企画もの
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ファンタスティックパワー
ジリジリと照りつける太陽…容赦なく蒸し返す体育館の中で、ドリブル音とバッシュのスキール音は途絶えることはなかった。
夏休み中も海常バスケ部では毎日のように練習が行われた。インハイはベスト8という結果で終え、満身創痍だった身体も回復した。
後悔も反省もした。だから後ろばかり振り返っていられない。
俺達が次に見据えるのはウィンターカップだ。『借りは冬返せ』って笠松センパイが言ったように、俺はもっともっと強くならないと。
夏休み中だというのに体育館の入り口では俺のファンが熱心にエールを送ってくれているが、バスケにより集中したい今、前みたいに愛想笑いをしたり何度も手を振ったりすることは出来ない。
休憩中になればサインを求められる事もしばしばで、ここ最近の俺は休憩中になると逃げるように校舎裏の日陰にやって来て一人で過ごしていた。
コンクリートに背を預けてもたれ掛かれば、ひんやりとした温度が気持ちいい。
今、俺はバスケに集中したいから、嫌われてもいい覚悟で練習を見に来てくれてるファンを追い返すこともそろそろ考えておかないと。
練習に集中したい他のメンバーにも迷惑かかるよなぁ。モデル業は冬の大会が終わるまではお休みしようと思うし、そもそも俺が自らやりたくて応募したもんじゃない。姉ちゃんが勝手にモデル事務所に履歴書送ってそれがたまたま通って…そん時は特別夢中になっているものもなかったし「じゃあやってみるか」って軽い気持ちでやってたことだ。
だからファンが減ったところで何とも思わないのだけど、ただ…女の子相手にキツク怒鳴るのは当たり前だが得意じゃないから、言うならうまく言わないとなァ。
蝉の鳴き声をBGMに、タオルで顔の汗をぬぐってポカリを一気に飲み干しながら雲ひとつない夏空を見上げた。
…別にどの女の子に嫌われたっていいじゃないか。俺にはちゃんと大事なカノジョがいるんだから。
そのカノジョ――琴音さんとも、インハイが終わってから一度も会ってないなぁ。
晴れてお付き合いはじめてからというもの、時間を作ってはデートしているのだが夏休み中もお互い忙しく会えない日が続いていた。
メールや電話は毎日するけれど、やはり顔が見れないと寂しさが募る。
はぁ、とため息をついても蝉の鳴き声でかき消されてしまった。
スマホで時間を確認すれば、休憩が終わるまでまだ少しある。ミニゲームやるって言ってたし、そうするともちろんノルマが課せられるわけだから…午後もハードだ。
今のうちに体力の回復をしようと、そのまま俺は校舎に寄りかかってウトウトとしはじめた。体育館も、ここぐらい涼しければよかったのに。
湿気を含んだ風が頬を掠めて、目を閉じてそのまま一眠りするために瞼を閉じればスッと身体の力が抜けていった。
リラックスして筋肉がほぐれていく感覚が心地よい。
あと少しで眠りに落ちる…その時、前髪が滑らかな指先で撫でられた。
まさかファンの子に見つかった?…と、眠たげな瞼を起こして片目だけ開けてみればそこには。
「…琴音さん!」
「あ、起こしてゴメン。久しぶり」
夢じゃない、スよね…?
会えない時間で寂しさが募って俺が生み出した幻想だったりしたらどうしようとか思ったが、目の前にいる彼女の両手をガシッと掴むと確かに確かに実体がそこにあった。
夢じゃないッス!と叫べば、大袈裟だなァと琴音さんはケラケラと楽しそうに笑った。
しかし久々に会った彼女の服装はいつもと違って――大人っぽい。
白いワイシャツに黒いタイトスカート。1つに束ねた髪はつむじから5cm下ぐらいのわりと高い位置で結んでいる。
全体的に身体にピッタリとした服装に、ドギマギとしてしまう。
「今日、何かいつもと…どこか行って来たんスか?」
「うん。大学の先生に頼まれてセミナーのお手伝いしてきたの。これからバイトなんだけど、ちょっと時間あったから練習見に来たんだ」
最初は体育館に行ってくれたみたいけど俺の姿が見当たらなかったので、笠松先輩に聞いたら多分ここにいるだろうとこっそり教えてくれたらしい。
笠松先輩…グッジョブ!
