気まずくてロイは閣下に背を向けて唇を噛み締める。


「すまなかった。
気にしなくていいから」
「い、いえ…
事実ですから。
ご迷惑をお掛けして」
「少し何か食わないとな。
ちょっと待ってなさい」
(こんなに広いのに賑やかな声が聞こえる)


幼少期の記憶がないロイには羨ましくて寂しくてたまらなくなる。


「マスタング将軍、何してるんだ」
「もう大丈夫です。
帰りますから」
「フラついてるだろう？」
「迎えに来てもらえば大丈夫ですから！
関わらないでください！」
「…落ち着きなさい。
普段の君らしくもない。
熱のせいか？
セリムのせいか？」
「すみません。
閣下に失礼なことを言いました」
「なに君は泣いてるんだ。
あ～、もう。
どうしたんだ」
「家族…やだ、帰っ…」


高熱のせいで感情が抑えきれず、ボロ泣きして閣下に抱き締められてしまった。


「それで？
家族が嫌なのか？」
「何で聞くんですか！
忘れてください」
「いやいや、ボロ泣きして。
普段の君とは考えられんよ。
どうしたんだ？」
「…賑やかな声が羨ましくてここに居たらダメだって。
幼少期の記憶、ほとんどなくて」


言うほどに恥ずかしくなってロイは布団を被る。


自分は何歳なんだと恥ずかしくなって泣きそうになる。


「パパって呼ぶかい？」
「…閣下」
「幼少期の記憶がないってのも寂しいな」
「どうなんでしょうね」
「ん？」
「幼少期の私は何か欠けていて。
それが自分には当たり前で寂しいって意味も分からなかったんです。
ただ何か他人とは違うって。
今も思い出せないですし、欠けているんでしょうね」


ベットに座りながらロイは窓の外を寂しそうに見つめる。


自分がそんな表情をしているとは理解してないのだろう。


「…ロイ」
「へっ？
あ、あの…閣下？」
「君が国家錬金術師だから気に入っている訳じゃない。
今はまだ言えないが。
そんな顔しなくていい。
確かに私は最高位だが、今はプライベートだ。
君がどんなことをしても問題視もしない。
昔から君は誰かに甘えて頼ったりしなかったのだろうな。
今もそれが苦手…なのだろう？」
「どうしたらいいか分からないんです。
ヒューズにも言われます。
おまえは耐えすぎだ、もっと甘えて頼れって」
「婚約者にも？」
「…ほかの人よりは。
でも、甘えられてるかと言われると難しいです。
すみません、閣下にそんな話を」
「構わないよ」


どうして閣下にこういう話をしているんだろうかと思いながら高熱で頭が回らない。


自分でも気づかないうちに賑やかな家族が羨ましくてずっと心の底に隠して耐えていたんだと理解した。


「大人だろうと寂しさだってあるんだ。
恥ずかしいことじゃない」
「普段なら泣いたりしないのに」
「そういう時もある。
高熱もあるからな」
「私なんかにこんなことしても意味などないのに…」
「君は自分を低く見すぎだ。
どちらの意味でも影響力もあるし、人を引っ張って行く力がある。
だから、マスコミも将軍達も君の行動を見ているのだろう。
おや…眠ってしまったか」


立ち上がろうとして弱々しく服を掴まれていることに気づき、閣下は苦笑いする。


「んぅ…」
「起きたか？」
「閣下！？
ずっと側に？」
「君が離さないからな」
「わぁっ！
す、すみません。
失礼しました」


慌てて服を離してロイは頬を赤らめて何度も謝罪する。


「構わないよ。
さて、少し食べようか。
飲み薬も飲めないからな」
「すみません…」
「謝らなくていい。
私が好きでしてるんだ」
「失礼しますよ。
よかった、起きてましたね。
リゾットなら食べれるらしら？
トマトは食べれる？」
「すみません、ご迷惑を」
「気にしないで。
まだセリムは小さいし、大きな息子が出来たみたいで嬉しいわ」
(両親が生きてたらこんな風にしてもえたのだろうか)


家族の愛情が本当は恋しくてたまらなかったんだと自分の隠れていた気持ちに気づいた。