1.

「おおかみ?」
 綾部さんは俺の名札を見て言う。その声はおだやかで、俺に対する敵対心はなさそうだった。見上げる黒い瞳。澄んだそれに、俺の無表情が映っている。
「おおがみ、です」
「高校生?」
「あ、はい……そうです」
「ふーん……」
 綾部さんは思考に上に向けていた瞳を俺に向けて、言う。
「おおかみくんって呼ぼうかな」
「俺はおおがみです」
「でも、おおかみの方が可愛いよね?」
 声を発する前に綾部さんの声が滑り込む。
「おおかみくん、よろしくね」
 年上の相手に温かな声色で言われて、俺は返事をするしか選択肢がなかった。
「よ、よろしくお願いしましゅ……します! すみません」
 予想外の出来事に噛んでしまった。しかも相手は美大生だ。最悪だ。頬が熱い。目の前の相手から視線をそらす。
「あはは、緊張してるの? 私と一緒だね」
 声にちらっと綾部さんの顔を見ると、彼女は微笑んでいた。その姿はひまわりがぱっと咲いたようで、彼女の周りだけひまわり畑が広がっているような気がした。大輪の黄色い花が似合うような、そんな人だった。
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