透明な音色
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最近よく夢を見る。
同じような夢で場所は見知らぬ家なのに何故か懐かしい。
幼い自分は黒髪の男性の膝に座り、その視線の先には栗色の女性がピアノを弾いてる。
顔は見えないけれど、その若い男女は優しく穏やかだった。
女性がこちらを見ると優しく微笑み、声は聞こえないのに“ロイ”と呼ばれた気がした。
毎日のように同じ光景で顔を見たいと思うと目が覚めた。
「…っ佐!
大佐!」
「‥‥えっ?」
「大丈夫、ですか?」
ハッと気づくと、いつの間にか寝ていたようで目の前には怒る訳ではなく、心配そうな中尉の顔があった。
「…何が?」
「気づかれていないんですね。
涙が‥‥」
「なん、で…っ」
中尉に涙を拭われ、悲しくもないのに涙が溢れた。
「‥‥大佐」
「ごめっ、何でも…ないから」
「その顔が何でもない顔ですか?
嫌な夢でも見たのですか?」
子供のようにフルフルと首を振る。
何故か涙はボロボロと零れる。
「大丈夫、大丈夫ですよ」
「…っく」
中尉に優しく抱き締められ、口から嗚咽が漏れた。
「泣きたい、訳じゃ、ないんだ…」
「分かってますよ。
今だけです。
こんな日もありますよ」
今は中尉の優しさが心に満ちた。
「‥‥大丈夫ですか?」
照れ臭くて気まずくて頷くことしか出来なかった。
「何を今更、照れてるんですか。
いつもの堂々としたあなたはどうしたんです?」
「別にいつも堂々としてる訳じゃ…ッ」
顔を覗かれるように珍しく中尉から勤務中にキスをされた。
「んっ…中尉?」
「これで少しは元気が出ましたか?
特別ですよ?」
悪戯っ子のように微笑む中尉にやられたと大佐は苦笑いを浮かべた。
「…ありがとう。
毎日、同じ夢を見るんだ。
不思議だけど暖かくて切なくて‥‥」
「忘れている記憶かもしれませんね。
身体が覚えてる記憶っていうのがあるらしいですよ」
「身体が?」
「えぇ、心が記憶を忘れても身体にはその記憶が残ってる」
「自転車とか一度覚えたら忘れないものとは違うのか?」
「それとは少し違うようです」
中尉は思い出すような仕草をする。
大佐の目を見てきちんと話す。
「記憶にはふたつあって、心の記憶と身体の記憶。
心はもちろんとても大事ですが、身体も大事で時には心が忘れても身体が覚えてる」
「………。」
大佐の視線に気づき、中尉はハッとした。
「す、すみません!
こんな話…」
「いや‥‥驚いただけだ。
錬金術師は科学者だが、それだけでは解決できないのもある。
矛盾してるが。
君からそういう話を聞けるなんて意外だったよ」
「前に読んだ本に書いてあったんです」
「へぇ…」
興味深そうに笑う大佐は錬金術師の顔をしていた。
「楽しそうですね」
「謎を解くのは実に面白いからな」
「謎解きもいいですが、まずは仕事をしてください」
「は~い。
でも、記憶とは不思議なものだな。
中には赤ん坊の時の記憶がある人もいるらしい」
「赤ん坊の時?」
「あぁ、母親のお腹にいた時の記憶とか。
真実かは定かではないが…」
「それが本当なら凄いですね。
どんな感じなのか想像つきません。
ちょっと怖い気がします」
「何故?」
「両親の話が聞こえるんですよね?
喧嘩や色々な話が聞こえるんですよ?」
「まぁ、確かに。
それは少し怖いかもな」
想像し、互いに苦笑いを浮かべた。
仕事を終えるとロイはマダムの店に足を運んだ。
「随分と久しぶりじゃないか」
「最近、物騒でね。
事件やら多いんだよ…」
苦笑いし、ため息をついた。
「あっ、ロイさん」
「久しぶり~」
「やあ、会いたかったよ。
寂しかったかい?」
(‥‥やれやれ)
マダムはロイの様子に呆れたようにため息をつく。
「いつものでいいんだろ?」
「あ、うん…」
マダムに向こうに行くように言われ、女性達は不満そうにしながらも従った。
この人に勝てる人はいないだろうとロイは内心、思っていた。
中尉でさえも言われ放題だったなと思い出した。
「マダム、ピアノ弾ける?」
「弾ける訳がないだろう?
