消えた風鈴、あの子の行方
ちりん、ちりん。
聞き覚えのある音に目を覚ますと、風鈴が目に飛び込んできた。それも一つではない。複数、否、たくさんだ。透明なガラスに花火や金魚の絵が描かれたそれらが、頭上の紐に吊り下げられ、その列は奥へと続いている。
風が吹くたびに涼やかな音が鳴っている。手作りだから、少しずつ音が違う。その個体差が不規則な夏のメロディーを作り出す。
風鈴には赤い提灯の明かりがうつっている。赤は闇の中ぼんやりと輝いている。辺りは暗く、日が沈みきっているようだ。
どこからか、鉄板の上でソースの焦げる匂いがする。小銭を握りしめて、どの屋台に行くか話し合う子供たちの声が聞こえる。小さな足音が東の横を過ぎていった。遠くから聞こえるお囃子の太鼓と笛の音が、郷愁を駆り立てる。
ああ、このときを待っていたんだ。あと一回行きたかった、あの風鈴祭りに。東の心の中にじんわりと温かいものが浮かび上がってくる。
ふと、目の前に人の気配を感じた。視線を移すと、そこには一人の人がいた。大人ではない。子供だった。
白地に青のグラデーションの浴衣を着たその子供を見て、まるで風鈴のような色合いだな、と東は思った。ここの名産だったガラスの風鈴の色だ。夜闇に浮かび上がるようなその色を着た彼女は、いくら大人びているとはいえ、今の東からするとどう見たって子供で。
「東くん」
風鈴の声が鳴る。
「……星村」
「久しぶりだね。覚えててくれてありがとう」
星村は最後に見たときと変わらない姿のままで、ふふ、と笑ってみせた。その笑顔も無邪気に笑う他の子供とは違うもので、あの頃と一緒だった。
「風鳴神社、お賽銭してくれたでしょ」
「ああ……どうしてそのことを知っているんだ?」
尋ねると、星村は東から視線を逸らして答えた。
「私ね。神様なの」
「……神様?」
「そう。風鳴村の守り神」
一体何を言われているのかわからなくて、東は混乱する。星村が神様、だって?
「その様子じゃ、気づいていなかったみたいだね。私の変化(へんげ)、結構上出来でしょ」
くるんと回転して、星村は誇らしげにその全身を東に見せる。どこからどう見ても浴衣を着た普通の子供だ。
しかし、こちらを見つめる星村の黒い瞳の中に、すべてを見透かされているような、そんな感覚を覚えた。あの頃はちっともわからなかったが、人ではない雰囲気がどこかにある。それなら、当時流行っていたゲーム機や、女子の中でブームだったシール交換に興味を示さなかったのも、なんとなく理解できる。
「星村ご夫妻、子供ができなくて困ってたみたいなんだよね。風鈴を作り続けてほしくて、娘に化けてたんだ。少しでも彼らが幸せであるように」
「どうして……そんなことをしたんだ」
大人びた微笑みをする星村に、東は落ち着いた口調で聞く。
聞き覚えのある音に目を覚ますと、風鈴が目に飛び込んできた。それも一つではない。複数、否、たくさんだ。透明なガラスに花火や金魚の絵が描かれたそれらが、頭上の紐に吊り下げられ、その列は奥へと続いている。
風が吹くたびに涼やかな音が鳴っている。手作りだから、少しずつ音が違う。その個体差が不規則な夏のメロディーを作り出す。
風鈴には赤い提灯の明かりがうつっている。赤は闇の中ぼんやりと輝いている。辺りは暗く、日が沈みきっているようだ。
どこからか、鉄板の上でソースの焦げる匂いがする。小銭を握りしめて、どの屋台に行くか話し合う子供たちの声が聞こえる。小さな足音が東の横を過ぎていった。遠くから聞こえるお囃子の太鼓と笛の音が、郷愁を駆り立てる。
ああ、このときを待っていたんだ。あと一回行きたかった、あの風鈴祭りに。東の心の中にじんわりと温かいものが浮かび上がってくる。
ふと、目の前に人の気配を感じた。視線を移すと、そこには一人の人がいた。大人ではない。子供だった。
白地に青のグラデーションの浴衣を着たその子供を見て、まるで風鈴のような色合いだな、と東は思った。ここの名産だったガラスの風鈴の色だ。夜闇に浮かび上がるようなその色を着た彼女は、いくら大人びているとはいえ、今の東からするとどう見たって子供で。
「東くん」
風鈴の声が鳴る。
「……星村」
「久しぶりだね。覚えててくれてありがとう」
星村は最後に見たときと変わらない姿のままで、ふふ、と笑ってみせた。その笑顔も無邪気に笑う他の子供とは違うもので、あの頃と一緒だった。
「風鳴神社、お賽銭してくれたでしょ」
「ああ……どうしてそのことを知っているんだ?」
尋ねると、星村は東から視線を逸らして答えた。
「私ね。神様なの」
「……神様?」
「そう。風鳴村の守り神」
一体何を言われているのかわからなくて、東は混乱する。星村が神様、だって?
「その様子じゃ、気づいていなかったみたいだね。私の変化(へんげ)、結構上出来でしょ」
くるんと回転して、星村は誇らしげにその全身を東に見せる。どこからどう見ても浴衣を着た普通の子供だ。
しかし、こちらを見つめる星村の黒い瞳の中に、すべてを見透かされているような、そんな感覚を覚えた。あの頃はちっともわからなかったが、人ではない雰囲気がどこかにある。それなら、当時流行っていたゲーム機や、女子の中でブームだったシール交換に興味を示さなかったのも、なんとなく理解できる。
「星村ご夫妻、子供ができなくて困ってたみたいなんだよね。風鈴を作り続けてほしくて、娘に化けてたんだ。少しでも彼らが幸せであるように」
「どうして……そんなことをしたんだ」
大人びた微笑みをする星村に、東は落ち着いた口調で聞く。
