企画もの
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未来へのロマンス
「笠松くんと結婚したら幸せな家庭が築けそうだよね」
頬杖を付きながら真面目なトーンで言う私の言葉に、黄瀬くんはグッと喉を詰まらせた。
直後、ゲホゲホと咽ながらバニラシェイクをテーブルに置いたのを見て、私は慌てて「大丈夫!?」と声をかける。
そういえば黄瀬くんがバニラシェイクなんて頼むのは珍しい。お友達の影響だろうか。
ゲホゲホしながらも片手を力なく顔の前に挙げて“だいじょうぶ”のサインをする彼は、咽ようが口の端にバニラシェイクがついてようがイケメンには変わりなかった。
店の時計の指針は、もうすぐ午後6時を指そうとしていた。私が黄瀬くんお茶しているのは、簡潔にいうと彼に誘われたからだ。
大学での午後の講義をみっちり受けた後、今日はまっすぐ帰るだけで特に用事もなかったので海常高校の体育館まで練習を見に行った。
ちょっと遅い時間だったからか、既に練習は終わっていて体育館には部員たちがチラホラといるだけだった。
笠松くんも残っていたので少しだけ話をして、そのまま帰ろうとしたところを部室から出てきた黄瀬くんに見つかって、捕まって――今に至る。
MAJIバーガーには学校帰りの寄り道を楽しむ学生たちがたくさん居る。その中のテーブルの1つを挟んで向かい合って座っているのが私と黄瀬くんだった。
「どうしたんスか突然」
少し唐突過ぎただろうか。私がそんなことを言ったものだから黄瀬くんは咽たあげくにひどく驚いていた。
まぁ、その思考に至るまでの経緯をザクッと説明すると、だ。
「周りの友達の女子力高すぎて、自分の女子力のなさに自信喪失しちゃってさ…」
口調まで老いを感じさせるような物言いで伝えると、黄瀬くんは「?」マークを頭に浮かべたような顔で小首をかしげた。
納得していないことは一目瞭然だった。彼は言いたいことを我慢するタイプではないので、案の定私に食って掛かってきた。
「自信喪失って…そんな事ないと思うけど。…で、どうしてそこで笠松先輩はでてくるんスか?意味わかんねぇっスよ」
「そんな女子力ゼロな私でも笠松くんなら嫌がらずに貰ってくれそうかなと思って」
躊躇いもせず告げるとますます黄瀬くんは首を傾げて、ついでに唇を尖らせていた。
まだ何か言いたそうだが今度は押し黙っているようだ。
私は気にすることなく、頼んだポテトをパクパクと食べ始める。ポテトがセールの日なので一番大きいサイズのを頼んでしまった。
頼んだ後に、『ダイエットは明日から』という標語が頭の中を掠める。
高カロリーのものを躊躇なくガツガツと…こういうところが女子力が低さを浮き彫りしにしてしまっている原因か。
大学の先生の頼まれ事で海常バスケ部の監督に届け物をするようになってからというもの、バスケ部のメンバーとも顔見知りになってきた。
その頃の出来事で、偶然にも笠松くんはうちの大学の見学にやってきて私が校内の案内係になったことがあった。どうやら志望校のひとつとして目指しているようだ。
お互い面識があるのでいつもより校内案内が楽しくスムーズに進み、その時にわりとたくさん話したのをキッカケに、今では練習を見に行けば一言二言交わす程度には仲良くなった。
あまり女性と話す機会もなく過ごしてきたらしく、私は唯一、わりとまともに話ができる女性の一人だと言われた。
…とまぁ、ここまでのエピソードは黄瀬くんには以前話したことがったので、改めて彼に話すほどのことでもないのだが。
「笠松先輩は時々優しいかもしれないっスけど、厳しいよ?シバかれるよ?!」
「見てる限りシバかれてるの黄瀬くんだけじゃない?」
「ひどっ!!」
「でも事実だし」
うっ、うっ、と泣き真似をしつつも、彼の脳裏には日々部活でシバかれている思い出が過っているのだろう。
