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サンタ見習い三郎太くんのクリスマス・イブ

なんとか出発したクロードたちだったが、すぐにプレゼントは配れなかった。

「まずは地図を出してぇ。落ち着いて落ち着いてぇ」

クロードが「サンタ端末使えないの」と三郎太が印刷した地図の束から該当のものを抜き出すのにも時間がかかるし、「えーっと子どものリスト、っと。まず最初は真人くんかぁ。プレゼントには動物おもちゃがほしいって。たしかライオンやゾウが入ったサファリセットだったなぁ。うふふ」と目的地を定めるのにも時間がかかった。
その間にイライラしたトナカイが「なんでルドルフがリーダーなんだよ。合同チームなら俺がリーダーになってもいいだろ」と言い出し。
やっとクロードが目的地を把握して手綱を取ると、今度は「こっちのルートの方が近い!」「いや、あっちだ!」とトナカイがバラバラの方向に走り出そうとする。

「おーい!おーい!早く出発しようよう」

クロードがトナカイに声をかけるが、相手にされない。

これらをずっとおどおどしながら見ていた三郎太だったが、だんだんだんだんぷるぷると身体を震わせ始めた。

「三郎太くん?寒いの?もうお風邪ひいちゃったの?戻る?お休みする?」

心配そうなクロードの声かけに三郎太は大声を張り上げた。

「うるさーーーーーいっ!もう15分も遅れてるんですよ!まだ1つもプレゼントを配っていないっ!誰がプレゼント未配達で記者会見するんですか?オレはやですよっ!」

怒りに任せて三郎太が叫ぶと、隣でクロードがぱちぱちと拍手をした。

「すごーい、三郎太くん!そうだよね!プレゼントを配らなきゃ!さぁ、みんな、真人くんのところに急ごう」

手綱を取り直し、クロードが言った。

「ここから10時の方向。目印はおばあちゃんが編んでくれた赤い靴下」

ぴしりと手綱の音がするとそれを合図にやっとソリは走り出した。





それからもトラブルはたくさんあった。

目的地とルートを定めるのに時間がかかるのはもちろん。

サンタサークルは建物の壁や屋根をすり抜けることができる道具なのだが、クロードが「三郎太くーーーん、助けてぇっ!お腹がひっかかって抜けられないのー!」と手足をばたつかせるし。

サンタをねぎらうためのお菓子は「せっかく用意してくれたんだから、そのご厚意を無にしちゃだめだと思うの」とクロードは全部食べて回るし。


「わぁ、これがスィート・ビーンズ・ペーストかぁ。三郎太くん、ボク、初めて食べるけど、おいしいね!おおおっ、中に栗が入ってるよ!すってき~!」

白いつけひげからちらちらと見える顔を真っ赤にして、クロードは嬉しそうにおまんじゅうを食べていた。

「さっきからチョコもクッキーもココアも食べまくってますよね!」

「だってサンタのためのお菓子がそのまんまだったら、朝起きて、子どもががっかりするじゃない」

そりゃそうだけど……と三郎太は腕時計を見ながら、サンタのためのお菓子がそのまま残されているのを見てがっかりする子どもを想像した。
おまんじゅうを食べ終わったクロードはベッドの端にぶら下げられた靴下にプレゼントを入れ、すやすやと眠る子どもの顔をながめてにっこりすると額にちゅっとキスをした。
クロードはこれをすべての子どもにしてきた。
もちろん布団からはみ出して寝ている子どもには優しく布団をかけ直してやる。


三郎太はそれをもやもやする気持ちで見ていたことに気づいた。
ちょっと考えると理由がわかった。
子どもがうらやましかったからだ。


三郎太の家庭は両親と自分、弟の4人家族だった。
両親はリアリストで「サンタなんて作り事だ」と言い、幼い兄弟にどうしてサンタが生まれたのかを説明し実在しないからと言い切ると「うちはキリスト教徒でもないし、あんなばか騒ぎにはつきあえない」と一切クリスマスを祝ったことがなかった。
幼稚園で他の子どもにそのことを話すと「三郎太くんはいい子じゃないからサンタが来ないんじゃない?」とおしゃまな女の子に言われ、ひどく傷ついた。

自分のところにもサンタが来てほしかったし、自分もツリーを飾り、そのてっぺんに星をつけ、靴下とビスケットを準備して眠り、目が覚めたらプレゼントが自分のそばに置いてあってほしかった。

アパレルショップを辞めてこれからどうしようかと困っていたとき、サンタ見習いの仕事を知って、これまでになく必死にこの仕事に就こうとしたのは、小さな自分が求めていたからか。



このタイミングでそれに気づき、三郎太は寂しそうなつらそうな顔をした。

「三郎太くん」

そばで心配そうにクロードが見上げていた。

「サンタはプレゼントとハッピーを子どもに配るけど、ハッピーは子ども限定じゃないよ」

クロードが腕を引っ張ったので、三郎太は身を屈めた。

「一番に三郎太くんに言わなきゃいけなかったね。メリー・クリスマス、三郎太くん」

ちゅっと三郎太の頬にクロードがキスをした。

「そろそろ行こうよ。きっとルドルフたちが『遅い』って怒ってるよ」

にこっと笑ってクロードは三郎太の手を引っぱった。


初めてサンタクロースに「メリー・クリスマス」と言われ、頬に祝福のキスをしてもらった。

たったそれだけのことだったのに、三郎太はぽーっとなり嬉しくて嬉しくてたまらなかった。

「……あ…りがとう…ござい…ます」

「泣かないでよ、三郎太くん。サンタはにこにこハッピーでプレゼントを配るんだよ。三郎太くんもにこにこハッピーね!」

うんうん、と三郎太はうなずき、手の甲で涙を拭って鼻の頭を赤くして笑ってみせた。





それから三郎太の行動が変わった。

これまではクロードがお菓子を食べたり、興味のあることにすぐ夢中になりそうになったりするとすぐ、咎めるように注意をしていた。
しかし、クロードが愛おしそうに嬉しそうに自分宛の手紙を見つけてはポケットに入れたり、お菓子を食べたり、子どもの寝顔を見たりするのを見て、自分も満たされながら、ある程度の時間が来ると「クロードさん、そろそろ行きましょう」と声をかけるようになった。

サンタサークルも自分が手を繋いで先導するようにしてくぐると、クロードがうまくすり抜けられることがわかり、積極的に手を差し出す。

クロードは落ち着いてサンタ業務をこなし、「いいねー!いいねー!幸せだねー!」ととろけるように言っては満足そうにしていた。



ある家に入るなり「きゃーっ!三郎太くん、ベルト外してーー!おしっこもれちゃうーーー!」と騒ぎ始め、どたばたとトイレに駆け込んだ。
しばらくするとほっとした様子でトイレから出てきて、「あー、よかった。間に合ったー」と言った。

「ルドルフったらひどいんだよ。去年のクリスマスにおしっこに行きたくなったのにソリで走っている最中だったし遅れそうだったから、『そこでしろっ、くそジジィ!』って言うんだよ!あんな寒い夜に外でおしっこしたらフローズンおちん」

「わーーーっ!クロードさん、それはNGワードですっ!」

三郎太は慌ててクロードの口を手でふさいだ。
「子どもたちの前では言ってはいけないNGワード」が厳しく定められていて、それを言ってしまうと減俸になったり、あまりにひどいと停職、あるいは解雇されてしまう。

ということがたまにあったが、スムーズにプレゼント配達は進んでいった。




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