企画もの
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rainy promise
最寄り駅から自宅までの帰り道、突然のゲリラ豪雨に降られながら家路に着いた。
その頃には制服の上下共に雨水を吸ってすっかり重くなってしまった。
ついてないのだよ――、と心の中で独り言ちたところで起こってしまった事は仕方ない。今日の蟹座の運勢は最下位だった。
いつものようにラッキーアイテムで運を補正していたのだが、天気予報さえも外れたのだから仕方ない。
運気もさすがに、天候は操れなかったというわけだ。ただ、途中で降り出した雨はものの5分で止んだ。
あと少し、体育館に残って練習をしていけば…、あるいは、あと少し早く自主練を切り上げて帰っていれば濡れなくて済んだのかも知れない。
もしも、という話ばかり考えても仕方ないのはわかっている。どのみちピンポイントで雨には降られていた気もする。
何せおは朝の占いの命中率は100%なのだから。
雨水を含んだ制服の着心地は最悪だ。空気もじっとりと湿気を含んでいる上に、夏の暑さが相俟って梅雨明けまでの中途半端さが心地悪かった。
この湿気から開放されるのならば、気温が多少上がってもいい。来週の梅雨明けが待ち遠しかった。
――夕飯より前にとにかくこの制服を脱いで、先に風呂に入ろう。
雨と汗で濡れた体をサッパリとさせた後で夕食を食べたほうが気分的にもいい。
玄関の扉を開けて、濡れた靴下を脱いでから俺はそのまま風呂場まで直行した。靴の中まで雨水でしっとりして気持ちが悪い。
おは朝占いで最下位の日はいつもより警戒して過ごしていた。
それが授業中も部活でも特にトラブルは起こらず、ついさっきゲリラ豪雨にやられただけで済んだのだ。
このまま何も起こらなければ、むしろ運がよかった日と言えるだろう。
過去に、おは朝占いが最下位だった時に何度か命の危機を感じるぐらいの危険に見舞われたからな。
これ以上何も起こらないでくれ、と、心の中で願って洗面所のドアを開けた。
しかし非情な事に、今日最下位の俺が何を祈ろうと無駄だったのだと瞬時に悟る。
いやこれは、むしろ、ラッキーなのかアンラッキーなのか判断しかねる。
目の前に飛び込んできたのは白いバスタオル1枚身体に巻きつけて、俯いている琴音の姿。
瞬きも忘れ、俺の身体はほんの数秒、固まった。
「あ、しんちゃん……し、しんちゃん!?」
顔を上げた琴音とバチリと目が合うと、一拍遅れて動揺したせいで“何か”の上に乗っていた琴音がバランスを崩しよろけて、体に巻き付いていたバスタオルはバサッと床に落ちた。
「…っ何故お前がここいる!」
俺は大声で叫ぶと同時に勢いよくドアを閉めた。
風呂場からの湯気で俺のメガネが曇りかけたのだが、一瞬、見てしまった。
バスタオルの中身を。幼馴染の裸を。
身体のラインを想像しうるような時は、何度もあった。
何故ならば琴音は幼馴染だからと俺の前では油断しきった薄着でいることが少なくなかったからだ。夏なんて特に。
そして俺の家族もあいつの家族も誰も昔から見慣れているせいでその薄着を指摘しない。
…だが、しかし、裸を見たのは初めてだった。当たり前だ。
幼い頃一緒に風呂に入ったことがあると言われたことがあるが思い出せない程遠い記憶の事だ。
それに昔と今じゃワケが違うだろう。お互いに大人の身体なんだ。
身体の奥底から熱が這い上がってくるみたいで、雨で濡れた体が自然と蒸発しそうだった。
見てしまった光景が、目に焼きつく。俺は、琴音の事をいつしかただの“幼馴染”としては見ていなかった。
こんな時にその事を弥が上にも思い知らされてしまう。普段は意識しないようにと過ごしてきたつもりなのに、自分の中で張った予防線が緩んでいくのを感じた。
