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Fly Me to the Moon
『ハロウィン』という日が、日本中でもイベントとして定着したのはいつからだったか。本来は、秋の収穫を祝うと共に悪霊を追い払う宗教的な行事だったはずだ。
しかし、この一日限りの御祭りによる経済効果は計り知れない。
お店の飾りつけ、季節限定ハロウィンスイーツやドリンク…街のカラーは10月に入ればオレンジと紫と黒で構成されていく。
渋谷も毎年、仮装した人々で溢れかえりその光景は今や日本の風物詩。警備員が増員され、スクランブル交差点で人の流れを誘導している……と、なんとなく若者のイベントだろうと一歩引いてその様子を毎年ニュースで見ていた。
例え渋谷に用事があったとしても、ハロウィンの日だけは避けなければならないと毎年気を付けていた。誘われても絶対に、行かない。人混みでもみくちゃにされるから。渋谷だけには…、そう渋谷だけには行ってはいけない!と脳内で警鐘を鳴らす。
――しかしハロウィン当日、気づいたら私は六本木のクラブに連れて行かれていた。渋谷じゃないけど、ここは?
□ □ □
六本木――数える程しか来たことがないその場所は、大人が好む大都会だった。クラブミュージックがフロアに響く中、美女二人に囲まれ未だにポカンと口を開けていたが、乾杯の声でハッとして反射的にグラスを掲げた。
ジンジャエールで喉を潤し、間違いなくアルコールが入ってない事に安堵する。数ヶ月前の飲み会で、店員が間違えて持ってきたアルコール入りのカクテルを飲んでお店で即寝してしまった恥ずかしい記憶が過ったからだ。
「ワインいいの揃ってるし、日本酒…え、大吟醸も……硝子、これも?」
「全部頼み放題ですよ。歌姫センパイ」
「やった!今日は飲むわよ!」
拳を高らかに上げて喜ぶ歌姫さんは、おそらく今日もハイペースだろう。家入さんは静かに飲むけど同じくペースの早い酒豪だ。
私はと言うと、ノンアルをちびちびと飲みながら食事を楽しむことに専念…といつも通りになりそうだ。
小さな丸テーブルを半円のソファが囲み、私たち三人は等間隔で座って飲み会を始めていた。いや、飲み会という名の“ハロウィンナイト”だ。何故ならば私たち三人も、周囲の客も店員も、いつもと明らかに変わった装いである。
事の発端は、家入さんが医療関係の知り合いから貰ったというクラブの招待チケットだった。六本木の会員制クラブ、如何にも高給な医者が通ってそうな場所だ。本来、会員もしくはVIP会員の共連れでないとこの店には入店出来ない決まりになっている。
ただ、ハロウィンの招待チケットだけは別で、チケットがあれば一枚で三名まで入れるという一夜限りの特別な日となっていた。チャージ料金を入店時に一人5000円支払えば、飲み放題と軽食付き。普段なら10倍以上は取られるところだし、まず飲み放題なんて普通ない。
……ただし入店には条件があった。女性限定で、来店者全員“仮装”をする事。
『歌姫先輩が任務の前日入りで都内に来るんで、三人で飲みませんか?』――家入さんからそう誘われてもちろんOKした。二人とも私と年齢も近く、まさかハロウィン当日に渋谷で飲むなんて事はないだろうと高を括っていた。あの場所が当日、日本で一番混沌している事は誰もが知っているからだ。
……だが、場所は渋谷でないにしても、しっかり“ハロウィン”している例年とは違う自分がいた。
髪を下して白いナース服に身を包み、赤い口紅が色っぽい家入さん。アイラインをいつもより太くに引いて、ブラウンのアイシャドウで縁を囲むようにぼかしている。テーマはゾンビナースだそうだ。ミステリアスな美しさに目を奪われる。
対して、歌姫さんの装いは可愛らしい魔女。黒の三角帽子の周りには薔薇のコサージュが飾られ、真っ黒のワンピースは袖の部分から透けた総レースになっている。とにかく驚くほど二人とも似合っていた。
ベネチアンマスクをつけたギャルソン服の店員が運んできたワンプレートの前菜には、ナッツやドライフルーツ、チョコレートなどが乗っている。カラフルで居酒屋のお通しのそれとは違う。シャンパン片手にナッツをつまんでいる二人を、私はまじまじと見つめた。
「二人共とっても似合ってます!美人が着るとこうも映えるとは、眼福です…」
「ほんっと気分良く飲ませてくれるのねー。琴音も可愛いわよ!」
「写真撮って五条にも送ってやろう。任務終わりに見て悔しがるはずだろうな」
「タダで見せんの勿体ないわ。売ってやれば?」
「ですね。多分買いますよ、あいつ」
買わないのでは……?そう言いかけて私はグラスを傾けた。シャッター音が微かに聞こえて、飲んでる最中の写真を撮られたことを察したけれど、ワイワイと盛り上がってる二人を止めるのは無粋なのでやめておいた。私も後で二人を撮らせてもらおう。
