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►実渕23歳(職業:メイクアップアーティスト)・夢主22歳
『結婚する?って聞くから、ハイって言ってね』
「お互いそろそろ本気でいい人見つけないとねぇ」
ハァ、と色っぽいため息をついて玲央さんが手を傾ける度にグラスの中でゆらゆらとワインが揺れる。
彼が伏し目がちになると長くて綺麗に並んだ睫がよく見えて、さらに色気を醸し出していた。
玲央さん行きつけのオシャレなバーに連れて来てもらったのはいいが、甘いお酒しか飲めない私は彼の隣でカシスオレンジばかり飲んでいる。
ただもう味なんて分からない。その言葉を聞いた瞬間、心臓が直接鷲づかみにされたかのようにズキンと強く痛んだ。
完全に玲央さんの恋愛対象から私は外れていることを意味する言葉だったから。
いや、もう、とっくの昔から外れていたのに、自覚すれば悲しなるだけだから気づかないフリをしていたんだ。
とてもショックで相槌も出ないほどだったが、最後の気力を振り絞って私は苦笑した。
どうか私の心の内がば悟られないように。
「そうですよね。でも私のこと好きになってくれる人なんているのかなぁ」
私の悠長な口振りに、彼もつられて笑っていた。
「大丈夫。そのうち現れるわよ、琴音だけの王子様が」
「…本当に?」
「ええ、本当に」
彼が口角を上げて微笑めば、カウンターに置かれた花瓶に飾られてる薔薇さえ霞むほど美しかった。魅入ってしまう。
それにしても、どうして泣きそうなのに笑ってられるのか、私は。
自分が思った以上に役者に向いてるなぁと頭の片隅で思う。
飲めば何となく恋愛の話にはなる。それは今までに何度もあったのだが、こんなにショックは初めてだった。
告白する前にフラれてしまったような、このやりきれない気持ちは一体どこにぶつければいいのだろう。
玲央さんとの出会いは、洛山高校バスケ部。
自分から入部したい部活もなかった私は、友人の誘いを受けてマネージャーとしてバスケ部に入部した。
高校最強の強豪校と呼ばれる洛山では、バスケ部専用の体育館があるのは当たり前で、尚且つ部員数も多いので部員をサポートするマネージャーも多数必要になり、春になると大人数の募集をかける。ただ、入部届けさえ出せば誰でも入れるいうものではなかった。マネージャーにも入部において部長との面談があり、ある程度の人柄やバスケの知識があるかどうかを見られ、それを通過した上で入部許可がおりる。さして厳しいものでないにしても、私がマネージャーとして受かったのは本当にただ運がよかっただけだと思った。
バスケの知識は小学校の頃から大好きなバスケ漫画を読み込んでいたおかげだ。
私が入部した年には、あの“キセキの世代”の赤司くんも洛山バスケ部に入部し、夏には監督からの推薦もあり主将として彼は4番のユニフォームを着ていた。
玲央さんは二年生で、私の1つ先輩。
大人びた顔立ちをしている美人がいるなぁと強く印象に残ったのを覚えている。
キレイな黒髪、長い睫。女子マネの先輩かと思って話しかけしまったのが私と彼が最初に交わした会話だった。
こんなにキレイな男の人はじめて見た!…って感じで、田舎町から出てきた娘が都会を見て驚いた衝撃に似ている。
ちなみに、有名なのは何もキセキの世代の赤司くんだけではない。洛山には根武谷先輩、コタロー先輩にそして玲央さん…この3人は無冠の五将と呼ばれ中学バスケ界でも特に強く、注目されいた5人のうちの3人だ。
キセキの世代が現れるより前の世代の逸材たち。
有名人なのに後輩の私とも気軽に話してくれる、クセは強いけどいい先輩たちだった。
玲央さんに憧れて目で追うようになって、私からも特に気遣って接していたので彼が私を気に入ってくれるのもそう時間はかからなかった。
『私、細やかな気遣いできる子は好きよ』って、はじめて誉められた日の感動は今でも覚えている。それからはマネージャーの仕事も人一倍頑張るようになった。
洛山卒業後、玲央さんは美容系の専門学校へ進みメイクアップアーティストになった。
その器用さと才能と努力、それと人柄と美しい容姿によって彼が一躍有名になる日もそう遠くないだろう。
就職して3年目にしてご指名の仕事も増えてるみたい。今は会社に所属しているけど、じきに独立するのかなと思う。
独立しても玲央さんなら活躍できると思うし、そのうちメイクアップアーティスト兼タレントとしてテレビに出演してたらどうしようとか…想像したらしっくりきすぎて違和感がなかった。
高校を卒業して何年も経つのに、卒業後も玲央さんと私は時々お買い物したりご飯を食べに行ったり、二十歳を過ぎてからは飲みに行ったりしていた。
最初はバスケ部のみんなも一緒だったのに、最近では二人で飲みに行くことも多くなった。