「ごめんごめん。うちのお風呂昨日から壊れちゃってて、おばさんにお願いしてお風呂貸してもらってたの」
ドア越しで、笑って照れを誤魔化しながら琴音の陽気な声が聞こえる。
裸を見られたことを怒ってはいないようで安心した。
もし裸を見られてしまった事で罵倒されようものなら、『ここは俺の家なのだよ!』…と、俺も理不尽さを感じて言い返していたところだが、先に謝られてしまったので何も言うことがなくなってしまった。
さっきから心臓がやけに煩い。手の平が熱い。
制服が濡れて身体にピタリとくっつくワイシャツの気持ち悪さも、濡れて雨のニオイがする髪も、どうでもよくなってしまった。
落ち着け、落ち着け――と平静を取り戻している間に、洗面所のドアが内側から開けられ琴音が顔を覗かせた。
「お待たせしました。しんちゃん雨に降られちゃったんだね。すぐお風呂入りたかったのに、ごめんね」
Tシャツにショートパンツというラフな格好に、肩に先ほどのバスタオルをひっかけて白い頬を上気させて琴音は洗面所から出てくる。
目も合わせられず俺の視線はふいと足元に移動した。こいつを見てしまったら、Tシャツ越しにさっき見たばかりの白い胸が浮かんで、心臓がこれまでにない速さで早鐘を打ちはじてしまう。とても直視できない。
「…いきなり開けて、その…悪かった」
「えっ!」
ぽつりと呟くと琴音は、驚きの声をあげた。そんなに驚かれるとは思わなくて俺は罪悪感で一歩後ずさる。
「み、見たの?見えたの!?私の体重!」
赤面しながら俺の腕をぐいぐいと引っ張るこいつの“恥ずかしい”の基準がまったくわからない。
先ほど“何か”に乗っているというのは何となくわかったが、あれは洗面所に置いてある体重計だったのか。
お前、もっと他に見られて恥ずかしがるものがあるだろう。やはり、琴音は昔からどこか変わってるようだ。
「…体重は、見ていないのだよ」
「じゃあ見られたのは裸だけかぁ。よかった~」
「お前の安心する基準は間違っていると思うが…」
俺の言わんとしていることが伝わらず、小首をかしげる琴音に俺はため息をついた。
そういえばこんな事、日常茶飯事だった気がする。こいつの不思議な行動に俺は理解が出来ず、頭を抱える。
でも、そんな俺を見て笑っているお前を見ていると、何もかも許せる気になってしまう。つくづく俺もお前に甘いのだよ。
「しんちゃんのエッチ!もうお嫁にいけない!…とか言った方がいい?ちょっとベタすぎるかなぁ」
腕を組んで考えるポーズをとりながら琴音は冗談を言うも、真剣に悩んでいるようにも見えるし、俺はどこまでもこいつが読めない。
気まずい空気が流れないように気遣ってくれているのか、どちらだろうが構いやしないが…俺が伝えるべき事は今、心の中に決まった。
ただの思い付きじゃない。キッカケさえあれば言って驚かせてやろうかと思っていた言葉だ。
俺は一歩前に踏み出し、琴音が肩からかけているバスタオルを取ってシャンプーのいい香りがする濡れた髪をガシガシと拭いてやった。
雨の中で濡れいていた子犬を保護して、拭いてやっている図が頭に浮かぶ。雨の中濡れて帰ってきたのは俺の方だというのに。
「責任を取ると約束しよう。…お前も覚えておくのだよ」
子供をあやす様に頭を軽く叩いて、俺はそのまま洗面所に入りドアを後ろ手で閉めた。
たった一言、伝えるためだけにこれまでに溜めていた勇気を一気に放出した気がする。
今日は疲れた。早く濡れた服を脱いでシャワーを浴びてサッパリしたい。
顔の火照りも、落ち着かない鼓動も、全部シャワーで流してリセットしてしまえばいい。
琴音はどんな顔をしていただろうか。苦虫を噛み潰したような表情か、嬉しそうに口角を上げている表情か、それとも――俺と同じように恥ずかしさで眉をしかめているか。確認のしようもなかったが、別にいい。
