サンタ見習い三郎太くんのクリスマス・イブ
最後のプレゼントを配り終え、10頭と2人は達成感でいっぱいだった。
今は少しでも早くクロードのサンタハウスに帰り着きたかったので、トナカイの足は自然と早くなった。
あれだけ分厚かった雲の隙間からぎらりと光が差した。
夜が明けた。
眩しそうにしながら、クロードと三郎太は無言で前を向いていた。
「あ、そうだ!」
クロードが手綱を片手だけで持つと、器用にごそごそとプレゼントが入っていた袋の底をもう一方の手で探った。
そして何かをつかむと、それを三郎太のほうに差し出した。
「改めてメリー・クリスマス、三郎太くん!はい、プレゼント!」
三郎太の手の中に落とされたのは、白いハートの飛んだ赤い包装紙の小さな小さなプレゼントだった。
思いがけずもらったプレゼントに三郎太は驚いた。
今すぐにも開けてみたかったが、トナカイがどんどんと加速するため吹っ飛んでしまいそうだったので慌てて上着のポケットに入れた。
「メリー・クリスマス、クロードさん。ありがとうございます!」
落ち着いてから中を見ると三郎太が言うとクロードは嬉しそうに、うんうんとうなずいた。
「オレ、なにも準備していないな。クロードさんはプレゼントにほしいものってあります?」
「え……」
「たっかいものは無理ですけど、なんとかなるものはなんとかしますから」
「三郎太くん……」
「オレ、一昨日辞表出したとき、サンタになるの諦めたんですよ。もうダメだ、って。それなのにクロードさんやトナカイさんたちのお陰で、サンタ見習いができて本当に嬉しかった。クロードさんが子どもたちにプレゼント配っているのを見て、すっごくいいな、って。ずっとずっとにこにこハッピーでした、オレ。やってみてやっぱりサンタの仕事がやりたい!って改めて思いました。いろいろあったけど、きっかけはクロードさんだし。だから」
恥ずかしそうに三郎太が言うとにこっと笑った。
「クロードさんにもプレゼントしたいな、って」
「ほんとー?ほんとー?いいのー?なんでもいいのー?」
「手加減はしてくださいね。たっかい車なんて言われてもすぐには無理だし」
「んーとね、んーとね」
クロードは身体をくねくねさせていた。
「じゃあ、言っちゃうね!ボク、三郎太くんとちっすがしたいなー」
「……?」
「やだー、ちっすだよ、ちっす!」
まだ身体をくねらせながら、恥ずかしそうに三郎太の肩をばんっと叩き、クロードは片方の手で自分の目を隠したが、唇を突き出しびずびずびずと動かした。
ちっす……?
あ、もしかしてキッス……?
あの唇の動きはそうとしか考えられなかった。
まさかのプレゼントに三郎太は驚きを隠せなかった。
クロードは「やーん、恥ずかしいっ!三郎太くん、早くぅ」と、まだ手で目を隠したまま唇を尖らせている。
クロードさんにお礼はしたい。
しかしキスはちょっと…
三郎太は葛藤した。
ちょっと我慢すればいい?