…といっても、玲央さんはお仕事で忙しく休みも仕事が終わる時間もなかなか不規則なので、頻繁に会えるというわけではなかったが。
忙しいのが分かっていたのでこちらからも誘いずらく、たいてい玲央さんからのお誘い待ちだった。
普通のOLをやってる私は時間の融通が利くから、急なお誘いがあっても大丈夫、と日々構えつつ、彼にご飯に誘われれば当たり前のようにOKをしてでかけていた。
学生の頃、みんなで他愛のない話をしたりふざけあったり冗談言ったり、あれはあれで楽しかったけれど、二人で会ったりお酒が入ったりして深い話になるとまた楽しさが変わる。
内面的な話をしたり、お仕事の話を聞いたり、時々愚痴も。話をする度にもっと玲央さんに近づけた気がした。
高校では『憧れ』だけだったはずのこの気持ちは、次第に別の感情に変化していった。
憧れ続けた先でそれは必然だったかのように『恋』になっていた。
――出会いから今まで、頭の中で回想しながら私は枕に顔を埋めた。
明日は幸い休日。このまま眠ってしまっても支障はないけれど、どうにか化粧ぐらいは落としてから寝たい。けどそんな元気も湧いてこない。
ベッドの上で俯せになった私の目から涙が一筋伝って、白い枕カバーに染みを作った。
涙からアイラインが溶け出してほんのり黒い染み。この染み、漂白剤で洗ったら落ちるかなぁなんてぼんやり考えるだけで慌てる気力もゼロ。
あの後、私はショックを受けたのがバレないように平気なフリをしていたのだけど、やはり途中から耐えられなくなって、体調が悪くなったと嘘をついて玲央さんを残して先にバーを出て来てしまったんだ。
彼は心配して『家まで送るわ』と言ってくれたのだけど、私はそれを断り走って店を出てしまったのは、さすがに不審に思われたかもしれない。でも仕方ない。
あのまま、飲み続けていたらきっと酔いに任せていらんことを喚いて泣き出していたに違いないから。
『お互いにいい人を見つけないとね』…だなんて私にとって残酷なことを言う。
皮肉な台詞が際立つぐらい今日も玲央さんは羨ましいほどキレイだった。
私の心の内を知る由もない玲央さんに非はない。私が勝手に傷ついて勝手に落ち込んでいるだけだ。
もう何年も心の内に想いを秘めて、決して言わず、悟られないように私は玲央さんに恋をしていた。
どうせなら玉砕覚悟で!って告白してみればいいのに。ただそんな勢いがある性格ならば、想いを何年も抱えてたりはしない。
憧れが恋に変わった時点でとっくに好きだと伝えてるだろう。
本当は、憧れだけで終われば良かったのに――無理だった。“あの日”が大きなキッカケとなって、高校を卒業しても日に日に想いは大きくなるばかりだった。
携帯の着信音が鳴ったのでのそのそと起きあがり、鞄の中から携帯を取り出して見るとメールが1通。
『――大丈夫?』という文面からはじまるメールが玲央さんから送られてきて、目頭が余計に熱くなった。
返信を打つ指が震えて打てなかったので、結局そのメールに対しての返信は何も返さずに私は化粧も落とさないまま眠りに落ちた。
□ □ □
玲央さんから届いたメールに『大丈夫です。心配かけてすいません』とだけ返してから、一ヶ月が過ぎた。
その間何度かお誘いがあったけれど、全て断りの返信をしていたら、そのうちパタリと連絡はこなくなった。
何かと都合をつけて断るような返信は心が痛んだけれど、今は会えるような気分にはなれなかった。
自分勝手で申し訳無かったが、こちらから連絡をしなければしばらく会わなくて済む。
玲央さんにとって私はずっといい後輩。かわいい後輩のままなんだ。
会わなくても平気な期間が続けば、それはそれでいい。どこか自分を無理に納得させてしまう他なかった。それが一区切りつけるということならば避けて通れない。
そうでもしないと、諦めなんてつかないだろうから。
考え事をしながらもキーボードを打つ手を止めることなく、私はひたすらパソコンのディスプレイと向き合って今日も今日とて仕事をしていた。
定時のチャイムがフロアに響いてもお構いなしに、黙々と続ける。
仕事に没頭するのも気を紛らわせる1つの手かなと思い、自分から上司に頼んで仕事の量を増やしてもらい、私はここ最近毎日のように残業を続けていた。
同僚達が何かあったのかと心配してくれたのだけれど、特に理由は言わなかった。心配してもらえるだけでも充分ありがたかった。
「つかれたー…」
会社のロビーを抜けて外に出ると、もう春なのに冷たい風が吹いて私のスカートの裾を揺らす。
大きく伸びをして歩きながら独り言ちるも答えてくれる人はどこにもいない。自ら仕事量を増やしてと頼んでおいてもずっとデスクワークをしているわけだから、疲れるものは疲れる。
しかしまだ午後9時だというのに、この時間帯のオフィス街はまるで人気がなかった。
連日こんな時間に帰るなんて繁忙期以来かなぁ。まさか自分から仕事を増やしてくださいと頼む日が来るなんて。
