Trick or Treat![全2話]
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-1-イタズラしちゃう!
ハロウィンである本日――、気持ちいいほどの見事な秋晴れ。
運良く、大学の授業も部活に間に合う時間に終わり、バイトもなし…ということでいつも通り臨時マネージャーとして誠凛高校へやって来た。
今日がハロウィンというのは今朝まで忘れていたのだが、おは朝でハロウィン特集がやっていたのでそれを見て思い出した。
大学の友人からも可愛くラッピングしたお菓子を貰ってしまった。ハロウィン、世間でも一大イベントになりつつある。
でもこういう楽しいお祭りに乗っからない手はないと私は思った。
「黒子くん、トリックオアトリート!」
「お菓子は持ってないので、どうぞ悪戯して下さい」
部室前で黒子くんに遭遇した私は、本日ならではのお決まりの台詞を告げた。
だが、そのお決まりの台詞を言われるのを予想していたかというほどの彼の切り返しの速さに私は面食らった。
お菓子欲しい!とばかりに彼の前に差し出した両手をどうしたらいいのものか。
黒子くんの場合はクスッと笑って、どうぞとお菓子を差し出してくれると思っていたのだが…。
しかし、あの素早い反応――まるで、最初から悪戯される気満々じゃないか。
少し迷ったけれども…、私はせっかくなので黒子くんに悪戯することにした。
「ここじゃあ目立つから部室でしてもいい?」
まだ誰も来ていない部室。どうやら黒子くんが一番のりで職員室まで鍵を取りに行っていたらしい。
慣れた手付きで鍵を開けると、私たちは中に入ってドアを閉めた。妙に胸が高鳴る。
黒子くんを部室にある椅子に座らせると、私は不敵な笑みを浮かべた。
ふっふっふ、と笑う黒子くんは小首をかしげてこちらを見る。
「黒子くん、目を閉じて」
「…?」
何をされるのかも聞かずに黒子くんは言われるがままに目を閉じた。
綺麗な顔立ち。睫も長く、本当にまじまじと見ると彼は美少年だ。
影が薄いおかげで目立ってはいないみたいだけど、そうでなかったらきっと女子にもモテているに違いない。
性格だって優しくて紳士的だし、黒子くんの素敵さに学校の女子が気づいてしまったらと思うと、困る。
数秒、黒子くんの顔に見とれてから私は鞄から“ある物”を取り出した。
「…いいって言うまで目開けちゃダメだよ?」
「はい、わかりました」
「ホントにいいの?」
「はい。今日はそういう日なんですよね?なので楽しみにしていました」
「…うーん、ホントは悪戯していい日ってわけじゃないんだけどね」
目を閉じたままの黒子くんと会話をしつつ、指先は彼の髪に触れている。やわらかい、水色の細い髪。
シャンプー何使ってるのかな、いい香りがするなぁ…と思っているのも束の間。
途端、私の指先でつけたワックスの香りに変わる。
私が取り出した“ある物”というのはヘアワックスだった。
普段、自分のスタイリング用に持ち歩いている手のひらサイズで収まるぐらい小さなワックス。
この悪戯は思いつきだけど、私は以前から黒子くんの違うヘアスタイルを見てみたかったから、どんな風になるのか楽しみだ。
柔らかい毛質だからクセもつきやすい。
ワックスをなじませた髪を指先でいじるだけですぐに髪型はすぐにその形にかわった。
まずはいつものイメージを変えるために前髪をナチュラルに分けて、後ろ髪もふわふわさせてみる。色素の薄い髪がふわふわしているとわたあめみたいだなぁ。
しばらくして私が「目を開けていいよ」というと黒子くんはゆっくりと瞼を上げた。
そして目前には鏡を用意。黒子くんは驚いたように目を見開いてまじまじと鏡を見た後、私の方に視線を送った。
その視線にニッコリと笑顔で返すと、黒子くんは苦笑していた。
「黒子くん、この髪型も似合ってるよ」
「そうですか?ワックスとかあまり使ったことがないので…こんなに髪がふわふわするんですね」
鏡を見ながら髪をいじる黒子くんは、物珍しいものでも見たかのような表情だ。
うーん、かわいい、かわいい!元々、目も大きいし、肌も色白。加えて髪をふわふわさせたら――
「可愛いね。もし黒子くんが女の子だったらこんな感じかなぁ」
ぽろりと本音が漏れてしまって私は思わず口を押さえた。
いくら本人から悪戯していいと言われたからといって、これから部活だというのに少しやりすぎてしまっただろうか。
