1.

 一年経ち、高校生で二度目の夏休みになると、去年と同じようにアルバイトが増えた。長期休み限定で働く学生は多いんだよ、と佐原さんに教えてもらったから、もう驚かない。
 夜勤前のスタッフルームは学生アルバイトが大半を占めている。クーラーがうなり声を上げて部屋を冷やしていた。佐原さんが言う。
「今日は新人アルバイトの紹介があります。長期志望だそうです。自己紹介、よろしくね」
 隣には、女性が一人立っていた。一歩出ると、一本の三つ編みにゆるく結われた長い黒髪が揺れる。黒目の瞳は澄んでいて、純粋な性格を映し出している。少しだけ、きれいな人だなと思った。
「本日からお世話になります、大学生の綾部です。近くの美術大学に通っておりまして……」
 美大生か。親に恵まれた金持ちはいいな。
 興味を失った俺は緊張した面持ちで話す彼女から目をそらした。
 俺は、大学に行くつもりはない。勉強をやりたくない上に苦手なのもあるが、お金がないという理由もある。仮に進学したとしても、きっとバイトと両立しなければならないだろう。大学ではおそらく、今よりもっと勉強に時間を割かなくてはいけない。そんな中で、バイトも家事もしなければいけないと考えると、奨学金の誘いが来ても素直に承諾できなかった。
 そういうわけで、大学生のバイトのことはうらやましく思うと共に、あまり好きではなかったりする。肉親の援助があるというのは、俺にはないことだからだ。特に美大や理系大学の学生は、学費がたくさんかかっているだろうから少し冷たく接してしまうところがある。よくないことだと頭ではわかっているのだが、体は正直に動いてしまう。
「パソコンは苦手なのですが、精一杯頑張りますので……」
 俺の詳しい分野が苦手なのか。それなら、話すこともない。加えて、美大生なら美大生に適した仕事を与えられるだろう。たかが一バイト、関わるとしてもほんの少しなのだから、自己紹介なんて適当に聞き流してもいいはずだ。
「よろしくお願いします」
 頭を下げる彼女に、みんなが拍手を送る。俺はゆっくりとした速度で、やる気なく拍手をした。
 佐原さんが今日の業務の説明をする。耳だけで聞く。視線は部屋の隅っこへ。聞いた限り、特にいつもと変わりなさそうだ。
「じゃあ、大神くん。綾部さんに教えてあげてね」
 不意に上から佐原さんの声が降ってきた。目の前に佐原さんと新人バイトが立っていた。新人はぎこちない笑顔で俺のことを見つめている。
「……え」
「今日はパソコンの仕事少ないし、手隙の君に頼もうと思ってさ。よろしくね!」
 驚く俺を置いて、佐原さんはどこかに行ってしまった。学生バイトたちが解散し、それぞれの持ち場についていく中、俺は目の前に立つ綾部さんを唖然とした顔で見ていた。
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