企画もの
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君の為のチェレステ
暑い暑くて今にも溶けちまいそうだ。
つむじからじわりと汗が滲んで、ダラダラと汗が垂れてくる。目に入る汗が鬱陶しい。
……クッソ!夏に合宿やんなよなァ、暑ィからァ!
海の近くの合宿所を借りて自転車競技部強化合宿が行われた最終日――ラストは足腰強化のための砂浜ダッシュだった。おい、なんでこれが締めなんだヨ。誰かツッコメよ。心の中の嘆きも空しく問答無用で俺たちは走ってる。海水浴場ではしゃいでる客を尻目に、だ。
合宿最終日は午前中で解散っつーから、最後にロードでひとっ走り出来んのかと思ったらコレだ。体力アップのトレーニングも必要だってわかってっから文句は言わねェけど、海で遊んでる奴らの横を行儀よく一列になって走ってると賑やかな声も耳障りだ。ンな暑いのに海なんかでよぉ、遊びやがって。くっだらねぇ。
しかしやってみると、思っていた以上に砂浜で走ると足が重く感じる。こりゃ確かに足腰の強化には最適なのか?午前解散なら、俺はこのランニングが終わったらさっさと愛車で寮まで戻ってシャワー浴びてとりあえず一休みしてェ。
「靖友。水着はもちろん持ってきてるよな?せっかくだから午後は海で遊ぼうぜ」
突然、並走してきた新開が唐突に突拍子もない提案をしてきた。暑さで頭がやられたのかと思った。もともと体力アップのために遠泳予定だったのが砂浜ランニングに変更されたわけだから、水着は、ある。だから、どうしたっつーの。俺ァ指示された持ち物リストの中に載ってたから持ってきただけだ。
「バァカ、行くワケ――」
「琴音も誘ったらOKだってさ」
「はぁ!?勝手に誘ってンじゃネェ!」
「午後は遊べるかもって水着は持って来てたみたいだぞ?気になるなら靖友も来ればいいだろ」
「………」
一瞬の沈黙。返事の代わりに睨み返せば、新開は走りながら俺の顔を見て笑っていた。不愉快だったので肩にパンチを食らわせてやった。何もかも見透かして笑われてる気がして不愉快だった。
俺と汐見の関係は、付き合ってるフリをしてる部内カップルだった。そもそも部員の一人があいつに言い寄って迫ったのがキッカケだ。“マネージャー”として優しくするあいつの意思とは関係なしに、勘違いしちまう野郎が部員の中にチラホラいればいつかは部内トラブルにもなり兼ねない。たまたま後輩から言い寄られている現場に居合わせた俺が咄嗟に『人の女口説いてんなよ』って嘘をついちまった事が全ての始まり。この嘘で誰かを守れりゃそれでよかった。汐見はもともと福ちゃんの幼馴染だし、ナンつーか、ほっとけネェ。あぶなっかしくて。
最初は――そこに特別な感情などなかったはずだったが、あいつと関わるうちにいとも簡単に心が掴まれた。俺からの告白を機にホントに付き合う事になって、一ヶ月が経とうとしている。
傍から見れば、汐見を見つめる視線に色でもついてんだろなァ。だから俺を釣ってくるような言葉を投げたんだろ。
――『琴音も誘ったらOKだってさ』
つか、余計な世話焼いてんじゃねーヨ。浮かれて海で遊ぶなんざ性に合わねー事できっかよ。しかも大勢居る前で。
悶々と頭の中で考えてるうちに砂浜ランニングが終わり、合宿所の前で整列して監督から締めの挨拶がって解散となった。
もともとこの合宿所は神奈川県にある。バスで来たヤツ、ロードで来たヤツ、各々で現地集合だった為、解散後も各々に散っていく。結局大半の部員らは……海で遊ぶらしい。新開が物言いたげにジッと見てきたので、思わず舌打ちした。
・・・
・・・・・
・・・・・・
そんで結局は来ちまった…海に。釣られた俺もたいがいバカだ。
男は着替えるのが早い。解散後、もう泳いでるやつもいれば海の家で何か食ってるヤツやビーチバレーをはじめたヤツもいた。葦木場・真波ペアVS黒田・泉田ペアではじまった試合だが、どう見ても一人だけ身長がチートなヤツがいるんだが…ありゃ勝負になんのか?
