夏の長期休暇は渋々ながら屋敷に帰るしかない。


「シリウス。
そんな顔するなよ。
またいつでも来ていいし。
何なら、今から来るか？」
「…一度は帰るように言われてるから。
すぐに行くかもしれないけど」


ぎこちなく笑ってシリウスはジェームズ達と駅で分かれた。


シリウスの家庭の事情は理解しながらもダンブルドアもマクゴナガルも特例は認めてはもらえなかった。


「た、ただいま。
何があったと聞くべきか？
それとも、部屋に戻るべき？」
「…座って頂戴」


屋敷に帰ると両親の言う事をよく聞いていた良い子なレギュラスが母に頬を叩かれていた。


バットタイミングだったが、母と目が合ってしまってシリウスは自室にそのまま行けなかった。


疲れたような両親とシリウスは苛立ったように音を立てて部屋に走って行くレギュラスに唖然としてしまう。


「俺よりも激しくない？」
「…否定はしないよ」
「最近のレギュラスで変わったことはありませんか？」
「普通にクィディッチの試合も参加してたけど。
まぁ、以前よりも１人でいることが多いかも」
「どうして報告しないんですか！」
「な、なんだよ。
年頃なら１人になりたい時もあるだろ」
「…貴方もですか」
「どんなイメージを息子に持ってるんだよ。
俺だってずっと友人といる訳じゃない。
ほかの奴等よりも一緒に過ごす時間は多いかもしれないけど」
「シリウスにもきちんと説明してやらないと」


オリオンに諭されてシリウスにも説明する。


「はっ？
呪いや魔法薬じゃなくて？」
「最初に疑って調べたさ」
「レギュラスが自分で？
次期当主には自分がなるって俺に言った奴だぞ」
「あぁ、言ったのか」
「嫌味も含めて。
じゃなくて。
今はそれはどうでもよくて。
スリザリンってだけじゃなくて、レギュラスは純血主義だったはずだ。
仮にそれを偽ってたとしても。
次期当主にならないって。
反抗のわりには。
それも、マグルと関わってるって。
俺でもマグル出身はあっても、魔法と関わりのないマグルとは交流なんてないし。
普通に混乱するんだけど」


そうなるとシリウスも結果的に巻き込まれてゆく。


「ホグワーツでもレギュラスとは寮も学年も違うから。
見かけることはあっても話すことなんてないし。
違和感なんて、１人でいたことくらいだぞ」
「レギュラスの単独の行動とは思えないのよ。
最初は貴方の悪影響かと」
「悪影響って。
別にいいけどさ。
そうだとしたら、最初から反抗してると思うけど」


これはジェームズの家に避難も出来ないなとシリウスはため息をついた。


「うわ…っ」
「シリウス！
ごめんなさい。
怪我はしてない？」
「避けたから…大丈夫、だけど」


朝に起きて１階に着いた途端に皿が吹っ飛んできたのも驚きだが、母に心配されたのも戸惑う。


「レギュラス！
シリウスに謝りなさい！」
「あんたが次期当主になってれば、よかったんだ！」
「お兄様になんて口を！」
(…どんな状態なんだ)


シリウスは唖然としているとオリオンに手招きされる。


「破片が当たったんだろう」
「ホントだ。
毎朝、こんな感じ？」
「…最近はそうだな」
「俺でも物は投げなかった。
レギュラスも意外とヒステリックだな」


オリオンに手当てされて、２人でソファに腰掛けて見守る。


結局はレギュラスは反抗していた当初のシリウスのように食事をせずに部屋に閉じ籠もった。


(この空気の中で食事しろと？
俺も部屋に戻りたい)


両親の雰囲気がそれを許してくれず、シリウスは黙って食事をしていた。


「紅茶。
貴方はダージリンで良かったですか？」
「…はい」


食事が済んでも部屋に戻してもらえず、シリウスは顔が引きつりそうになりながら返事する。


「貴方が戸惑ってるのも巻き込んでるのも理解してるわ」
「まぁ、一応は家のことだし。
巻き込まれてるとは」


戸惑いがあることは事実なので否定はしない。


「…俺の好みなんて忘れてると思ってた」
「息子の好みを忘れるはずないでしょう」


出されたお菓子もどれもシリウスが幼い頃に好んでいたものだった。


「好みは変わってる？」
「たまには今は甘いチョコも少しは食べるよ。
それでもそこまで甘いのは好きじゃないけどね」
「…そう」


レギュラスをキッカケでこんな風に話すのは不思議だ。