企画もの
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夜の観覧車
「テツヤくんが好きだよ」
真冬の夜の観覧車内、唇を交わした後に瞳を開いて目の前の彼に告げた。柔らかく微笑むと、重ねていた手を握り直してテツヤくんは耳元で囁く。
「僕も琴音さんが好きです」
優しい声色、彼が発することで言葉に含まれる想いが増していく。向かい合わせでなく隣り合って座り、触れた肩先が温かい。『好き』と伝えれば同じように返ってくることは分かっていた。内心で、そうして欲しいと願っていた。しかし、一度伝えただけでは足りないような気持ちが、奥底から湧き上がる。伝えても伝えてもキリがないのだろう。
ウィンターカップが終わりテツヤくんの誕生日も過ぎた二月の最後の休日に、二人で遊園地にやって来た。正確には、土日をかけて遊びに来ている。
東京ドームに隣接している遊園地は、駅からも近く一歩出れば通りに面している。昼間は家族連れで賑わっていたであろうこの場所も、夜になるとカップルの姿が多かった。冬で空気が澄んでいる分、園内のイルミネーションは輝いて見えた。
昨夜私たちは、男女間においての体の関係を持つという意味での一線を越えた。お互い初めてだったし破瓜の痛みもあったけど、その分幸せに満ちた時間を過ごした。ちゃんと最後まで出来た…と思う。体を重ねた理由、それは、『ウィンターカップが終わるまではキス以上をしない』という約束が解禁となったからだ。
テツヤくんは高校生でもちろん実家住まい。私は大学生だが祖父母の家で暮らしているから、当初それはどこで…?と戸惑ったものだ。泊まりの旅行でもとテツヤくんは考えてくれていたみたいだけど、偶然にも私がアプリの懸賞で当てたホテル宿泊券によって、旅行の計画は先送りとなり都内に宿泊することになったのだ。何の気なしに応募していた懸賞が役に立つ日が来るとは。
泊まった翌日は9時ぐらいに目が覚め、ホテルでブランチを食べてゆっくり支度を済ませてからチェックアウトし、遊園地にあるカフェでゆっくり過ごした。ショッピングモールも併設されているこの場所は何かと便利だ。雑貨屋やスポーツショップを見て歩いたりして、日が落ちるまではあっという間だ。なんとなく今日は体がダルい事をテツヤくんは察してくれて、デート中も歩く速度がいつもよりスローペースだったりベンチで休み休み歩いたりと、彼の気遣いを感じて有難かった。
――そして私達は、今日の終わりに観覧車に乗っている。
「一歩踏み込んだら何か変わっちゃうのかなってちょっと不安だったの。例えばドキドキが減ったり、とか…。大袈裟かなぁ?」
「いえ、…僕も同じ気持ちです」
少しずつ動いて昇っていくゴンドラは、もうすぐ頂上だ。泊まったホテルが小さく見えて、昨夜のことが頭に過った。あれは夢じゃなかったと、体の重だるさが物語る。思い出したら頬が紅潮してしまうけど、この暗がりなら悟られないだろう。
「あなたの事をすべて知った風になって自惚れる自分がいるんじゃないかと――、でもそれは杞憂でした。ますます好きな気持ちが溢れて、刻一刻と変化してるんです」
「…変化?」
「前よりもっと琴音さんを知りたくなりました」
夜の観覧車はイルミネーションの一部で、一つ前で進むゴンドラの光がテツヤくんの瞳に反射した。キラキラと眩しくて、ふっと力が抜けたように穏やかな笑みに、心拍数が高まっていく。
「僕はこれからも、琴音さんの底知れない魅力に夢中になり続けるんだと思います」
「も、もう…、買いかぶりすぎだよ」
「それはないです。絶対に」
テツヤくんは首を傾げ、真剣な眼差しで私の顔を覗き込んできた。心の底からそう思っていると、正直な気持ちを訴えかけてくる。ガタッと少し揺れて止まったゴンドラ――頂上についた合図だ。
それぞれのゴンドラが観覧車の真上に到着した時、少しの時間だけ止まる時間があると、チケットを買った時に係の人に説明を受けた事を思い出した。
一番高い場所からの夜景を堪能する時間だ。窓から下を覗き込むと、カラフルな明かりで装飾された園内、ビルに反射したピカピカと光る観覧車の色、遠くに見える車や街の灯り…寒い時期に乗ったのは初めてだけれど、冬の観覧車が人気な理由が分かった気がする。
「わぁ…、すごい」
「一望できる特等席ですね」
腰のあたりにテツヤくんの手がさりげなく回され、寄り添う距離がさらに近づいた。きっとゴンドラが動き出したら、今日が終わるのを惜しむように、再びキスを交わすのだろう。多分、そんな雰囲気だから。
「昨日今日と、僕はキレイな光景に感動してばかりです」
「……て…、テツヤくん…っ!!」
意味深なその台詞に、沸々と昇っていた熱が一気に爆発するように名を叫んで、私は彼の頬をゆるく抓った。指先の体温で先ほどから照れてるのがバレてしまう。包み隠さずありのままの気持ちを伝えてくるものだから、恥ずかしさで困ってしまう。その反面、嬉しくもある。私がテツヤくんに心を奪われている証拠だ。