街灯と月明かりが照らす帰り道、いつもの公園を抜けて駅に行く途中、やたら黒ずくめの格好をしている長身の人物が突然私の道を塞いだ。
細身に似合う黒のトレンチコート。シルエットは外国のモデルみたいで立ち姿もスラリとしてきれいだ。
ぶつかりそうになっただけかと思って私が小さく会釈しながら右へ避けようとすると、その人は同じ方向へ移動して再び私の行く手を塞いだ。
今度は左に行こうとするとその人も左に来てまた道を塞ぐ。まるでディフェンスされてるみたいに。
「っ!ちょっと――」
さすがに不審に思って声を上げて見上げ後ずさりしつつ警戒のするように睨むと、顔が影で隠れて見えなかった人物が誰なのかはっきりと確認できた。
その人物は私のよく知る男の人だった。
最近、私が故意に関わりを避けていたその人が目の前に現れ、私は息が止まるかと思うほど驚いた。
「れ、玲央さん…!」
「お久しぶり。元気そうね」
声を振り絞って名前を呼ぶと、呼ばれた当人はニコッと笑って手をひらりと振った。
何で、ここに、ていうか、私の職場の…え…?え…?――心の中で疑問が出てくるも声に出てこない。
「避けられてたみたいだから待ち伏せでしちゃった。こうでもしないと会ってくれないしょ?」
少しの間、遠ざけていたはずのその声はやけに懐かしく感じた。
避けられていたのをわかっている上で私を待ち伏せしていたのが本当なら、玲央さんは私を怒りに来たんだろうか。
二人きりの夜の公園、街灯の下でお互いに一定の距離を保ちながら私たちは向かい合っている。
玲央さんの背景には満月が上って、まるで1つの絵みたいに私の目には映っていた。
気がついたら見つめている。魅入ってしまう。いつもそうだ。
今は会いたくなかったはずなのに、どうしたって玲央さんが近くにいると堪らなく心が揺れる。どうしようもないんだ。
避けても逃げても告白できなくても、忘れたくても、何か別のことをして気を紛らわせたって、どうしたってこの長い年月をかけて育っていった気持ちは消えようがないのに。
自分からは逃げられないのに。感情がかき乱される。
対峙した一瞬で一気に引き戻されてしまう。張っていた虚勢が一瞬で無意味なものになってしまった。
視界に彼を捉えたまま視界が涙で滲む。こぼれ落ちそうな手前まで目にいっぱい涙がたまる。
でも、まずは避けていたことを謝らないといけない。
震えた唇を開いた私より先に、玲央さんは穏やかに薄く微笑んで浮かべて真っ直ぐ私に視線を向けた。
「この前は意地悪なことを言ってごめんなさいね。辛かったでしょ。アンタって私のこと好きだろうから」
申し訳なさそうに言う彼の声が耳に届いたとき、その内容が脳に伝わって理解するまで数秒かかった。
そして再び数秒私の動きも止まり、瞬きも忘れてしまい、驚きのあまり瞳の縁にたまった涙が引っ込んでしまった。
「…っ!わ、私の、あの、気持ち、し、知ってたんですか?」
驚いた拍子に自分からそれを肯定している台詞が出た後、思わず片手で手を覆ってももう遅い。
秘めていたつもりだった想いはもうとっくに気づかれていたのだから。
近くにいて気持ちを隠し続けるというのはある種、相手を出し抜く策や嘘をつくのが上手い要素がないとダメなわけで、…玲央さんには効くはずもなかったのだ。
どうして今ここでそれを知ることになっているんだろう。情けない。
耳が熱い、顔も、口を覆っている手も全部熱くなる。
私の滑稽な様子を見て彼は声を出してフフッと笑った。やたら品のある声が公園に夜空に溶けた。
「だってあんたってホント分かりやすいから。それで私とわざと距離を置いて諦めようとしてた。そうでしょ?」
全てを見透かしたような目で見てくる彼に、私は何も言うことができなかった。沈黙が答えみたいなものだった。
だって、そうするしかないと思っていたんだ。好きだって伝えて拒絶されるのは耐えられない。
叶わなくたって近くにはいたい。でもこの恋は諦める。悲しかったら気を紛らわせる。そうする方法しか見つけられなかった。
引っ込んだはずの涙がまた簡単に戻ってきて目から零れ落ちた。
大玉の粒が、ぽろぽろと止めどなく溢れてくる。
フラれるのかな――そう思って目を閉じたと同時に、涙の粒を丁寧に掬うかのように玲央さんの指が私の頬に触れた。
細くて長い指が涙の跡をなぞる。苦しい気持ちでいっぱいなのに心地よさに薄く目を開けると、玲央さんは距離つめてすぐ目の前にいた。
腰をかがめて私と同じ目線になっていた。いつもなら照れて慌てだすところだが、驚いて飛び退く余裕は私にはもうなかった。
「馬鹿な子ね。そんな簡単に私を諦めないでくれる?」
ため息混じりのその声が近づいて、彼の唇は不意に私の目尻に触れて離れていった。
反射的に目を閉じてしまったが、チュ、と音がして一気に我に返り、肩がビクリと震えた。
…い、今、何を―――?