『飲み会』としか知らされず店の前で待ち合わせしたら仮装の事を聞かされ、やむを得ず家入さんから渡された衣装を今、着ている。
一見、清楚に見える服だが、ロングスカートのスリットがえぐい。付属品についてきた編み上げのコルセットにより胸が強調されるし、レースのガーターベルトも“清楚”とはかけ離れた付属品だった。ベールをかぶりロザリオを身に着け、ほぼ白と黒で構成されシンプルな装い。家入さんが選んでくれたのは随分アレンジされたシスター服だった。
飲み会に誘ってくれた事も嬉しい。六本木のクラブだって来た事なかったし今後の人生で来れる予定もおそらくないだろうから、貴重な機会だ。目の前に美女二人いて、下戸だとしても気分よく飲める。
だた一つ不満があるとすれば――
「スリットが……、これ本来シスター服にないですよね?」
仮装において言ってはいけない“…恥ずかしい”というワードは飲みこんだものの、落ち着かずスリットから覗くガーターベルトを手で隠しながら告げると、家入さんは『仮装はそういうものですから』とクールに返してきた。
「しかし可愛らしい。琴音センセは私の癖に刺さりますよ」
「キョンシー服と迷ってたけど、こっちで正解だったわね」
「……家入さんも歌姫さんも、私が最年長って事忘れてませんか?」
ケラケラと笑って歌姫さんはシャンパンを一気に飲み干した。本当に美味しそうに飲むなぁと羨ましくなるが、飲めない代わりに食事を頂くしかない。下戸だけど塩気があるものは大好きだ。
次々と運ばれてくる食べ物もどれも美味しそう。チーズや生ハム、鯛のカルパッチョやキャビアフラッペやフルーツがテーブルに追加で並べられた。
女性限定のイベントなので、周囲も見渡しても各々仮装を楽しむ女性たちで華やかだ。座れる場所、あったかい室内に、広々ソファ。人混みでなければそれなりに楽しめるんだなとハロウィンの印象が今日で変わったような気がした。
…しかし、こんな世界があるんだ、と新鮮な気持ちになる。またうっかりアルコールを飲まないように気を付けないと。
豪勢なおつまみをあてに、お酒を楽しむ夜は更けていった。
・・・
・・・・・
・・・・・・
入店して一時間半経過した頃、店の入り口付近から色めき立つ声が聞こえた。私たち三人は話が尽きず、自分以外の二人に関してはもう何杯目なのかわからない。ワイン、日本酒、焼酎、カクテルと順繰り飲んでるようだ。
そういえば、受付した時に、店員さんから『今日はスペシャルなおもてなし』の説明を受けた事を思い出した。系列店の人気ナンバーワンホストを呼んで、テーブルを回ってくれるらしい。ホストクラブ体験もできるなんて、行った事がないからどんな感じなんだろうと好奇心でワクワクしてしまう。これをキッカケにハマっていく女性も多そうだ。お店側の客を増やす目論見あっての“イベント価格”や“おもてなし”なのだろう。
入口から遠いこのテーブルに、回って来るまではしばらくはかかるはずだ。ここに載ってないものでも作ってもらえるのかなぁとメニュー表を見ていたら、そこに影がかかった。元々薄暗いフロアなので文字が見づらくなる。気配がしてそちらに振り向く前に、歌姫さんが「ゲェッ!」というカエルが潰れたような声で叫んだ。
影の先――ふと足元を見ると高そうな革靴が目に入り、そのまま上へ上へと視線を移動させていく。
中世の高貴なシャツ、臙脂色のベルベット素材のベストに大きな黒いマント――ヴァンパイアだ。キラキラとした白髪、目の周りを縁取る睫毛は長く、中性的な美しい顔。いつもは下ろしてる前髪も、今日はオールバック風にを髪をかき上げているせいで、整った顔のパーツも口角が上がっている表情もよく見える。
アクアマリンの瞳と視線が交わった瞬間、絶世の美男に息を飲んだ。
「呼んだ?」
マントを翻す姿を座ってる状態で見上げると、身長が本来より高く体格も大きく感じた。今夜は女性限定のはずのこのクラブに、何故か現れたのは、五条くんだった。
「呼んでねェーわ!なんっで居んのよ!」
「うわ、歌姫なにそのカッコ。きっつ!」
「ちょおぉぉ!アンタに言われたくないわよ!」
指さして大笑いする彼に、歌姫さんはソファから立ち上がって掴みかからんばかりに詰め寄り、怒りを露わにしていた。
「さっきの写真、言い値の倍で振り込んできたんでさすがに同情して場所教えちゃいました。まさか任務終わりで来るとは思ってませんでしたけど」
「硝子ォ…っ!」
「いいじゃないですか。歌姫センパイの行きたがってた日本酒の美味い店、この金で明日飲みに行きましょ」
「硝子ォ~~…」
生ハムをつまみながら家入さんが悪びれなく告げた。落とされたりフォローされたりと、歌姫さんの表情がコロコロと変わる。
諦めてソファに座り直すと盛大な溜息をつき、彼女は五条くんを睨みつけた。
