消えた風鈴、あの子の行方

「星村工房を見てきた。ボロボロだった。誰もいなかった。何十年もここには人がいないような、そんな気さえした」
 あの悲惨な有様は、まだ東の目に焼きついたままだ。ガラス細工体験でよく賑わっていたあの工房が、まさかあんな状態になってしまったなんて。
「こうなる未来がわかっていたなら、そんなことしなくたってよかったじゃないか」
 東は責めるような、しかし静かな声色で星村に聞いた。
 合併されて、経営が上手くいかず工房を手放すことになるだけでも、夫妻は悲しむだろう。一時の幸せのために、彼らの子供になるなんてことをすれば、別れるとき余計に悲しむことになる。工房も子供も失って、二人の悲しみはどれだけのものか。そう思ったのだ。
 風が吹いて、もう存在しないはずの風鈴たちがちりりんと音を鳴らした。星村は大人になった東の目を見上げて言う。
「風鈴祭りを、途絶えさせたくなかったから。できることをしたつもりだったの。星村さんが元気でいれば、風鈴を作り続けてくれると思って」
 思いは、神様も同じだったのか。東ははっとなって、目の前の彼女をついさっき責めたことを後悔した。
 星村は「だめだったけどね」と諦めたようにつぶやき、風鈴を見つめる。未来というものは、そう簡単に変えられるものではなかった。神様の力をもってしても。
「でも、私も終わりだね」
 ちりん、風鈴が鳴る。今までの音より一際大きな音だった。
「風鳴神社がなくなれば、私はもうどこにも居場所がないから」
 ちりん、ちりりん、ちりんちりん。最初のそれに呼応するように、周りの風鈴もあの音を鳴らす。東の心の中から離れない、あの軽やかな音を。
「あと一回、みんなの笑顔が見たかったな」
 風鈴の音がうるさくなる。切望していた祭りなのに、相手はひどく寂しそうで。
「今日は来てくれてありがとうね」
 星村の声は風鈴の激しい音に紛れて聞き取りづらくなる。それでも、東は必死に耳を傾ける。
「最後に東くんとお話出来てよかった」
 微笑む彼女の黒い瞳は、いつの間にかうるんでいる。
「星村!」
 名前を呼ばなければいけないと思った。彼女があの村にいたことも、風と共にどこかへ消えてしまいそうだったから。
 瞬間、夜の空気がなくなり、音がぱっと消える。ゆっくりと揺れる風鈴の中、彼女は泣きそうな顔で口を動かした――
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