第55話
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とても傷ついた顔をしているのに本人だけは気づいてないようだった。
「そんなにびしょ濡れになって!
すぐにバスタオルを持って来るから待っていてくださいね」
「いや、すぐに風呂に入れてやった方が良いだろう」
大総統に抱えられてもロイは驚きの声も上げず、ぎゅうっとしがみついてた。
「大丈夫か?
ちゃんと温まって来るんだよ。
着替え、持って来るから」
「…ん」
ぼんやりしていても返事するのだから大丈夫だろうと判断して大総統は出て行く。
(私は何をしているんだろう。
マダムを責められたら、どんなに楽なのだろうか。
そんなこと、出来るはずない。
マダムだけには…言われたくなかった)
ロイも内心では分かっていて湯船に浸かりながら嗚咽が零れた。
「…ロイ。
大丈夫かい?」
「(ビクッ)」
「傍に居ない方がいいかい?」
戸をノックされていつもよりも優しくて気遣う大総統の声色に気づいた。
大総統が黙って戸の前に座ったのが影で分かった。
「何も言わなくていい。
ただ、傍にいるよ。
落ち着くまで」
小さな子供のように嗚咽が零れ、泣くことしか出来なかった。
どれくらい時間が経過したのか分からないが、何も言わずに大総統は付き添ってくれていた。
「…父様」
「おいで。
髪を拭こうか」
肩にバスローブを羽織らされて大総統に髪を優しく拭かれ、ロイは黙ったままでバスローブを着る。
「ロイさん。
喉、渇いたでしょう?」
「脱水症状になるから。
まずは水を飲みなさい」
大総統も夫人も何も聞かず、ロイは頷いて水を飲んだ。
「…私には後ろ盾がないから。
私も分かっていた。
それでも…、義母からは言われたくなかった」
「私も妻以外に後ろ盾なんてなかったが」
「貴方と私では立場が違います」
大総統の場合はそう仕向けられるように人造人間も含め、動いていた。
「私は軍の内部のことは本当に何も知らないのよ。
私は純粋に貴方を息子として想っているだけだわ。
そんな私が後ろ盾になれるのならば、その手を取っていいわ。
利用されようとも、貴方ならば」
「…ロイ。
どちらも手にすればいい。
母が1人ではいけないと誰が決めた?
裏の母も表の母もいいじゃないか」
大総統の言葉にロイは瞬きし、微かに笑みを浮かべて肩の力を抜く。
「…怒ってますね」
「そりゃ、怒るだろうな。
マダムにはいい薬だよ」
ロイは絶対にマダムの店には行かずにお酒は大総統の屋敷やバーで飲むことにしていた。
「マダムが怒らせるから」
「マスタングさんが来ないと売上が落ちるだけですよ」
「…うるさいよ」
「まだ避けられてるんですか。
マダムには言われたくなかったんでしょうね」
「マダム、嫌われちゃいました?
あれだけ傷つけたらねぇ〜」
お店の女性達に揶揄られてマダムに反論も出来ない。
新聞には大総統婦人と音楽会に行って楽しそうなロイの姿があった。
「大総統の代理で参加したパーティーでは大総統夫人をエスコートしていたみたいですよ」
「本当の親子みたいだって。
マスタングさんも楽しそうな笑顔でしたよ」
「…そうかい」
「舞台鑑賞もしていたって。
大総統が行けない代わりに」
お店の女性達はわざと話しているんだろうと思いながらもマダムは反論も出来ない。
「こんにちは。
空いてるかい?」
「…ロイ坊」
「マダム、お酒。
ウィスキーをロックで」
「はいよ。
いや、そうではなくて」
「誰かさんと違って“母上殿”は私の意見を尊重してくれる」
「…そうかい」
「自分が言ったくせに寂しいのか?」
「あんた、性格悪いね」
「俺が性格悪いのはあんたの息子だからな。
育て方に問題あったんじゃないか?」
「こ、この…っ」
「私の母は貴方だよ。
表に出なくても構わない」
「…ロイ坊」
「貴方には言われたくなかった」
「すまなかった」
甘えるようにロイはマダムの首に抱きついて、すり寄った。
「ふはっ!