「しっかし、よく店に入って来れたわね。今夜は女子客限定よ?」
「そのまま入ろうとしたら『今日の仮装は?』って聞かれたからさ、近くの店でそれっぽい衣装買って着たらすんなり通してくれたよ。別にそのまま入っても良かったけど、折角のハロウィンだからね」
「あの、着てきた服は…?」
「伊地知呼んで渡したよ。ついでにクリーニングも頼んどいた」
「……伊地知の奴、送ってやった挙句また呼ばれて可哀想に」
「すんなり通してくれたって、これから来る予定のナンバーワンホストの方と間違えられてるんじゃないですか?」
「なるほど!ま、間違えるのも無理ないね。僕ってグッドルッキングガイだからさ」
いつもの自画自賛に、“あの店員目ェ腐ってんじゃないの?”と歌姫さんが毒づいて、家入さんが苦笑した。
機嫌良くニコッと笑う五条くんのオーラが今日は一段と違う。格別に眩しい、眩しすぎる。元々スーパーモデルの資質を持った彼が、仮装するだけでこんなにもスペシャル感が出てしまうなんて――、目の当たりにするとあまりにも神々しい。シスターの格好をしてる私は祈りながら溶けそうだった。頬がぽうっと熱くなって、上から下までじっくりと見ていたら自然と誉め言葉が出てしまう。
「…すごくカッコイイです」
「え、なに、もっかい言って?」
「すごくカッコイイですよ、五条くん」
「君も可愛いよ。それ誰が選んだの」
「あ、ありがとうございます…。家入さんが選んでくれました」
「硝子の奴、分かってんなぁ」
うんうんと頷いてる五条くんを前に、家入さんは私のすぐ隣まで近づいて素早くスカートのスリットへ手を入れた。ひんやりした手の温度と大胆な行動に、肩がビクッとなる。私の耳に唇を寄せて家入さんはクスクスと笑った。
「五条の為にやったんじゃないよ。私が琴音センセに悪戯する為だから」
「そうそう、今日は女子会。アンタはお呼びじゃないのよ!ニセホストとして入店してんだから帰れ!」
女子同士なのにドキドキしてしまう。家入さんに言い寄られると陥落せざるを得ない自分が容易に想像できるほど、彼女は色っぽかった。負け時と反対側に歌姫さんも移動してきて、ガッチリと腕を掴まれる。既に酒癖が出ているが美人の魔女に確保され、両手に花のなんとも幸せな状況だ。しかし目の前の煌びやかなヴァンパイア仮装の五条くんもほっとけないところ……みんなで仲良く飲めないものか?
しかし、このお店は今夜は女性限定だったはずだから、男性が居続けるとお店の人から何か言われてしまうかも。本物のホストが来たらいずれバレるだろうし…。
どうしたらいいのかと眉をひそめていたら、五条くんは人差し指で私の眉間をトン、とつっついた。痛くも何ともなかったけど、途端に体に浮遊感を覚える。同時に、見えないバリアが包み込み、両隣でくっついていた女子二人の腕が解かれて私の体は浮き上がる。彼の指が触れたまま、ソファから1メートルほど浮いたところでピタリと止まり、気づけば吸い込まれるように五条くんの腕の中にいて抱きかかえられていた。考えずとも、それは彼の術の一種。
「っ!!」
お姫様抱っこではなく、容易く軽々と体ごと肩に担がれる。まるで人攫いがやる担ぎ方だ。反射的に足をバタバタしたらお尻をぺちぺちと叩かれて、これ以上暴れるとこの場で何かされそうなので大人しくするしかなかった。
「わかったわかった。僕は大人しく帰るよ。じゃーね、硝子、歌姫」
「琴音を連れてくなァァァ!!」
歌姫さんの怒りが爆発し、グラスを五条くんに投げつけてるっぽい音が背後でするが、無下限呪術による防御で当たっていないだろう。その証拠に床で派手に割れる音がした。五条くんが踵を返し私を担いだまま店の外へ向かっていくとき、二人の顔が見えて何とも申し訳ない気持ちになった。家入さんは、シスターがヴァンパイアに攫われる図を完全に面白がっていたようだった。
あぁ、服も鞄もそのまま店に残ったまま、乗って来た車さえコインパーキングに置いたままになってしまった……アーメン。
・・・・・・
店の外に出ると、五条くんは地面をトンッと蹴って宙に浮かんだ。徐々に高度が上がり、高所恐怖症の私は血の気が引いて悲鳴を上げた。
「わ、わた!わっ、わたし、ホントに高いところは…っ!」
「わかってるよ。ほどほどにする。また失神されたら困るからね」
どんどん離れていく地面と向かい合ってる事が恐怖でしかなく肩を震わせていたら、五条くんはしっかりと正面で抱え直した。子供が抱っこされるような態勢になってしまったが、この際しがみつけるなら何でもいい。視線を上げると、彼は満月を背景に私を見つめていた。首筋を嚙まれたら私も吸血鬼になっちゃうのかな……って、怖がりながらも空想に耽ってしまうぐらい、これ以上ない程にヴァンパイアの格好が似合っている。神秘的な瞳の色から目が離せない。宙に浮いてる状況でなけば、もっと落ち着いてその姿を堪能出来たのに。