一瞬でいいよな。
別に減るもんじゃないし、初めてでもないし。
我慢?我慢ってなんだよ。
三郎太はクロードが子どもたちの頬や額に祝福や親愛の情を込めてするキスをずっと見てきた。
それはとても愛らしく、「サンタにキスをしてもらえたんだ」と誇らしくも思えた。
実際、自分がしてもらったとき、嬉しくてクロードに思いっきり抱きついて「ありがとう!」と言いたかった。
そうか。オレ、プレゼントを配りながらずっと幸せだったんだ……
三郎太はクロードに近づいた。
「メリー・クリスマス、クロードさん。素敵なクリスマスでありますように」
そう囁くと、三郎太はちゅっとクロードの唇に感謝と祈りを込めてキスをした。
「きゃっ!」
クロードが小さく叫んだ。
それは三郎太がキスをしたせいではなく、「もうすぐだっ!」とトナカイが最後の追い込みで速度を上げたせいでソリが大きく揺れたからだ。
「うわっ!」
三郎太も声を上げた。
どこかにつかまっていないと振り落とされそうな勢いでソリは走り、そしてクロードのサンタハウスの中庭に乱暴に滑り込んだ。
みんなへとへとだった。
トナカイたちは器用に金具を自分で外し、久しぶりに自由になった身体を思い思いに動かしていた。
そして次々に人型になると、互いにハグをしハウスの中に入っていった。
クロードもソリの上からぽーんと飛び降りると、下から「三郎太くーん!」と呼んだ。
三郎太ががちがちになった身体でめちゃくちゃカッコ悪くソリから降り、クロードに手を引かれハウスに入っていった。
ハウスの中は暖かった。
三郎太はふーっと息をついた。
リビングでは他のトナカイも思い思いのところに座ってストレッチをしたりマッサージをしたりしていた。
先に入っていたルドルフは汗をかいた上の服を脱いで、くつろいでいた。
「お疲れ。早くブーツを脱げ。随分違うぞ」
三郎太もソファに座って編み上げた紐を解き、ブーツを脱いだ。
「ふ、あーっ」
足先は冷たくなっていて、感覚があまりなかった。
やっと血が先まで巡り出した。
「ここには15人くらい一度に入れる、でかいジャグジーがあるんだぜ」
「えー!」
「俺サマ、エライからタイマーかけていったんだ。もう入れるぞ」
「えらいっ!」
「よくやったっ!」
「行こーぜー!」
トナカイたちはそう話すと立ち上がった。
そしてクロードと三郎太のところに来た。
「お疲れさん」
「冷や冷やしたけど間に合ってよかったな」
「めちゃめちゃスリリング」
「4倍働いたんだ、本部への報告しっかりよろしくね!」
「おまえ、初めてのクリスマスがこれなら、あとはどこででも見習いできるぞ」
「よくやったな、三郎太」
「早くおまえもジャグジー来いよ」
口々にクロードと三郎太に声をかけ、ハグをしたり、肩をばんばん叩いたりし、次にはルドルフに茶化しながらも「あんたがいなかったら謝罪会見確定だった」と敬意を示し、9頭のトナカイはリビングから出ていった。
怒涛の挨拶に驚きながら、三郎太は自分がちゃんと役目を果たせたことをまた、実感し、目を潤ませた。
そしてトナカイが出ていったドアに改めて深々と頭を下げた。
帽子も上着も靴下も脱ぐと、三郎太はようやく少しリラックスできた。
そこにルドルフが近づいてきて両手を広げ、三郎太を包むように抱きしめた。
「ほんと、おまえがいて助かったぞ、三郎太。ありがとう」
「いえ、そんな……ありがとうござます」
改めてそんなことを言われ、三郎太は照れた。
「ルドルフさんこそ、お疲れ様です。10頭立てのソリの迫力、すごかったです」
「いや、今回はまじに疲れた」
甘えるようにルドルフが三郎太に体重をかけてきたので、三郎太が支えきれずよろめきそうになった。
「三郎太くーん!三郎太くーん!助けてー!これ、脱がせてー!!」
見ると、クロードが一気に上着もシャツもズボンも脱ごうとして絡まってじたばたしていた。
「わっ、クロードさん!!」