目を見開いて彼に視線を移せば、相変わらずの端正な顔立ちで微笑んでいた。
小さく息を吐いて、玲央さんは続けた。
「まぁ、バカなのはお互い様だけどね…。二人とも不器用で嫌になっちゃう」
相槌を打つ余裕もなく、私は硬直したまま聞くしかなかった。
玲央さんは私の気持ちを知っていながら気のないフリをしていたのだと言う。
今の関係あまりにもが心地よかったり、関係が変わっても私を大事にできるのか、本当に相手は自分でいいのか…っていう自信が、あと一歩のところで持てなくて、好きだと伝えるのに踏み出せなかったのだと。
「避けられてるって分かったとき、すごく不安になったわ」
消え入るように呟いた玲央さんの瞳の中に悲しみの色が宿っていた。私が原因で、彼を…?
信じられないような事が現実に起きていて、未だ受け入れるのは難しい。
彼の話が真実ならば、私は一体何を悩んでいたというのか。
容姿端麗で常に冷静沈着、頭もいいし要領だっていい。自信がない彼なんて想像もつかなかった。
常に自信満々で何でも出来る人だって思っていたから。
自信が持てないことなんて、あるの?しかも、こんな私のことで?
今の話はホントにホントにホント!?って聞いたら、「ええ」と一言だけ返事をして彼は頷いた途端、私の目から零れる涙は嬉し涙に変わった。
チクチクした心のトゲが一気に溶けていく。胸の奥が光が差し込んだようにあたたかくなる。
「…玲央さんにも自信が持てないことってあるんですね」
「失礼なこと言わないでよね。大事にし過ぎて臆病になってただけよ」
泣いて真っ赤になった目のまま私が笑うと、玲央さんは少し照れくさそうに唇を尖らせた。
かわいい表情だなと思ったのと同時に、彼が自分のおでこを私のおでこにくっつけてきた。触れ合った部分から熱が伝わってしまうけど、もう気にしなくていいんだ。
「これからはずっと傍にいて」
「はい。離れません」
「じゃあ、いつか私が『結婚する?』って聞くから、その時もハイって言ってね?」
玲央さんの声が私の耳の中だけで響いて溶ける。この声も、何もかも、誰にも譲りたくないと思った。
長い睫が揺れてゆっくりと瞬きをしたのを、私は息がかかりそうな至近距離で見つめた。
少し先の未来のビジョンが視えた――断るずもない。頷く以外想像できない。
「はい」
私もゆっくり目を閉じて返事をすると、くっついていた額は離れ、そこに玲央さんの優しいキスが降りてきた。そして強く抱きしめられたのはその直後のこと。
・・・
・・・・・
・・・・・・
あの日、玲央さんが――『そのうち現れるわよ、アンタだけの王子様が』――と言っていたことは過去にもう現実になっていた。
本当はもうとっくに現れていたのだ。
あの日、あの体育館裏に王子様はやって来た。
高校二年の春、部活中にひどい生理に耐えきれず体育館裏で冷や汗を浮かべてうずくまっていた私。
仕事も残したままだし誰かに見つかって心配されるのも苦手なので、人気のない場所で休憩していた。
体が熱くて頭がぼうっとして、飲んだ鎮痛剤が効いてきてその副作用の眠気でうつらうつらとして、その場で気を失うように眠ってしまった私を抱えてくれた人がいた。
ふわり、と体が浮く感覚。
物語の中で、王子様がお姫様を扱うような紳士的な抱え方をされていた。
その人が歩くたびにふわりふわりと体が揺れて、目を閉じながら海の中を歩いてるような心地よい感覚。
薄れゆく意識の中で聞いた声が耳に響いて今でも忘れられずにいた。あの時からずっと、私の中で王子様はただ一人だ。
『…まったくもう、世話のやける子』
ため息混じりに苦笑した、透き通るような美しい声。その一言で誰だか特定できてしまう口調。
目が覚めたらそこは保健室でその人物がここまで抱えて運んでくれたと気づいた時、胸が高鳴った。
その出来事は、『憧れ』を『恋』に変えてしまうには充分なキッカケ。
『結婚する?って聞くから、ハイって言ってね』
「お互いそろそろ本気でいい人見つけないとねぇ」
ハァ、と色っぽいため息をついて玲央さんが手を傾ける度にグラスの中でゆらゆらとワインが揺れる。
彼が伏し目がちになると長くて綺麗に並んだ睫がよく見えて、さらに色気を醸し出していた。
玲央さん行きつけのオシャレなバーに連れて来てもらったのはいいが、甘いお酒しか飲めない私は彼の隣でカシスオレンジばかり飲んでいる。
ただもう味なんて分からない。その言葉を聞いた瞬間、心臓が直接鷲づかみにされたかのようにズキンと強く痛んだ。
完全に玲央さんの恋愛対象から私は外れていることを意味する言葉だったから。