「僕に内緒で楽しそうなことしてたのは許せないなァ」
「内緒にしてたわけじゃ……っ」
「罰としてちょっとだけ夜間飛行。目ぇ閉じて掴まってて」
ニヤリと意地悪な微笑み。高いの苦手って知ってるくせに。しかし、ここでどんな抗議をしても無駄なことはわかっている。私は五条くんの首にしっかりと腕を回し目を閉じた。
耳に響く風の音も、空気が薄くなっていくようで恐ろしい。落下したらと思うと怖くて堪らない。夜間飛行と称して気分良く空を飛んでる彼とは真逆で、私の心臓はバクバクが止まらなかった。早く足が地面に着きたくて堪らない。
そんな最中、耳元で五条くんの鼻歌が聞こえてくる。メロディはFly Me To The Moon。歌詞は途切れ途切れだけど、透き通った歌声にほんの少しだけ上空にいる恐怖が和らいだ。
「ほら、着いたよ」
柔らかいかけ声を合図に目を開くと、高度が下がっていくのを感じた。――ふわり、と足が地面につく感覚にほっと胸を撫でおろして辺りを見渡すと、そこには360度の夜景が広がっていた。
穏やかな洒落たミュージックが流れるそこは、森タワーのスカイデッキ。六本木中探してもこんなに高いビルはここぐらいだろう。
ヘリポートが中心にあったので、以前テレビの特集でやっていたこの場所がは森タワーだと確信した。
ぐるりと周囲を見渡せば、ビルや街の灯りが宝石の海のように綺麗で見とれてしまう。思わず感嘆の息が漏れた。
「わぁ…すごい…絶景ですね」
「うん、なかなかいいね」
私たち以外にも、カップルやお友達同士、家族連れも居ててやかな空間だ。スカイデッキ自体もライトアップされていて幻想的な青色が人々を包んでいる。ハロウィン当日なだけあってほとんどの人が仮装していた。高層ビルが遮らず、星空が近く感じる。随分、ロマンチックな場所に連れて来れられたなぁ。
予想してなかった光景にうっとりとして、自然と胸の前で手を組むと、まるでお祈りしてるポーズになってしまった。それに気づいた五条くんはクッと喉を鳴らして笑い出す。
「シスター琴音。有料施設に勝手に侵入してる僕らの懺悔?」
「あ、違っ…いえ、確かにそうでした。入場料払ってませんね……どうしましょうか…」
そういえばそうだった。夜景に感動してすっかり忘れていた。ここにいる人たちはちゃんとチケットカウンターで料金を払って登ってきているんだった。
本来のルートで入場せず空から来てしまったけど、今からでも払いに行こうと私が動き出す前に、五条くんは手をしっかり掴んできた。
「夜景は充分。もう行こっか」
そして背後にピタリとくっついて、後ろから私の体ごと真っ黒なマントですっぽりと包む。まるでカーテンのように長く、二人羽織してるみたいだ。周りに見えないのをいいことにそのマントの中で、五条くんはスカートのスリットに手を伸ばす。太ももをなぞる指先に鳥肌が立ち、ガーターベルトに指を差し込まれた瞬間、一拍おいてその言葉の意味を理解して顔が火照り出した。二人きりになれる場所に行こう……って事だ。
「お互いこんな仮装してんなら、楽しまないと損でしょ」
耳元で優しく囁かれ、これはもう抗う術無しと覚悟して私はゆっくりと頷いた。ずるい人だ。自分の見た目の良さもわかってて口説いてくるなんて。頰が熱くなっててクラクラしてしまう。
ちょうどお祈りのポーズのまま固まっていたので、とりあえず祈っておく。
――神よ、五条くんに強請られたらなんだかんだと許してしまう自分の甘さを許して下さい。
特に今夜の彼は、あまりにも素敵過ぎる。いつも通り強引に連れて来られたけれど、目隠しもなく美しさを100%放出している今夜の五条くんの前では、私のちっぽけな理性など砂と化すのだった。
『ハロウィン』という日が、日本中でもイベントとして定着したのはいつからだったか。本来は、秋の収穫を祝うと共に悪霊を追い払う宗教的な行事だったはずだ。
しかし、この一日限りの御祭りによる経済効果は計り知れない。
お店の飾りつけ、季節限定ハロウィンスイーツやドリンク…街のカラーは10月に入ればオレンジと紫と黒で構成されていく。
渋谷も毎年、仮装した人々で溢れかえりその光景は今や日本の風物詩。警備員が増員され、スクランブル交差点で人の流れを誘導している……と、なんとなく若者のイベントだろうと一歩引いてその様子を毎年ニュースで見ていた。
例え渋谷に用事があったとしても、ハロウィンの日だけは避けなければならないと毎年気を付けていた。誘われても絶対に、行かない。人混みでもみくちゃにされるから。渋谷だけには…、そう渋谷だけには行ってはいけない!と脳内で警鐘を鳴らす。
――しかしハロウィン当日、気づいたら私は六本木のクラブに連れて行かれていた。渋谷じゃないけど、ここは?
