テーブルに無造作に置いてあった新聞を手にした。


ロイは新聞を読みながらチラッとリザに視線を移すと微かに笑みを浮かべた。


ロイとリザの関係性は恋人というよりもまるで夫婦のようだ。


今のロイには自分で知る情報源の唯一のものと言っても過言ではない新聞。


１人の外出はもちろん、自由も少ないので以前に比べて自由な行動は限られている。


マダムの店にも大総統になってから一度も訪れていない。


新聞以外の情報源は主に信頼を置く部下達で以前はマダム達にも協力してもらっていたが、店に行けない今はそれも難しい。


だからこそ、エドに市街調査を依頼したのだろう。


エドもそれが分かっているからこそ、周りに怪しまれないように文句を言っていた。


特にロイに恨みをも抱いていそうな上層部にはバレないように。


「ロイさん、何か情報はありましたか？」
「…リザ」
「まだ完治した訳じゃないんですよ？
今は頭も身体同様に休むべきです」
「すまない、どうしても気になってね」
「まったく…仕方ない人ですね」


困ったようにリザは笑う。


ロイには呆れた訳でもなく、怒っているのでもなく、心配してくれていることが分かっていた。


「はい、どうぞ」
「ありがとう」


リザが皿をテーブルに置き、フォークをロイに手渡す。


皿には甘酸っぱい香りのリンゴ。


「風邪をひくとリンゴを食いたくなるんだよ」
「身体が求めているんですね」
「ん、そうかもな」
「甘いですか？」
「あぁ、食うか？」
「いえ‥‥」
「そんな遠慮しなくてもいいのに」
「普通は遠慮しますよ」


ロイは苦笑いを浮かべる。


「明日からまた頑張るよ」
「無理だけはしないでくださいね」
「その時はまた君に甘えようかな」
「喜んで」


一瞬驚いたロイだが、微かに照れたような笑みを浮かべた。


「私にくらい、甘えて我儘を言ってくださっていいんですよ。
弱音だって吐きたくなる時があるでしょう？
格好悪いなんて私は思いません。
人間なんですから、弱い部分があっていいんですよ。
貴方の我儘なら、出来るだけ叶えてあげたいから。
大総統だからって、無理しないでいいんですよ」
「‥‥リザ」


優しい言葉と優しい微笑みにロイは不意に泣きそうになった。


隣に座っているリザを抱き寄せた。


「ろ、ロイさん…」
「‥‥今だけ。
少しでいいから」
「いいですよ。
貴方がぬくもりを求めるなら、私は応じますから」
「…君だけだよ」


リザは優しく、ロイの頭をなでた。


リザの肩に顔を埋めてそのぬくもりに安堵する。


「…私には君だけだよ。
君が居るだけで安心するんだ」
「‥‥ロイさん」
「君が一番じゃなく、君だけなんだ。
ほかの誰とか、そういう問題じゃなくて比べられないんだ。
君としか考えられない。
それだけは分かって欲しい」
「…はい」


告白ということではなく、ただ自分の気持ちを少しでも知って欲しかった。


リザが受け入れてくれるまで、リザに勇気が持てるまで何度でも言おう。


「君が私に伝えてくれるまで、私はいくらでも待つから。
この気持ちに嘘はないよ、リザ…」


リザは頷くだけで精一杯だった。


痛い程に伝わる気持ちに何か言えば泣いてしまうから。


先程、寝れなかったのが嘘のように睡魔が襲って来る。


「…ロイさん？」
「‥‥眠い」
「寝室に行きましょうか」
「起きるまで…」
「帰りませんから」
「それなら、いい」


リザに手をひかれて寝室に行く。


ベットに入ってもリザの手は離さず。


手を握ったまま、ロイは眠りに着く。


安心して眠れるのはリザが側にいるから。


それほどロイにとってリザは安心できる存在なのだろう。


（もう、変なとこで子供みたいなんだから…）


それでもリザは嬉しかった。


寂しがり屋で甘える姿を見せるのも信頼してくれている証拠。


少しだけ弱音を吐いてくれて、肩の力が緩むならいいとリザは思った。


寝顔は幼くて可愛らしいと思わず、笑みが浮かんだ。


「そんなこと言ったら拗ねるかしら…」


クスクスとリザは笑う。