いや、もう、とっくの昔から外れていたのに、自覚すれば悲しなるだけだから気づかないフリをしていたんだ。
とてもショックで相槌も出ないほどだったが、最後の気力を振り絞って私は苦笑した。
どうか私の心の内がば悟られないように。
「そうですよね。でも私のこと好きになってくれる人なんているのかなぁ」
私の悠長な口振りに、彼もつられて笑っていた。
「大丈夫。そのうち現れるわよ、琴音だけの王子様が」
「…本当に?」
「ええ、本当に」
彼が口角を上げて微笑めば、カウンターに置かれた花瓶に飾られてる薔薇さえ霞むほど美しかった。魅入ってしまう。
それにしても、どうして泣きそうなのに笑ってられるのか、私は。
自分が思った以上に役者に向いてるなぁと頭の片隅で思う。
飲めば何となく恋愛の話にはなる。それは今までに何度もあったのだが、こんなにショックは初めてだった。
告白する前にフラれてしまったような、このやりきれない気持ちは一体どこにぶつければいいのだろう。
玲央さんとの出会いは、洛山高校バスケ部。
自分から入部したい部活もなかった私は、友人の誘いを受けてマネージャーとしてバスケ部に入部した。
高校最強の強豪校と呼ばれる洛山では、バスケ部専用の体育館があるのは当たり前で、尚且つ部員数も多いので部員をサポートするマネージャーも多数必要になり、春になると大人数の募集をかける。ただ、入部届けさえ出せば誰でも入れるいうものではなかった。マネージャーにも入部において部長との面談があり、ある程度の人柄やバスケの知識があるかどうかを見られ、それを通過した上で入部許可がおりる。さして厳しいものでないにしても、私がマネージャーとして受かったのは本当にただ運がよかっただけだと思った。
バスケの知識は小学校の頃から大好きなバスケ漫画を読み込んでいたおかげだ。
私が入部した年には、あの“キセキの世代”の赤司くんも洛山バスケ部に入部し、夏には監督からの推薦もあり主将として彼は4番のユニフォームを着ていた。
玲央さんは二年生で、私の1つ先輩。
大人びた顔立ちをしている美人がいるなぁと強く印象に残ったのを覚えている。
キレイな黒髪、長い睫。女子マネの先輩かと思って話しかけしまったのが私と彼が最初に交わした会話だった。
こんなにキレイな男の人はじめて見た!…って感じで、田舎町から出てきた娘が都会を見て驚いた衝撃に似ている。
ちなみに、有名なのは何もキセキの世代の赤司くんだけではない。洛山には根武谷先輩、コタロー先輩にそして玲央さん…この3人は無冠の五将と呼ばれ中学バスケ界でも特に強く、注目されいた5人のうちの3人だ。
キセキの世代が現れるより前の世代の逸材たち。
有名人なのに後輩の私とも気軽に話してくれる、クセは強いけどいい先輩たちだった。
玲央さんに憧れて目で追うようになって、私からも特に気遣って接していたので彼が私を気に入ってくれるのもそう時間はかからなかった。
『私、細やかな気遣いできる子は好きよ』って、はじめて誉められた日の感動は今でも覚えている。それからはマネージャーの仕事も人一倍頑張るようになった。
洛山卒業後、玲央さんは美容系の専門学校へ進みメイクアップアーティストになった。
その器用さと才能と努力、それと人柄と美しい容姿によって彼が一躍有名になる日もそう遠くないだろう。
就職して3年目にしてご指名の仕事も増えてるみたい。今は会社に所属しているけど、じきに独立するのかなと思う。
独立しても玲央さんなら活躍できると思うし、そのうちメイクアップアーティスト兼タレントとしてテレビに出演してたらどうしようとか…想像したらしっくりきすぎて違和感がなかった。
高校を卒業して何年も経つのに、卒業後も玲央さんと私は時々お買い物したりご飯を食べに行ったり、二十歳を過ぎてからは飲みに行ったりしていた。
最初はバスケ部のみんなも一緒だったのに、最近では二人で飲みに行くことも多くなった。
…といっても、玲央さんはお仕事で忙しく休みも仕事が終わる時間もなかなか不規則なので、頻繁に会えるというわけではなかったが。
忙しいのが分かっていたのでこちらからも誘いずらく、たいてい玲央さんからのお誘い待ちだった。
普通のOLをやってる私は時間の融通が利くから、急なお誘いがあっても大丈夫、と日々構えつつ、彼にご飯に誘われれば当たり前のようにOKをしてでかけていた。
学生の頃、みんなで他愛のない話をしたりふざけあったり冗談言ったり、あれはあれで楽しかったけれど、二人で会ったりお酒が入ったりして深い話になるとまた楽しさが変わる。