□ □ □
六本木――数える程しか来たことがないその場所は、大人が好む大都会だった。クラブミュージックがフロアに響く中、美女二人に囲まれ未だにポカンと口を開けていたが、乾杯の声でハッとして反射的にグラスを掲げた。
ジンジャエールで喉を潤し、間違いなくアルコールが入ってない事に安堵する。数ヶ月前の飲み会で、店員が間違えて持ってきたアルコール入りのカクテルを飲んでお店で即寝してしまった恥ずかしい記憶が過ったからだ。
「ワインいいの揃ってるし、日本酒…え、大吟醸も……硝子、これも?」
「全部頼み放題ですよ。歌姫センパイ」
「やった!今日は飲むわよ!」
拳を高らかに上げて喜ぶ歌姫さんは、おそらく今日もハイペースだろう。家入さんは静かに飲むけど同じくペースの早い酒豪だ。
私はと言うと、ノンアルをちびちびと飲みながら食事を楽しむことに専念…といつも通りになりそうだ。
小さな丸テーブルを半円のソファが囲み、私たち三人は等間隔で座って飲み会を始めていた。いや、飲み会という名の“ハロウィンナイト”だ。何故ならば私たち三人も、周囲の客も店員も、いつもと明らかに変わった装いである。
事の発端は、家入さんが医療関係の知り合いから貰ったというクラブの招待チケットだった。六本木の会員制クラブ、如何にも高給な医者が通ってそうな場所だ。本来、会員もしくはVIP会員の共連れでないとこの店には入店出来ない決まりになっている。
ただ、ハロウィンの招待チケットだけは別で、チケットがあれば一枚で三名まで入れるという一夜限りの特別な日となっていた。チャージ料金を入店時に一人5000円支払えば、飲み放題と軽食付き。普段なら10倍以上は取られるところだし、まず飲み放題なんて普通ない。
……ただし入店には条件があった。女性限定で、来店者全員“仮装”をする事。
『歌姫先輩が任務の前日入りで都内に来るんで、三人で飲みませんか?』――家入さんからそう誘われてもちろんOKした。二人とも私と年齢も近く、まさかハロウィン当日に渋谷で飲むなんて事はないだろうと高を括っていた。あの場所が当日、日本で一番混沌している事は誰もが知っているからだ。
……だが、場所は渋谷でないにしても、しっかり“ハロウィン”している例年とは違う自分がいた。
髪を下して白いナース服に身を包み、赤い口紅が色っぽい家入さん。アイラインをいつもより太くに引いて、ブラウンのアイシャドウで縁を囲むようにぼかしている。テーマはゾンビナースだそうだ。ミステリアスな美しさに目を奪われる。
対して、歌姫さんの装いは可愛らしい魔女。黒の三角帽子の周りには薔薇のコサージュが飾られ、真っ黒のワンピースは袖の部分から透けた総レースになっている。とにかく驚くほど二人とも似合っていた。
ベネチアンマスクをつけたギャルソン服の店員が運んできたワンプレートの前菜には、ナッツやドライフルーツ、チョコレートなどが乗っている。カラフルで居酒屋のお通しのそれとは違う。シャンパン片手にナッツをつまんでいる二人を、私はまじまじと見つめた。
「二人共とっても似合ってます!美人が着るとこうも映えるとは、眼福です…」
「ほんっと気分良く飲ませてくれるのねー。琴音も可愛いわよ!」
「写真撮って五条にも送ってやろう。任務終わりに見て悔しがるはずだろうな」
「タダで見せんの勿体ないわ。売ってやれば?」
「ですね。多分買いますよ、あいつ」
買わないのでは……?そう言いかけて私はグラスを傾けた。シャッター音が微かに聞こえて、飲んでる最中の写真を撮られたことを察したけれど、ワイワイと盛り上がってる二人を止めるのは無粋なのでやめておいた。私も後で二人を撮らせてもらおう。
『飲み会』としか知らされず店の前で待ち合わせしたら仮装の事を聞かされ、やむを得ず家入さんから渡された衣装を今、着ている。
一見、清楚に見える服だが、ロングスカートのスリットがえぐい。付属品についてきた編み上げのコルセットにより胸が強調されるし、レースのガーターベルトも“清楚”とはかけ離れた付属品だった。ベールをかぶりロザリオを身に着け、ほぼ白と黒で構成されシンプルな装い。家入さんが選んでくれたのは随分アレンジされたシスター服だった。
