大人になって親しくなってからハリーに聞かされた思い出話はドラコにとって驚愕の連続だった。


(悪くないな人生だったが、決して良くもない人生で後悔の連続だった。
だが、子育ては妻の分も愛情込めて育てられたと自信がある。
我が息子よ、そんなに私の為に泣かないでおくれ)


死に際さえも意識がハッキリしているが、話すことは出来なかった。


「父上！
嫌だ…っ、父上！
僕を独りにしないで…っ」


しがみついて泣いている息子に微かに笑みを浮かべ、ドラコは優しく頭を撫でて額にキスした。


(また会えるよ、君が望むならば…。
願わくば、また君の父として歩みたいと思うよ)


苦しむこともなく、眠るようにドラコは目を閉じた。


(どういうことだ。
私は亡くなったのではなかったのか！
どう見ても私の生家であり、幼少期の私の自室だな)


ドラコが“前世”の記憶を取り戻したのは３歳の夏だった。


魔力覚醒と同時に魔力暴走ゆえの数週間に及ぶ高熱で現実と夢が交差していた。


(また私はドラコ・マルフォイとして歩むのか。
違う人生も歩んでみたかったな)


これからまたあのような苦労を味わうのかとため息をつく。


(待てよ、何も同じことを繰り返す必要はないんだよな。
どうやら僕の魔力は前世よりも強くてうまく操ることも出来るようだし。
知識をフル活用させて頂こうか)


ハリーが居たのならば、悪い笑顔だと言われただろう。


(ここに君達が居たならば、心強い以上に嬉しかったのに。
また１からどころか、ゼロからスタートだ。
僕のように逆行はしていないんだろうな。
ハーマイオニーにマグルの小説を借りて読んでいて良かったな。
まさか、現実に私がなるとは予想もしていなかったが)


これから忙しくなるなと思いながらも眠りに着いた。


(これは前世との違いだ。
予想外過ぎる)


高熱で数週間も生死を息子が彷徨っていたらそうなるだろう。


「…父上」
「ドラコ。
もう私を“父様”とは呼んでくれないのかい？」
(前世の貴方が“父上”と呼ぶように言っていたのですが)
「ドラコ。
そう大人びる必要はない」
「父様。
僕の性格です」
「愛しい我が息子よ。
君が望むものはどんなことでもしてあげよう」
(…血筋だった。
自分が言っていた言葉を私が父上に言われるとは)


恥ずかしくて幼いドラコはルシウスにしがみつき、ルシウスは甘えていると勘違いしてくれたが。


「さあ、ドラコ。
お昼寝の時間だ」
(幼い身体には逆らえない)


ルシウスに抱えられて背をトントンされ、幼いドラコはウトウトとする。


「大丈夫。
何も怖くないからおやすみ。
私の大切なドラコよ」
「とう、さま…」


スヤスヤと眠るドラコにルシウスは微笑み、額にキスする。


「ありがとうございます。
ふふっ、ドラコは貴方が大好きですね」
「礼には及ばんよ。
私の息子でもあるのだから。
今こそ、息子には幸せになって欲しいのだから」
「…そうですね。
ですが、ドラコは幸せでしたよ」
「いらぬ苦労を息子に掛けてしまったのは事実だ」


その言葉をドラコが聞いたのならば、驚愕しただろう。


ハリー達ではなく、誰が両親も逆行したと思うだろうか。


「…父様」
「どうした？
食事が口に合わなかったか？」
「うぅん、美味しいです。
父様は純血主義では…」
「以前ならそうだったな」
「今は違うのですか？」
「そうだな。
マグルと交流しようとは思わんが。
私も考えがあるのだよ」
(…改善する必要性がなくなったんだが)


溺愛も純血主義の緩和もドラコは戸惑う。


(…溺愛は幼少期だけだと思っていたのだが)


毎年盛大なドラコの誕生日パーティーを開くのもあり、魔法界でルシウスの溺愛を知らない者は居ない程だ。


何が驚きなのかと言えば、その誕生日パーティーにグリフィンドール卒の魔法族にも招待状を送っていることだ。


不気味に思って誰も招待には応じていないが。


(私でさえも罠だと思う。
ハッフルパフとレイブンクローの卒業生達でさえも、家柄の付き合いで来ているが。
初めての方は全員が顔を引き攣らせている。
息子の私でさえもそうなのだから、ほかの者達は冷酷なルシウス・マルフォイを知っているから尚更だろう)


町で偶然会った不仲であるアーサーでさえもどうしたんだと驚愕するくらいに。


あのアーサーにさえも写真を見せて自慢しているルシウスに“溺愛は本物”と噂された。


息子の自慢話に付き合わされたアーサーは嫌味を言っても自慢が返され、逃げれずに疲れたように帰って行ったが。