みんなに責められた?」
「…予想以上にね。
あんたの婚約者はこの為だけに来て私に怒鳴り散らして帰って行ったよ。
しかも、連日だ」
「ふははっ!
ざまーみろ」
「あんたの仕業か」
「当然だろう。
私の婚約者はいい仕事をしてくれたかい?」
「…いい仕事っぷりだったさ」
「部下達を総動員しなかっただけ、感謝して欲しいね」
「私情に巻き込まれたら可哀想だ」
嬉しそうなマダムに周りもクスクスと笑っていた。
「舞台鑑賞も楽しかったよ。
マダムも行こうよ」
「何の為に頼んだと」
「ロイ・マスタングでなければ、問題ないんだろう」
「…そう来たか」
「諦めろ、マダム。
泣かせた分を付き合うんだな」
((…年齢不詳))
変装して来たロイにマダムは頭を抱えたのだった。
「ルイス・ウィルソン。
流石に21歳には見えないか。
23歳くらいはイケる?」
「問題ありませんね」
「おまえ、何歳サバ読みするんだよ」
傷つけて泣かせた負い目もあり、マダムは変装したロイと舞台鑑賞に行くことになった。
「チケットは?」
「もう手配済みだ」
「分かったから抱きつくな」
「名前、間違うなよ」
「誰に言ってるんだい」
マダムが居なくなったので今日は閉店だなと片付け、中尉とヒューズも帰る。
「本当に舞台鑑賞に?
チケットは本物っぽいが。
理由を付けて甘えたかったんだろ。
マダムもだけど、ロイも寂しかったんじゃないか?」
(…そういう面はからかったりしないんですね)
どんなに優しくされて母代わりでも幼い日々を共に過ごしていたマダムには敵わない。
それを理解した上で大総統夫妻はロイを息子として受け入れてくれている。
厄介な問題になるので書類上の関係性はないけれど。
-END-
2024.2.25
「そんなにびしょ濡れになって!
すぐにバスタオルを持って来るから待っていてくださいね」
「いや、すぐに風呂に入れてやった方が良いだろう」
大総統に抱えられてもロイは驚きの声も上げず、ぎゅうっとしがみついてた。
「大丈夫か?
ちゃんと温まって来るんだよ。
着替え、持って来るから」
「…ん」
ぼんやりしていても返事するのだから大丈夫だろうと判断して大総統は出て行く。
(私は何をしているんだろう。
マダムを責められたら、どんなに楽なのだろうか。
そんなこと、出来るはずない。
マダムだけには…言われたくなかった)
ロイも内心では分かっていて湯船に浸かりながら嗚咽が零れた。
「…ロイ。
大丈夫かい?」
「(ビクッ)」
「傍に居ない方がいいかい?」
戸をノックされていつもよりも優しくて気遣う大総統の声色に気づいた。
大総統が黙って戸の前に座ったのが影で分かった。
「何も言わなくていい。
ただ、傍にいるよ。
落ち着くまで」
小さな子供のように嗚咽が零れ、泣くことしか出来なかった。
どれくらい時間が経過したのか分からないが、何も言わずに大総統は付き添ってくれていた。
「…父様」
「おいで。
髪を拭こうか」
肩にバスローブを羽織らされて大総統に髪を優しく拭かれ、ロイは黙ったままでバスローブを着る。
「ロイさん。
喉、渇いたでしょう?」
「脱水症状になるから。
まずは水を飲みなさい」
大総統も夫人も何も聞かず、ロイは頷いて水を飲んだ。
「…私には後ろ盾がないから。
私も分かっていた。
それでも…、義母からは言われたくなかった」
「私も妻以外に後ろ盾なんてなかったが」
「貴方と私では立場が違います」
大総統の場合はそう仕向けられるように人造人間も含め、動いていた。
「私は軍の内部のことは本当に何も知らないのよ。
私は純粋に貴方を息子として想っているだけだわ。
そんな私が後ろ盾になれるのならば、その手を取っていいわ。
利用されようとも、貴方ならば」
「…ロイ。
どちらも手にすればいい。
母が1人ではいけないと誰が決めた?