飲み会に誘ってくれた事も嬉しい。六本木のクラブだって来た事なかったし今後の人生で来れる予定もおそらくないだろうから、貴重な機会だ。目の前に美女二人いて、下戸だとしても気分よく飲める。
だた一つ不満があるとすれば――
「スリットが……、これ本来シスター服にないですよね?」
仮装において言ってはいけない“…恥ずかしい”というワードは飲みこんだものの、落ち着かずスリットから覗くガーターベルトを手で隠しながら告げると、家入さんは『仮装はそういうものですから』とクールに返してきた。
「しかし可愛らしい。琴音センセは私の癖に刺さりますよ」
「キョンシー服と迷ってたけど、こっちで正解だったわね」
「……家入さんも歌姫さんも、私が最年長って事忘れてませんか?」
ケラケラと笑って歌姫さんはシャンパンを一気に飲み干した。本当に美味しそうに飲むなぁと羨ましくなるが、飲めない代わりに食事を頂くしかない。下戸だけど塩気があるものは大好きだ。
次々と運ばれてくる食べ物もどれも美味しそう。チーズや生ハム、鯛のカルパッチョやキャビアフラッペやフルーツがテーブルに追加で並べられた。
女性限定のイベントなので、周囲も見渡しても各々仮装を楽しむ女性たちで華やかだ。座れる場所、あったかい室内に、広々ソファ。人混みでなければそれなりに楽しめるんだなとハロウィンの印象が今日で変わったような気がした。
…しかし、こんな世界があるんだ、と新鮮な気持ちになる。またうっかりアルコールを飲まないように気を付けないと。
豪勢なおつまみをあてに、お酒を楽しむ夜は更けていった。
・・・
・・・・・
・・・・・・
入店して一時間半経過した頃、店の入り口付近から色めき立つ声が聞こえた。私たち三人は話が尽きず、自分以外の二人に関してはもう何杯目なのかわからない。ワイン、日本酒、焼酎、カクテルと順繰り飲んでるようだ。
そういえば、受付した時に、店員さんから『今日はスペシャルなおもてなし』の説明を受けた事を思い出した。系列店の人気ナンバーワンホストを呼んで、テーブルを回ってくれるらしい。ホストクラブ体験もできるなんて、行った事がないからどんな感じなんだろうと好奇心でワクワクしてしまう。これをキッカケにハマっていく女性も多そうだ。お店側の客を増やす目論見あっての“イベント価格”や“おもてなし”なのだろう。
入口から遠いこのテーブルに、回って来るまではしばらくはかかるはずだ。ここに載ってないものでも作ってもらえるのかなぁとメニュー表を見ていたら、そこに影がかかった。元々薄暗いフロアなので文字が見づらくなる。気配がしてそちらに振り向く前に、歌姫さんが「ゲェッ!」というカエルが潰れたような声で叫んだ。
影の先――ふと足元を見ると高そうな革靴が目に入り、そのまま上へ上へと視線を移動させていく。
中世の高貴なシャツ、臙脂色のベルベット素材のベストに大きな黒いマント――ヴァンパイアだ。キラキラとした白髪、目の周りを縁取る睫毛は長く、中性的な美しい顔。いつもは下ろしてる前髪も、今日はオールバック風にを髪をかき上げているせいで、整った顔のパーツも口角が上がっている表情もよく見える。
アクアマリンの瞳と視線が交わった瞬間、絶世の美男に息を飲んだ。
「呼んだ?」
マントを翻す姿を座ってる状態で見上げると、身長が本来より高く体格も大きく感じた。今夜は女性限定のはずのこのクラブに、何故か現れたのは、五条くんだった。
「呼んでねェーわ!なんっで居んのよ!」
「うわ、歌姫なにそのカッコ。きっつ!」
「ちょおぉぉ!アンタに言われたくないわよ!」
指さして大笑いする彼に、歌姫さんはソファから立ち上がって掴みかからんばかりに詰め寄り、怒りを露わにしていた。
「さっきの写真、言い値の倍で振り込んできたんでさすがに同情して場所教えちゃいました。まさか任務終わりで来るとは思ってませんでしたけど」
「硝子ォ…っ!」
「いいじゃないですか。歌姫センパイの行きたがってた日本酒の美味い店、この金で明日飲みに行きましょ」
「硝子ォ~~…」
生ハムをつまみながら家入さんが悪びれなく告げた。落とされたりフォローされたりと、歌姫さんの表情がコロコロと変わる。
諦めてソファに座り直すと盛大な溜息をつき、彼女は五条くんを睨みつけた。
「しっかし、よく店に入って来れたわね。今夜は女子客限定よ?」