汐見を誘った当の本人である新開は、『寿一と軽く泳いでくる』っつって海に行っちまったし…あんの無責任ヤロー。後で覚えてやがれ。
俺はやることもなく、パラソルの下でボケッとバレーボールなんざ眺めて汐見を待ってるワケだが。照りつける太陽の下でも日陰の下だと随分楽だ。前の俺だったら海なんて、誘われても来なかっただろう。
顎の下の汗を手の甲で拭いながら、何か冷たいもんでも買ってくっかと立ち上がった瞬間、視界にとらえた一人の人物。
「荒北くーん!ベプシ買ってきたよ!」
水着姿の汐見が歩きながら、右手にはベプシを、左手で俺にひらひらと手を振って近づいてきた。真夏の夢?って思ったけど…違ェ。ちゃんと生身だ。
白いパーカーを羽織っているにも関わらず、肌の白さが遠目でも充分わかった。パーカーのジッパーが全開になっているのでそこから見える水着の色。上下とも、見慣れたカラー。俺の相棒・ビアンキのカラーと同じ色だった。
チェレステカラーに、縁は黒いレースの装飾のビキニだ。直視してる間、瞬きも忘れて体が硬直していた。
…うる、うるせェ。心臓がうるせェ。加速しすぎて急に止まっちまったらどうすんだ。鳴り止めと願っても、バクバクと口から飛び出さんばかりに心臓が鼓動していた。青臭すぎる自分が嫌になるが、せめて動揺は隠したい。自分の彼女が、自分の好きな色を身にまとった時の破壊力は、かなりヤバイってこと、生まれて初めて知った。
「はい、冷えてたのが売ってたから。合宿おつかれさま」
「お、おう、あんがと」
いよいよ水着姿の汐見が目前まで来て、まったく動揺を隠せなかった。視線は泳ぐもバッチリ…見てしまうのは男の性。ビキニから覗く谷間は、汐見は着やせするタイプだという証拠。
チェレステカラーに映える白い肌は触ればどこもかしこも柔らかそうだ。触りたくても触れない。既に正式に付き合ってるとは言え、インハイに集中するためにとキス以上はしないっつー…今時にしては清いルールで俺たちは過ごしていた。だから、ここまで肌を露出した汐見を目の当たりにするのは初めてだった。
冷えたペプシが喉を通るも、いつもより美味さがわかんネェ。味がしねェ。五感の集中力、全部視覚にもってかれてンのか。
「あー…」
頭をガシガシとかきながら視線を足元に向けた。
幸いパラソルの下には俺たちしかいねェし、近くで遊んでる後輩らはいるけど、騒がしくしてるから周りに聞かれることもないだろう。出てこい、喉から一言。
「……似合ってんヨ、それ」
「ほんと?よかったぁ。この色見たときね、荒北くんのビアンキ思い出して、ついつい買っちゃったんだ」
照れくさそうに笑う汐見は太陽よりも眩しい――なんつーポエミーな事は絶対に口に出せるはずもないが、その例えは決して大袈裟なワケじゃネェ。そんでもって、とんでもなく可愛いことを言ってくれてる。愛おしさで胸が詰まりそうだ。
いつまでもパラソルの下にいても仕方ないので、何か食うか、泳ぐか、ビーチバレーに混ざるか…いや、でも汐見の水着姿を他のヤツに近くで見せたくねぇし、バレーは色々…動くと揺れるし、マズイ気がする。
俺から切り出す前に「とりあえず暑いし泳ぎたいね」と、汐見はキッカケを作ってくれた。気にせず目の前でパーカーを脱ぎはじめる姿をは妙にエロい。普段、服で隠されてる部分を今日は曝け出してるワケだ。背中、腹、二の腕、太もも…水着ってほぼ下着みたいなもんだ、形的には。これ以上考えたら沸騰しちまいそうだ。早く海に入って涼んで煩悩を沈めてェと俺は切に願った。
――その時。
ビュオッと、風を切るかのような速い音。
「どこ打ってんだバカッ!」
背後で黒田の怒声が聞こえた直後、俺の後頭部は“何か”にガツンッと勢いよくぶつけられた。
イッテェ!と唸る暇もなく不意打ちとばかりに与えられた衝撃で踏ん張りが弱くなって前のめりによろけた。
「あぶないっ!」
慌てて抱きとめようと前へ踏み出た汐見の胸の谷間に、俺の鼻先が埋まる。
………埋ま…っ?
はぁ?
