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 スマホをスリープモードにすると、部屋に静寂が訪れる。目の前には執筆途中のまま煌々と光るノートパソコン。カーソルが点滅し続けている。マグカップを持つと、陶器の冷たさが手に伝わる。微妙に残っている冷めた紅茶が、小西の呆けた顔を映している。一口飲む。味がわからない。舌が湿ってすぐ乾く。イヤホンを外すとクーラーの音がじわじわと耳に侵入し、現実に意識が引き戻される。
 崖から落とされたような気分だ。彼女たちは安全なところで、奈落へ落ちていく小西を笑って見ている。誰も助けようとしない。ハッピーエンド以外は認めない。あの場では、部外者は排除されるのがルールなのだ。
 動けないままパソコンの画面を見つめてぼうとしていると、進藤の言葉がよみがえってきた。ふつふつと怒りが湧き、眉間にしわが寄る。数分前まで動かなかった頭が、抑圧されていた感情をエンジンにものすごい勢いで回り出す。
 その感情を宿したまま、指はスマホに向かう。先ほどの閉じた画面に、進藤のお気楽な投稿が表示されていた。文面を読まずとも、それは余計に小西の怒りに油を注ぐ。投稿画面を表示し、文字に怒りをぶつける。
『どうしてあんなこと言うの!? バッドエンドを書くことのなにが悪いわけ!? ハピエン厨は口出すなよバカヤローッ!』
 そこまで書いてから、小西ははっとなる。こんなことを壁打ち垢で投稿してしまったら、それは火のついたマッチを落とすことと同義だ。過去の投稿を餌食に少し大きくなった火の元には野次馬が集まり、ガソリンが幾重にもかけられ、ボヤ騒ぎは次第に火事となる。アカウント全焼、再起不能、それは避けたかった。
 行き場のない感情でぎゅうと奥歯をかみしめたまま、下書きを消していく。吐き出した怒りはボタンを長押しするだけですぐに消えてなくなった。
 思っていることを、された仕打ちを、どこにも発表することができない。小西のめらめらと燃え上がっていた感情の炎も、その現状に気づいたことで徐々に鎮火していく。火が消えて、煙が漂う。心の中には無力感とやるせなさが残る。泣き寝入りすることしか、できなかった。
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