「そのまま入ろうとしたら『今日の仮装は?』って聞かれたからさ、近くの店でそれっぽい衣装買って着たらすんなり通してくれたよ。別にそのまま入っても良かったけど、折角のハロウィンだからね」
「あの、着てきた服は…?」
「伊地知呼んで渡したよ。ついでにクリーニングも頼んどいた」
「……伊地知の奴、送ってやった挙句また呼ばれて可哀想に」
「すんなり通してくれたって、これから来る予定のナンバーワンホストの方と間違えられてるんじゃないですか?」
「なるほど!ま、間違えるのも無理ないね。僕ってグッドルッキングガイだからさ」
いつもの自画自賛に、“あの店員目ェ腐ってんじゃないの?”と歌姫さんが毒づいて、家入さんが苦笑した。
機嫌良くニコッと笑う五条くんのオーラが今日は一段と違う。格別に眩しい、眩しすぎる。元々スーパーモデルの資質を持った彼が、仮装するだけでこんなにもスペシャル感が出てしまうなんて――、目の当たりにするとあまりにも神々しい。シスターの格好をしてる私は祈りながら溶けそうだった。頬がぽうっと熱くなって、上から下までじっくりと見ていたら自然と誉め言葉が出てしまう。
「…すごくカッコイイです」
「え、なに、もっかい言って?」
「すごくカッコイイですよ、五条くん」
「君も可愛いよ。それ誰が選んだの」
「あ、ありがとうございます…。家入さんが選んでくれました」
「硝子の奴、分かってんなぁ」
うんうんと頷いてる五条くんを前に、家入さんは私のすぐ隣まで近づいて素早くスカートのスリットへ手を入れた。ひんやりした手の温度と大胆な行動に、肩がビクッとなる。私の耳に唇を寄せて家入さんはクスクスと笑った。
「五条の為にやったんじゃないよ。私が琴音センセに悪戯する為だから」
「そうそう、今日は女子会。アンタはお呼びじゃないのよ!ニセホストとして入店してんだから帰れ!」
女子同士なのにドキドキしてしまう。家入さんに言い寄られると陥落せざるを得ない自分が容易に想像できるほど、彼女は色っぽかった。負け時と反対側に歌姫さんも移動してきて、ガッチリと腕を掴まれる。既に酒癖が出ているが美人の魔女に確保され、両手に花のなんとも幸せな状況だ。しかし目の前の煌びやかなヴァンパイア仮装の五条くんもほっとけないところ……みんなで仲良く飲めないものか?
しかし、このお店は今夜は女性限定だったはずだから、男性が居続けるとお店の人から何か言われてしまうかも。本物のホストが来たらいずれバレるだろうし…。
どうしたらいいのかと眉をひそめていたら、五条くんは人差し指で私の眉間をトン、とつっついた。痛くも何ともなかったけど、途端に体に浮遊感を覚える。同時に、見えないバリアが包み込み、両隣でくっついていた女子二人の腕が解かれて私の体は浮き上がる。彼の指が触れたまま、ソファから1メートルほど浮いたところでピタリと止まり、気づけば吸い込まれるように五条くんの腕の中にいて抱きかかえられていた。考えずとも、それは彼の術の一種。
「っ!!」
お姫様抱っこではなく、容易く軽々と体ごと肩に担がれる。まるで人攫いがやる担ぎ方だ。反射的に足をバタバタしたらお尻をぺちぺちと叩かれて、これ以上暴れるとこの場で何かされそうなので大人しくするしかなかった。
「わかったわかった。僕は大人しく帰るよ。じゃーね、硝子、歌姫」
「琴音を連れてくなァァァ!!」
歌姫さんの怒りが爆発し、グラスを五条くんに投げつけてるっぽい音が背後でするが、無下限呪術による防御で当たっていないだろう。その証拠に床で派手に割れる音がした。五条くんが踵を返し私を担いだまま店の外へ向かっていくとき、二人の顔が見えて何とも申し訳ない気持ちになった。家入さんは、シスターがヴァンパイアに攫われる図を完全に面白がっていたようだった。
あぁ、服も鞄もそのまま店に残ったまま、乗って来た車さえコインパーキングに置いたままになってしまった……アーメン。
・・・・・・
店の外に出ると、五条くんは地面をトンッと蹴って宙に浮かんだ。徐々に高度が上がり、高所恐怖症の私は血の気が引いて悲鳴を上げた。
「わ、わた!わっ、わたし、ホントに高いところは…っ!」
「わかってるよ。ほどほどにする。また失神されたら困るからね」