咄嗟に前に出た俺の両手がチェレステの水着ごしに汐見の両胸をガッシリと掴んでいた。目前にチェレステと白い肌。
指先にぽよんとしたマシュマロの感触。一瞬、今、何が起こったのか理解できず、3秒ばかりそのままの体勢で身体が固まる。
「うわあああアァァァァ悪ィっっ!!」
「こっ、転ばなくてよかったね!」
ドバッと全身から汗を吹きだしながら後ずさって素早く俺は汐見から離れた。日陰の中でもわかるぐらいお互い顔を真っ赤にして俯いた。目が合わせらんねぇ。全身が熱い。触った、触っちまった。手にピッタリと吸い付くみたいな感触だった。
こんな事態にしたのも全部アイツらのせいだ。振り返ってギッと睨むと、葦木場や黒田たちがぞろぞろと俺らの方に謝りながら小走りで駆け寄ってきた。おそらく俺が汐見の胸の谷間に顔面ドボン!しちまったのを見たんだろう。葦木場も黒田も泉田もどこか見ちゃいけないもんを見たって、気恥ずかしそうだった。黒田が涙目なのは、気のせいか。
「打ったの、オ、オレです…!すいません、荒北さん、汐見先輩…!」
「葦木場ァ!てめっ、このノーコンがぁ!」
「すっ、すいません!」
頭を深々と下げる葦木場、隣で一緒に謝る黒田と泉田…この三人とは態度が違う奴が一人いる。不思議ちゃん真波はひとりだけヘラヘラと笑っている。そして笑いながら予想通りくだらねぇことを抜かした。
「でも荒北さん、ラッキーでしたね。おっぱい触っても彼女だから怒られたりしないんですよね?いいなぁ。俺も触りたいなァ」
「誰が触らせるかボケナスがァ!」
無言で真波の頭をガシガシと触ってボサボサにしてやった。だがコイツが言った“ラッキー”というのは否定できない。どう考えても俺にとっては得な出来事だったからだ。
「オメーら、もう邪魔すんなよ?」
出来るだけいつもの声色で告げると、俺は汐見の手を掴んで海へ向かって歩き出す。今、俺がどんな顔してんのか、こいつがどんな顔してんのか確かめる術もねェけど、きっとゆでダコみたいな顔色になってるはず。顔つけて熱を冷やすにゃ冷たい海が最適だろ。
…しっかしなぁ、インハイ前にこんなひと夏の思い出作っちまって、運を使い果たしちまったような気がしてならねんだけどォ?
暑い暑くて今にも溶けちまいそうだ。
つむじからじわりと汗が滲んで、ダラダラと汗が垂れてくる。目に入る汗が鬱陶しい。
……クッソ!夏に合宿やんなよなァ、暑ィからァ!
海の近くの合宿所を借りて自転車競技部強化合宿が行われた最終日――ラストは足腰強化のための砂浜ダッシュだった。おい、なんでこれが締めなんだヨ。誰かツッコメよ。心の中の嘆きも空しく問答無用で俺たちは走ってる。海水浴場ではしゃいでる客を尻目に、だ。
合宿最終日は午前中で解散っつーから、最後にロードでひとっ走り出来んのかと思ったらコレだ。体力アップのトレーニングも必要だってわかってっから文句は言わねェけど、海で遊んでる奴らの横を行儀よく一列になって走ってると賑やかな声も耳障りだ。ンな暑いのに海なんかでよぉ、遊びやがって。くっだらねぇ。
しかしやってみると、思っていた以上に砂浜で走ると足が重く感じる。こりゃ確かに足腰の強化には最適なのか?午前解散なら、俺はこのランニングが終わったらさっさと愛車で寮まで戻ってシャワー浴びてとりあえず一休みしてェ。
「靖友。水着はもちろん持ってきてるよな?せっかくだから午後は海で遊ぼうぜ」
突然、並走してきた新開が唐突に突拍子もない提案をしてきた。暑さで頭がやられたのかと思った。もともと体力アップのために遠泳予定だったのが砂浜ランニングに変更されたわけだから、水着は、ある。だから、どうしたっつーの。俺ァ指示された持ち物リストの中に載ってたから持ってきただけだ。
「バァカ、行くワケ――」
「琴音も誘ったらOKだってさ」
「はぁ!?勝手に誘ってンじゃネェ!」
「午後は遊べるかもって水着は持って来てたみたいだぞ?気になるなら靖友も来ればいいだろ」
「………」
一瞬の沈黙。返事の代わりに睨み返せば、新開は走りながら俺の顔を見て笑っていた。不愉快だったので肩にパンチを食らわせてやった。何もかも見透かして笑われてる気がして不愉快だった。