まさかのサプライズに心が躍り、眠気は一気に飛んでいった。
嬉しい、嬉しい…、じわじわと力が漲ってくる。暑さにも疲れにも勝てる元気をもらった気分だ。
「よかったら…、これ差し入れ」
鞄から取り出して琴音さんが差し出したのはボトルに入ってるスポーツドリンク。
「今日会えるかもって思って作ってきたの。凍らせてきて持ってきたから、そろそろ溶けてもう飲み頃だと思うよ」
マネージャーのような気遣いに感動しつつボトルを受け取ると、まだひんやりと冷たかった。
自分も忙しいのに、俺に会えるときのこと考えて準備してきたって、この人…可愛すぎるだろ。
ドリンクのお礼にと、俺はダッシュで購買まで走ってアイスを2つ買って戻ってきて琴音さんに渡したら、すごく喜んでくれた。
コンビニと違ってラインナップは少ない中、サッパリしたフルーツ味のアイスを選んだ。指でつまんで食べれるタイプのやつ。
このシリーズ昔っからあるけど、無性に食べたくなる時があるんだよなぁ。
顔を見て話していると、電話やメールじゃ全然足りなかったんだなぁと実感する。
瞬きする長い睫、笑うとへこむ右頬のえくぼ、上がる口角と、俺を見つめる真ん丸の目。どれも俺が好きな全部だ。
アレコレ話したいけど休憩時間が終わるまでだなんて時間が足りない。
夏の間に…花火も、海も、プールも一緒に行きたい。“黄瀬くんが近くに居ると目立つから”って今のところ誘っても全部断られてるけど。お面でもかぶればお祭りぐらいなら一緒に行ってくれるだろうか。
しかし、カノジョにデート断られてる俺って…俺達って付き合ってるんスよね!?って慌てる度に「そうだけど?」とケロっと返されて笑われちゃうんだよなぁ。
「美味しかったぁ、ごちそうさま」
アイスを食べ終えた後、琴音さんは手を洗いたいとキョロキョロとあたりを見回してたので、俺がすぐ傍にある水道場を案内した。
このアイス、美味しいけど手でつまんで食べないといけないので、食べ終わる頃には指がちょっとベタベタする。楊枝みたいなのが入ってればいいのになァ。
彼女が蛇口を捻った途端、水が出てこず、…全開にしてもやはり水は一滴も出てこなかった。
彼女が怪訝そうにかがんで蛇口を覗き込むように顔を寄せた途端、蛇口でない部分から水が勢いよく噴き出した。
わっ!と声をあげるも後の祭り。ビシャッと勢いよく俺たち二人に直撃した。
俺も琴音さんも気温30度をゆうに越える夏空の下で、スプリンクラーの水を浴びたみたいに上半身が水でビッショリと濡れてしまった。
ビッショリと…濡れてしまっ……しまっ…………。
自分が水に濡れた事も気にせずに俺の目がある場所に一点集中したことをお察し頂きたい。
「…びっ、くりしたぁ」
髪から滴る雫が地面に点々と染みを作っていく。
ハプニングに驚いて、唖然としながらも琴音さんは濡れた前髪をかき上げた。
白いワイシャツからスッケスケになるキャミソール越しに浮かび上がるブラの形も色も、濡れた髪も、彼女からこれまでとは違う色気がぶわっと溢れ出していた。
ほ、ほら、セクシーというよりは普段はかわいい感じだったっスから、うん、うん。
せっかく木陰で涼みながらアイスを食べたってのに、変な汗が背中から顔から噴き出して、浴びた水もじゅうじゅうと蒸発しそうだ。
顔が熱くて、心臓のリズムがドッドッと速くなる。
俺の不自然極まりない様子と胸に釘付けになる視線に気づいた琴音さんは、キャア!と短い悲鳴をあげて両手を組むようにして胸を隠した。
「ちっ…違うんス!わざと見たワケじゃないっていうか!見たくて見たワケじゃないっつーか!いやいやそれだと見たくないって意味に聞こえるかもしれないけど見たいか見たくないかって言われればもちろん断然見たいっていうか!とにかく元気もらったッスよ!」
慌てて弁解して捲くし立てる俺。ワンブレスで言い切った言葉を聞いて、彼女は一拍置いてから笑い出した。
調子に乗った俺がさらに近づいて彼女の両肩に手を置いて、キリッとした表情で見据えると琴音さんの頬が少し赤らんだ。
「だからその手をどけてもっかい見せて欲しいッス」
「………」
この直後琴音さんから容赦ないチョップを食らったのと、俺のスマホの休憩時間終了にセットしておいたアラームが鳴るのはほぼ同時だった。