慌てて三郎太はルドルフの腕からすり抜けるとクロードのそばに行き、服を脱ぐのを手伝った。
クロードはハート柄の大きなパンツ1枚になった。
「まだ脱ぐのー!」
「え、ここで?パンツは脱衣所に行ってからがいいんじゃないですか?ジャグジー入るんでしょ」
「違うよ、違うよー!背中にファスナーがあるでしょー!早く早く、三郎太くん!」
裸のまるい背中しかないのに何を言っているんだろう。
三郎太は仕方なくクロードの背中を見た。
するとうなじの下のあたりにファスナーのスライダーが見えた。
「え?」と驚きの声を上げながら三郎太はスライダーをつまみ、下へと滑らせた。
「ぐっっううううう!んはーっ!」
「え?えええええええっ?!」
どうやってこの中に入っていたのが不思議なくらいの、ルドルフに負けないほど大柄でむきむきマッチョの男が出てきた。
キラキラと光るシルクのようなシルバーの髪は肩先まで長く、髭はカッコよく整えられ、細く小さめな瞳は鋭く光っていたが、笑顔は人懐っこかった。
「だ、だれ……?」
「ひどいな、三郎太クン。キスまでした仲なのに」
「え、まさかクロードさん……?」
「そうだよ」
フェロモン漏れまくりのめちゃくちゃカッコいい、ダンディなむきむきおじ様が全裸で三郎太の前に立っていた。
そして「よう、お疲れー!」とルドルフのところに行き、お互いにハグをした。
「え?え?え?なんで?!」
口をぱくぱくとした動かせない三郎太は固まっている。
「まいっとし、この茶番に付き合わされるの、ツラいんだけど」
ルドルフがハグをしながら不平を言うとクロードがわははと大きく笑った。
「仕方ないだろう。本部からのお達しだ。ちょっとドジなサンタのほうが愛嬌がある、ってさ」
ハグを終えると、クロードは固まったままの三郎太をひょいと片方の腕だけで抱き上げた。
「三郎太もお疲れさん。初めてだったのに大変だったね」と、ちょうど顔の高さになった三郎太の頬にちゅっちゅっとキスをした。
「で、三郎太はおまえ専属の見習いにするの?」
「ああ、もちろん。いいだろう、三郎太。立派なサンタになれるようにしっかり教えてあげるからね」
「あ?う?え?」
「ま、こいつの専属になっておけば安心だよ、三郎太。あの茶番には付き合わなくちゃならくなるけどさ。本社でもトップの成績の実力者だし」
「ふぇ?」
「おまえ、クロードのことちゃんとわかってる?4人分のプレゼントをきちんと配り終えただろ。これってすごいことだろ?」
「あぁ、はぁ」
「まぁまぁ、一気に言ってもな」
クロードは三郎太をルドルフに預けると、ソファの下からサンタ端末を取り出した。
「あ、それ最新のヤツ!」
「ん、もうちょっとサクサク動いてくれるとラクなんだけどねぇ」とつぶやきながら電源を入れ、フリックしたりタップしたりしながら操作している。
「使えるんじゃんっ!!」
「だから、茶番なんだって。落ち着け、三郎太」
ルドルフもクロードがキスした反対側の頬にちゅっちゅっとキスをして三郎太をなだめる。
「本部に連絡しておいたから、これですぐに登録が変更されるはずだよ」
クロードはそう言うと端末の電源を落とし、ずっと頬にキスをしているルドルフから三郎太を取り返すと、自分もちゅっとキスをした。
「本当に助かったんだよ、三郎太。ありがとう」
「あー、ジャグジー入ろうぜー」
「そうだな。冷え切ったもんな」
三郎太だけが追いついていなかった。
ずっと「え?は?う?ふぁ?!」と言っていた。
「まぁ、難しいことはあとにしよう。明日からはバカンスだよ。南の島でホリデーを楽しんでからゆっくり考えるといい」
「そーそー」
「水着どれにしようかな」
「去年の凶悪ビキニはやめておいてくれ」
「えー、あれウケがよかったのに。あ、三郎太のは向こうで買えるから心配しなくていいよ」
「クロードに選ばせるなよ。すんごいの履かされるぞ」
クロードとルドルフは笑いながら、まだあわあわしている三郎太を連れてバスルームに向かった。
にこにこハッピー!
