな時間にスイーツとコーヒーを飲んだら明日胃もたれてしまう。二十代後半の彼と三十の自分。二歳差のはずだが、十の位が違うだけでその溝は真っ二つに割られた崖のように大きく感じる。最強呪術師の五条くんの肉体年齢は、もはや通常の二十代後半男性のものとは違うし、色々超越してるから比較しようもないのだけれど。
あっという間に湯が沸いたので、まずはティーポットを温めるために湯を注ぐ。湯気がふわっと鼻を掠めたその時、お腹のあたりに手を回された。後ろから抱きしめられてる事に気づくも、五条くんは私が動けないようにガッシリと大きな両手を私のおへその前で交差させている。
「そっちから言っといてサラッと流すなって」
肩のあたりに鼻先をこすりつけて、大柄な男性が子供が甘えてるように私にしがみつく。今日はその手で、何体祓ったのか。逞しい腕もごつごつした手も、私にとっては優しい恋人の一部分だ。今日保たれた平和は、呪術師達が人知れず貢献してるおかげなんだ。私は非術師だけれども、呪術師の存在を知っているからこそ、一日の終わりに眠って過ごせることを日々有難く感じている。
ひとまず、不貞腐れてそうな五条くんをいなさないと。
「ごめんなさい。流したわけじゃなかったんですが…」
「僕の『好き』が軽く聞こえた?伝わってない?」
「そういうわけでは…」
「こんなに愛が重いのに?」
「わっ…お、重っ…!」
突然、ズシリと体重を後ろからかけてきたので思わずつんのめって、シンクの縁を掴んだ。気持ちの問題ではなく、これでは物理的に重たい。ガッシリした五条くんの体を支えられるはずもなく、徐々に態勢が前に沈む。黒い服の上からだとわかりずらいけれど、五条くんは筋肉量がすごいから、結構体重がある。
クックッと喉を鳴らして笑いながら、お腹に添えられていた手は腰のあたりに移動し、彼は私を軽々と持ち上げた。天井が頭につきそうで怖い。
おろして――くれないだろうな。ちょっと怒ってるのかも…。諦めたようにされるがままに腕をダラリと垂らした。こうなったら下ろしてくれるのを待つしかない。目線が高い。シンクの上にある戸棚の白色で、視界が埋め尽くされる。
「そんな感じに区別されるのは最強たる所以だけど、僕だって傷つかないワケじゃないよ。ましてや唯一の恋人にさ……」
自嘲気味の声が背後で響いて、胸がズキンと痛む。彼を傷つけてしまった。誰に区別されたって、恋人にだけはそう思われたくなかったはずだ。口をついて出た例えもカテゴリの話も、とても失礼だったと反省するも、もう遅い。せっかくスイーツを買ってきて任務帰りに寄ってくれたのに。少しでも私と過ごす時間を大事にしたくて来てくれたのに――…
「わたし…、ごめんなさい!五条く――」
持ち上げられたままの態勢で振り返ると、五条くんのニヤリとした意地悪な笑みと目が合った。その瞬間、片手を膝裏に移動してお姫様抱っこのような形で抱え直されたのは、ほんの数秒の出来事だった。
「まぁ確かに、琴音が食べられる運命なのはシュークリームと同じだね」
…しまった。落ち込んだ素振りを見せただけで、五条くんは落ち込んでなかった。全然。
眩しいばかりの美しい笑顔を私に向けると、ゆっくりと寝室へ歩き出した。ハーブティーを飲んで眠る作戦が、あっさりと失敗に終わった。言葉では到底表せない、愛の深度を知ることになるのだろう。胃もたれどころではない甘い夜を過ごし、明日の私の体は全身筋肉痛で目覚めるであろうことは、容易に想像出来たのだった。