短編
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ビルの上をサーヴァントであるランサーに抱えられ駆ける中、頭上の夜空にとある御伽話を思い出した
「…織姫と彦星の話あるじゃん?」
「あん?何の話だって?」
そうか、彼は七夕を知らないのか
簡単に私のよく知る七夕の話を教えてあげると、ふーんとつまらなそうに相槌を打った後「それがどうした?」と聞き返された
「いや、今考えたら羨ましいなって」
「羨ましい?年に一度しか会えねえってのにか?」
「"年に一度は必ず会える"からだよ」
そりゃ誰だって好きな人なら毎日でも会いたいだろう、星の架け橋を渡らないと会えないなんて制限も付けられるとか以ての外だ
「あ、年に一度だとどっかの誰かさんみたいに他に女作って遊び呆けてそうで気が気じゃないけど」
「仕方ねえだろ?惚れちまったもんはよ」
「あら?誰も"ランサー"だなんて言ってないけど」
「物語ってんだよ、その目が」
それは失礼なことをした
まあ話を戻すが、例えどんなに辛くとも必ず会える特別な一日があるかぎり希望は消えることは無い
その日のためだけに毎日を生きれるというもの…
だが私はどうだ
たった数日間しか共に過ごせず、全てが終われば跡形もなく消えてしまう存在に恋をしてしまった
死後の世界なんてのは信じちゃないけど、私がこの戦いで死んでも彼と同じ場所へは行けない
来世もそのまた来世も会うことは無い
ただでさえいつ襲われるかわかんない状況なのになんだってこんな気持ちにならなきゃいけないんだ
「はぁ…なんでマスターなんかに選ばれちゃったかなぁ〜私……」
元々私は魔術師ではない
5歳の頃養子として引き取られた先が魔術師の家系だった
長いこと子宝に恵まれず、大した家柄でも無かった彼らに振り回されたクチだ
結局私を引き取って暫くすると子供が産まれた
まだ魔術の基礎しか習ってなかったから魔術使い止まりだ
けど家族のことは恨んじゃない
こうして育ててくれたし、時々だけど魔術の鍛錬も付き合ってくれた
「叶えたい願いなんて無かったはずなのに…」
「その口振りじゃ今はあるみてぇ聞こえるぜ?」
「あるにはある、けど……」
叶えるつもりはない
そう続けると彼は「もったいないねー」なんて言って笑った
こんな半端者が聖杯の使い道を話す事になるなんて
それもこれも産まれ持った私の幸運とランサーのおかげだ
敵も残すはセイバーとそのマスターの二人、というところまで来てしまった
正直初戦ですんなりぽっくり逝くと思ってたから、これは嬉しい誤算というやつだ
「…そういえばランサーの願いはどうなの?戦いも次で最後だけど…それ以外で決まった?」
以前互いの願いは何か話し合った時
彼は戦う事自体が願いだと言っていた
どこまでも戦士なのだと感心したのを覚えている
「そうさなー…俺もこれといった願いは無かったんだが……
_____お前さんの残りの人生に付き合ってやるのもいいな」
「………は…?」
今なんて…?
つまり何?どいうこと?
困惑を隠せずにいるとクツクツと喉を鳴らすランサー
「なんだよ、てっきりマスターと同じ願いだと思ってたんだが…違ったか?」
「いや、は?え?解釈違いです」
「んだそりゃ」
てっきり戦争も終われば「んじゃあとは適当にやってな」って早急に帰るのかと…
それを伝えると「そんな薄情なやつに見えるのか?」とまた笑った
「まあ何に遠慮してんのか知らねえがよ、マスター」
「う、わっとと…ちょ」
さっきまで背中にしか回っていなかった手が突然膝裏にも回り、所謂お姫様抱っこの体制に変わった
バランス崩すし移動中に危ないだろう、と文句を言うつもりで上を向いた
「俺と生きろよ、お前さんのために戦ってんだからそれくらいの褒美は望んだっていいだろ?名前」
せっかくこの願望に蓋をしようと、潔くお別れしようと思ってたのに
こうまで言われて断るというのは無理な話で
「……他に目移りしたら許さないからね」
「ならそうならないよう"毎日"傍で見張って貰わねえとな」
織姫と彦星よりもよっぽどいいだろ?
片眉を上げ自信満々に笑みを浮かべるランサーに「まずは勝たなきゃでしょ」と可愛げのない返事をした