第五話 西川先生
幸い周囲の人には聞こえていなかった
といっても、どこで誰が聞いているかもわからない
祐実の手を引き、木陰へと移動した
『…久しぶり。元気そうで安心した』
坂「こっちの台詞よ…アンタ…連絡も寄越さないし姿も見かけないし…」
声をかければすでに泣きそうな顔があった
申し訳ない気持ちと仕方がなかったというあきらめの気持ちが交差する
こちらの気持ちを察してか、無理矢理笑顔を作って笑いかけてくれた
坂「まぁ身内にも身分明かせない部署なのに…私に身分だけは伝えててくれた
それだけでも信頼してくれて嬉しいよ(ニコッ)」
『…ごめん。ありがとう、祐実』
頑張って笑顔を作る彼女を見てられず、思わず抱きしめた
しばらくもしないうちに、耳元からすすり泣く声が聞こえる
頭を撫でてやるが逆効果だった様で本格的に泣き始めてしまった
…ごめん
どうしようかと悩んでいると、木の陰から降谷さんが姿をちらつかせる
降「…悪いが、そのまま聞け」
瞬きで了解の合図をすると、視線を逸らし空を見つめながら話を続ける
小型無線機は祐実が顔をうずめる場所と反対側にある
それに泣いてる間は降谷さんの声も聞こえないだろうと判断した
降「ひとまず、“バラ”の件はこれでひと段落つきそうだ
ご苦労だった
が、まだ“窪倉”という男を掴んでいない
…ただの下部層のヤツだとは思うが…どうもしっくりこない
ただの、俺のカンだがな…
でだ
君にはもう少し##NAME3####NAME4##を演じてもらわなければいけなくなった」
『(……………………ん?)』
降「一応今回は君の離任式だったが…今回の件を含め、西川の補充員として“再就任”してもらう
今度は学校外でも西川たちの痕跡を調べ、やつらの組織の情報をつかめ
徹底的につぶすぞ
既に校長には話はつけてあるし、先程の君の能力も、蘭さんの様に武道に心得があるということにしている
…幸い君の“警察官”発言は犯人にしか聞こえていなかったようだからな?」
あ………………
降谷さんの冷たい視線と空気…ブリザーブドを感じる…………
笑顔で怒ってるな…まぁ私が悪いのだけど…
降「ま、君の正義感が強い所は評価しているし、俺も気に入っているから今回は大目に見よう
が、次は“長期任務”になる
心しろ」
『…(了解)』
再び交わる視線で了解の合図を送れば、満足そうに微笑み、「詳細は後日登庁したときに知らせる」と言われた
…私はともかくあなた登庁できる日なんてくるのだろうか…と思ったが、まぁそこは上手くやるのだろう
降谷さんは一度手を上げてそのまま去っていってしまった
そして祐実の頭を撫でていた手を捕まれ、体も離した
坂「ずびっ…ごめん…」
『全然?むしろ心配かけてごめん
ずっと、気にしてくれてありがとう(ニコ)』
坂「~~~っ、本当よっ!
こっちは同期って言ったってそんな仲良くない子ばっかだし!!
伊達先輩だって…っ!」
『!』
伊達先輩…気さくで優しくてちょっと強面…でも、面倒見のいい、大好きな先輩だった
学校時代、降谷さんと伊達さんが友達だったから、よく私と祐実とも遊んでくれて…
大好きな先輩だった…きっと、今も空の上から見守っていてくれていることだろう…
『…ほら!早く先輩たちの所に戻りな?
伊達先輩が見たら笑われるよ?』
坂「…そうね
…………##NAME2##」
『ん?』
坂「任務で偽名なんて名乗ってるんでしょうけど…私はいつでも##NAME2##の味方よ」
『!…ありがとう、祐実』
坂「たまには飲みに誘いなさいよ!!(ビシッ)」
最後には指を指しながら、勢いよく走り出した彼女を見て『気が向いたらね~!』と答えにならない返事を返した