短編・中編
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センチメンタルピリオド
-2.5- ※夢主視点
眠る前、鏡を見つめて前髪を片手で掻き上げて額を晒す。思い返しては耳が熱くなり、心臓がドキドキと高鳴る。今日、新開くんが私の額にキスをした。心臓が口から飛び出るかというほど驚いて思わず逃げ出してしまったが、あの後はどうにか平静を装って普通にしていられた――けど、大丈夫だったか、動揺が滲み出たりしていなかっただろうか。
――『おめさんが可愛いから、からかいたくなっちまうんだ』
耳に残ったその声。真に受けるな、からかわれただけだ、と繰り返して何度も高ぶる気持ちを打ち消した。真に受けたらその後、傷つくのは自分なのだから。それに、あんな風にからかわれたのに全く嫌じゃない。
好きになった方が負けってホント、その通りだ。
二重の色っぽい瞳、厚い唇――新開くんのその整った顔立ちはいわゆるイケメンそのもので、密かににファンクラブが存在するのも納得だ。あのからかい方も女性慣れしてるような感じだったし、でもあんなことされたら勘違いしてしまう女子も沢山いるだろう。落ち込んでいる時、飄々とした態度で励ましてくれる彼は、優しくて気遣い屋で、女子からの人気はもちろん男子の友達も多かった。
寿一くんから新開くんを紹介されたのは箱学の入学式。それ以降は校内で見かけては話す機会が増えていった。
二年生になって同じクラスになり、二学期の席替えで隣の席になったおかげでより親しくなった。寿一くんの幼馴染だから紹介されたわけで、もし何の縁もなければ隣の席だとしても緊張して話しかけられずに一年間終わっていただろう。入学式で話していた『宿題の協調』は、同じクラスになって実行することが出来た。
自転車競技部の名門・箱学の練習量は並大抵のものではなく、その分勉強の方に手が回らないので宿題の協調は助かるよと、新開くんは喜んでいた。
「琴音にやらせてばっかだけどなぁ。悪いね」
「ううん。私の回答間違ってるところもあるし、わからなかったところは一緒に解いてもらえるから私も助かってるよ」
和気藹々と話している時はクラスの女子の視線が痛かったけれど、突っかかってくることはなかった。“新開くんは優しいから”っていうのをみんな分かっていたからだと思う。隣の席で羨ましいとは思われていただろうけど。
私が特別なわけじゃない。『みんなに優しい人気者』だから。
日々膨らんでいく自分の気持ちを抑えることができたものも、そう思う事で誤魔化すことができた。そうでもしないと、ドキドキしてしまって普通に接してられない。彼はただ優しいだけ。私だけを特別扱いなんて思い上がりはしない。たまたま席が隣で――もし、少しでも私を特別に思っていてくれてるのだとしたらそれは私が寿一くんの幼馴染だからだ。それ以外思いつかない。
私は新開くんが好きになったのは同じクラスになってから、隣の席になってからだ。『隣の席』というのは、相手を知るには何とも絶好な位置だったりする。宿題を協調したり、授業と授業の合間のちょっとした休み時間に雑談したり、教科書を忘れたら机を寄せあって見せたり……。
雑談の内容は部活の話や、寿一くんの中学時代の話とか。私からは新開くんが知らない幼少期の思い出を話したりした。
「そんなに気になるかい。寿一が」
話し終えると決まって新開くんはそんな事を言うものだから、私は慌ててかぶりを振った。幼馴染の話は単純な興味からなのに、毎度同じように勘違いされてしまう。照れなくていいさと、軽く笑われた。
「琴音と話してると楽しいな」
「え?」
「あぁ、いやぁ…俺に近づいてくる女子はどーもなぁ。期待したような目で見られてる気がしてちょっと疲れるんだよな」
「モテる男の運命だから仕方ないよ。いつの時代でもイケメンは必要だからね」
「はは、何だそりゃ」
声を立てて笑う彼に首を傾げる私。何か変な事でも言ったかな。“話してると楽しい”だなんて、嬉しいことを言って貰えても舞い上がったりすることはなかった。その時はまだ、私は新開くんを普通のクラスメイトとして見ていたからだ。
それから二学期が終わるまでずっと隣の席で過ごし、トン、トン、トン――と順調に、階段を跳ねながら転がり落ちていくボールのように、私は新開くんをゆっくりと自然に好きになっていた。
同時に、叶わない恋だと悟った。彼が私と話してて楽しいっていうのは『気が楽』だって意味だろう。それってつまり『意識されてない』ってこと。
初めて出会って随分経つ。同じクラスになって隣の席になり、部員とマネージャーとして関わるようになってからも、私は自然体で飾らない自分を見せてきたつもりだ。それでも何とも思われなかったって事は、もう恋愛対象としては望みはないと思う。
――でも、仲良くしてもらえるならそれでもいいか。万が一にも、自分から告白して気まずくなるぐらいだったらこのままの関係の方がいい。言い聞かせるというよりは、辛い気持ちもなくすんなり自分を納得させることができた。
現状のままでいいのだと納得はしたけれど、かといって気持ちが加速しないかといえば別の話。クラスの出し物がある二年の文化祭にて、新開くんとペアを組んで校内を回ったあの日。思い返しては心の中があたたかくなって、もっと好きになってしまいそうな、そんな思い出。
