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 ここはネイルOKのゆるいオフィスだ。パソコンを打つときに、作業をするときに、色の塗られた指先を見ると気分が上がる。自然と嬉しい気持ちになれる。マニキュアを塗る作業は以前から小西の仕事のモチベに直結していた。二次創作に次ぐちょっとした趣味で、合間を縫って週末に塗っていたのだが、今週はあまりにも気分が落ちていてできなかった。
「ちょっと、嫌なことがあって」
 落ちたトーンの声の小西に、太田さんは不安げな顔で「えー、大丈夫?」と聞いてくる。
「うん、大丈夫......」
 おにぎりを一口食べる。食中毒防止の保冷材で冷えたおにぎりは、あまりおいしくない。いつもはおいしいのに。
 なんてことのないように仕事と日常生活をこなしている小西だったが、実は進藤とのあの一件があってから、二次創作ができなくなってしまっていた。パソコンの前に座っても、どうしても作品のファイルを開く気になれない。椎名くんに、向き合うことができない。バッドエンドを書いてしまう私は、読者を嫌な気持ちにさせてしまう。進藤の真っ黒な言葉の鎖がぐるぐると巻きついて、小西を動けなくさせていた。
 小西から二次創作を取るということは、彼女の趣味の大半を奪い去ることになる。空いてしまった時間で、椎名くんのことを考えた。もしも椎名くんがいてくれたらこんな言葉をかけてくれるかな、なんて妄想をしているとネタになることがあるのだ。もう癖になってしまっていた。考えても、付随して出てくるのは椎名くんではなく進藤の言葉だった。読者。バッドエンド。邪魔。錆のようだ。こびりついて離れない。思い出して唇をかむ。
「相談したくなったら、いつでも言ってね」
 太田さんは手作りのお弁当を食べながら優しく微笑んだ。タコさんウィンナー、卵焼き、ブロッコリーとカラフルなおかずが、彼女の小さい口に消えていく。料理好きの彼女は、絵描きのセンスを料理にも活かしている。小西も微笑みを浮かべて「うん」と頷く。そして、別の話題を振る。
 椎名くんの出てくる漫画を勧めてくれたのは太田さんだ。夢を書いていることも、アカウントも伝えているし、一番にいいねを飛ばしてくれるのは彼女だ。だから、界隈の人気者とトラブルになったことを伝えるなんて、作品を知るきっかけになった彼女に嫌な気持ちをさせてしまいそうで、避けたかった。
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