練習中に女の子の黄色い声に応えて手を振ったり、私が練習を覗きにいった時に黄瀬くんがブンブンとこちらに向かって手を振った時には、笠松くんに思い切り蹴られてるし怒鳴られてるしなぁ。
事実、練習を見に来る女子の9割が黄瀬くん目当てといっても過言ではないからだ。
それを見る度に森山くんは恨めしそうに黄瀬くんを見つめている。笠松くんは部の秩序を守るためにって感じでドツいているに違いない。
だからドツかれるのもあれは主将として部の規律を守るためにやっているのだろう。多分。
「キャプテンだからすごく頼りになるし、そういう人って安心するじゃない?」
ニッコリ笑って告げると、とうとう不機嫌をあからさまに表情にだして黄瀬くんはため息をついていた。ああ、拗ねちゃった。
こういうところはまだまだ16歳の少年らしいなと思う。私たちの会話をもしファンが聞いたら、私はすごい非難を浴びるだろうな。
「今、俺とお茶してんのに、何で笠松先輩の話ばっかしてるんスか」
我慢することもなく思ったことをそのまま言ってしまうところも、まだ少年のままだなぁと思った。
臆することなく言えるのが、すごい。好意も素直に向けてきてやきもちも隠したりしない。まっすぐに自分を表に出せる黄瀬くんを羨ましく思う。
「だって黄瀬くんが聞いてきたんだよ?最近どんなこと考えてる?って。だから最近思ってたことをそのままペラペラ喋っちゃった」
「そこは『黄瀬くんのこと考えてたよ』って言ってほしかったとこっス」
そんな、ジト目で見られても困ってしまう。テーブル1つ挟んで向かい合ってるものの、彼はやや前に乗り出してグッと迫ってくるので、やたら距離が近く感じた。
彼の中では、女の子に「何考えてるか?」と聞いたときには「黄瀬くんことだよ」というやりとりが当たり前だったんだろうか、それは定かではないにしても…。
とりあえず彼は私に好意があるのに、私が彼のまったく予想しないことばかり言うのが現状だ。
「ちゃんと考えてるよ?黄瀬くんが優しいし頼りになるって知ってるよ」
「誰かと比べたりしてないスか?」
「もちろん」
「…ホントに?」
「ホントだよ」
拗ねた子供の機嫌を取っているように思えて、私はつい、フフ、と声をだして笑うと黄瀬くんもつられて照れたようにはにかんだ。
ハハハ、と笑ってから数秒、今度はその表情はフリーズ。
あーあ、と大きなため息をつくと彼はテーブルに顔を突っ伏してしまった。
「オレのことヘコませんのも喜ばせんのもお手の物っスね」
顔を突っ伏しているせいで声がくぐもっているが、ハッキリとそう聞こえた。
そうかなぁ、と適当に相槌を返すと黄瀬くんは顔をあげてこちらに手を伸ばしてきて私の両手を掴んだ。
バスケットをしているこの手は大きくてごつごつしていて、しかし体温は寝起きのように温かい。
「…ちゃんと貰うから。オレが」
一際強く手を握り締めると同時に、告げられたその一言に不覚にも私はドキリとしてしまった。
あぁ、やっぱりかっこいいな。イケメンが言うと特に、カッコイイセリフは輝くな。
「はいはい、期待してます」
私も手を握り返して微笑むと、黄瀬くんはムスッと拗ねた表情で顔を上げた。
「あーもう!本気にしてない!」
「してるってば」
「してない!」
「してるって」
「してないっス!」
「じゃあしてない」
「ひど…っ!」
手を握りながら押し問答しているなんて、おかしなカップルに見えるだろうか。
両手は、ほどけるほど弱い力では握られていないからほどけないし、私も握り返しているし、ほどく必要もない。
『貰うから』だなんて、あれは一種のプロポーズ?
本気の告白もまだされていないのにそれをすっ飛ばしてプロポーズだなんておかしいけれど。
黄瀬くんが私をずっと見ていてくれているのなら、私は誰のところにも行かないよ?
貰ってくれるまで待ってるよ?