-2.5- ※夢主視点
眠る前、鏡を見つめて前髪を片手で掻き上げて額を晒す。思い返しては耳が熱くなり、心臓がドキドキと高鳴る。今日、新開くんが私の額にキスをした。心臓が口から飛び出るかというほど驚いて思わず逃げ出してしまったが、あの後はどうにか平静を装って普通にしていられた――けど、大丈夫だったか、動揺が滲み出たりしていなかっただろうか。
――『おめさんが可愛いから、からかいたくなっちまうんだ』
耳に残ったその声。真に受けるな、からかわれただけだ、と繰り返して何度も高ぶる気持ちを打ち消した。真に受けたらその後、傷つくのは自分なのだから。それに、あんな風にからかわれたのに全く嫌じゃない。
好きになった方が負けってホント、その通りだ。
二重の色っぽい瞳、厚い唇――新開くんのその整った顔立ちはいわゆるイケメンそのもので、密かににファンクラブが存在するのも納得だ。あのからかい方も女性慣れしてるような感じだったし、でもあんなことされたら勘違いしてしまう女子も沢山いるだろう。落ち込んでいる時、飄々とした態度で励ましてくれる彼は、優しくて気遣い屋で、女子からの人気はもちろん男子の友達も多かった。
寿一くんから新開くんを紹介されたのは箱学の入学式。それ以降は校内で見かけては話す機会が増えていった。
二年生になって同じクラスになり、二学期の席替えで隣の席になったおかげでより親しくなった。寿一くんの幼馴染だから紹介されたわけで、もし何の縁もなければ隣の席だとしても緊張して話しかけられずに一年間終わっていただろう。入学式で話していた『宿題の協調』は、同じクラスになって実行することが出来た。
自転車競技部の名門・箱学の練習量は並大抵のものではなく、その分勉強の方に手が回らないので宿題の協調は助かるよと、新開くんは喜んでいた。
「琴音にやらせてばっかだけどなぁ。悪いね」
「ううん。私の回答間違ってるところもあるし、わからなかったところは一緒に解いてもらえるから私も助かってるよ」
和気藹々と話している時はクラスの女子の視線が痛かったけれど、突っかかってくることはなかった。“新開くんは優しいから”っていうのをみんな分かっていたからだと思う。隣の席で羨ましいとは思われていただろうけど。
私が特別なわけじゃない。『みんなに優しい人気者』だから。
日々膨らんでいく自分の気持ちを抑えることができたものも、そう思う事で誤魔化すことができた。そうでもしないと、ドキドキしてしまって普通に接してられない。彼はただ優しいだけ。私だけを特別扱いなんて思い上がりはしない。たまたま席が隣で――もし、少しでも私を特別に思っていてくれてるのだとしたらそれは私が寿一くんの幼馴染だからだ。それ以外思いつかない。
私は新開くんが好きになったのは同じクラスになってから、隣の席になってからだ。『隣の席』というのは、相手を知るには何とも絶好な位置だったりする。宿題を協調したり、授業と授業の合間のちょっとした休み時間に雑談したり、教科書を忘れたら机を寄せあって見せたり……。
雑談の内容は部活の話や、寿一くんの中学時代の話とか。私からは新開くんが知らない幼少期の思い出を話したりした。
「そんなに気になるかい。寿一が」
話し終えると決まって新開くんはそんな事を言うものだから、私は慌ててかぶりを振った。幼馴染の話は単純な興味からなのに、毎度同じように勘違いされてしまう。照れなくていいさと、軽く笑われた。
「琴音と話してると楽しいな」
「え?」
「あぁ、いやぁ…俺に近づいてくる女子はどーもなぁ。期待したような目で見られてる気がしてちょっと疲れるんだよな」
「モテる男の運命だから仕方ないよ。いつの時代でもイケメンは必要だからね」
「はは、何だそりゃ」
声を立てて笑う彼に首を傾げる私。何か変な事でも言ったかな。“話してると楽しい”だなんて、嬉しいことを言って貰えても舞い上がったりすることはなかった。その時はまだ、私は新開くんを普通のクラスメイトとして見ていたからだ。
それから二学期が終わるまでずっと隣の席で過ごし、トン、トン、トン――と順調に、階段を跳ねながら転がり落ちていくボールのように、私は新開くんをゆっくりと自然に好きになっていた。
同時に、叶わない恋だと悟った。彼が私と話してて楽しいっていうのは『気が楽』だって意味だろう。それってつまり『意識されてない』ってこと。
初めて出会って随分経つ。同じクラスになって隣の席になり、部員とマネージャーとして関わるようになってからも、私は自然体で飾らない自分を見せてきたつもりだ。それでも何とも思われなかったって事は、もう恋愛対象としては望みはないと思う。
――でも、仲良くしてもらえるならそれでもいいか。万が一にも、自分から告白して気まずくなるぐらいだったらこのままの関係の方がいい。言い聞かせるというよりは、辛い気持ちもなくすんなり自分を納得させることができた。
現状のままでいいのだと納得はしたけれど、かといって気持ちが加速しないかといえば別の話。クラスの出し物がある二年の文化祭にて、新開くんとペアを組んで校内を回ったあの日。思い返しては心の中があたたかくなって、もっと好きになってしまいそうな、そんな思い出。