Merry Christmas!
おしまい
***
あとがき https://etocoria.blogspot.com/2018/12/atogaki-santaminarai.html
今は少しでも早くクロードのサンタハウスに帰り着きたかったので、トナカイの足は自然と早くなった。
あれだけ分厚かった雲の隙間からぎらりと光が差した。
夜が明けた。
眩しそうにしながら、クロードと三郎太は無言で前を向いていた。
「あ、そうだ!」
クロードが手綱を片手だけで持つと、器用にごそごそとプレゼントが入っていた袋の底をもう一方の手で探った。
そして何かをつかむと、それを三郎太のほうに差し出した。
「改めてメリー・クリスマス、三郎太くん!はい、プレゼント!」
三郎太の手の中に落とされたのは、白いハートの飛んだ赤い包装紙の小さな小さなプレゼントだった。
思いがけずもらったプレゼントに三郎太は驚いた。
今すぐにも開けてみたかったが、トナカイがどんどんと加速するため吹っ飛んでしまいそうだったので慌てて上着のポケットに入れた。
「メリー・クリスマス、クロードさん。ありがとうございます!」
落ち着いてから中を見ると三郎太が言うとクロードは嬉しそうに、うんうんとうなずいた。
「オレ、なにも準備していないな。クロードさんはプレゼントにほしいものってあります?」
「え……」
「たっかいものは無理ですけど、なんとかなるものはなんとかしますから」
「三郎太くん……」
「オレ、一昨日辞表出したとき、サンタになるの諦めたんですよ。もうダメだ、って。それなのにクロードさんやトナカイさんたちのお陰で、サンタ見習いができて本当に嬉しかった。クロードさんが子どもたちにプレゼント配っているのを見て、すっごくいいな、って。ずっとずっとにこにこハッピーでした、オレ。やってみてやっぱりサンタの仕事がやりたい!って改めて思いました。いろいろあったけど、きっかけはクロードさんだし。だから」
恥ずかしそうに三郎太が言うとにこっと笑った。
「クロードさんにもプレゼントしたいな、って」
「ほんとー?ほんとー?いいのー?なんでもいいのー?」
「手加減はしてくださいね。たっかい車なんて言われてもすぐには無理だし」
「んーとね、んーとね」
クロードは身体をくねくねさせていた。
「じゃあ、言っちゃうね!ボク、三郎太くんとちっすがしたいなー」
「……?」
「やだー、ちっすだよ、ちっす!」
まだ身体をくねらせながら、恥ずかしそうに三郎太の肩をばんっと叩き、クロードは片方の手で自分の目を隠したが、唇を突き出しびずびずびずと動かした。
ちっす……?
あ、もしかしてキッス……?
あの唇の動きはそうとしか考えられなかった。
まさかのプレゼントに三郎太は驚きを隠せなかった。
クロードは「やーん、恥ずかしいっ!三郎太くん、早くぅ」と、まだ手で目を隠したまま唇を尖らせている。
クロードさんにお礼はしたい。
しかしキスはちょっと…
三郎太は葛藤した。
ちょっと我慢すればいい?
