あとは大丈夫だろうとロイはヒューズに任せて壁に寄り掛かりながら見学していた。


「おわっ！
どんな風にしたらクナイが後ろに飛ぶんだよ！？
跳ね返って俺のとこまで来たぞ。
ははっ、かなりパワーあるな。
練習すればコントロールも出来るし、君なら遠くまで飛ばせそうだ」
「ヒューズ中佐！
す、すみません」
「気にするな。
訓練なんだから失敗を恐れずに。
出来るフリして足を引っ張る奴より全然いいさ。
体格も悪くないし、現役軍人よりも筋肉ありそうだな。
将来が楽しみだ」
「ありがとうございます！
頑張りますっ！」
「ははっ、元気いいな」
(さすがにヒューズの方がコミュニケーションが出来てる。
クナイというのもあるが、私の時より楽しそうだし。
まぁ、将軍の地位もあるからな)


それでもほかの将軍達よりは憧れを向けられている。


「ここにいる全員が卒業、出来るといいな」
「…そうですね」
「卒業して入隊後も問題ですけど」
『何かあるんですか？』
「入隊前の体力テスト。
まぁ、私はなかったけど」
『受けてないんですか？』
「国家錬金術師のテストと重なって閣下から合格したら待遇処置、不合格なら後日テストって。
それも逆に目立ったんだけど」
「体力テストを受けていたらロイは不合格だったかもな」
「はぁ？」
「今よりも痩せていて体力もなかったんじゃないか？
いでっ、冗談だって。
蹴るなよ。
おまえは足癖が悪いよな」
『ヒューズ中佐、自業自得です』
「さっさと戻れ」


会話に混ざって来たヒューズの背中をロイが蹴る。


クナイ講習が終わって今日は午後の訓練が休みなのでこれで終了。


せっかくだからと士官学校の教官と生徒と共に士官学校の食事を共にすることになった。


「いや～、懐かしいな！」
「…肩を抱くな」
「もう照れちゃって」
「ヒューズ、本気で焼くぞ」
「分かったよ。
悪ノリし過ぎました」


ロイが軽く睨むとヒューズは苦笑いして両手を上げる。


『これが懐かしい味ですか？』
「まぁ、そうだな。
これは再現しなくていいからな」
『分かりました』
(…うまい味ではないもんな。
不味くはなくて普通だし、懐かしくはあるけど)


ロイの心理を理解したヒューズは納得するように頷く。


「リーゼル大佐の料理はうまいんですよ。
お菓子作りも得意ですから」
「ヒューズ、何でおまえが自慢するんだ」
「ロイが言うって？」
「そうではなくて」
「グレイシアの手料理は絶品でさぁ！」
「はいはい、分かったから」
「ちゃんと聞けよ」
「聞いてる聞いてる」


ヒューズの自慢話をロイは適当に聞き流す。


「マスタング将軍、お食事中に申し訳ありません。
司令部から連絡です」
「分かった。
相手は分かるか？」
「失礼しました。
ホークアイ中尉です」
「ありがとう。
ちょっと失礼します」
『将軍、お供しますか？』
「大丈夫だ」
『承知しました』


ロイは席から立ち上がって電話に向かう。


ロイは戻って来て席に座り、セルシアの頭を撫でる。


「ロイ、早かったな」
「確認の電話だから。
間違うと色々と面倒だし」
「中尉が確認して提出するんだろ？」
「リーゼル大佐が副官ではないのですか？」
『私…？』
「違う違う。
副官とは恋愛禁止だからな」
「軍法があるんだよ」
「だから、結婚してやめる者もいるし。
あとは片方が異動だな」
「異動になるのですか？」
『私は副官ではないから大丈夫』
「有能な部下でもあるし、手離すつもりはないから」
『離されても追いかけて行きますからご安心を』
「くくっ、それは心強い」


セルシアなら本当にしそうだと笑ってしまう。


『将軍がいた時と味は変わらないんですか？』
「いや、昔よりは…」
「うまくなったよな」
「何度も自分で作りたいと思った」
「意外に器用だよな」
「おまえが不器用なんだ」
「ははっ、確かに。
登山訓練でナイフで怪我した奴は初めてだぞ」
「それも武器のナイフではない小型ナイフでな」
「…忘れてください」


意外にもヒューズは不器用なようで数々のエピソードがある。


『そのわりに武器にクナイを選んだんですね』
「銃がそれ以上にダメだったんだ。
今は普通のレベルだけど」
「暴発しそうになったもんな」
『私もまだ苦手ですが、暴発なんてしませんよ』
「銃弾も詰め忘れてたな」
「もういいだろ！」


笑いを堪えているロイにヒューズは不満顔で見つめる。