ずっと恋をしているみたいに互いに夢中になる事――それは、まだ見ぬ未来まで続きそうだ。
「テツヤくんが好きだよ」
真冬の夜の観覧車内、唇を交わした後に瞳を開いて目の前の彼に告げた。柔らかく微笑むと、重ねていた手を握り直してテツヤくんは耳元で囁く。
「僕も琴音さんが好きです」
優しい声色、彼が発することで言葉に含まれる想いが増していく。向かい合わせでなく隣り合って座り、触れた肩先が温かい。『好き』と伝えれば同じように返ってくることは分かっていた。内心で、そうして欲しいと願っていた。しかし、一度伝えただけでは足りないような気持ちが、奥底から湧き上がる。伝えても伝えてもキリがないのだろう。
ウィンターカップが終わりテツヤくんの誕生日も過ぎた二月の最後の休日に、二人で遊園地にやって来た。正確には、土日をかけて遊びに来ている。
東京ドームに隣接している遊園地は、駅からも近く一歩出れば通りに面している。昼間は家族連れで賑わっていたであろうこの場所も、夜になるとカップルの姿が多かった。冬で空気が澄んでいる分、園内のイルミネーションは輝いて見えた。
昨夜私たちは、男女間においての体の関係を持つという意味での一線を越えた。お互い初めてだったし破瓜の痛みもあったけど、その分幸せに満ちた時間を過ごした。ちゃんと最後まで出来た…と思う。体を重ねた理由、それは、『ウィンターカップが終わるまではキス以上をしない』という約束が解禁となったからだ。
テツヤくんは高校生でもちろん実家住まい。私は大学生だが祖父母の家で暮らしているから、当初それはどこで…?と戸惑ったものだ。泊まりの旅行でもとテツヤくんは考えてくれていたみたいだけど、偶然にも私がアプリの懸賞で当てたホテル宿泊券によって、旅行の計画は先送りとなり都内に宿泊することになったのだ。何の気なしに応募していた懸賞が役に立つ日が来るとは。
泊まった翌日は9時ぐらいに目が覚め、ホテルでブランチを食べてゆっくり支度を済ませてからチェックアウトし、遊園地にあるカフェでゆっくり過ごした。ショッピングモールも併設されているこの場所は何かと便利だ。雑貨屋やスポーツショップを見て歩いたりして、日が落ちるまではあっという間だ。なんとなく今日は体がダルい事をテツヤくんは察してくれて、デート中も歩く速度がいつもよりスローペースだったりベンチで休み休み歩いたりと、彼の気遣いを感じて有難かった。
――そして私達は、今日の終わりに観覧車に乗っている。
「一歩踏み込んだら何か変わっちゃうのかなってちょっと不安だったの。例えばドキドキが減ったり、とか…。大袈裟かなぁ?」
「いえ、…僕も同じ気持ちです」
少しずつ動いて昇っていくゴンドラは、もうすぐ頂上だ。泊まったホテルが小さく見えて、昨夜のことが頭に過った。あれは夢じゃなかったと、体の重だるさが物語る。思い出したら頬が紅潮してしまうけど、この暗がりなら悟られないだろう。
「あなたの事をすべて知った風になって自惚れる自分がいるんじゃないかと――、でもそれは杞憂でした。ますます好きな気持ちが溢れて、刻一刻と変化してるんです」
「…変化?」
「前よりもっと琴音さんを知りたくなりました」
夜の観覧車はイルミネーションの一部で、一つ前で進むゴンドラの光がテツヤくんの瞳に反射した。キラキラと眩しくて、ふっと力が抜けたように穏やかな笑みに、心拍数が高まっていく。
「僕はこれからも、琴音さんの底知れない魅力に夢中になり続けるんだと思います」
「も、もう…、買いかぶりすぎだよ」
「それはないです。絶対に」
テツヤくんは首を傾げ、真剣な眼差しで私の顔を覗き込んできた。心の底からそう思っていると、正直な気持ちを訴えかけてくる。ガタッと少し揺れて止まったゴンドラ――頂上についた合図だ。
それぞれのゴンドラが観覧車の真上に到着した時、少しの時間だけ止まる時間があると、チケットを買った時に係の人に説明を受けた事を思い出した。
一番高い場所からの夜景を堪能する時間だ。窓から下を覗き込むと、カラフルな明かりで装飾された園内、ビルに反射したピカピカと光る観覧車の色、遠くに見える車や街の灯り…寒い時期に乗ったのは初めてだけれど、冬の観覧車が人気な理由が分かった気がする。
「わぁ…、すごい」
「一望できる特等席ですね」
腰のあたりにテツヤくんの手がさりげなく回され、寄り添う距離がさらに近づいた。きっとゴンドラが動き出したら、今日が終わるのを惜しむように、再びキスを交わすのだろう。多分、そんな雰囲気だから。
「昨日今日と、僕はキレイな光景に感動してばかりです」
「……て…、テツヤくん…っ!!」
意味深なその台詞に、沸々と昇っていた熱が一気に爆発するように名を叫んで、私は彼の頬をゆるく抓った。指先の体温で先ほどから照れてるのがバレてしまう。包み隠さずありのままの気持ちを伝えてくるものだから、恥ずかしさで困ってしまう。その反面、嬉しくもある。私がテツヤくんに心を奪われている証拠だ。
ずっと恋をしているみたいに互いに夢中になる事――それは、まだ見ぬ未来まで続きそうだ。