一瞬でいいよな。
別に減るもんじゃないし、初めてでもないし。
我慢?我慢ってなんだよ。
三郎太はクロードが子どもたちの頬や額に祝福や親愛の情を込めてするキスをずっと見てきた。
それはとても愛らしく、「サンタにキスをしてもらえたんだ」と誇らしくも思えた。
実際、自分がしてもらったとき、嬉しくてクロードに思いっきり抱きついて「ありがとう!」と言いたかった。
そうか。オレ、プレゼントを配りながらずっと幸せだったんだ……
三郎太はクロードに近づいた。
「メリー・クリスマス、クロードさん。素敵なクリスマスでありますように」
そう囁くと、三郎太はちゅっとクロードの唇に感謝と祈りを込めてキスをした。
「きゃっ!」
クロードが小さく叫んだ。
それは三郎太がキスをしたせいではなく、「もうすぐだっ!」とトナカイが最後の追い込みで速度を上げたせいでソリが大きく揺れたからだ。
「うわっ!」
三郎太も声を上げた。
どこかにつかまっていないと振り落とされそうな勢いでソリは走り、そしてクロードのサンタハウスの中庭に乱暴に滑り込んだ。
みんなへとへとだった。
トナカイたちは器用に金具を自分で外し、久しぶりに自由になった身体を思い思いに動かしていた。
そして次々に人型になると、互いにハグをしハウスの中に入っていった。
クロードもソリの上からぽーんと飛び降りると、下から「三郎太くーん!」と呼んだ。
三郎太ががちがちになった身体でめちゃくちゃカッコ悪くソリから降り、クロードに手を引かれハウスに入っていった。
ハウスの中は暖かった。
三郎太はふーっと息をついた。
リビングでは他のトナカイも思い思いのところに座ってストレッチをしたりマッサージをしたりしていた。
先に入っていたルドルフは汗をかいた上の服を脱いで、くつろいでいた。
「お疲れ。早くブーツを脱げ。随分違うぞ」
三郎太もソファに座って編み上げた紐を解き、ブーツを脱いだ。
「ふ、あーっ」
足先は冷たくなっていて、感覚があまりなかった。
やっと血が先まで巡り出した。
「ここには15人くらい一度に入れる、でかいジャグジーがあるんだぜ」
「えー!」
「俺サマ、エライからタイマーかけていったんだ。もう入れるぞ」
「えらいっ!」
「よくやったっ!」
「行こーぜー!」
トナカイたちはそう話すと立ち上がった。
そしてクロードと三郎太のところに来た。
「お疲れさん」
「冷や冷やしたけど間に合ってよかったな」
「めちゃめちゃスリリング」
「4倍働いたんだ、本部への報告しっかりよろしくね!」
「おまえ、初めてのクリスマスがこれなら、あとはどこででも見習いできるぞ」
「よくやったな、三郎太」
「早くおまえもジャグジー来いよ」
口々にクロードと三郎太に声をかけ、ハグをしたり、肩をばんばん叩いたりし、次にはルドルフに茶化しながらも「あんたがいなかったら謝罪会見確定だった」と敬意を示し、9頭のトナカイはリビングから出ていった。
怒涛の挨拶に驚きながら、三郎太は自分がちゃんと役目を果たせたことをまた、実感し、目を潤ませた。
そしてトナカイが出ていったドアに改めて深々と頭を下げた。
帽子も上着も靴下も脱ぐと、三郎太はようやく少しリラックスできた。
そこにルドルフが近づいてきて両手を広げ、三郎太を包むように抱きしめた。
「ほんと、おまえがいて助かったぞ、三郎太。ありがとう」
「いえ、そんな……ありがとうござます」
改めてそんなことを言われ、三郎太は照れた。
「ルドルフさんこそ、お疲れ様です。10頭立てのソリの迫力、すごかったです」
「いや、今回はまじに疲れた」
甘えるようにルドルフが三郎太に体重をかけてきたので、三郎太が支えきれずよろめきそうになった。
「三郎太くーん!三郎太くーん!助けてー!これ、脱がせてー!!」
見ると、クロードが一気に上着もシャツもズボンも脱ごうとして絡まってじたばたしていた。
「わっ、クロードさん!!」
慌てて三郎太はルドルフの腕からすり抜けるとクロードのそばに行き、服を脱ぐのを手伝った。
クロードはハート柄の大きなパンツ1枚になった。
