第10話 私と降谷さん
そういうや否やバーボンとベルモットは銃を放ち
パルはジンから受け取ったナイフを右手に持ち左手で銃を打つ
両利きでよかったとつくづく思う
それを合図にコルンとキャンティも会場へ入ってきた
時々ジンも撃っているので、まさに会場は銃撃戦状態だった
銃弾を避けながら、時にテーブルを蹴り上げ防御しながら…
時にナイフで首を掻き切りながら…
1/3まで敵を殲滅できた所で、倒れた男が腕を振るわせながらジンに向かって銃を構えていた
みんなは目の前の相手に必死で、ジンも攻まってきた男を撃ち落とすことに集中していた
それに気がついたのは私だけ
『っジン!!!』
パンッ
男とジンの間に入り、わき腹に銃弾を受ける
ジ「!」
バ「! パル!!!」
よろっと痛みに耐えつつ踏みとどまった一瞬を逃さずにまた男が今度はパルに向かって銃を構える
パンッ
男の頭に銃弾が当たり、絶命する
どうやらバーボンが撃ってくれたようだ
痛みに耐えつつ残りの男たちを絶命させていく
途中、ベルモットも狙われたがバーボンが庇った
バーボンは腕をかすめただけで済んだようだ
『ふぅ』
周りを見渡すと、倒れた男たちから流れる血で赤一色に染まっていた
ジ「…パル」
この男が礼を言うはずがないので、鈴木を始末しろと言うのかと思えば、コルンが持っていたという新品のタオルを投げられた
どうやらこれで押さえとけ、と言うことらしい
ジ「…やれ」
そう言って私を見てから鈴木をみたので、今度こそとどめを刺せ、ということらしい
ため息をつきそうになるのを抑えながら銃を構えると、後ろから抱きしめるようにお腹に腕を回し、右手で私の銃を抑えた
『…何?バーボン』
バ「銃で撃てば、傷に響きますよ
ジン、僕がやっても?」
『なっ』
ジ「…好きにしろ」
ジンの返答を聞くと、私の手から銃を取り上げ、バーボンが鈴木へ銃を向ける
確かにこいつは組織にとっては敵…
でも“私達”から見れば味方とは言わないが敵でもない
表の人間であることに変わりないのだから
この人の手を汚したくない…っ
『…バーボン、ジンのご指名は私だったのだけど?』
バ「でも、そのジンがいいというなら別に僕でも構わないでしょう?
パルは早く手当しないと…血を流しすぎですよ」
視線で「いいからさっさと終わらすぞ」と言われているような気がした
いくらジンから信頼を得るためとはいえ、バーボンに…降谷さんの手を汚してしまった自分に苛立ち、俯いて唇をかんだ
顔も一緒に歪んだためか、後ろからベルモットが肩に手を置き支えてくれた
べ「傷に響くわ
…ジン、先にパルと下へ向かって構わないかしら?」
ジ「…わかった」
ウォ「あ、アニキ!?;」
ジ「うるせぇ」
いつもならどんなに重傷でも最後まで任務をやり遂げてから退出しないと怒るジンが許したことにウォッカが驚いている
後ろに控えていたキャンティとコルンも同様のようだ
『…ベルモット、大丈夫よ
それよりきれいなドレスが汚れちゃう…』
べ「バカね、そんなこと気にしなくていいのよ」
バーボンの横を通り過ぎるときに、バーボンに『ごめん』と声をかけたが…
『…?』
何も返事が返ってこないのは珍しく、バーボンへ顔を向けた時だった
『っ…!?////』
横にベルモットがいるにもかかわらず
目の前にジンやウォッカ達がいるにも関わらず…
キスされた
バ「…後で送ります
ベルモット…パルのこと、お願いします」
バーボンからは少しの殺気を感じ取った
…え…? 怒ってる…?