内面的な話をしたり、お仕事の話を聞いたり、時々愚痴も。話をする度にもっと玲央さんに近づけた気がした。
高校では『憧れ』だけだったはずのこの気持ちは、次第に別の感情に変化していった。
憧れ続けた先でそれは必然だったかのように『恋』になっていた。
――出会いから今まで、頭の中で回想しながら私は枕に顔を埋めた。
明日は幸い休日。このまま眠ってしまっても支障はないけれど、どうにか化粧ぐらいは落としてから寝たい。けどそんな元気も湧いてこない。
ベッドの上で俯せになった私の目から涙が一筋伝って、白い枕カバーに染みを作った。
涙からアイラインが溶け出してほんのり黒い染み。この染み、漂白剤で洗ったら落ちるかなぁなんてぼんやり考えるだけで慌てる気力もゼロ。
あの後、私はショックを受けたのがバレないように平気なフリをしていたのだけど、やはり途中から耐えられなくなって、体調が悪くなったと嘘をついて玲央さんを残して先にバーを出て来てしまったんだ。
彼は心配して『家まで送るわ』と言ってくれたのだけど、私はそれを断り走って店を出てしまったのは、さすがに不審に思われたかもしれない。でも仕方ない。
あのまま、飲み続けていたらきっと酔いに任せていらんことを喚いて泣き出していたに違いないから。
『お互いにいい人を見つけないとね』…だなんて私にとって残酷なことを言う。
皮肉な台詞が際立つぐらい今日も玲央さんは羨ましいほどキレイだった。
私の心の内を知る由もない玲央さんに非はない。私が勝手に傷ついて勝手に落ち込んでいるだけだ。
もう何年も心の内に想いを秘めて、決して言わず、悟られないように私は玲央さんに恋をしていた。
どうせなら玉砕覚悟で!って告白してみればいいのに。ただそんな勢いがある性格ならば、想いを何年も抱えてたりはしない。
憧れが恋に変わった時点でとっくに好きだと伝えてるだろう。
本当は、憧れだけで終われば良かったのに――無理だった。“あの日”が大きなキッカケとなって、高校を卒業しても日に日に想いは大きくなるばかりだった。
携帯の着信音が鳴ったのでのそのそと起きあがり、鞄の中から携帯を取り出して見るとメールが1通。
『――大丈夫?』という文面からはじまるメールが玲央さんから送られてきて、目頭が余計に熱くなった。
返信を打つ指が震えて打てなかったので、結局そのメールに対しての返信は何も返さずに私は化粧も落とさないまま眠りに落ちた。
□ □ □
玲央さんから届いたメールに『大丈夫です。心配かけてすいません』とだけ返してから、一ヶ月が過ぎた。
その間何度かお誘いがあったけれど、全て断りの返信をしていたら、そのうちパタリと連絡はこなくなった。
何かと都合をつけて断るような返信は心が痛んだけれど、今は会えるような気分にはなれなかった。
自分勝手で申し訳無かったが、こちらから連絡をしなければしばらく会わなくて済む。
玲央さんにとって私はずっといい後輩。かわいい後輩のままなんだ。
会わなくても平気な期間が続けば、それはそれでいい。どこか自分を無理に納得させてしまう他なかった。それが一区切りつけるということならば避けて通れない。
そうでもしないと、諦めなんてつかないだろうから。
考え事をしながらもキーボードを打つ手を止めることなく、私はひたすらパソコンのディスプレイと向き合って今日も今日とて仕事をしていた。
定時のチャイムがフロアに響いてもお構いなしに、黙々と続ける。
仕事に没頭するのも気を紛らわせる1つの手かなと思い、自分から上司に頼んで仕事の量を増やしてもらい、私はここ最近毎日のように残業を続けていた。
同僚達が何かあったのかと心配してくれたのだけれど、特に理由は言わなかった。心配してもらえるだけでも充分ありがたかった。
「つかれたー…」
会社のロビーを抜けて外に出ると、もう春なのに冷たい風が吹いて私のスカートの裾を揺らす。
大きく伸びをして歩きながら独り言ちるも答えてくれる人はどこにもいない。自ら仕事量を増やしてと頼んでおいてもずっとデスクワークをしているわけだから、疲れるものは疲れる。
しかしまだ午後9時だというのに、この時間帯のオフィス街はまるで人気がなかった。
連日こんな時間に帰るなんて繁忙期以来かなぁ。まさか自分から仕事を増やしてくださいと頼む日が来るなんて。
街灯と月明かりが照らす帰り道、いつもの公園を抜けて駅に行く途中、やたら黒ずくめの格好をしている長身の人物が突然私の道を塞いだ。
細身に似合う黒のトレンチコート。シルエットは外国のモデルみたいで立ち姿もスラリとしてきれいだ。
