執務室に入るとロイはソファに座り、セルシアに寄り掛かって錬金術の本を読んでいた。


セルシア以外は読んだところで理解は出来ないだろう。


「マスタング中将。
またさぼってるんっスか？」
「残念だったな。
書類は大幅に減ったし、もう終わらせて来たよ」
「マジっスか！」
「まぁ、無駄な書類も嫌味もゼロではないけどな」


中尉を呼んで迎えに来てもらって執務室に来ている。


「早めの休憩を閣下がくださったんだよ」
「閣下の我が子として可愛がられてるみたいですね」
「…ノーコメント」
「否定は出来ないっスよね」
「ハボック少尉！」
「はい、すいません」


あまりからかうので中尉にハボックは叱られた。


「大総統府の居心地はどうですか？
いつでも来てくださいよ」
「隊が解体された訳じゃないからな。
今までも行ってたし、変わりはない」
「そうですよね」
「閣下が居ない隙に訪ねて来て将軍達は嫌味を言って行くが」
「うげっ！」
「それはお疲れ様です」


ハボック達からの同情の視線にロイは苦笑いする。


「はい、どうぞ。
ハーブティーです。
マスタング中将が淹れるよりは美味しくはありませんが」
「そんなことない。
頂くよ。
ありがとう、中尉。
美味しいよ。
君達は困っていることないか？
遠慮しないで言ってくれ」
「…今のところは大丈夫です」


それでも余程でない限り、言わないだろうなと理解している。


「それは報告するまでじゃないという解釈でいいかな」
「マスタング中将」
「冗談だ。
無理に聞いたりはしないさ」


ロイは微かに笑ってハーブティーを口にする。


「ヒューズっ！」
「うわっ！
びっくりした」
「事件だ。
私は出るから閣下に伝言を頼む」
「おい、中将自らかよ」
「ヒューズ中佐。
もう行きましたが」
「やれやれ。
俺はロイの補佐官じゃねぇっつーの」


文句を言いながらも大総統の執務室に向かうヒューズを見送る。


(…伝言を任されただけなのに。
そう聞かれても所属も隊も違うんだけどなぁ〜)


閣下の質問攻めからやっと開放されたヒューズは深いため息をつく。


「今度うまい酒を奢ってもらわないとな」
「マスタング中将に潰されないようにしてくださいよ」
「わ、分かってるよ」


つい釣られて酔い潰れ、アームストロングが呼ばれて自宅まで抱えられて行くことも多々ある。

呆れたような視線にロイは微かに笑みを浮かべる。


「マスタング中将。
事件現場に将軍が来なくても」
「隊の指揮官は私だ」
「せめて、安全なとこに居てくださいよ。
最前線にいる指揮官が居ます？」
「あんたに傷ひとつでも付けると俺等が閣下やリーゼル大佐に叱られるんっスけど」
「そんなヘマはしない、多分な」


ハボックとブレダは苦笑いし、ロイと共に向かう。


慣れている中尉もロイに甘いセルシアは苦言を言わないから厄介なのだ。


「そうならないようにマスタング中将を守ればいいだけです」
『ロイさんに傷ひとつ付けさせませんよ』
「…最優先で守るのは国民なんだが」
「国民もマスタング中将も無傷で守るのでご心配なく」
((マスタング中将の護衛よりも親衛隊のようだな))


ロイを狙った方が犯人達は危険かもしれないと野次馬の国民達でさえも思う。


「ロイっ！
無事なのか！」
「大丈夫です。
閣下、触れては…」
「怪我したのか？」
「いえ、火薬の臭いや煤など」
「気にしておらん。
汚れただろう、シャワーを浴びて着替えて来なさい」
「…はい」


閣下に諭されてロイは苦笑いして軍のシャワー室に向かう。


「上がったか？」
「…何か御用でしたか？」
「ピアスは外さないんだな」
「軍の敷地内でも念の為に。
発火布は濡れたら意味がありませんから」


シャワー室から出ると閣下が気配なく居たが、気にせず下着とYシャツを羽織ってタオルで髪を拭く。


「そんなに乱暴に拭いてはせっかくの綺麗な髪が傷んでしまうよ。
おいで、ロイ。
前髪を上げないのか？
多少は貫禄が出るのではないか？」
「そんなもので貫禄を出して、言いづらい雰囲気を出したくはないので。
そういうのは似合わないですから」
「誰かに言われたか？」
「まぁ、そんなとこですよ」


結局は諦めて閣下に髪を乾かしてもらって髪を梳かしてもらう。


「綺麗な髪だ。
君が白髪が生える頃まで、私は君の傍に居れるといいのだが」
「…閣下」
「すまない。
そんな顔しないでおくれ」


閣下に目元にキスされ、苦笑いするしかない。


「マスタング…中将。
あんた、また昇進したのかよ。
大総統府に左遷って何したんだよ」
「鋼の、来ていたのか。
左遷ではなくて異動だ」
「うげっ！
大総統、居たのかよ」


ロイは無言でエドの頭を叩き、そうなるだろうなと全員が思う。


「大変失礼しました」
「気にしておらんよ。
暴れ犬の躾は大変だな、ロイ」
「ぶはっ！
えぇ、その通りです」
「離せぇ！」


閣下の発言に吹き出し、ロイはエドの襟を掴んでいた。