…って、素直に伝えられたらいいのに。
いつかそんな風に、真っ直ぐ臆さず自分の気持ちを伝えられる日が来たら、君はどんな顔をするだろうか。
「笠松くんと結婚したら幸せな家庭が築けそうだよね」
頬杖を付きながら真面目なトーンで言う私の言葉に、黄瀬くんはグッと喉を詰まらせた。
直後、ゲホゲホと咽ながらバニラシェイクをテーブルに置いたのを見て、私は慌てて「大丈夫!?」と声をかける。
そういえば黄瀬くんがバニラシェイクなんて頼むのは珍しい。お友達の影響だろうか。
ゲホゲホしながらも片手を力なく顔の前に挙げて“だいじょうぶ”のサインをする彼は、咽ようが口の端にバニラシェイクがついてようがイケメンには変わりなかった。
店の時計の指針は、もうすぐ午後6時を指そうとしていた。私が黄瀬くんお茶しているのは、簡潔にいうと彼に誘われたからだ。
大学での午後の講義をみっちり受けた後、今日はまっすぐ帰るだけで特に用事もなかったので海常高校の体育館まで練習を見に行った。
ちょっと遅い時間だったからか、既に練習は終わっていて体育館には部員たちがチラホラといるだけだった。
笠松くんも残っていたので少しだけ話をして、そのまま帰ろうとしたところを部室から出てきた黄瀬くんに見つかって、捕まって――今に至る。
MAJIバーガーには学校帰りの寄り道を楽しむ学生たちがたくさん居る。その中のテーブルの1つを挟んで向かい合って座っているのが私と黄瀬くんだった。
「どうしたんスか突然」
少し唐突過ぎただろうか。私がそんなことを言ったものだから黄瀬くんは咽たあげくにひどく驚いていた。
まぁ、その思考に至るまでの経緯をザクッと説明すると、だ。
「周りの友達の女子力高すぎて、自分の女子力のなさに自信喪失しちゃってさ…」
口調まで老いを感じさせるような物言いで伝えると、黄瀬くんは「?」マークを頭に浮かべたような顔で小首をかしげた。
納得していないことは一目瞭然だった。彼は言いたいことを我慢するタイプではないので、案の定私に食って掛かってきた。
「自信喪失って…そんな事ないと思うけど。…で、どうしてそこで笠松先輩はでてくるんスか?意味わかんねぇっスよ」
「そんな女子力ゼロな私でも笠松くんなら嫌がらずに貰ってくれそうかなと思って」
躊躇いもせず告げるとますます黄瀬くんは首を傾げて、ついでに唇を尖らせていた。
まだ何か言いたそうだが今度は押し黙っているようだ。
私は気にすることなく、頼んだポテトをパクパクと食べ始める。ポテトがセールの日なので一番大きいサイズのを頼んでしまった。
頼んだ後に、『ダイエットは明日から』という標語が頭の中を掠める。
高カロリーのものを躊躇なくガツガツと…こういうところが女子力が低さを浮き彫りしにしてしまっている原因か。
大学の先生の頼まれ事で海常バスケ部の監督に届け物をするようになってからというもの、バスケ部のメンバーとも顔見知りになってきた。
その頃の出来事で、偶然にも笠松くんはうちの大学の見学にやってきて私が校内の案内係になったことがあった。どうやら志望校のひとつとして目指しているようだ。
お互い面識があるのでいつもより校内案内が楽しくスムーズに進み、その時にわりとたくさん話したのをキッカケに、今では練習を見に行けば一言二言交わす程度には仲良くなった。
あまり女性と話す機会もなく過ごしてきたらしく、私は唯一、わりとまともに話ができる女性の一人だと言われた。
…とまぁ、ここまでのエピソードは黄瀬くんには以前話したことがったので、改めて彼に話すほどのことでもないのだが。
「笠松先輩は時々優しいかもしれないっスけど、厳しいよ?シバかれるよ?!」
「見てる限りシバかれてるの黄瀬くんだけじゃない?」
「ひどっ!!」
「でも事実だし」
うっ、うっ、と泣き真似をしつつも、彼の脳裏には日々部活でシバかれている思い出が過っているのだろう。
