愛情の証
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思い出したくても何も思い出せない。
自分は欠けているかとは思っているが、それは自分には普通のことだった。
思い出がないのだから最初からいないのと同じ。
悲しみも感じることはなかったが、ただ羨ましく思ってた。
大人になった今は羨ましいなんて思わなくはなったが、思い出を聞くと少し寂しく感じた。
どんな人だったのかさえ分からないのは事実だから仕方ない。
執務室でハボックの一言から思い出話が始まった。
「田舎から母親が来るんスよ」
照れながらも嬉しそうにハボックが言う。
「あら、よかったじゃない。
残業にならないように…」
「休んでいいぞ」
「はっ?」
「親孝行、今のうちにしとけ。
わざわざ田舎から出て来てくれるんだろう?」
「いいんスか!!?」
「…たまにはな」
「大佐が珍しい~」
「いいとこありますね」
「どういう意味だ、それは!!」
他愛ない会話をしながらも書類を片付けていた。
そこから何故か両親の話になった。
中尉は既に両親を亡くしているが、思い出話を懐かしそうに話していた。
そして、エルリック兄弟までも混ざる始末だ。
「よく笑う優しい人だったよ」
「うん、そうだね。
錬金術で何かを作ると喜んで褒めてくれたよね」
「…まるで太陽みたいだったな」
「‥‥うん」
そこには切なさはなく、懐かしそうに笑うエルリック兄弟がいた。
珍しく大佐は会話に混ざらずに真面目に仕事していた。
(…母親か。
そういうものなのだろうか)
考えても分かるはずもなく、思考を停止させた。
「…大佐は?」
「何が?」
「大佐の両親」
「大佐が混ざらないなんて珍しいですね」
(‥‥混ざれるはずないだろ)
ずっと黙ってる大佐が気になり、声を掛けた。
書類から顔を上げ、大佐は首を傾げる。
「両親の話をしてたんだよ、聞いてなかったのか?」
「聞いてたが…」
「大佐の両親はどんな人だったんですか?」
困惑したように大佐は黙り込んだ。
「やっぱ、大佐みたいに嫌味な奴なんじゃねぇの?」
「兄さんっ!
もう、失礼だよ」
「‥‥さぁな」
「「えっ?」」
「…知らない。
というよりも覚えてないんだ。
私が幼少期の頃に亡くなって、父方の祖母に引き取られたし」
「「………。」」
予想外の言葉に黙り込んでしまう。
「でも、思い出のひとつくらい…」
「ないよ。
顔も声も何も分からない。
優しかったのか、厳しかったのか…
私を愛していたのかさえ分からない」
曖昧な笑みを浮かべる大佐にどう声を掛けていいか戸惑う。
「私みたいな子は沢山いたし。
異常に見えても私にはそれが普通なんだよ。
特に聞こうともしなかったし」
「…大佐」
「あの、すいません。
俺、知らなくて」
「構わないさ。
別に悲しい訳でもない。
言っただろ、それが私には“普通”だと」
それでも悲しそうな瞳に見える。
中尉は立ち上がり、大佐に封筒を差し出した。
「…何だ?」
「マダムから前に渡されました。
今渡すのがいいかと。
チャンスを見て渡して欲しいと」
マダムとは大佐の養母のことだ。
「これ、は‥‥
どうして…」
「あなたが聞かなかったから渡せなかったと。
いつか渡そうと思ってたらしいです」
封筒から出て来たのは写真の束で、幼いロイと両親らしき人が写っていた。
「大佐…
いえ、今はマスタングさんと呼ばせてください。
マスタングさんの黒髪はお父さん似、その瞳も。
唇はお母さん似。
とても優しくてあなたを愛していました。
あなたは愛されていましたよ、マスタングさん」
「‥‥っ‥」
「愛されていました」
中尉は優しく大佐の頭をなでた。
その微笑みはまるで女神のようで、とても暖かい。
中尉は更に封筒を取り出した。
「それから、あなたに宛てた手紙が出て来たそうです」
「えっ…」
「どうぞ‥‥」
微かに震える手で封筒を開けた。
日付を見ると自分が生まれた年だった。
《私達の息子、ロイへ
ロイ、君は今何歳ですか?
夢はありますか?
その夢に向かって頑張っていますか?