間もなく部活もはじまる。そうすれば、髪を洗って乾かしてる時間なんてないから、今日は一日このままということになる。
やってしまった後で既に遅いが、やる前に聞けばよかったかな――
ガタリ、と椅子から立ち上がった黒子くんは俯いていた。「女の子みたい」という言葉が気に障ったんだろうか。
謝ろうと私が一歩黒子くんに近づいた瞬間、手首を握られてグイッと引っ張られた。
バランスを崩しかけた私の肩を支えて、黒子くんは私の唇へそのまま自分の唇を寄せた。
それはほんの数秒の出来事。ワックスの香りが鼻を掠めた。
「あ、あの――」
唇はすぐに離れた。
ごめんね、とか、怒ってる?とか聞こうとしたのに、突然のキスに自分が何を言おうとしたか忘れしてしまった。
しかし何を言おうが無駄だったのかもしれない。離れたと思ったそれは、またすぐに角度を変えて重なった。
ここが部室だということに私は焦りを感じて頬が紅潮していく。
しかしやわらかな唇の感触に全神経が反応して、判断力さえ有耶無耶にしてしまうようだった。
頭がぼうっとしてきた。途絶え気味の判断で私は少しだけ黒子くんの胸を手の平でトン、と押した。離れて、の合図を。
唇が音を立てて名残惜しそうに離れ、とりあえず私は肩を上下させて息をついた。
「僕が女の子だったら、琴音さんと二人きりになった時にこんな風にはならないと思いますよ」
黒子くんは優しく笑ってそう言った。
――“こんな風には”。この言葉を頭の中で反芻して、私の顔にまた血が昇る。
積極的な彼の言動に心臓がまだバクバクしている。部室に誰か入ってこなくて本当によかった。
「…黒子くんの意地悪」
「琴音さんは僕の前では隙だらけですね」
彼が優しく微笑めば、先程まで私に少し強引なキスをしていた人と同一人物だと思えない。
もしここまで計算済みで私からの悪戯を受けたのだとしたら、相当な策士でもある。
私相手に策なんて立ててもらえるだけ幸せ者だけども……でも、これじゃあどっちが悪戯したのか分からない。
その日、ふわふわした髪型のまま黒子くんは部活に参加した。
みんなに笑われまくっていたので私のイタズラはようやくそこで成功だったのかなと思ったけれど、やはり私もイタズラされた気がするので、結局おあいこだろう。
いつもはサラサラと揺れる黒子くんの髪が、動くたびにかわいらしくふわふわと揺れる。
わたあめみたいに柔らかく。
ハロウィンである本日――、気持ちいいほどの見事な秋晴れ。
運良く、大学の授業も部活に間に合う時間に終わり、バイトもなし…ということでいつも通り臨時マネージャーとして誠凛高校へやって来た。
今日がハロウィンというのは今朝まで忘れていたのだが、おは朝でハロウィン特集がやっていたのでそれを見て思い出した。
大学の友人からも可愛くラッピングしたお菓子を貰ってしまった。ハロウィン、世間でも一大イベントになりつつある。
でもこういう楽しいお祭りに乗っからない手はないと私は思った。
「黒子くん、トリックオアトリート!」
「お菓子は持ってないので、どうぞ悪戯して下さい」
部室前で黒子くんに遭遇した私は、本日ならではのお決まりの台詞を告げた。
だが、そのお決まりの台詞を言われるのを予想していたかというほどの彼の切り返しの速さに私は面食らった。
お菓子欲しい!とばかりに彼の前に差し出した両手をどうしたらいいのものか。
黒子くんの場合はクスッと笑って、どうぞとお菓子を差し出してくれると思っていたのだが…。
しかし、あの素早い反応――まるで、最初から悪戯される気満々じゃないか。
少し迷ったけれども…、私はせっかくなので黒子くんに悪戯することにした。
「ここじゃあ目立つから部室でしてもいい?」
まだ誰も来ていない部室。どうやら黒子くんが一番のりで職員室まで鍵を取りに行っていたらしい。
慣れた手付きで鍵を開けると、私たちは中に入ってドアを閉めた。妙に胸が高鳴る。
黒子くんを部室にある椅子に座らせると、私は不敵な笑みを浮かべた。
ふっふっふ、と笑う黒子くんは小首をかしげてこちらを見る。
「黒子くん、目を閉じて」
「…?」
何をされるのかも聞かずに黒子くんは言われるがままに目を閉じた。
綺麗な顔立ち。睫も長く、本当にまじまじと見ると彼は美少年だ。
影が薄いおかげで目立ってはいないみたいだけど、そうでなかったらきっと女子にもモテているに違いない。
性格だって優しくて紳士的だし、黒子くんの素敵さに学校の女子が気づいてしまったらと思うと、困る。
数秒、黒子くんの顔に見とれてから私は鞄から“ある物”を取り出した。
