第55話
夢小説設定
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決意したはずなのに何度も電話の受話器を手にしても掛けれずにそれを繰り返して数週間が経過してしまった。
(…手放す訳ではないと脳裏では分かっていても。
今も話さなければ良いだけだと決心が揺らいでしまうね)
決心が鈍りそうで嫌になるとマダムは苦笑いしてしまう。
マダムから呼び出されることは滅多にないのは親子関係を表に出さない為でもあった。
(声がいつもと違った。
元気がないような気がする。
何かあったんだろうか)
いつでもいいとは言われていたが、気になったので定時に上がれたので店に寄った。
「マダム。
何かあったのか?」
「挨拶はどうした。
やり直し」
「いでっ!
こんばんは、マダム」
「酒はいつものでいいか?」
「あぁ、何か話があるのだろう。
経営が傾くとは思わないけど」
「そう急かすものじゃないよ」
「呼び出しといて…」
いつものカウンターの席に座るとマダムを見つめる。
「…ロイ坊」
「なんだ?」
「大きくなったね。
あんなに小さかった子が」
マダムに頬を撫でられて、それがあまりにも優しい声色で穏やかな微笑みにロイは瞬きしてしまう。
「ま、マダム…?」
「あんたは昔も今も心配を掛ける子だね。
ロイ坊、あんたに大総統の夫妻は優しいかい?」
「えっ?
優しくしてくれるけど」
「そうかい。
それはよかったね」
「何なんだよ」
「ロイ坊、よくお聞き。
階級が上がってもあんたの後ろ盾は無に等しい」
「それは…っ」
「黙ってお聞き。
あんたは貴族生まれだけれど、それを手にはしていない。
大総統やアームストロング家が支持をしていてもそれが無くなることもあるんだ」
「…何が言いたいんだ」
動揺したロイの声が微かに震え、瞳が揺れていた。
「分かっているのだろう。
あんたの後ろ盾は近くにある。
大総統夫人の手を取るんだ」
「……っ…」
「あの人は根っからのお嬢様だ。
仮に大総統が居なくなっても問題はないだろう。
貴族の関わり方も含めて教えてもらえるはずだ。
私は表には出れない。
それはあんたも分かっているはずだ」
「嫌だ!
そうだとしても…っ」
「ロイ坊や、聞き分けておくれ。
それがあんたの安全と幸せの為だ」
「利用しろと言うのか!」
「あんたは大総統以外に慕っているはずだ。
私がいるからと遠慮することはない」
凛とした強くも決意に揺るぎは感じられなかった。
「…私が不要か?
私は…、貴方にとって…、重荷か?
邪魔でしか…ないか?」
「違う!
そうじゃないよ」
俯いて涙を流すロイにマダムは目を見開いて抱き締めた。
そうだと突き放せば、ロイは出て行っただろうけれど、それは出来なかった。
鼻を啜ってしがみついて来るロイにマダムは優しく頭を撫でた。
「すまない。
あんたを泣かすつもりはなかった。
いらないなんて、思ったことないよ。
あんたは私の自慢の息子だ」
「だっ、たら…
なん…で…っ」
「あんたの幸せの為だ」
「私は今のままでいい!」
「聞き分けておくれ。
あんたの幸せの為なんだ」
「表に出てくればいい」
「それをしたら、あんたの足枷になるだけだ。
それはあんたも分かるだろう?」
「私が巻き込んだ…っ」
「違うよ。
あんたが生まれる前からだ。
こういう仕事の者達は少なかれ、裏を知ってしまうんだよ。
私はそれが少し、人より多すぎた。
どうか、母の願いを聞いておくれ」
「そんな言い方…ずるい…っ」
「卑怯だろうと。
それがあんたを守る為ならば」
「私の生みの母は…、そうだけれど。
育ての母は貴方だ」
「そう言ってくれて嬉しいよ。
でもね、私はもうあんたに与えるものは何もないんだ。
立派に成長したね。
旅立ちの時だ、ロイ坊。
何も会いに来るなとか、関係が壊れる訳でもない」
「どうしても…、決意は変わらないんだな」
「そうだね」
ロイはマダムから離れて無言で立ち上がるとカウンターにお金を置いて上着を手にして店から出る。
追いかけようとした中尉を止めてヒューズはマダムを見つめた。
「言い方ってもんがあるだろうよ、マダム」
「そうですよっ!
あんな言い方、マスタングさんがどんな気持ちで…っ」
(リザちゃん。
呼び方、昔に戻ってるぞ。
ロイのことになると感情的になるね。
俺も人のこと言えねぇけど)
マダムは予想外の展開に苦笑いするしかなかった。
「そうですよ、マダム。
酷いですっ!」
「私達もマダム程ではなくても内部までじゃないけれど。
無知ではありませんよ」
「伝え方だってあったでしょう!」
「マダム。
ココにあんたの味方はいねぇよ。
傷つけるだけじゃなくて、あんな風に泣かせるとはねぇ。
随分と酷なんじゃねぇか?」
ヒューズと中尉だけではなく、マダムはお店の女性達からも責められていた。
随分と我が子は慕われているなとマダムは思いながらも甘んじて受け入れるしかなかった。
「ロイ…?
