1.
十二月が来てしまった事実に俺はため息をつきかけ、やめた。
歩いていると、視界には温かなコートに身を包んだ客が映る。コートを新しくしたい、と思う。地味な色でいいから、ちゃんとしたものを。何年も着るものだから。
静かな店内には赤と緑のポスターが至る所に飾られており、ペラペラとページをめくる音だけが響く。気づけば見慣れないものに視線が向いていた。サンタクロースの描かれたポップには、サインペンの丸文字が躍っている。それを横目で見ながらスタッフルームに入ると、ある人と目があった。
パソコンの前に座り、椅子をこちらに回転させた綾部さんは俺を視界に捉えるとにこっと笑う。ふわり、空間に小さなひまわりが咲く。その瞬間、つい口に力が入ってしまったのがわかった。うまく笑えない俺は、その笑顔に会釈で返事をする。そんな、二人だけのやり取り。
このやり取りを続けて、もう半年近くになる。
「おおかみくん、ちょうど探してたところだったんだ。ちょっといい?」
心地よい声が俺を呼ぶ。近くに行くと、パソコンの画面はホームのままだった。どうやら、困っているらしい。
「在庫管理ってどこからやるんだっけ……」
「まず、ここをクリックして……」
モニターを指でさす。この前も教えたはずなのに、綾部さんは一向に操作を覚えられない。それだけパソコンが苦手なのだろう。
しかし、教えるのは苦ではない。俺は小学校からのパソコン部八年目だし、このくらい朝飯前だ。それに。
「ここ?」
「こっちです」
マウスの音と、俺の声が交互に部屋に響く。画面が変わり、「完了」のボタンを綾部さんがクリックする。
「これで、できました」
「ありがとう!」
ぱっと笑う綾部さん。ひまわりが咲いたかのような笑顔に、心臓が一瞬跳ねあがった。
「また、頼むかも」
「いいですよ。いつでも呼んでください」
ほのかな熱を持つ顔を隠すように、俺はさっとその場を離れる。視界から彼女が消えても、心臓のドキドキはまだ続いている。そこら辺にあった段ボールを確認するふりをしながら、左胸に右手を当てて、心拍が徐々に落ち着いてくるのを待つ。深呼吸をして、ぐっと高揚する気持ちに耐えた。
俺は綾部さんに恋している。こんな些細なことでドキドキしてしまうくらいには、その想いは重い。
でも、この気持ちを伝えることなんて、できやしない。それはただ、俺が臆病だからという理由だけではない。
俺は右手をぎゅっと握る。
俺には、親がいない。それに、狼男でもある。この二つのことは隠さないといけない。絶対に。
だから、誰かとお付き合いするなんてそんなことは、俺はしてはいけないのだ。
歩いていると、視界には温かなコートに身を包んだ客が映る。コートを新しくしたい、と思う。地味な色でいいから、ちゃんとしたものを。何年も着るものだから。
静かな店内には赤と緑のポスターが至る所に飾られており、ペラペラとページをめくる音だけが響く。気づけば見慣れないものに視線が向いていた。サンタクロースの描かれたポップには、サインペンの丸文字が躍っている。それを横目で見ながらスタッフルームに入ると、ある人と目があった。
パソコンの前に座り、椅子をこちらに回転させた綾部さんは俺を視界に捉えるとにこっと笑う。ふわり、空間に小さなひまわりが咲く。その瞬間、つい口に力が入ってしまったのがわかった。うまく笑えない俺は、その笑顔に会釈で返事をする。そんな、二人だけのやり取り。
このやり取りを続けて、もう半年近くになる。
「おおかみくん、ちょうど探してたところだったんだ。ちょっといい?」
心地よい声が俺を呼ぶ。近くに行くと、パソコンの画面はホームのままだった。どうやら、困っているらしい。
「在庫管理ってどこからやるんだっけ……」
「まず、ここをクリックして……」
モニターを指でさす。この前も教えたはずなのに、綾部さんは一向に操作を覚えられない。それだけパソコンが苦手なのだろう。
しかし、教えるのは苦ではない。俺は小学校からのパソコン部八年目だし、このくらい朝飯前だ。それに。
「ここ?」
「こっちです」
マウスの音と、俺の声が交互に部屋に響く。画面が変わり、「完了」のボタンを綾部さんがクリックする。
「これで、できました」
「ありがとう!」
ぱっと笑う綾部さん。ひまわりが咲いたかのような笑顔に、心臓が一瞬跳ねあがった。
「また、頼むかも」
「いいですよ。いつでも呼んでください」
ほのかな熱を持つ顔を隠すように、俺はさっとその場を離れる。視界から彼女が消えても、心臓のドキドキはまだ続いている。そこら辺にあった段ボールを確認するふりをしながら、左胸に右手を当てて、心拍が徐々に落ち着いてくるのを待つ。深呼吸をして、ぐっと高揚する気持ちに耐えた。
俺は綾部さんに恋している。こんな些細なことでドキドキしてしまうくらいには、その想いは重い。
でも、この気持ちを伝えることなんて、できやしない。それはただ、俺が臆病だからという理由だけではない。
俺は右手をぎゅっと握る。
俺には、親がいない。それに、狼男でもある。この二つのことは隠さないといけない。絶対に。
だから、誰かとお付き合いするなんてそんなことは、俺はしてはいけないのだ。
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