5
「ねぇ、あれ読んだよ!」
始業前、一番にクリーム色のニットを着た太田さんが小西に駆け寄ってきた。会社ではアカウントがバレないように「あれ」とか「それ」を使って会話する。季節はすっかり冬になり、小西もウールの黒いスカートを着ている。
「めっちゃよくて一気読みしちゃった」
「十万を!? 結構文字あったでしょ、大変だったんじゃない?」
「ううん。あの小説、すごく読みやすかったから。推敲いっぱいしたでしょ」
「うん、三周した」
「すご......」
右手を口元に当てて驚く太田さん。
「本当によかったよ。まさかあの子に言い寄られたときはどうするんだーって思ったけど、さすがだわ。ああいう展開めっちゃ好き。新作できたらまた見せて!」
太田さんは喜びであふれたきらきらの瞳で応援してくれる。小西は、作品を読んでくれて、しかも肯定的な感想をくれる人が目の前にいることに、眉を下げて微笑んだ。
「ありがとう。すごく、嬉しい」
「あ、新しいネイルしてる!」
太田さんのしっかりアイメイクをした目が、小西の指先に向いていた。
「アーモンドグリーンと黒......さては熱が再発しましたな?」
小西は右手を見る。爪先には二色を使ったワンカラ―のポリッシュが塗られている。せっかく「氷解」ができたからとその記念に、塗ってみたのだ。
「気づいた? そうなんだよね、再熱って感じ。またほかのデザインもやってみるよ」
「うんうん、楽しみにしてる! 冬だから雪の結晶のネイルシールとか?」
「それいいね! 探してみるよ」
温かい気持ちで太田さんと会話しながら、視線はアーモンドグリーンに向かう。ネイルを見ていると、彼のことがじんわりと浮かんでくる。また書けるようになった喜び。愛を形にできた達成感。彼がこの世界に生まれてきてくれたありがたみ。小西の胸が温かくなる。帰ったら次の作品のプロットに取り掛かろう。
私は、書く。たとえどんなことを言われようと、書く。書いて、書いて、書いて、この感動を、あなたへの愛を、私だけにしかできないやり方で表現するのだ。
大好きだよ、椎名くん。
始業前、一番にクリーム色のニットを着た太田さんが小西に駆け寄ってきた。会社ではアカウントがバレないように「あれ」とか「それ」を使って会話する。季節はすっかり冬になり、小西もウールの黒いスカートを着ている。
「めっちゃよくて一気読みしちゃった」
「十万を!? 結構文字あったでしょ、大変だったんじゃない?」
「ううん。あの小説、すごく読みやすかったから。推敲いっぱいしたでしょ」
「うん、三周した」
「すご......」
右手を口元に当てて驚く太田さん。
「本当によかったよ。まさかあの子に言い寄られたときはどうするんだーって思ったけど、さすがだわ。ああいう展開めっちゃ好き。新作できたらまた見せて!」
太田さんは喜びであふれたきらきらの瞳で応援してくれる。小西は、作品を読んでくれて、しかも肯定的な感想をくれる人が目の前にいることに、眉を下げて微笑んだ。
「ありがとう。すごく、嬉しい」
「あ、新しいネイルしてる!」
太田さんのしっかりアイメイクをした目が、小西の指先に向いていた。
「アーモンドグリーンと黒......さては熱が再発しましたな?」
小西は右手を見る。爪先には二色を使ったワンカラ―のポリッシュが塗られている。せっかく「氷解」ができたからとその記念に、塗ってみたのだ。
「気づいた? そうなんだよね、再熱って感じ。またほかのデザインもやってみるよ」
「うんうん、楽しみにしてる! 冬だから雪の結晶のネイルシールとか?」
「それいいね! 探してみるよ」
温かい気持ちで太田さんと会話しながら、視線はアーモンドグリーンに向かう。ネイルを見ていると、彼のことがじんわりと浮かんでくる。また書けるようになった喜び。愛を形にできた達成感。彼がこの世界に生まれてきてくれたありがたみ。小西の胸が温かくなる。帰ったら次の作品のプロットに取り掛かろう。
私は、書く。たとえどんなことを言われようと、書く。書いて、書いて、書いて、この感動を、あなたへの愛を、私だけにしかできないやり方で表現するのだ。
大好きだよ、椎名くん。
4/4ページ