ぶつかりそうになっただけかと思って私が小さく会釈しながら右へ避けようとすると、その人は同じ方向へ移動して再び私の行く手を塞いだ。
今度は左に行こうとするとその人も左に来てまた道を塞ぐ。まるでディフェンスされてるみたいに。
「っ!ちょっと――」
さすがに不審に思って声を上げて見上げ後ずさりしつつ警戒のするように睨むと、顔が影で隠れて見えなかった人物が誰なのかはっきりと確認できた。
その人物は私のよく知る男の人だった。
最近、私が故意に関わりを避けていたその人が目の前に現れ、私は息が止まるかと思うほど驚いた。
「れ、玲央さん…!」
「お久しぶり。元気そうね」
声を振り絞って名前を呼ぶと、呼ばれた当人はニコッと笑って手をひらりと振った。
何で、ここに、ていうか、私の職場の…え…?え…?――心の中で疑問が出てくるも声に出てこない。
「避けられてたみたいだから待ち伏せでしちゃった。こうでもしないと会ってくれないしょ?」
少しの間、遠ざけていたはずのその声はやけに懐かしく感じた。
避けられていたのをわかっている上で私を待ち伏せしていたのが本当なら、玲央さんは私を怒りに来たんだろうか。
二人きりの夜の公園、街灯の下でお互いに一定の距離を保ちながら私たちは向かい合っている。
玲央さんの背景には満月が上って、まるで1つの絵みたいに私の目には映っていた。
気がついたら見つめている。魅入ってしまう。いつもそうだ。
今は会いたくなかったはずなのに、どうしたって玲央さんが近くにいると堪らなく心が揺れる。どうしようもないんだ。
避けても逃げても告白できなくても、忘れたくても、何か別のことをして気を紛らわせたって、どうしたってこの長い年月をかけて育っていった気持ちは消えようがないのに。
自分からは逃げられないのに。感情がかき乱される。
対峙した一瞬で一気に引き戻されてしまう。張っていた虚勢が一瞬で無意味なものになってしまった。
視界に彼を捉えたまま視界が涙で滲む。こぼれ落ちそうな手前まで目にいっぱい涙がたまる。
でも、まずは避けていたことを謝らないといけない。
震えた唇を開いた私より先に、玲央さんは穏やかに薄く微笑んで浮かべて真っ直ぐ私に視線を向けた。
「この前は意地悪なことを言ってごめんなさいね。辛かったでしょ。アンタって私のこと好きだろうから」
申し訳なさそうに言う彼の声が耳に届いたとき、その内容が脳に伝わって理解するまで数秒かかった。
そして再び数秒私の動きも止まり、瞬きも忘れてしまい、驚きのあまり瞳の縁にたまった涙が引っ込んでしまった。
「…っ!わ、私の、あの、気持ち、し、知ってたんですか?」
驚いた拍子に自分からそれを肯定している台詞が出た後、思わず片手で手を覆ってももう遅い。
秘めていたつもりだった想いはもうとっくに気づかれていたのだから。
近くにいて気持ちを隠し続けるというのはある種、相手を出し抜く策や嘘をつくのが上手い要素がないとダメなわけで、…玲央さんには効くはずもなかったのだ。
どうして今ここでそれを知ることになっているんだろう。情けない。
耳が熱い、顔も、口を覆っている手も全部熱くなる。
私の滑稽な様子を見て彼は声を出してフフッと笑った。やたら品のある声が公園に夜空に溶けた。
「だってあんたってホント分かりやすいから。それで私とわざと距離を置いて諦めようとしてた。そうでしょ?」
全てを見透かしたような目で見てくる彼に、私は何も言うことができなかった。沈黙が答えみたいなものだった。
だって、そうするしかないと思っていたんだ。好きだって伝えて拒絶されるのは耐えられない。
叶わなくたって近くにはいたい。でもこの恋は諦める。悲しかったら気を紛らわせる。そうする方法しか見つけられなかった。
引っ込んだはずの涙がまた簡単に戻ってきて目から零れ落ちた。
大玉の粒が、ぽろぽろと止めどなく溢れてくる。
フラれるのかな――そう思って目を閉じたと同時に、涙の粒を丁寧に掬うかのように玲央さんの指が私の頬に触れた。
細くて長い指が涙の跡をなぞる。苦しい気持ちでいっぱいなのに心地よさに薄く目を開けると、玲央さんは距離つめてすぐ目の前にいた。
腰をかがめて私と同じ目線になっていた。いつもなら照れて慌てだすところだが、驚いて飛び退く余裕は私にはもうなかった。
「馬鹿な子ね。そんな簡単に私を諦めないでくれる?」
ため息混じりのその声が近づいて、彼の唇は不意に私の目尻に触れて離れていった。
反射的に目を閉じてしまったが、チュ、と音がして一気に我に返り、肩がビクリと震えた。
…い、今、何を―――?