今の意味の分からないバーボンの行動は一先ず置いておこう
もしかしたらこれも作戦かもしれないいや絶対そうなんだ
そう自分に繰り返し言い聞かせるが、自分でもわかる
『(…顔が熱い…///)』
ジンたちの横を通ってベルモットに支えられながら部屋をあと一歩で出る、という時、尋常じゃない殺気を感じ取った
『…(これ…降谷さん…?)』
初めて感じるバーボンの殺気に、少し困惑する
べ「あら…随分怒っているのね、バーボン」
一度足を止め、ベルモットがバーボンへ話しかける
ちらっと後ろを振り向けば、無表情で鈴木を見下ろす“バーボン”の姿があった
べ「…ここまで派手に暴れたら、隠すのは難しそうね…好きに暴れるといいわ」
バ「…ありがとうございます
そうさせてもらいますよ」
パンッ
バーボンが鈴木の脚に向かって一発放った
「ぐ、あぁぁぁあああああ!!!」
バ「うるさい」
パンッ
もう一発
今度は肩
「う、ぐっ!? あぁぁぁあっ…
…あ、あぁ…………………」
バ「…」
あまりの痛みに気絶した鈴木をつまらならそうに見た後、コツコツと近づき鈴木の肩を踏みつける
ガッ
「ぐ!?」
バ「勝手に気絶しないでもらえます?
僕のパルに傷を負わせたこと…後悔させてあげますよ(ニコ)」
…降谷さんの手を汚してしまったことは悔やみきれないが、あの様子ならジンからの信頼も確かなものとなるだろう
少しの安堵を感じたが、お腹の痛みが酷くなってきた
『っ…』
痛みに耐えるように息をのむと、ベルモットが「行きましょう」と言って地下駐車場へと向かった
エレベーター内では座らせてくれ、ベルモットがタオルを押し当て止血してくれた
駐車場へつくと、柱に私の身体を寄りかからせてジンの車から包帯など道具を持ってきてくれた
先程すれ違った時に何かを受け取っていると思ったが…車の鍵だったか…
『…ベルモットとジンって…付き合ってるんですか?』
べ「…ふふ、そんなワケないでしょう?
まぁ、たまにマティーニは作るわよ?」
『…ふぅ~ん?そういうことですか…』
ベ「あんまり喋らないことね
…出血がひどいわね…」
『…大丈夫です。アテはありますから』
呼吸するのも辛くなってきたとき、エレベーターからバーボンを筆頭にジンたちが下りてきた
…こらこらあの中では新人のバーボンが先に降りてどうする
と真面目なことを考えていたが、バーボンの顔は険しい
少しでも和らげばいいと思って『なんです?その顔…イケメンが台無しですよ』と笑って声をかけるが、さらに険しくなり、横にいたベルモットからも「こんな時にあなたって子は…」と呆れられてしまった
あれ?逆効果だったか?
意識がもうろうとしてきたが、今ここで意識を失う訳にはいかないと耐えていると、急に視界が暗くなった
急に何だと思い身体を起こそうとするが、痛みに耐えきれず元の態勢に戻ってしまった
バ「あなたは暫く眠っていてください
あとは僕がなんとかしますから」
いやあなただけに任せるわけには
あなたも腕撃たれてたでしょう?
まだジンたちがいるのに意識を失う訳には
と言いたいことは山ほどあったが、痛みと疲れからか…バーボンの手の温かさに安心したからか
あっけなく意識を手放してしまった
バ「…では、僕はパルを連れて帰りますね」
ベ「報告は私からしておくわ
ま、最初の数十分だけ、だけど…」
バ「助かります
ではみなさん、また」
そう言って助手席にパルを座らせ、シートを倒して楽な態勢にしてやる
運転席へ移動し乗り込もうとしたとき、ジン声をかけられた
ジ「…お前とパルはしばらく任務はねぇ
休め」
それだけを言い放ち、愛車のポルシェをウォッカに運転させ発進させた
去り際にベルモットからは「パルによろしく」と言われ、キャンティからは「くだばんなよ」とだけ言われ去っていった
バ「…こいつも、潜入捜査官として優秀だな
(組織の幹部をあれだけ骨抜きにするとは…)」
そう思いながらRX-7を発進させ、安室の家へ向かった