思ったことそのまま口にするクセ、そろそろ直そうか、バカな俺。
でも、おかげで午後も頑張れそうだ。
ジリジリと照りつける太陽…容赦なく蒸し返す体育館の中で、ドリブル音とバッシュのスキール音は途絶えることはなかった。
夏休み中も海常バスケ部では毎日のように練習が行われた。インハイはベスト8という結果で終え、満身創痍だった身体も回復した。
後悔も反省もした。だから後ろばかり振り返っていられない。
俺達が次に見据えるのはウィンターカップだ。『借りは冬返せ』って笠松センパイが言ったように、俺はもっともっと強くならないと。
夏休み中だというのに体育館の入り口では俺のファンが熱心にエールを送ってくれているが、バスケにより集中したい今、前みたいに愛想笑いをしたり何度も手を振ったりすることは出来ない。
休憩中になればサインを求められる事もしばしばで、ここ最近の俺は休憩中になると逃げるように校舎裏の日陰にやって来て一人で過ごしていた。
コンクリートに背を預けてもたれ掛かれば、ひんやりとした温度が気持ちいい。
今、俺はバスケに集中したいから、嫌われてもいい覚悟で練習を見に来てくれてるファンを追い返すこともそろそろ考えておかないと。
練習に集中したい他のメンバーにも迷惑かかるよなぁ。モデル業は冬の大会が終わるまではお休みしようと思うし、そもそも俺が自らやりたくて応募したもんじゃない。姉ちゃんが勝手にモデル事務所に履歴書送ってそれがたまたま通って…そん時は特別夢中になっているものもなかったし「じゃあやってみるか」って軽い気持ちでやってたことだ。
だからファンが減ったところで何とも思わないのだけど、ただ…女の子相手にキツク怒鳴るのは当たり前だが得意じゃないから、言うならうまく言わないとなァ。
蝉の鳴き声をBGMに、タオルで顔の汗をぬぐってポカリを一気に飲み干しながら雲ひとつない夏空を見上げた。
…別にどの女の子に嫌われたっていいじゃないか。俺にはちゃんと大事なカノジョがいるんだから。
そのカノジョ――琴音さんとも、インハイが終わってから一度も会ってないなぁ。
晴れてお付き合いはじめてからというもの、時間を作ってはデートしているのだが夏休み中もお互い忙しく会えない日が続いていた。
メールや電話は毎日するけれど、やはり顔が見れないと寂しさが募る。
はぁ、とため息をついても蝉の鳴き声でかき消されてしまった。
スマホで時間を確認すれば、休憩が終わるまでまだ少しある。ミニゲームやるって言ってたし、そうするともちろんノルマが課せられるわけだから…午後もハードだ。
今のうちに体力の回復をしようと、そのまま俺は校舎に寄りかかってウトウトとしはじめた。体育館も、ここぐらい涼しければよかったのに。
湿気を含んだ風が頬を掠めて、目を閉じてそのまま一眠りするために瞼を閉じればスッと身体の力が抜けていった。
リラックスして筋肉がほぐれていく感覚が心地よい。
あと少しで眠りに落ちる…その時、前髪が滑らかな指先で撫でられた。
まさかファンの子に見つかった?…と、眠たげな瞼を起こして片目だけ開けてみればそこには。
「…琴音さん!」
「あ、起こしてゴメン。久しぶり」
夢じゃない、スよね…?
会えない時間で寂しさが募って俺が生み出した幻想だったりしたらどうしようとか思ったが、目の前にいる彼女の両手をガシッと掴むと確かに確かに実体がそこにあった。
夢じゃないッス!と叫べば、大袈裟だなァと琴音さんはケラケラと楽しそうに笑った。
しかし久々に会った彼女の服装はいつもと違って――大人っぽい。
白いワイシャツに黒いタイトスカート。1つに束ねた髪はつむじから5cm下ぐらいのわりと高い位置で結んでいる。
全体的に身体にピッタリとした服装に、ドギマギとしてしまう。
「今日、何かいつもと…どこか行って来たんスか?」
「うん。大学の先生に頼まれてセミナーのお手伝いしてきたの。これからバイトなんだけど、ちょっと時間あったから練習見に来たんだ」
最初は体育館に行ってくれたみたいけど俺の姿が見当たらなかったので、笠松先輩に聞いたら多分ここにいるだろうとこっそり教えてくれたらしい。
笠松先輩…グッジョブ!
