無表情になっているロイにヒューズは苦笑いして慰めるように肩を叩く。


「まぁ、今更じゃねぇか」
「…本当に予想外のことをする。
誰があんな方法で昇進すると？」
「思わねぇな。
愛されてる証拠だろう」
「地位的にヒューズよりも先に将軍になるとは思ったが。
頭痛も胃痛も通り越して、私は笑えばいいのか？
違う意味で好奇に晒されて！」
「落ち着けよ」
「これが落ち着けるか？
頼むから、私の精神面の為にも早く将軍になってくれ」
「…努力はする」


ヒューズは流石に揶揄ることはせずに慰めるのだった。


「昇進の方法は例外にしてもさ。
良いことだってやるだろう？」
「そうだな。
軍議で吹き飛ばしそうなイメージしか湧かないが」
「それは…、俺もだけどよ」


深いため息をつくロイにヒューズはポンポンと肩を叩いた。


「もう許されるのならば。
おまえを２階級昇進させたい」
「やめてくれよ。
おまえじゃないんだからさ。
まぁ、こういう会話すると安心するよな」
「はぁ？」
「リーゼル大佐が戻って来たんだなってさ」
「…そうだな」


嬉しそうに微かに笑うロイにヒューズは笑って頭を撫でた。


「ところで、この辺りでブラブラしてていいのか？」
「書類作業は終わったし。
今日は大総統の視察もないから。
正確には視察をさせない。
書類を溜めすぎて」
「…そんなに？」
「補佐官に監視させてる」
「いや、監視って」


溜めすぎるとこうしてロイと補佐官から大総統府で監禁状態にされる。


「大総統。
どちらに行くのですか？」
「…ロイ。
そんなところに」
「まだ終わってませんよね。
今日の分は終わらせますよ」
(おまえも監視してたのか)


ロイに引かれて行く大総統にヒューズは苦笑いして見送る。


「企画書を作るくらいなら、書類の１枚も完成させてください」
「紅茶淹れて来ます。
その間にしといてくださいよ」


ロイと補佐官に叱られて監視されながら大総統は書類を手にする。

　
渋々だが、やっと種類作業を始めた大総統にロイは紅茶のカップを手渡して自分の席に戻った。


自分の分の紅茶を飲みながら書類を確認して必要な資料にメモを挟む。


「…ん」
「ありがとう」
「ほかに用事があれば」
「問題ない」
「承知しました」


自分の書類も確認して、まとめてから少しだけ進めて終わらす。


(書類が溜まってないと書類をやりすぎると明日以降、暇になりすぎる)


仕事量が減ったのでロイは自由な時間も増えていた。


(溜めてるとは言っても。
こんなに多いものだったか。
こっちは人事だから見ない方がいい)


大総統の溜めた書類を手にして仕分けている。


「…ロイ」
「はい？」
「君は何をしているんだね」
「仕分けてます。
人事の提出は早めにお願いします。
中身は見ていませんが」


ロイに手渡されて大総統は受け取って苦笑いする。


大総統が微笑むのでロイは不思議そうに見つめる。


「どうかしましたか？」
「いいや、君は厳しくしようとしても結局は優しいんだなと」
「はい？」
「溜め込んでいた方が悪いんだ。
手伝う必要はない」
「…そういうものですか？
効率的に仕分けた方が楽かと」
「中尉に随分と甘やかされているようだな。
いや、君が甘やかしているのか」


補佐官の言葉にロイは思わず、大総統を見つめる。


「普通はしないのですか？」
「新人ではないし。
それは自己判断だな。
仕分けてくれた方がやりやすいが。
あるとしたら種類別に大雑把に仕分ける程度だな」
「…失礼しました」
「女性の補佐官との差もあるかもしれないな」
「ホークアイ中尉だけでしょう？」


ロイは微かに頬を赤らめて書類で顔を隠していた。


「資料も渡すだけ…？」
「本来は？」
「そういうことか。
マリア・ロスが驚いてたのは」
「私はその方が楽だが。
どちらでも構わんよ。
甘やかしてくれるなら有り難いが」
「……っ…」


恥ずかしくなってロイは大総統の軍服を掴んで顔を埋める。　


「それは恥ずかしくないのか。
基準が分からんな」
「ロイ、耳も赤くなってる」
「言わないでください」
「ふははっ！
仕事が楽に出来てたよ」
「もっと早く言ってください」
「いや、思わずね」
「中尉以前に補佐官もいたのでは？」
「…１ヶ月もしないうちにやめて行きましたから。
ヒューズも担当してくれてたけど、仕分けてくれてたし」
「それが普通と思ったのか」


妬みもあって書類の量もあったから仕分けてくれていたようだ。


それが当たり前になったのも仕方ないかもしれない。


「私はどちらでも構わんよ」
「仕分けた方が大総統の場合は良さそうですね。
マスタング大将、お願いしますね」
「…からかってませんか」
「ふはっ！
半々、ですかね」


不満そうに補佐官を見てロイはため息をつく。


「没収…？
こんなに拳銃が？」
「君が休んでいた時の事件だ。
国民も巻き込まれなかったし、隊の者も軽傷で済んでた」
「…すみませんでした」
「気にしなくていい。
君の隊の者達も活躍してくれた。
リーゼル大佐…いや、今日からは准将か。
居なくても隊の者が動いてくれた」


指揮官が居ない分、中尉が中心になって動いてくれたんだろう。


「そんな報告は…」
「言ったら君が気にするからな。
それに、独断もあったし。
言えなかったんだろう。
責めてやるなよ」
「そうでしたか。
ありがとうございます。
聞かなかったことにします」


日頃の訓練の成果もあって無駄ではなかったなとロイは報告書を手にすると安堵する。


「部署は異なるが、ヒューズ中佐もアームストロング少佐を連れて動いてくれたようだよ。
中尉では動かせない隊もあるだろうからね」
「…そうだった。
配慮に欠けていた」
「仕方ないさ。
それどころではなかっただろう？」


慰めるように大総統はロイの頭を優しく撫でる。