「…いいって言うまで目開けちゃダメだよ?」
「はい、わかりました」
「ホントにいいの?」
「はい。今日はそういう日なんですよね?なので楽しみにしていました」
「…うーん、ホントは悪戯していい日ってわけじゃないんだけどね」
目を閉じたままの黒子くんと会話をしつつ、指先は彼の髪に触れている。やわらかい、水色の細い髪。
シャンプー何使ってるのかな、いい香りがするなぁ…と思っているのも束の間。
途端、私の指先でつけたワックスの香りに変わる。
私が取り出した“ある物”というのはヘアワックスだった。
普段、自分のスタイリング用に持ち歩いている手のひらサイズで収まるぐらい小さなワックス。
この悪戯は思いつきだけど、私は以前から黒子くんの違うヘアスタイルを見てみたかったから、どんな風になるのか楽しみだ。
柔らかい毛質だからクセもつきやすい。
ワックスをなじませた髪を指先でいじるだけですぐに髪型はすぐにその形にかわった。
まずはいつものイメージを変えるために前髪をナチュラルに分けて、後ろ髪もふわふわさせてみる。色素の薄い髪がふわふわしているとわたあめみたいだなぁ。
しばらくして私が「目を開けていいよ」というと黒子くんはゆっくりと瞼を上げた。
そして目前には鏡を用意。黒子くんは驚いたように目を見開いてまじまじと鏡を見た後、私の方に視線を送った。
その視線にニッコリと笑顔で返すと、黒子くんは苦笑していた。
「黒子くん、この髪型も似合ってるよ」
「そうですか?ワックスとかあまり使ったことがないので…こんなに髪がふわふわするんですね」
鏡を見ながら髪をいじる黒子くんは、物珍しいものでも見たかのような表情だ。
うーん、かわいい、かわいい!元々、目も大きいし、肌も色白。加えて髪をふわふわさせたら――
「可愛いね。もし黒子くんが女の子だったらこんな感じかなぁ」
ぽろりと本音が漏れてしまって私は思わず口を押さえた。
いくら本人から悪戯していいと言われたからといって、これから部活だというのに少しやりすぎてしまっただろうか。
間もなく部活もはじまる。そうすれば、髪を洗って乾かしてる時間なんてないから、今日は一日このままということになる。
やってしまった後で既に遅いが、やる前に聞けばよかったかな――
ガタリ、と椅子から立ち上がった黒子くんは俯いていた。「女の子みたい」という言葉が気に障ったんだろうか。
謝ろうと私が一歩黒子くんに近づいた瞬間、手首を握られてグイッと引っ張られた。
バランスを崩しかけた私の肩を支えて、黒子くんは私の唇へそのまま自分の唇を寄せた。
それはほんの数秒の出来事。ワックスの香りが鼻を掠めた。
「あ、あの――」
唇はすぐに離れた。
ごめんね、とか、怒ってる?とか聞こうとしたのに、突然のキスに自分が何を言おうとしたか忘れしてしまった。
しかし何を言おうが無駄だったのかもしれない。離れたと思ったそれは、またすぐに角度を変えて重なった。
ここが部室だということに私は焦りを感じて頬が紅潮していく。
しかしやわらかな唇の感触に全神経が反応して、判断力さえ有耶無耶にしてしまうようだった。
頭がぼうっとしてきた。途絶え気味の判断で私は少しだけ黒子くんの胸を手の平でトン、と押した。離れて、の合図を。
唇が音を立てて名残惜しそうに離れ、とりあえず私は肩を上下させて息をついた。
「僕が女の子だったら、琴音さんと二人きりになった時にこんな風にはならないと思いますよ」
黒子くんは優しく笑ってそう言った。
――“こんな風には”。この言葉を頭の中で反芻して、私の顔にまた血が昇る。
積極的な彼の言動に心臓がまだバクバクしている。部室に誰か入ってこなくて本当によかった。
「…黒子くんの意地悪」
「琴音さんは僕の前では隙だらけですね」
彼が優しく微笑めば、先程まで私に少し強引なキスをしていた人と同一人物だと思えない。
もしここまで計算済みで私からの悪戯を受けたのだとしたら、相当な策士でもある。
私相手に策なんて立ててもらえるだけ幸せ者だけども……でも、これじゃあどっちが悪戯したのか分からない。
その日、ふわふわした髪型のまま黒子くんは部活に参加した。
みんなに笑われまくっていたので私のイタズラはようやくそこで成功だったのかなと思ったけれど、やはり私もイタズラされた気がするので、結局おあいこだろう。
いつもはサラサラと揺れる黒子くんの髪が、動くたびにかわいらしくふわふわと揺れる。
わたあめみたいに柔らかく。