長編
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ジャバジャバ…
「………」
手術室からそう離れてない場所に女子トイレがあって助かった…
にしても、気が動転すると加減が狂うのどうにかしなきゃだな
前の体より幾分脆くなってるからすぐ傷ができるのが厄介だ
……この傷はきっとズキズキとした痛みがするんだろうけどいくら水で洗っても擦っても答え合わせは出来なかった
_____最初の頃は夢を見ているのかとも思ってた
瀕死の傷を負ったけどなんとか一命を取り留めて、今は沢山の管に繋がれながら深い眠りに着いているものだと
『また転んだのか?こっちにおいで、血が出てる』
足が絡まったり、小さな段差に躓いたりする事がたまにあった
父さんが困ったように微笑みながら知らないうちに出来ていた傷を手当してくれてた
夢というのは自分の過去やらその日あった出来事から構築されるものだが、会う人皆初めて見る顔だ
『あつ』
『あ"ーっ!!水!水!』
痛みは無いというのに温度などは辛うじて感じることは出来た
味覚も嗅覚もある、意識もハッキリしてる
何より産まれてから何年も経ち、身体も年齢に伴い成長している
数年経った頃やっと夢では無いと確信した
魔術の類を調べた事もあった
この体には魔術回路は無かったから所謂逆行と言うやつではない
前世よりも数年前という事もあり全くの別世界という可能性も視野に入れた
『わあ!名前ちゃん大丈夫!?』
『イタタ…あは、大丈夫!』
周りに悟られないよう必要な時は痛がる振りをした
…何人かにはバレてるみたいだけど仕方ないか
ただ、こんな体でもあの時の痛みは忘れることは無かった
魂に刻まれたそれは痛くないはずなのにジクジクと膿んで未だに私の体を蝕んでいく
……もしかするとあの旅を忘れるなという啓示かもしれない
「にしては随分悪趣味なやり方ね」
自分以外の周りの人間が被害を被るのはそれなりに苦痛だな…
なんてのは流石に考えすぎか
水に晒しすぎた両手の感覚が消えてきた
実はこれは悪い夢でしたってことになんないかな
「あ、いた!名前さ…って手ぇー!?」
「…?」
ドタバタと激しい足音がいくつか聞こえたかと思えば突然奇声を上げながら駆け寄ってくる一人の男の子
久方ぶりに見た印象的な空色の瞳
酷く焦る様子は見ていて面白い
「落ち着きなよ立香くん、らしくないよ」
「誰ですかそれは?というか水止めましょ!?」
「何騒いでんだよタケミっち」
__________
手術が成功して、外のみんなに知らせに行こうと駆け出したところで名前が戻って来ないのを不審に思う
彼女が手を洗うと言って離れたのは随分と前だ
そろそろ戻ってても良いはずなのにどうしたのか…
まさか迷った…?広いとは言え他の階に行くとは考えにくいけど……
そんな事を考えていると、先に行ったはずのタケミっちが何やらトイレの前で騒いでいる
…何してんだあいつは
「何騒いでんだよタケミっち」
「三ツ谷くん!」
吹き抜けの入口の向こう側では出っぱなしの水道と両手から水が滴っている名前の姿
ぼうっと焦点の合わない目をしていたかと思うとハッとしたかのように何時もの顔に戻った
「ドラケン助かったぞ、早く手拭いて治療してもらえ…って……」
「あ」
ハンチカチ越しに触れた手が驚く程冷たかった
考えるまでもなくずっと手を洗っていたのだろう
あからさまに目逸らしやがって…
「…聞かなきゃいけねえことがあるから逃げんなよ。つーこどで悪いタケミっち、先行っててくんね?」
パタパタと離れていく背中を見届けてから名前へ向き直る
ふぅ、と小さく息を吐いて肩を落としていた
「…君のような勘のいいガキは嫌いだよ」
「真面目な話してんだけど」
「はぁ…降参、流石にもう誤魔化せないか」
いつもならのらりくらりと躱すところ、案外すんなり折れた
今回は真面目に応えてくれるらしい
ならばと口を開こうとしたところで「けど」と言葉が続く
「今日はもう遅いし明日ね、トイレで話すこともないでしょうよ」
「…はぁ、それもそうか……」
明日、と言ってももう今日の事だが
よく行くファミレスでということになった