今日の事の責任を取らせてもらえるのかどうか、もう少し先の未来でわかる事だろう。
最寄り駅から自宅までの帰り道、突然のゲリラ豪雨に降られながら家路に着いた。
その頃には制服の上下共に雨水を吸ってすっかり重くなってしまった。
ついてないのだよ――、と心の中で独り言ちたところで起こってしまった事は仕方ない。今日の蟹座の運勢は最下位だった。
いつものようにラッキーアイテムで運を補正していたのだが、天気予報さえも外れたのだから仕方ない。
運気もさすがに、天候は操れなかったというわけだ。ただ、途中で降り出した雨はものの5分で止んだ。
あと少し、体育館に残って練習をしていけば…、あるいは、あと少し早く自主練を切り上げて帰っていれば濡れなくて済んだのかも知れない。
もしも、という話ばかり考えても仕方ないのはわかっている。どのみちピンポイントで雨には降られていた気もする。
何せおは朝の占いの命中率は100%なのだから。
雨水を含んだ制服の着心地は最悪だ。空気もじっとりと湿気を含んでいる上に、夏の暑さが相俟って梅雨明けまでの中途半端さが心地悪かった。
この湿気から開放されるのならば、気温が多少上がってもいい。来週の梅雨明けが待ち遠しかった。
――夕飯より前にとにかくこの制服を脱いで、先に風呂に入ろう。
雨と汗で濡れた体をサッパリとさせた後で夕食を食べたほうが気分的にもいい。
玄関の扉を開けて、濡れた靴下を脱いでから俺はそのまま風呂場まで直行した。靴の中まで雨水でしっとりして気持ちが悪い。
おは朝占いで最下位の日はいつもより警戒して過ごしていた。
それが授業中も部活でも特にトラブルは起こらず、ついさっきゲリラ豪雨にやられただけで済んだのだ。
このまま何も起こらなければ、むしろ運がよかった日と言えるだろう。
過去に、おは朝占いが最下位だった時に何度か命の危機を感じるぐらいの危険に見舞われたからな。
これ以上何も起こらないでくれ、と、心の中で願って洗面所のドアを開けた。
しかし非情な事に、今日最下位の俺が何を祈ろうと無駄だったのだと瞬時に悟る。
いやこれは、むしろ、ラッキーなのかアンラッキーなのか判断しかねる。
目の前に飛び込んできたのは白いバスタオル1枚身体に巻きつけて、俯いている琴音の姿。
瞬きも忘れ、俺の身体はほんの数秒、固まった。
「あ、しんちゃん……し、しんちゃん!?」
顔を上げた琴音とバチリと目が合うと、一拍遅れて動揺したせいで“何か”の上に乗っていた琴音がバランスを崩しよろけて、体に巻き付いていたバスタオルはバサッと床に落ちた。
「…っ何故お前がここいる!」
俺は大声で叫ぶと同時に勢いよくドアを閉めた。
風呂場からの湯気で俺のメガネが曇りかけたのだが、一瞬、見てしまった。
バスタオルの中身を。幼馴染の裸を。
身体のラインを想像しうるような時は、何度もあった。
何故ならば琴音は幼馴染だからと俺の前では油断しきった薄着でいることが少なくなかったからだ。夏なんて特に。
そして俺の家族もあいつの家族も誰も昔から見慣れているせいでその薄着を指摘しない。
…だが、しかし、裸を見たのは初めてだった。当たり前だ。
幼い頃一緒に風呂に入ったことがあると言われたことがあるが思い出せない程遠い記憶の事だ。
それに昔と今じゃワケが違うだろう。お互いに大人の身体なんだ。
身体の奥底から熱が這い上がってくるみたいで、雨で濡れた体が自然と蒸発しそうだった。
見てしまった光景が、目に焼きつく。俺は、琴音の事をいつしかただの“幼馴染”としては見ていなかった。
こんな時にその事を弥が上にも思い知らされてしまう。普段は意識しないようにと過ごしてきたつもりなのに、自分の中で張った予防線が緩んでいくのを感じた。
「ごめんごめん。うちのお風呂昨日から壊れちゃってて、おばさんにお願いしてお風呂貸してもらってたの」
