1.

 中学三年生の十一月。スーツの不動産屋を目の前にして、説明を受ける。
 施設は高校生までいられるが、狼男であることがいつかバレることを恐れて、俺は中学の終わりに引っ越すことを決意していた。といっても、まだバイトが決まっていないので見るだけである。
 そして、三つの物件を内見することになった。事前に調べていた一つを最後に、三つ回る予定だ。一人暮らしという単語は俺の心を躍らせるには十分すぎる響きで、わくわくしながら向かった。
 しかし、二つ回ったところで俺はへとへとになっていた。不動産屋の説明が長く、とてもじゃないが耐えられなかった。彼の口からどんどん出てくる単語の並んだ文章に、俺の頭は理解を放棄し始めていた。
 こんなんで高校やっていけるのか……?
 そんな考えを抱きながら、最後の物件に向かう。第一希望のところで、住宅街の中のアパートだった。
 静かな住宅街を、夕方の太陽が照らしていた。おだやかな空気が漂っている。ここも他と変わらないかな。歩きながら、不動産屋の営業トークに回らない頭で相槌を打つ。
 道でカラスが鳴いていた。その声は俺を責め立てるように聞こえてしまった。狼男だということを隠して生きるお前に、合う物件などこの世にはないぞ、と言われているような気がした。
 見えてきた一軒のアパート。看板には「ヴィラ・オートル」と文字がある。一〇一号室のインターホンを不動産屋が押す。三度目の、いたって普通の電子音が聞こえた。
「こんばんは。あなたが大神くん?」
 大家さんは優しそうな女性だった。今まで会った大家は二人ともおじさんだったから、こんな若い人が大家をやっているのかと驚き、挨拶を返す声が上ずってしまった。
「緊張しなくていいよ」
 大家さんは不動産屋に「大神くんと二人にしてほしい」と頼んだ。不動産屋は驚いていたが、彼女の笑顔の圧力に負けたのか、アパートの外で待機する命令に素直に従った。
 大家さんは空き部屋を案内してくれた。二〇一号室、角部屋。ドアを開けると、なにもない空間が眼前に広がる。前に見た物件とあまり変わらない広さだ。キッチンは広くないし、風呂はユニットバス。角部屋であるというところ以外は申し訳ないが、特にこれといったよい点がない。これまで見た二軒と同じ一人暮らし用の部屋に見えた。
 大家さんは、説明を終えても表情を変えない俺を少し見つめると声をかけてきた。
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