裏の母も表の母もいいじゃないか」
大総統の言葉にロイは瞬きし、微かに笑みを浮かべて肩の力を抜く。
「…怒ってますね」
「そりゃ、怒るだろうな。
マダムにはいい薬だよ」
ロイは絶対にマダムの店には行かずにお酒は大総統の屋敷やバーで飲むことにしていた。
「マダムが怒らせるから」
「マスタングさんが来ないと売上が落ちるだけですよ」
「…うるさいよ」
「まだ避けられてるんですか。
マダムには言われたくなかったんでしょうね」
「マダム、嫌われちゃいました?
あれだけ傷つけたらねぇ〜」
お店の女性達に揶揄られてマダムに反論も出来ない。
新聞には大総統婦人と音楽会に行って楽しそうなロイの姿があった。
「大総統の代理で参加したパーティーでは大総統夫人をエスコートしていたみたいですよ」
「本当の親子みたいだって。
マスタングさんも楽しそうな笑顔でしたよ」
「…そうかい」
「舞台鑑賞もしていたって。
大総統が行けない代わりに」
お店の女性達はわざと話しているんだろうと思いながらもマダムは反論も出来ない。
「こんにちは。
空いてるかい?」
「…ロイ坊」
「マダム、お酒。
ウィスキーをロックで」
「はいよ。
いや、そうではなくて」
「誰かさんと違って“母上殿”は私の意見を尊重してくれる」
「…そうかい」
「自分が言ったくせに寂しいのか?」
「あんた、性格悪いね」
「俺が性格悪いのはあんたの息子だからな。
育て方に問題あったんじゃないか?」
「こ、この…っ」
「私の母は貴方だよ。
表に出なくても構わない」
「…ロイ坊」
「貴方には言われたくなかった」
「すまなかった」
甘えるようにロイはマダムの首に抱きついて、すり寄った。
「ふはっ!
みんなに責められた?」
「…予想以上にね。
あんたの婚約者はこの為だけに来て私に怒鳴り散らして帰って行ったよ。
しかも、連日だ」
「ふははっ!
ざまーみろ」
「あんたの仕業か」
「当然だろう。
私の婚約者はいい仕事をしてくれたかい?」
「…いい仕事っぷりだったさ」
「部下達を総動員しなかっただけ、感謝して欲しいね」
「私情に巻き込まれたら可哀想だ」
嬉しそうなマダムに周りもクスクスと笑っていた。
「舞台鑑賞も楽しかったよ。
マダムも行こうよ」
「何の為に頼んだと」
「ロイ・マスタングでなければ、問題ないんだろう」
「…そう来たか」
「諦めろ、マダム。
泣かせた分を付き合うんだな」
((…年齢不詳))
変装して来たロイにマダムは頭を抱えたのだった。
「ルイス・ウィルソン。
流石に21歳には見えないか。
23歳くらいはイケる?」
「問題ありませんね」
「おまえ、何歳サバ読みするんだよ」
傷つけて泣かせた負い目もあり、マダムは変装したロイと舞台鑑賞に行くことになった。
「チケットは?」
「もう手配済みだ」
「分かったから抱きつくな」
「名前、間違うなよ」
「誰に言ってるんだい」
マダムが居なくなったので今日は閉店だなと片付け、中尉とヒューズも帰る。
「本当に舞台鑑賞に?
チケットは本物っぽいが。
理由を付けて甘えたかったんだろ。
マダムもだけど、ロイも寂しかったんじゃないか?」
(…そういう面はからかったりしないんですね)
どんなに優しくされて母代わりでも幼い日々を共に過ごしていたマダムには敵わない。
それを理解した上で大総統夫妻はロイを息子として受け入れてくれている。
厄介な問題になるので書類上の関係性はないけれど。
-END-
2024.2.25