ドア越しで、笑って照れを誤魔化しながら琴音の陽気な声が聞こえる。
裸を見られたことを怒ってはいないようで安心した。
もし裸を見られてしまった事で罵倒されようものなら、『ここは俺の家なのだよ!』…と、俺も理不尽さを感じて言い返していたところだが、先に謝られてしまったので何も言うことがなくなってしまった。
さっきから心臓がやけに煩い。手の平が熱い。
制服が濡れて身体にピタリとくっつくワイシャツの気持ち悪さも、濡れて雨のニオイがする髪も、どうでもよくなってしまった。
落ち着け、落ち着け――と平静を取り戻している間に、洗面所のドアが内側から開けられ琴音が顔を覗かせた。
「お待たせしました。しんちゃん雨に降られちゃったんだね。すぐお風呂入りたかったのに、ごめんね」
Tシャツにショートパンツというラフな格好に、肩に先ほどのバスタオルをひっかけて白い頬を上気させて琴音は洗面所から出てくる。
目も合わせられず俺の視線はふいと足元に移動した。こいつを見てしまったら、Tシャツ越しにさっき見たばかりの白い胸が浮かんで、心臓がこれまでにない速さで早鐘を打ちはじてしまう。とても直視できない。
「…いきなり開けて、その…悪かった」
「えっ!」
ぽつりと呟くと琴音は、驚きの声をあげた。そんなに驚かれるとは思わなくて俺は罪悪感で一歩後ずさる。
「み、見たの?見えたの!?私の体重!」
赤面しながら俺の腕をぐいぐいと引っ張るこいつの“恥ずかしい”の基準がまったくわからない。
先ほど“何か”に乗っているというのは何となくわかったが、あれは洗面所に置いてある体重計だったのか。
お前、もっと他に見られて恥ずかしがるものがあるだろう。やはり、琴音は昔からどこか変わってるようだ。
「…体重は、見ていないのだよ」
「じゃあ見られたのは裸だけかぁ。よかった~」
「お前の安心する基準は間違っていると思うが…」
俺の言わんとしていることが伝わらず、小首をかしげる琴音に俺はため息をついた。
そういえばこんな事、日常茶飯事だった気がする。こいつの不思議な行動に俺は理解が出来ず、頭を抱える。
でも、そんな俺を見て笑っているお前を見ていると、何もかも許せる気になってしまう。つくづく俺もお前に甘いのだよ。
「しんちゃんのエッチ!もうお嫁にいけない!…とか言った方がいい?ちょっとベタすぎるかなぁ」
腕を組んで考えるポーズをとりながら琴音は冗談を言うも、真剣に悩んでいるようにも見えるし、俺はどこまでもこいつが読めない。
気まずい空気が流れないように気遣ってくれているのか、どちらだろうが構いやしないが…俺が伝えるべき事は今、心の中に決まった。
ただの思い付きじゃない。キッカケさえあれば言って驚かせてやろうかと思っていた言葉だ。
俺は一歩前に踏み出し、琴音が肩からかけているバスタオルを取ってシャンプーのいい香りがする濡れた髪をガシガシと拭いてやった。
雨の中で濡れいていた子犬を保護して、拭いてやっている図が頭に浮かぶ。雨の中濡れて帰ってきたのは俺の方だというのに。
「責任を取ると約束しよう。…お前も覚えておくのだよ」
子供をあやす様に頭を軽く叩いて、俺はそのまま洗面所に入りドアを後ろ手で閉めた。
たった一言、伝えるためだけにこれまでに溜めていた勇気を一気に放出した気がする。
今日は疲れた。早く濡れた服を脱いでシャワーを浴びてサッパリしたい。
顔の火照りも、落ち着かない鼓動も、全部シャワーで流してリセットしてしまえばいい。
琴音はどんな顔をしていただろうか。苦虫を噛み潰したような表情か、嬉しそうに口角を上げている表情か、それとも――俺と同じように恥ずかしさで眉をしかめているか。確認のしようもなかったが、別にいい。
今日の事の責任を取らせてもらえるのかどうか、もう少し先の未来でわかる事だろう。