どんなに心の隙間を埋めようとしてくれてもその時は楽しくても虚しくて、自分はその人達の“家族”でないことを実感してしまうから。


(…僕は弱いな。
こんな姿、ジェームズ達には見て欲しくない)


原因は自分で分かっていても未成年の自分には環境を変えることが出来ないことを分かっていた。


「シリウス・ブラック。
医務室に行きましょう」
「…マクゴナガル教授」
「おいで、私と一緒に行きましょう。
今日は何も食べてないのですか？」


小さな子のように手を引かれて、シリウスは泣きそうになりながら小さく頷くしか出来なかった。


「こんな風になる前に頼って甘えなさい。
何も言わなくていいから。
医務室には来なさい」
「…うん」
「ホットミルクよ。
身体が温まってよく眠れるわ」
「今日はそれを飲んで、朝まで眠りなさい。
大丈夫、よく眠れるわ」


ベットに腰掛けてシリウスは黙って飲んでいた。


夏休暇後はシリウスは毎年、痩せて戻って来て体調を崩して医務室に世話になる。


自分では来ないので毎年のようにマクゴナガル教授に保護されて来るのだが。


教授達だけではなく、誰もが実家の環境だと気づきながらも言葉には出さない。


それはジェームズ達もスリザリン生達も同様だった。


「しばらくはここで寝泊まりしなさい。
眠るまで傍にいるわ。
大丈夫、悪夢は見ないから」


手を握られて優しく頭を撫でられ、シリウスは眠る。


「毎年悪化してますね」
「…そうですね」


教授達も理解しているから夏休暇後の授業は欠席でも、体調が治り次第に課題提出で免除してる。


体調不良で授業に出れない状態なのは誰もが分かってる。
　

「うっ、ぇ…ッ」
「よしよし。
大丈夫ですよ。
全部出しちゃいなさい」
「ゲホッ…ゴホン…っ」


食べても戻してしまい、体重も体調も数週間は戻ることはない。


「気持ち悪…っ」
「寄り掛かって構わないから。
ゆっくり息を吐いて。
そう、上手よ」


錯乱から過呼吸にならないように声を掛けて宥める。


夜中に城内を出歩くのは気分転換よりも眠れないのだろう。


「シリウス！」
「…ジェームズ」
「顔は見せてはくれないのかい、相棒」
「そんなことよりも。
果物なら食べれるだろう？」
「厨房でゼリーも作ってもらったんだ。
シリウス、レモンのゼリーは好きだったよね」
「…うん」


こんな酷い顔は見られたくなくてベットから潜って隠れるシリウスにジェームズ達は嫌な顔をしたことはない。


「食べれそうですか？」
「…うん。
ジェームズ達がくれたやつだから」
「ゆっくり食べるんですよ」


毎晩、夜に顔を見に来てくれるマクゴナガルには顔を見せることが出来る。


夜に眠れないシリウスの為に付き合い、寝不足になるだろうともそんな顔は見せないマクゴナガルにシリウスも心を開いた。


「昨日よりは少しは顔色が良くなったかな。
無理はせずにゆっくりと歩みなさい。
君はまだ若い。
沢山の時間があるんだよ」
「フリットウィック教授」
「ほら、そんな顔をせずに。
大丈夫だからね」


マクゴナガルとフリットウィックには顔を見せれた。


自分を否定せずに肯定してくれるから。


「甘えていいんだよ。
君は生徒で未成年だ」
「こういう時に遠慮はいらないんですよ」
「迷惑だなんて思ってません。
ゆっくり過ごしなさい」


声にならずに静かに涙を流すシリウスに大丈夫だとマクゴナガルは抱擁し、優しく背を撫でた。


「…眠ったようじゃな」
「ダンブルドア」
「流石にこのままでは。
本当に壊れてしまいます」
「異例として認めは出来ないのですか？」
「決まりは決まりじゃ。
夏休暇は必ず、実家で暮らす。
これはシリウスの試練なのだろう」
「ですが…っ」
「それならせめて、両親に」
「無駄だよ。
僕の為に両親は来ない。
あの人達が来る訳がない！」
「落ち着いてください。
大丈夫よ。ね？」
「はぁっ…は…ッ」
「ゆっくり呼吸しなさい。
考えなくていいわ」


マクゴナガルに無意識に手を伸ばすと抱き締めてくれて、安堵しながらしがみついた。