傘、持ってなかったのか?」
「…父様」
「おいで、屋敷に行こう」
大総統に傘に入れられてぼんやりと空を見上げた。
(雨、降ってたのか。
この感情もすべて流してくれたら良いのな。
マダムの言い分も分かっているんだ。
それでも、私は…っ)
ポタポタと垂れてこれは雨なのか、涙なのかロイには分からなかった。
(…手放す訳ではないと脳裏では分かっていても。
今も話さなければ良いだけだと決心が揺らいでしまうね)
決心が鈍りそうで嫌になるとマダムは苦笑いしてしまう。
マダムから呼び出されることは滅多にないのは親子関係を表に出さない為でもあった。
(声がいつもと違った。
元気がないような気がする。
何かあったんだろうか)
いつでもいいとは言われていたが、気になったので定時に上がれたので店に寄った。
「マダム。
何かあったのか?」
「挨拶はどうした。
やり直し」
「いでっ!
こんばんは、マダム」
「酒はいつものでいいか?」
「あぁ、何か話があるのだろう。
経営が傾くとは思わないけど」
「そう急かすものじゃないよ」
「呼び出しといて…」
いつものカウンターの席に座るとマダムを見つめる。
「…ロイ坊」
「なんだ?」
「大きくなったね。
あんなに小さかった子が」
マダムに頬を撫でられて、それがあまりにも優しい声色で穏やかな微笑みにロイは瞬きしてしまう。
「ま、マダム…?」
「あんたは昔も今も心配を掛ける子だね。
ロイ坊、あんたに大総統の夫妻は優しいかい?」
「えっ?
優しくしてくれるけど」
「そうかい。
それはよかったね」
「何なんだよ」
「ロイ坊、よくお聞き。
階級が上がってもあんたの後ろ盾は無に等しい」
「それは…っ」
「黙ってお聞き。
あんたは貴族生まれだけれど、それを手にはしていない。
大総統やアームストロング家が支持をしていてもそれが無くなることもあるんだ」
「…何が言いたいんだ」
動揺したロイの声が微かに震え、瞳が揺れていた。
「分かっているのだろう。
あんたの後ろ盾は近くにある。
大総統夫人の手を取るんだ」
「……っ…」
「あの人は根っからのお嬢様だ。
仮に大総統が居なくなっても問題はないだろう。
貴族の関わり方も含めて教えてもらえるはずだ。
私は表には出れない。
それはあんたも分かっているはずだ」
「嫌だ!
そうだとしても…っ」
「ロイ坊や、聞き分けておくれ。
それがあんたの安全と幸せの為だ」
「利用しろと言うのか!」
「あんたは大総統以外に慕っているはずだ。
私がいるからと遠慮することはない」
凛とした強くも決意に揺るぎは感じられなかった。
「…私が不要か?
私は…、貴方にとって…、重荷か?
邪魔でしか…ないか?」
「違う!
そうじゃないよ」
俯いて涙を流すロイにマダムは目を見開いて抱き締めた。
そうだと突き放せば、ロイは出て行っただろうけれど、それは出来なかった。
鼻を啜ってしがみついて来るロイにマダムは優しく頭を撫でた。
「すまない。
あんたを泣かすつもりはなかった。
いらないなんて、思ったことないよ。
あんたは私の自慢の息子だ」
「だっ、たら…
なん…で…っ」
「あんたの幸せの為だ」
「私は今のままでいい!」
「聞き分けておくれ。
あんたの幸せの為なんだ」
「表に出てくればいい」
「それをしたら、あんたの足枷になるだけだ。
それはあんたも分かるだろう?」
「私が巻き込んだ…っ」
「違うよ。
あんたが生まれる前からだ。
こういう仕事の者達は少なかれ、裏を知ってしまうんだよ。
私はそれが少し、人より多すぎた。
どうか、母の願いを聞いておくれ」
「そんな言い方…ずるい…っ」
「卑怯だろうと。
それがあんたを守る為ならば」
「私の生みの母は…、そうだけれど。
育ての母は貴方だ」
「そう言ってくれて嬉しいよ。
でもね、私はもうあんたに与えるものは何もないんだ。
立派に成長したね。
旅立ちの時だ、ロイ坊。
何も会いに来るなとか、関係が壊れる訳でもない」
「どうしても…、決意は変わらないんだな」
「そうだね」
ロイはマダムから離れて無言で立ち上がるとカウンターにお金を置いて上着を手にして店から出る。
追いかけようとした中尉を止めてヒューズはマダムを見つめた。
「言い方ってもんがあるだろうよ、マダム」
「そうですよっ!
あんな言い方、マスタングさんがどんな気持ちで…っ」
(リザちゃん。
呼び方、昔に戻ってるぞ。
ロイのことになると感情的になるね。
俺も人のこと言えねぇけど)
マダムは予想外の展開に苦笑いするしかなかった。
「そうですよ、マダム。
酷いですっ!」
「私達もマダム程ではなくても内部までじゃないけれど。
無知ではありませんよ」
「伝え方だってあったでしょう!」
「マダム。
ココにあんたの味方はいねぇよ。
傷つけるだけじゃなくて、あんな風に泣かせるとはねぇ。
随分と酷なんじゃねぇか?」
ヒューズと中尉だけではなく、マダムはお店の女性達からも責められていた。
随分と我が子は慕われているなとマダムは思いながらも甘んじて受け入れるしかなかった。
「ロイ…?
傘、持ってなかったのか?」
「…父様」
「おいで、屋敷に行こう」
大総統に傘に入れられてぼんやりと空を見上げた。
(雨、降ってたのか。
この感情もすべて流してくれたら良いのな。
マダムの言い分も分かっているんだ。
それでも、私は…っ)
ポタポタと垂れてこれは雨なのか、涙なのかロイには分からなかった。