結局はピナコに押される形で中央に行った時にエルリック兄弟とウィンリィを預かるという条件でロイは無償で泊めてもらった。


「…綺麗だな。
手を伸ばせば、掴めそうだ」
「だろ？」
「何で兄さんが自慢するんだよ」
「まったく、エドったら」


夜になるとロイを連れて外に出ると星の観察をしていた。


「お義父さん、星にも詳しいですね」
「星座の知識だけだよ」


悔しそうなエドに分かりやすいなとアルは苦笑いする。



「だから、何度言わせるんだよ！
俺はもう錬金術は使えないんだって！
アルはまだダメに決まってんだろ。
ほら、散った散った！」


昔のようにラジオなどを持って来る田舎の住民にエドは怒鳴る。


「おはようございます。
お義父さん、ごめんなさい。
エドの声が煩くて起きてしまいましたか？」
「いや、目が覚めただけだ」


いつもと違うのもあって目が覚めたので部屋から出るとエドか怒鳴ってた。


「あれは？」
「錬金術を使える人は田舎に滅多に居ませんから。
壊れたラジオとか兄さんが直してくれていたんですよ」
「あぁ、なるほどな。
安売りはしない方が良いぞ」
「子供だったし、喜んでくれるから。
ばっちゃんにも似たようなことを言われてました。
今なら意味がわかります」
「お義父さんも食事します？
疲れてるだろうからって」
「僕等は食べちゃいました」
「ありがとう。
気にしなくていいよ」
「「お義父さん！？」」
「びっくりした」
「おい、客人がいるんだよ！
いつもみてぇに入るな！」
(私は客人だったのか)
(あの兄さんが…)
(エドが気遣いが出来るとは)


ウィンリィの“お義父さん”呼びに村人は驚いた。


「あんたらは朝早くから騒がしいね。
静かに出来ないのか！
ウィンリィの未成年後見人だよ」
「ばっちゃん！」
「うるさい奴等だねぇ。
今すぐどうってことじゃない。
念の為に必要だろう？
あんたらではウィンリィも気を遣うだろうし、今の生活で精一杯なんだ。
それが悪い訳じゃない。
こういうのは生活に余裕がある奴じゃないとダメなんだよ」


ロイは疑うように見られて苦笑いしながらも軽く挨拶すると椅子に座る。


田舎の村人の自分達でさえもお金に余裕のある衣服や靴だと分かる。


「この辺りで黒髪は珍しいな」
「そりゃ、こっち出身じゃないから当然だろ」
「なんか見覚えあるな」
「あっ！　そうだ！」
「なんだよ！？」
「コイツ、軍人だよ！」
「マジかよ！？」
「ばっちゃん、騙されたのか！？
追い出さないと」
「やめ…っ」
「黙れ！
軍人を一括りにするな！
マスタング大将を悪く言うな！
マスタング大将は僕等の為に…っ」
「「アル！」」
「アルフォンス！
アル、大丈夫だ。
私なら平気だから。
落ち着け、ゆっくり息を吐いて。
そう…上手だ」


怒りから過呼吸気味になって倒れそうになるアルをロイは優しく抱き締め、ポンポンと背を叩いて合図する。


気を失ったアルにエドとウィンリィは心配そうに見つめる。


「大丈夫だ。
酸欠で気を失ったんだろう。
脈も安定してるし、問題ない」
「…よかった」


エドとウィンリィは安堵し、ロイがアルの頭を優しく撫でた。


「私のことは何を言われても良い。
アルがまだ体調に気をつけてやらないといけないのが見て分からないか？
興奮させるべきではない。
大人が子供に何をしている！」
「やはり、あんた達にウィンリィを任せなくて正解だったね」
「…ばっちゃん」
「今日は帰ってくれないか？
アルだけじゃないんだよ、この人も休みを貰って来ているんだ。
中央司令部のクーデター騒動はこちらにも来たくらいだ」


騒ぎを聞きつけた奥様達に思いっきり叩きつけられ、謝罪された上で引きづられて帰って行く。


「…ピナコ殿」
「言い方次第だな。
冷えてしまった。
ウィンリィ、温め直しておやり」
「あ…、はい」


この人は怒らせてはいけないとウィンリィもロイも理解する。


「お義父さんもラジオを直したり、出来るんですか？
そういうイメージがないから」
「専門外で成功率は低いな。
簡単な玩具くらいなら問題ないが」
「そうなんですか？」
「成功率が低いものをわざわざ、しないからな」


食事をするロイの傍にウィンリィは居て楽しそうに会話していた。


「アル、気がついたか。
問題なさそうだね」
「…ばっちゃん」
「顔色も戻ったか」
「びっくりしたよ。
過呼吸を起こしたんだよ」
「ごめんなさい」
「君は悪くないさ。
もう少し寝てなさい」
「…はい」


ポンポンとロイに肩を叩かれて宥められて頷いた。


「あんた、専門外だろう？
見ていて楽しいのかい？」
「専門外ではありますが。
まったく知識がない訳でもないので。
多少だけですけどね」
「…その辺りなら触っても構わないよ。
怪我しないようにね」
「機械鎧と言っても重さも様々なんですね。
エドや軍の数人のしか見たことはなかったので」
「そうだね。
環境によって重さがある人も居れば、エドのように動く奴等にはそれは不便だろうから。
畑仕事だったり、生活環境にも配慮してやらなくてはね」
「…そうですね。
田舎はもっと静かなイメージがありました」
「田舎だって娯楽はないが、騒がしい奴等もいるさ。
田舎ならではの騒ぎもあるからね」
「騒ぎ？
あぁ、野生の動物ですか」
「あんたみたいな能力がない奴等には脅威なんだよ。
外に出たっていいんだよ」
「村人の男性達に嫌われてしまいましたからね」
「器が小さな奴等なだけさ。
あんたに３人が慕ってるから、嫉妬してるんだろう」


ハッキリと言い放つピナコにロイは珈琲を飲みながら苦笑いする。