君はどんな子に成長しているんだろうか。
君が大人になった頃には戦争がなくなっていればいいな。
君には幸せになって欲しい。
ロイ、生まれて来てくれてありがとう。
愛を込めて…。》
涙で滲み、泣かないように上を向いた。
(父さん、母さん…
私は愛されていた。
夢とは言えないけど、野望に向かって頑張ってるよ)
座ったまま、回転させて背を向けて袖で涙を拭う。
その肩は微かに震えていた。
自分は欠けているかとは思っているが、それは自分には普通のことだった。
思い出がないのだから最初からいないのと同じ。
悲しみも感じることはなかったが、ただ羨ましく思ってた。
大人になった今は羨ましいなんて思わなくはなったが、思い出を聞くと少し寂しく感じた。
どんな人だったのかさえ分からないのは事実だから仕方ない。
執務室でハボックの一言から思い出話が始まった。
「田舎から母親が来るんスよ」
照れながらも嬉しそうにハボックが言う。
「あら、よかったじゃない。
残業にならないように…」
「休んでいいぞ」
「はっ?」
「親孝行、今のうちにしとけ。
わざわざ田舎から出て来てくれるんだろう?」
「いいんスか!!?」
「…たまにはな」
「大佐が珍しい~」
「いいとこありますね」
「どういう意味だ、それは!!」
他愛ない会話をしながらも書類を片付けていた。
そこから何故か両親の話になった。
中尉は既に両親を亡くしているが、思い出話を懐かしそうに話していた。
そして、エルリック兄弟までも混ざる始末だ。
「よく笑う優しい人だったよ」
「うん、そうだね。
錬金術で何かを作ると喜んで褒めてくれたよね」
「…まるで太陽みたいだったな」
「‥‥うん」
そこには切なさはなく、懐かしそうに笑うエルリック兄弟がいた。
珍しく大佐は会話に混ざらずに真面目に仕事していた。
(…母親か。
そういうものなのだろうか)
考えても分かるはずもなく、思考を停止させた。
「…大佐は?」
「何が?」
「大佐の両親」
「大佐が混ざらないなんて珍しいですね」
(‥‥混ざれるはずないだろ)
ずっと黙ってる大佐が気になり、声を掛けた。
書類から顔を上げ、大佐は首を傾げる。
「両親の話をしてたんだよ、聞いてなかったのか?」
「聞いてたが…」
「大佐の両親はどんな人だったんですか?」
困惑したように大佐は黙り込んだ。
「やっぱ、大佐みたいに嫌味な奴なんじゃねぇの?」
「兄さんっ!
もう、失礼だよ」
「‥‥さぁな」
「「えっ?」」
「…知らない。
というよりも覚えてないんだ。
私が幼少期の頃に亡くなって、父方の祖母に引き取られたし」
「「………。」」
予想外の言葉に黙り込んでしまう。
「でも、思い出のひとつくらい…」
「ないよ。
顔も声も何も分からない。
優しかったのか、厳しかったのか…
私を愛していたのかさえ分からない」
曖昧な笑みを浮かべる大佐にどう声を掛けていいか戸惑う。
「私みたいな子は沢山いたし。
異常に見えても私にはそれが普通なんだよ。
特に聞こうともしなかったし」
「…大佐」
「あの、すいません。
俺、知らなくて」
「構わないさ。
別に悲しい訳でもない。
言っただろ、それが私には“普通”だと」
それでも悲しそうな瞳に見える。
中尉は立ち上がり、大佐に封筒を差し出した。
「…何だ?」
「マダムから前に渡されました。
今渡すのがいいかと。
チャンスを見て渡して欲しいと」
マダムとは大佐の養母のことだ。
「これ、は‥‥
どうして…」
「あなたが聞かなかったから渡せなかったと。
いつか渡そうと思ってたらしいです」
封筒から出て来たのは写真の束で、幼いロイと両親らしき人が写っていた。
「大佐…
いえ、今はマスタングさんと呼ばせてください。
マスタングさんの黒髪はお父さん似、その瞳も。
唇はお母さん似。
とても優しくてあなたを愛していました。
あなたは愛されていましたよ、マスタングさん」
「‥‥っ‥」
「愛されていました」
中尉は優しく大佐の頭をなでた。
その微笑みはまるで女神のようで、とても暖かい。
中尉は更に封筒を取り出した。
「それから、あなたに宛てた手紙が出て来たそうです」
「えっ…」
「どうぞ‥‥」
微かに震える手で封筒を開けた。
日付を見ると自分が生まれた年だった。
《私達の息子、ロイへ
ロイ、君は今何歳ですか?
夢はありますか?
その夢に向かって頑張っていますか?
君はどんな子に成長しているんだろうか。
君が大人になった頃には戦争がなくなっていればいいな。
君には幸せになって欲しい。
ロイ、生まれて来てくれてありがとう。
愛を込めて…。》
涙で滲み、泣かないように上を向いた。
(父さん、母さん…
私は愛されていた。
夢とは言えないけど、野望に向かって頑張ってるよ)
座ったまま、回転させて背を向けて袖で涙を拭う。
その肩は微かに震えていた。