練習中に女の子の黄色い声に応えて手を振ったり、私が練習を覗きにいった時に黄瀬くんがブンブンとこちらに向かって手を振った時には、笠松くんに思い切り蹴られてるし怒鳴られてるしなぁ。
事実、練習を見に来る女子の9割が黄瀬くん目当てといっても過言ではないからだ。
それを見る度に森山くんは恨めしそうに黄瀬くんを見つめている。笠松くんは部の秩序を守るためにって感じでドツいているに違いない。
だからドツかれるのもあれは主将として部の規律を守るためにやっているのだろう。多分。
「キャプテンだからすごく頼りになるし、そういう人って安心するじゃない?」
ニッコリ笑って告げると、とうとう不機嫌をあからさまに表情にだして黄瀬くんはため息をついていた。ああ、拗ねちゃった。
こういうところはまだまだ16歳の少年らしいなと思う。私たちの会話をもしファンが聞いたら、私はすごい非難を浴びるだろうな。
「今、俺とお茶してんのに、何で笠松先輩の話ばっかしてるんスか」
我慢することもなく思ったことをそのまま言ってしまうところも、まだ少年のままだなぁと思った。
臆することなく言えるのが、すごい。好意も素直に向けてきてやきもちも隠したりしない。まっすぐに自分を表に出せる黄瀬くんを羨ましく思う。
「だって黄瀬くんが聞いてきたんだよ?最近どんなこと考えてる?って。だから最近思ってたことをそのままペラペラ喋っちゃった」
「そこは『黄瀬くんのこと考えてたよ』って言ってほしかったとこっス」
そんな、ジト目で見られても困ってしまう。テーブル1つ挟んで向かい合ってるものの、彼はやや前に乗り出してグッと迫ってくるので、やたら距離が近く感じた。
彼の中では、女の子に「何考えてるか?」と聞いたときには「黄瀬くんことだよ」というやりとりが当たり前だったんだろうか、それは定かではないにしても…。
とりあえず彼は私に好意があるのに、私が彼のまったく予想しないことばかり言うのが現状だ。
「ちゃんと考えてるよ?黄瀬くんが優しいし頼りになるって知ってるよ」
「誰かと比べたりしてないスか?」
「もちろん」
「…ホントに?」
「ホントだよ」
拗ねた子供の機嫌を取っているように思えて、私はつい、フフ、と声をだして笑うと黄瀬くんもつられて照れたようにはにかんだ。
ハハハ、と笑ってから数秒、今度はその表情はフリーズ。
あーあ、と大きなため息をつくと彼はテーブルに顔を突っ伏してしまった。
「オレのことヘコませんのも喜ばせんのもお手の物っスね」
顔を突っ伏しているせいで声がくぐもっているが、ハッキリとそう聞こえた。
そうかなぁ、と適当に相槌を返すと黄瀬くんは顔をあげてこちらに手を伸ばしてきて私の両手を掴んだ。
バスケットをしているこの手は大きくてごつごつしていて、しかし体温は寝起きのように温かい。
「…ちゃんと貰うから。オレが」
一際強く手を握り締めると同時に、告げられたその一言に不覚にも私はドキリとしてしまった。
あぁ、やっぱりかっこいいな。イケメンが言うと特に、カッコイイセリフは輝くな。
「はいはい、期待してます」
私も手を握り返して微笑むと、黄瀬くんはムスッと拗ねた表情で顔を上げた。
「あーもう!本気にしてない!」
「してるってば」
「してない!」
「してるって」
「してないっス!」
「じゃあしてない」
「ひど…っ!」
手を握りながら押し問答しているなんて、おかしなカップルに見えるだろうか。
両手は、ほどけるほど弱い力では握られていないからほどけないし、私も握り返しているし、ほどく必要もない。
『貰うから』だなんて、あれは一種のプロポーズ?
本気の告白もまだされていないのにそれをすっ飛ばしてプロポーズだなんておかしいけれど。
黄瀬くんが私をずっと見ていてくれているのなら、私は誰のところにも行かないよ?
貰ってくれるまで待ってるよ?
…って、素直に伝えられたらいいのに。
いつかそんな風に、真っ直ぐ臆さず自分の気持ちを伝えられる日が来たら、君はどんな顔をするだろうか。