どんどん離れていく地面と向かい合ってる事が恐怖でしかなく肩を震わせていたら、五条くんはしっかりと正面で抱え直した。子供が抱っこされるような態勢になってしまったが、この際しがみつけるなら何でもいい。視線を上げると、彼は満月を背景に私を見つめていた。首筋を嚙まれたら私も吸血鬼になっちゃうのかな……って、怖がりながらも空想に耽ってしまうぐらい、これ以上ない程にヴァンパイアの格好が似合っている。神秘的な瞳の色から目が離せない。宙に浮いてる状況でなけば、もっと落ち着いてその姿を堪能出来たのに。
「僕に内緒で楽しそうなことしてたのは許せないなァ」
「内緒にしてたわけじゃ……っ」
「罰としてちょっとだけ夜間飛行。目ぇ閉じて掴まってて」
ニヤリと意地悪な微笑み。高いの苦手って知ってるくせに。しかし、ここでどんな抗議をしても無駄なことはわかっている。私は五条くんの首にしっかりと腕を回し目を閉じた。
耳に響く風の音も、空気が薄くなっていくようで恐ろしい。落下したらと思うと怖くて堪らない。夜間飛行と称して気分良く空を飛んでる彼とは真逆で、私の心臓はバクバクが止まらなかった。早く足が地面に着きたくて堪らない。
そんな最中、耳元で五条くんの鼻歌が聞こえてくる。メロディはFly Me To The Moon。歌詞は途切れ途切れだけど、透き通った歌声にほんの少しだけ上空にいる恐怖が和らいだ。
「ほら、着いたよ」
柔らかいかけ声を合図に目を開くと、高度が下がっていくのを感じた。――ふわり、と足が地面につく感覚にほっと胸を撫でおろして辺りを見渡すと、そこには360度の夜景が広がっていた。
穏やかな洒落たミュージックが流れるそこは、森タワーのスカイデッキ。六本木中探してもこんなに高いビルはここぐらいだろう。
ヘリポートが中心にあったので、以前テレビの特集でやっていたこの場所がは森タワーだと確信した。
ぐるりと周囲を見渡せば、ビルや街の灯りが宝石の海のように綺麗で見とれてしまう。思わず感嘆の息が漏れた。
「わぁ…すごい…絶景ですね」
「うん、なかなかいいね」
私たち以外にも、カップルやお友達同士、家族連れも居ててやかな空間だ。スカイデッキ自体もライトアップされていて幻想的な青色が人々を包んでいる。ハロウィン当日なだけあってほとんどの人が仮装していた。高層ビルが遮らず、星空が近く感じる。随分、ロマンチックな場所に連れて来れられたなぁ。
予想してなかった光景にうっとりとして、自然と胸の前で手を組むと、まるでお祈りしてるポーズになってしまった。それに気づいた五条くんはクッと喉を鳴らして笑い出す。
「シスター琴音。有料施設に勝手に侵入してる僕らの懺悔?」
「あ、違っ…いえ、確かにそうでした。入場料払ってませんね……どうしましょうか…」
そういえばそうだった。夜景に感動してすっかり忘れていた。ここにいる人たちはちゃんとチケットカウンターで料金を払って登ってきているんだった。
本来のルートで入場せず空から来てしまったけど、今からでも払いに行こうと私が動き出す前に、五条くんは手をしっかり掴んできた。
「夜景は充分。もう行こっか」
そして背後にピタリとくっついて、後ろから私の体ごと真っ黒なマントですっぽりと包む。まるでカーテンのように長く、二人羽織してるみたいだ。周りに見えないのをいいことにそのマントの中で、五条くんはスカートのスリットに手を伸ばす。太ももをなぞる指先に鳥肌が立ち、ガーターベルトに指を差し込まれた瞬間、一拍おいてその言葉の意味を理解して顔が火照り出した。二人きりになれる場所に行こう……って事だ。
「お互いこんな仮装してんなら、楽しまないと損でしょ」
耳元で優しく囁かれ、これはもう抗う術無しと覚悟して私はゆっくりと頷いた。ずるい人だ。自分の見た目の良さもわかってて口説いてくるなんて。頰が熱くなっててクラクラしてしまう。
ちょうどお祈りのポーズのまま固まっていたので、とりあえず祈っておく。
――神よ、五条くんに強請られたらなんだかんだと許してしまう自分の甘さを許して下さい。
特に今夜の彼は、あまりにも素敵過ぎる。いつも通り強引に連れて来られたけれど、目隠しもなく美しさを100%放出している今夜の五条くんの前では、私のちっぽけな理性など砂と化すのだった。