俺と汐見の関係は、付き合ってるフリをしてる部内カップルだった。そもそも部員の一人があいつに言い寄って迫ったのがキッカケだ。“マネージャー”として優しくするあいつの意思とは関係なしに、勘違いしちまう野郎が部員の中にチラホラいればいつかは部内トラブルにもなり兼ねない。たまたま後輩から言い寄られている現場に居合わせた俺が咄嗟に『人の女口説いてんなよ』って嘘をついちまった事が全ての始まり。この嘘で誰かを守れりゃそれでよかった。汐見はもともと福ちゃんの幼馴染だし、ナンつーか、ほっとけネェ。あぶなっかしくて。
最初は――そこに特別な感情などなかったはずだったが、あいつと関わるうちにいとも簡単に心が掴まれた。俺からの告白を機にホントに付き合う事になって、一ヶ月が経とうとしている。
傍から見れば、汐見を見つめる視線に色でもついてんだろなァ。だから俺を釣ってくるような言葉を投げたんだろ。
――『琴音も誘ったらOKだってさ』
つか、余計な世話焼いてんじゃねーヨ。浮かれて海で遊ぶなんざ性に合わねー事できっかよ。しかも大勢居る前で。
悶々と頭の中で考えてるうちに砂浜ランニングが終わり、合宿所の前で整列して監督から締めの挨拶がって解散となった。
もともとこの合宿所は神奈川県にある。バスで来たヤツ、ロードで来たヤツ、各々で現地集合だった為、解散後も各々に散っていく。結局大半の部員らは……海で遊ぶらしい。新開が物言いたげにジッと見てきたので、思わず舌打ちした。
・・・
・・・・・
・・・・・・
そんで結局は来ちまった…海に。釣られた俺もたいがいバカだ。
男は着替えるのが早い。解散後、もう泳いでるやつもいれば海の家で何か食ってるヤツやビーチバレーをはじめたヤツもいた。葦木場・真波ペアVS黒田・泉田ペアではじまった試合だが、どう見ても一人だけ身長がチートなヤツがいるんだが…ありゃ勝負になんのか?
汐見を誘った当の本人である新開は、『寿一と軽く泳いでくる』っつって海に行っちまったし…あんの無責任ヤロー。後で覚えてやがれ。
俺はやることもなく、パラソルの下でボケッとバレーボールなんざ眺めて汐見を待ってるワケだが。照りつける太陽の下でも日陰の下だと随分楽だ。前の俺だったら海なんて、誘われても来なかっただろう。
顎の下の汗を手の甲で拭いながら、何か冷たいもんでも買ってくっかと立ち上がった瞬間、視界にとらえた一人の人物。
「荒北くーん!ベプシ買ってきたよ!」
水着姿の汐見が歩きながら、右手にはベプシを、左手で俺にひらひらと手を振って近づいてきた。真夏の夢?って思ったけど…違ェ。ちゃんと生身だ。
白いパーカーを羽織っているにも関わらず、肌の白さが遠目でも充分わかった。パーカーのジッパーが全開になっているのでそこから見える水着の色。上下とも、見慣れたカラー。俺の相棒・ビアンキのカラーと同じ色だった。
チェレステカラーに、縁は黒いレースの装飾のビキニだ。直視してる間、瞬きも忘れて体が硬直していた。
…うる、うるせェ。心臓がうるせェ。加速しすぎて急に止まっちまったらどうすんだ。鳴り止めと願っても、バクバクと口から飛び出さんばかりに心臓が鼓動していた。青臭すぎる自分が嫌になるが、せめて動揺は隠したい。自分の彼女が、自分の好きな色を身にまとった時の破壊力は、かなりヤバイってこと、生まれて初めて知った。
「はい、冷えてたのが売ってたから。合宿おつかれさま」
「お、おう、あんがと」
いよいよ水着姿の汐見が目前まで来て、まったく動揺を隠せなかった。視線は泳ぐもバッチリ…見てしまうのは男の性。ビキニから覗く谷間は、汐見は着やせするタイプだという証拠。
チェレステカラーに映える白い肌は触ればどこもかしこも柔らかそうだ。触りたくても触れない。既に正式に付き合ってるとは言え、インハイに集中するためにとキス以上はしないっつー…今時にしては清いルールで俺たちは過ごしていた。だから、ここまで肌を露出した汐見を目の当たりにするのは初めてだった。
