セルシアは座り直して、ロイを見つめていた。


『頼るのが苦手でも。
無理しなくていいから私は頼って欲しいと思います。
貴方の頼りになる存在になりたい』
「もうなっているさ」
『まだ足りません。
覚悟しといてくださいね』
「ふはっ！
分かったよ」


クスクスと笑いながらもロイは嬉しそうに見つめていた。


『ミニタルトです。
ロイさんが作ってたから。
作り方は違うけど。
どれがいいですか？』
「じゃあ、ベリー系で」
『は〜い』


ロイが選んだのはイチゴやブルーベリー、ラズベリーなどのベリー系が沢山の小さな食べ切りサイズのミニタルトだった。


「うまい。
甘過ぎなくていいな」
『見た目も可愛らしいでしょう？
柑橘系も美味しいよ』
「いろんな味があるのがいいな」


柑橘系もベリー同様に複数の種類を使っているミニタルト。


「おまえらはピクニックかよ」
「ヒューズも昼休憩か？」
『食べます？
残念ながら私の手作りですが』
「…残念なのか？」
『ヒューズ中佐はロイさんの手作りの方が好きでしょう？』
「おまえがおねだりしてるから、こんなことを言われるんだぞ」
「否定はしないが。
比較はしねぇし、リーゼル准将のスィーツも好きだぞ」
『ありがとうございます』
(…否定しないのか)


ロイは苦笑いしながら空を見上げ、微かに肩の力が抜けた。


『昼休憩は短すぎる』
「１時間もあっただろう」


腰にしがみつかれながら歩いているロイに周りは顔が引きつる。


中尉が駆けつけて来て引きずって行ったのだった。


「ただいま戻りました。
随分と減りましたね」
「頑張ったからな」
「普段からしてくださると」
「ふははっ！」


ロイと補佐官は呆れたようにため息をついた。


「こっちにおいで」
「何ですか？」


大総統に手招きされて不思議に思いながらも向かう。


「お土産だ」
「…お土産？
これって」
「やはり、分かるか」
「希少な紅茶の茶葉じゃないですか。
国内でも稀だと」
「関わっている者と知り合いでね。
譲って頂いたんだ。
流石に毎回は手に入らないが」
「ありがとうございます」
「自宅で飲みなさい」
「宜しいんですか？」
「ココに置く必要はないさ。
自宅で飲みなさい」
「ありがとうございます」


いい香りだと微笑むロイに大総統は満足そうに笑う。


「その代わりではないが」
「パーティー参加ですか？」
「正解だ」
「お供しますよ。
こういうお土産なら大歓迎です」
「そうか」


珍しく分かりやすく嬉しそうなロイに大総統は優しく頭を撫でた。


企画書にロイは目を通して、苦笑いしてしまう。


「諦めていなかったんですか」
「あぁ、諦めてないよ。
私には必要なことだ」
「安全面も含めて預かります。
検証させてもらいますので」
「期待しているよ」
「余計な仕事を増やされた気もしますけど」
「その為のお土産ではないぞ」
「分かってますよ」


ロイは半ば呆れつつも根負けし、絶対的に必要ではないと分かりながらも受け入れた。


『華やかですね』
「知らないんですか？」
「リーゼル准将は中央司令部に元々、居たんですよね？」
『春祭りには関わってなかったし。
こうして見るのも初めて』


仕事を押し付けられて、司令部の資料室に籠もっていたのが正しい。


「華やかな沢山の花が各所に飾られ、いろんな屋台も多い。
その分、スリや事件も多いが」
「…大将の地位の人は本来は見回りに来ませんが」
「仕方ないだろう。
大総統の命令なんだから」
「どうせ、貴方が大総統に頼んだんでしょう？」
「ふははっ！
楽しまないと損だろう」


中尉は呆れながらもため息をつき、仕方ない人だと微かに笑う。


「あれ、リーゼル准将は？」
『待って。
通してください〜！』


人混みに流されている小柄なセルシアに全員が無言になる。


「君は何をしているんだ」
『はにゃ…』
「平均身長よりも低いですからね」


ロイによって確保されたセルシアは人酔いもして抱えられていた。


「嫌がらせ以前に留守番は正解だったかもしれませんね」
『やだっ！
私も行きたい！』
「遊びじゃないんですよ」
『わ、分かってるもん』


中尉に怪しまれて目を反らし、ハボック達は苦笑いする。


「…仕方ないな。
ほら、手。
これで流されないだろう？」
『はいっ！』


パアァッと満面の笑みを浮かべ、ロイの手を握る。

　
「デートに付き添いさせられてるみたいだな」
「今更だろ」


呆れながらもついて行き、見回りをしている。


『春祭りって結局は何なんですか？
まだ春にはなってないですし』
「イースターとは違うんですよね」
「まぁ、イースターは春になってからの復活祭だな。
春祭りは長い冬が明け、訪れる春をお祝いする祭りだ。
春祭りは地方によっては異なるが。
各地で盛大なパレートやイベントが行われる」
「春の訪れを期待しつつ、楽しむ祭りってことっスね！」
「なんていうか…、うん。
期待を裏切らないな」
「短縮し過ぎだろ」
「間違ってはいないけど。
正解とも言えないわね」


ハボックの言葉にロイは苦笑いし、ブレダと中尉は呆れたようにため息をついたのだった。


「イースターとは異なる華やかさがあるんだよ。
花に関わる屋台もある」
『花に関わる？』
「例えば…、花飾りや花のピアスやイヤリングなど。
蜂蜜を取り扱う屋台もある」
『可愛い！』
「マスタング大将。
良かったら婚約者にどうだい？」
「仕事中なんだが」
「春祭りくらいは大目に見てもらいなよ！」
「マスタング大将なら大丈夫だろ」
「…買わせたいだけだろう。
そうだな、セルシアならこの辺りの色かな」
『可愛いですけど。
子供っぽくないですか？』
「こういうデザイン、好きだろう」
『…好きですけど』


ロイは髪飾りをセルシアの髪に着けると手にキスをする。