目を見開いて彼に視線を移せば、相変わらずの端正な顔立ちで微笑んでいた。
小さく息を吐いて、玲央さんは続けた。
「まぁ、バカなのはお互い様だけどね…。二人とも不器用で嫌になっちゃう」
相槌を打つ余裕もなく、私は硬直したまま聞くしかなかった。
玲央さんは私の気持ちを知っていながら気のないフリをしていたのだと言う。
今の関係あまりにもが心地よかったり、関係が変わっても私を大事にできるのか、本当に相手は自分でいいのか…っていう自信が、あと一歩のところで持てなくて、好きだと伝えるのに踏み出せなかったのだと。
「避けられてるって分かったとき、すごく不安になったわ」
消え入るように呟いた玲央さんの瞳の中に悲しみの色が宿っていた。私が原因で、彼を…?
信じられないような事が現実に起きていて、未だ受け入れるのは難しい。
彼の話が真実ならば、私は一体何を悩んでいたというのか。
容姿端麗で常に冷静沈着、頭もいいし要領だっていい。自信がない彼なんて想像もつかなかった。
常に自信満々で何でも出来る人だって思っていたから。
自信が持てないことなんて、あるの?しかも、こんな私のことで?
今の話はホントにホントにホント!?って聞いたら、「ええ」と一言だけ返事をして彼は頷いた途端、私の目から零れる涙は嬉し涙に変わった。
チクチクした心のトゲが一気に溶けていく。胸の奥が光が差し込んだようにあたたかくなる。
「…玲央さんにも自信が持てないことってあるんですね」
「失礼なこと言わないでよね。大事にし過ぎて臆病になってただけよ」
泣いて真っ赤になった目のまま私が笑うと、玲央さんは少し照れくさそうに唇を尖らせた。
かわいい表情だなと思ったのと同時に、彼が自分のおでこを私のおでこにくっつけてきた。触れ合った部分から熱が伝わってしまうけど、もう気にしなくていいんだ。
「これからはずっと傍にいて」
「はい。離れません」
「じゃあ、いつか私が『結婚する?』って聞くから、その時もハイって言ってね?」
玲央さんの声が私の耳の中だけで響いて溶ける。この声も、何もかも、誰にも譲りたくないと思った。
長い睫が揺れてゆっくりと瞬きをしたのを、私は息がかかりそうな至近距離で見つめた。
少し先の未来のビジョンが視えた――断るずもない。頷く以外想像できない。
「はい」
私もゆっくり目を閉じて返事をすると、くっついていた額は離れ、そこに玲央さんの優しいキスが降りてきた。そして強く抱きしめられたのはその直後のこと。
・・・
・・・・・
・・・・・・
あの日、玲央さんが――『そのうち現れるわよ、アンタだけの王子様が』――と言っていたことは過去にもう現実になっていた。
本当はもうとっくに現れていたのだ。
あの日、あの体育館裏に王子様はやって来た。
高校二年の春、部活中にひどい生理に耐えきれず体育館裏で冷や汗を浮かべてうずくまっていた私。
仕事も残したままだし誰かに見つかって心配されるのも苦手なので、人気のない場所で休憩していた。
体が熱くて頭がぼうっとして、飲んだ鎮痛剤が効いてきてその副作用の眠気でうつらうつらとして、その場で気を失うように眠ってしまった私を抱えてくれた人がいた。
ふわり、と体が浮く感覚。
物語の中で、王子様がお姫様を扱うような紳士的な抱え方をされていた。
その人が歩くたびにふわりふわりと体が揺れて、目を閉じながら海の中を歩いてるような心地よい感覚。
薄れゆく意識の中で聞いた声が耳に響いて今でも忘れられずにいた。あの時からずっと、私の中で王子様はただ一人だ。
『…まったくもう、世話のやける子』
ため息混じりに苦笑した、透き通るような美しい声。その一言で誰だか特定できてしまう口調。
目が覚めたらそこは保健室でその人物がここまで抱えて運んでくれたと気づいた時、胸が高鳴った。
その出来事は、『憧れ』を『恋』に変えてしまうには充分なキッカケ。