冷えたペプシが喉を通るも、いつもより美味さがわかんネェ。味がしねェ。五感の集中力、全部視覚にもってかれてンのか。
「あー…」
頭をガシガシとかきながら視線を足元に向けた。
幸いパラソルの下には俺たちしかいねェし、近くで遊んでる後輩らはいるけど、騒がしくしてるから周りに聞かれることもないだろう。出てこい、喉から一言。
「……似合ってんヨ、それ」
「ほんと?よかったぁ。この色見たときね、荒北くんのビアンキ思い出して、ついつい買っちゃったんだ」
照れくさそうに笑う汐見は太陽よりも眩しい――なんつーポエミーな事は絶対に口に出せるはずもないが、その例えは決して大袈裟なワケじゃネェ。そんでもって、とんでもなく可愛いことを言ってくれてる。愛おしさで胸が詰まりそうだ。
いつまでもパラソルの下にいても仕方ないので、何か食うか、泳ぐか、ビーチバレーに混ざるか…いや、でも汐見の水着姿を他のヤツに近くで見せたくねぇし、バレーは色々…動くと揺れるし、マズイ気がする。
俺から切り出す前に「とりあえず暑いし泳ぎたいね」と、汐見はキッカケを作ってくれた。気にせず目の前でパーカーを脱ぎはじめる姿をは妙にエロい。普段、服で隠されてる部分を今日は曝け出してるワケだ。背中、腹、二の腕、太もも…水着ってほぼ下着みたいなもんだ、形的には。これ以上考えたら沸騰しちまいそうだ。早く海に入って涼んで煩悩を沈めてェと俺は切に願った。
――その時。
ビュオッと、風を切るかのような速い音。
「どこ打ってんだバカッ!」
背後で黒田の怒声が聞こえた直後、俺の後頭部は“何か”にガツンッと勢いよくぶつけられた。
イッテェ!と唸る暇もなく不意打ちとばかりに与えられた衝撃で踏ん張りが弱くなって前のめりによろけた。
「あぶないっ!」
慌てて抱きとめようと前へ踏み出た汐見の胸の谷間に、俺の鼻先が埋まる。
………埋ま…っ?
はぁ?
咄嗟に前に出た俺の両手がチェレステの水着ごしに汐見の両胸をガッシリと掴んでいた。目前にチェレステと白い肌。
指先にぽよんとしたマシュマロの感触。一瞬、今、何が起こったのか理解できず、3秒ばかりそのままの体勢で身体が固まる。
「うわあああアァァァァ悪ィっっ!!」
「こっ、転ばなくてよかったね!」
ドバッと全身から汗を吹きだしながら後ずさって素早く俺は汐見から離れた。日陰の中でもわかるぐらいお互い顔を真っ赤にして俯いた。目が合わせらんねぇ。全身が熱い。触った、触っちまった。手にピッタリと吸い付くみたいな感触だった。
こんな事態にしたのも全部アイツらのせいだ。振り返ってギッと睨むと、葦木場や黒田たちがぞろぞろと俺らの方に謝りながら小走りで駆け寄ってきた。おそらく俺が汐見の胸の谷間に顔面ドボン!しちまったのを見たんだろう。葦木場も黒田も泉田もどこか見ちゃいけないもんを見たって、気恥ずかしそうだった。黒田が涙目なのは、気のせいか。
「打ったの、オ、オレです…!すいません、荒北さん、汐見先輩…!」
「葦木場ァ!てめっ、このノーコンがぁ!」
「すっ、すいません!」
頭を深々と下げる葦木場、隣で一緒に謝る黒田と泉田…この三人とは態度が違う奴が一人いる。不思議ちゃん真波はひとりだけヘラヘラと笑っている。そして笑いながら予想通りくだらねぇことを抜かした。
「でも荒北さん、ラッキーでしたね。おっぱい触っても彼女だから怒られたりしないんですよね?いいなぁ。俺も触りたいなァ」
「誰が触らせるかボケナスがァ!」
無言で真波の頭をガシガシと触ってボサボサにしてやった。だがコイツが言った“ラッキー”というのは否定できない。どう考えても俺にとっては得な出来事だったからだ。
「オメーら、もう邪魔すんなよ?」
出来るだけいつもの声色で告げると、俺は汐見の手を掴んで海へ向かって歩き出す。今、俺がどんな顔してんのか、こいつがどんな顔してんのか確かめる術もねェけど、きっとゆでダコみたいな顔色になってるはず。顔つけて熱を冷やすにゃ冷たい海が最適だろ。
…しっかしなぁ、インハイ前にこんなひと夏の思い出作っちまって、運を使い果たしちまったような気がしてならねんだけどォ?