何だい、急に…」
「いや‥‥夢を見るんだ。
綺麗なピアノの音色で。
幼い自分が男性に抱かれて、女性のピアノを聞いてた。
幸せそうな穏やかな時間なのに切なくて…
顔は見えないのに優しさを感じる」
グラスの酒を飲みながらロイはマダムに話す。
同じような夢で場所は見知らぬ家なのに何故か懐かしい。
幼い自分は黒髪の男性の膝に座り、その視線の先には栗色の女性がピアノを弾いてる。
顔は見えないけれど、その若い男女は優しく穏やかだった。
女性がこちらを見ると優しく微笑み、声は聞こえないのに“ロイ”と呼ばれた気がした。
毎日のように同じ光景で顔を見たいと思うと目が覚めた。
「…っ佐!
大佐!」
「‥‥えっ?」
「大丈夫、ですか?」
ハッと気づくと、いつの間にか寝ていたようで目の前には怒る訳ではなく、心配そうな中尉の顔があった。
「…何が?」
「気づかれていないんですね。
涙が‥‥」
「なん、で…っ」
中尉に涙を拭われ、悲しくもないのに涙が溢れた。
「‥‥大佐」
「ごめっ、何でも…ないから」
「その顔が何でもない顔ですか?
嫌な夢でも見たのですか?」
子供のようにフルフルと首を振る。
何故か涙はボロボロと零れる。
「大丈夫、大丈夫ですよ」
「…っく」
中尉に優しく抱き締められ、口から嗚咽が漏れた。
「泣きたい、訳じゃ、ないんだ…」
「分かってますよ。
今だけです。
こんな日もありますよ」
今は中尉の優しさが心に満ちた。
「‥‥大丈夫ですか?」
照れ臭くて気まずくて頷くことしか出来なかった。
「何を今更、照れてるんですか。
いつもの堂々としたあなたはどうしたんです?」
「別にいつも堂々としてる訳じゃ…ッ」
顔を覗かれるように珍しく中尉から勤務中にキスをされた。
「んっ…中尉?」
「これで少しは元気が出ましたか?
特別ですよ?」
悪戯っ子のように微笑む中尉にやられたと大佐は苦笑いを浮かべた。
「…ありがとう。
毎日、同じ夢を見るんだ。
不思議だけど暖かくて切なくて‥‥」
「忘れている記憶かもしれませんね。
身体が覚えてる記憶っていうのがあるらしいですよ」
「身体が?」
「えぇ、心が記憶を忘れても身体にはその記憶が残ってる」
「自転車とか一度覚えたら忘れないものとは違うのか?」
「それとは少し違うようです」
中尉は思い出すような仕草をする。
大佐の目を見てきちんと話す。
「記憶にはふたつあって、心の記憶と身体の記憶。
心はもちろんとても大事ですが、身体も大事で時には心が忘れても身体が覚えてる」
「………。」
大佐の視線に気づき、中尉はハッとした。
「す、すみません!
こんな話…」
「いや‥‥驚いただけだ。
錬金術師は科学者だが、それだけでは解決できないのもある。
矛盾してるが。
君からそういう話を聞けるなんて意外だったよ」
「前に読んだ本に書いてあったんです」
「へぇ…」
興味深そうに笑う大佐は錬金術師の顔をしていた。
「楽しそうですね」
「謎を解くのは実に面白いからな」
「謎解きもいいですが、まずは仕事をしてください」
「は~い。
でも、記憶とは不思議なものだな。
中には赤ん坊の時の記憶がある人もいるらしい」
「赤ん坊の時?」
「あぁ、母親のお腹にいた時の記憶とか。
真実かは定かではないが…」
「それが本当なら凄いですね。
どんな感じなのか想像つきません。
ちょっと怖い気がします」
「何故?」
「両親の話が聞こえるんですよね?
喧嘩や色々な話が聞こえるんですよ?」
「まぁ、確かに。
それは少し怖いかもな」
想像し、互いに苦笑いを浮かべた。
仕事を終えるとロイはマダムの店に足を運んだ。
「随分と久しぶりじゃないか」
「最近、物騒でね。
事件やら多いんだよ…」
苦笑いし、ため息をついた。
「あっ、ロイさん」
「久しぶり~」
「やあ、会いたかったよ。
寂しかったかい?」
(‥‥やれやれ)
マダムはロイの様子に呆れたようにため息をつく。
「いつものでいいんだろ?」
「あ、うん…」
マダムに向こうに行くように言われ、女性達は不満そうにしながらも従った。
この人に勝てる人はいないだろうとロイは内心、思っていた。
中尉でさえも言われ放題だったなと思い出した。
「マダム、ピアノ弾ける?」
「弾ける訳がないだろう?
何だい、急に…」
「いや‥‥夢を見るんだ。
綺麗なピアノの音色で。
幼い自分が男性に抱かれて、女性のピアノを聞いてた。
幸せそうな穏やかな時間なのに切なくて…
顔は見えないのに優しさを感じる」
グラスの酒を飲みながらロイはマダムに話す。