「まだ脱ぐのー!」
「え、ここで?パンツは脱衣所に行ってからがいいんじゃないですか?ジャグジー入るんでしょ」
「違うよ、違うよー!背中にファスナーがあるでしょー!早く早く、三郎太くん!」
裸のまるい背中しかないのに何を言っているんだろう。
三郎太は仕方なくクロードの背中を見た。
するとうなじの下のあたりにファスナーのスライダーが見えた。
「え?」と驚きの声を上げながら三郎太はスライダーをつまみ、下へと滑らせた。
「ぐっっううううう!んはーっ!」
「え?えええええええっ?!」
どうやってこの中に入っていたのが不思議なくらいの、ルドルフに負けないほど大柄でむきむきマッチョの男が出てきた。
キラキラと光るシルクのようなシルバーの髪は肩先まで長く、髭はカッコよく整えられ、細く小さめな瞳は鋭く光っていたが、笑顔は人懐っこかった。
「だ、だれ……?」
「ひどいな、三郎太クン。キスまでした仲なのに」
「え、まさかクロードさん……?」
「そうだよ」
フェロモン漏れまくりのめちゃくちゃカッコいい、ダンディなむきむきおじ様が全裸で三郎太の前に立っていた。
そして「よう、お疲れー!」とルドルフのところに行き、お互いにハグをした。
「え?え?え?なんで?!」
口をぱくぱくとした動かせない三郎太は固まっている。
「まいっとし、この茶番に付き合わされるの、ツラいんだけど」
ルドルフがハグをしながら不平を言うとクロードがわははと大きく笑った。
「仕方ないだろう。本部からのお達しだ。ちょっとドジなサンタのほうが愛嬌がある、ってさ」
ハグを終えると、クロードは固まったままの三郎太をひょいと片方の腕だけで抱き上げた。
「三郎太もお疲れさん。初めてだったのに大変だったね」と、ちょうど顔の高さになった三郎太の頬にちゅっちゅっとキスをした。
「で、三郎太はおまえ専属の見習いにするの?」
「ああ、もちろん。いいだろう、三郎太。立派なサンタになれるようにしっかり教えてあげるからね」
「あ?う?え?」
「ま、こいつの専属になっておけば安心だよ、三郎太。あの茶番には付き合わなくちゃならくなるけどさ。本社でもトップの成績の実力者だし」
「ふぇ?」
「おまえ、クロードのことちゃんとわかってる?4人分のプレゼントをきちんと配り終えただろ。これってすごいことだろ?」
「あぁ、はぁ」
「まぁまぁ、一気に言ってもな」
クロードは三郎太をルドルフに預けると、ソファの下からサンタ端末を取り出した。
「あ、それ最新のヤツ!」
「ん、もうちょっとサクサク動いてくれるとラクなんだけどねぇ」とつぶやきながら電源を入れ、フリックしたりタップしたりしながら操作している。
「使えるんじゃんっ!!」
「だから、茶番なんだって。落ち着け、三郎太」
ルドルフもクロードがキスした反対側の頬にちゅっちゅっとキスをして三郎太をなだめる。
「本部に連絡しておいたから、これですぐに登録が変更されるはずだよ」
クロードはそう言うと端末の電源を落とし、ずっと頬にキスをしているルドルフから三郎太を取り返すと、自分もちゅっとキスをした。
「本当に助かったんだよ、三郎太。ありがとう」
「あー、ジャグジー入ろうぜー」
「そうだな。冷え切ったもんな」
三郎太だけが追いついていなかった。
ずっと「え?は?う?ふぁ?!」と言っていた。
「まぁ、難しいことはあとにしよう。明日からはバカンスだよ。南の島でホリデーを楽しんでからゆっくり考えるといい」
「そーそー」
「水着どれにしようかな」
「去年の凶悪ビキニはやめておいてくれ」
「えー、あれウケがよかったのに。あ、三郎太のは向こうで買えるから心配しなくていいよ」
「クロードに選ばせるなよ。すんごいの履かされるぞ」
クロードとルドルフは笑いながら、まだあわあわしている三郎太を連れてバスルームに向かった。
にこにこハッピー!
Merry Christmas!
おしまい
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