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 画面が切り替わるとすぐに、自信を持った女性の声が聞こえた。安定感があって、まったく怯えていない。はきはきとした、聞き取りやすい話し方。まるで、人の上に立つ人のお手本のような、そんな気さえする。声の主は進藤だった。初めて聞く彼女の声に、小西の心臓が高鳴る。
「初めまして、小西さん」
 少し低めで、芯の通った声。憧れの人に名前を呼んでもらえて、小西の脳内の街には混乱の台風が通過していく。こんなタイミングでお会いしてしまってよかったのだろうか、イベントで顔を合わせるときのほうがよかったのでは、と後悔の雨がざあざあと降り、進藤さんってこんな声だったの、明るい作風だからもっとお気楽な声かと思ってた、と前提を吹き飛ばしていく強風が吹き荒れる。
 それと同時に、混乱の台風は乾ききった交流の大地に恵みの雨をもたらしてくれていた。憧れの人と、同じ空間にいる。憧れの人が、こんな無名でぼっちの私に話しかけてくれている。それだけでもう小西には奇跡のように思えた。急に出現した異常なほどの幸福は小西の脳の快楽物質のレバーをぶっ壊し、頭を溶かしてしまうような甘ったるい幸せにどろどろに支配されて、一瞬体の力が抜けかけた。
 直後、進藤の声に呼応するように「はじめましてぇ~」と女性の猫なで声が複数聞こえた。いけない。小西は砂糖の海から這い上がる。ここは進藤さんと私だけの場じゃないんだ。他人の目がある。見られている。抜けかけていた魂をもとに戻す。
「お、お邪魔、します……」
 小西が遠慮がちに声を出すと、場が静まり返る。
「えぇ、色々お話しましょうね」
 一拍置いて、進藤だけが返してくれる。なんとなく周りの反応をうかがっているかのような気がしたが、その考えは追いやった。あの進藤さんが試すような真似をするわけがない。なにか返さなくては。
「あ、あはは、私なんて壁打ちだし界隈の隅っこにいるだけですから、知らないですよね」
 つい飛び出したのは自虐。温かく迎えてくれると思っていたため、場が白けることは小西にとって予想外の出来事だったのだ。焦り交じりで早口のそれは失敗に終わった。会話のボールを投げた先が見えない。もちろん、ボールが返ってくることもない。スマホの画面には、確かに同じ空間に複数の人がいることが表示されているのに、誰一人小西の目には映らない。静寂が真っ白な霧のように場を支配し、小西の行き先を見えなくさせる。指が冷えている。
「小西さんの作品、昔読みましたよ」
「ほ、本当ですかっ!?」
 声が裏返る。霧が引いていき、少し、視界が開ける。
 進藤は小西を認知していた。作品も読んでいた。その事実に、顔に熱がのぼる。界隈のおてんとうさまに照らされて興奮気味の小西とは反対に、進藤は落ち着いた様子で言葉を口にする。
「バッドエンドばかりですね」
「え? ……はい、そうですね」
 むしろ、それしかない。小西はその指摘に少しの違和感を感じたものの、進藤がちゃんと自作を最後まで読んでくれていることに感動を覚えた。自分でも口角が上がるのを感じる。そして、その次に出てくる言葉を期待して待った。
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