まさかのサプライズに心が躍り、眠気は一気に飛んでいった。
嬉しい、嬉しい…、じわじわと力が漲ってくる。暑さにも疲れにも勝てる元気をもらった気分だ。
「よかったら…、これ差し入れ」
鞄から取り出して琴音さんが差し出したのはボトルに入ってるスポーツドリンク。
「今日会えるかもって思って作ってきたの。凍らせてきて持ってきたから、そろそろ溶けてもう飲み頃だと思うよ」
マネージャーのような気遣いに感動しつつボトルを受け取ると、まだひんやりと冷たかった。
自分も忙しいのに、俺に会えるときのこと考えて準備してきたって、この人…可愛すぎるだろ。
ドリンクのお礼にと、俺はダッシュで購買まで走ってアイスを2つ買って戻ってきて琴音さんに渡したら、すごく喜んでくれた。
コンビニと違ってラインナップは少ない中、サッパリしたフルーツ味のアイスを選んだ。指でつまんで食べれるタイプのやつ。
このシリーズ昔っからあるけど、無性に食べたくなる時があるんだよなぁ。
顔を見て話していると、電話やメールじゃ全然足りなかったんだなぁと実感する。
瞬きする長い睫、笑うとへこむ右頬のえくぼ、上がる口角と、俺を見つめる真ん丸の目。どれも俺が好きな全部だ。
アレコレ話したいけど休憩時間が終わるまでだなんて時間が足りない。
夏の間に…花火も、海も、プールも一緒に行きたい。“黄瀬くんが近くに居ると目立つから”って今のところ誘っても全部断られてるけど。お面でもかぶればお祭りぐらいなら一緒に行ってくれるだろうか。
しかし、カノジョにデート断られてる俺って…俺達って付き合ってるんスよね!?って慌てる度に「そうだけど?」とケロっと返されて笑われちゃうんだよなぁ。
「美味しかったぁ、ごちそうさま」
アイスを食べ終えた後、琴音さんは手を洗いたいとキョロキョロとあたりを見回してたので、俺がすぐ傍にある水道場を案内した。
このアイス、美味しいけど手でつまんで食べないといけないので、食べ終わる頃には指がちょっとベタベタする。楊枝みたいなのが入ってればいいのになァ。
彼女が蛇口を捻った途端、水が出てこず、…全開にしてもやはり水は一滴も出てこなかった。
彼女が怪訝そうにかがんで蛇口を覗き込むように顔を寄せた途端、蛇口でない部分から水が勢いよく噴き出した。
わっ!と声をあげるも後の祭り。ビシャッと勢いよく俺たち二人に直撃した。
俺も琴音さんも気温30度をゆうに越える夏空の下で、スプリンクラーの水を浴びたみたいに上半身が水でビッショリと濡れてしまった。
ビッショリと…濡れてしまっ……しまっ…………。
自分が水に濡れた事も気にせずに俺の目がある場所に一点集中したことをお察し頂きたい。
「…びっ、くりしたぁ」
髪から滴る雫が地面に点々と染みを作っていく。
ハプニングに驚いて、唖然としながらも琴音さんは濡れた前髪をかき上げた。
白いワイシャツからスッケスケになるキャミソール越しに浮かび上がるブラの形も色も、濡れた髪も、彼女からこれまでとは違う色気がぶわっと溢れ出していた。
ほ、ほら、セクシーというよりは普段はかわいい感じだったっスから、うん、うん。
せっかく木陰で涼みながらアイスを食べたってのに、変な汗が背中から顔から噴き出して、浴びた水もじゅうじゅうと蒸発しそうだ。
顔が熱くて、心臓のリズムがドッドッと速くなる。
俺の不自然極まりない様子と胸に釘付けになる視線に気づいた琴音さんは、キャア!と短い悲鳴をあげて両手を組むようにして胸を隠した。
「ちっ…違うんス!わざと見たワケじゃないっていうか!見たくて見たワケじゃないっつーか!いやいやそれだと見たくないって意味に聞こえるかもしれないけど見たいか見たくないかって言われればもちろん断然見たいっていうか!とにかく元気もらったッスよ!」
慌てて弁解して捲くし立てる俺。ワンブレスで言い切った言葉を聞いて、彼女は一拍置いてから笑い出した。
調子に乗った俺がさらに近づいて彼女の両肩に手を置いて、キリッとした表情で見据えると琴音さんの頬が少し赤らんだ。
「だからその手をどけてもっかい見せて欲しいッス」
「………」
この直後琴音さんから容赦ないチョップを食らったのと、俺のスマホの休憩時間終了にセットしておいたアラームが鳴るのはほぼ同時だった。
思ったことそのまま口にするクセ、そろそろ直そうか、バカな俺。
でも、おかげで午後も頑張れそうだ。